第1097話 刻瘴石の生成


 まさかの水月さんの2ndのホタテが水の瘴気魔法の発動要員だった。いやー、これは流石に驚いた。

 改めて見てみたら、青い貝殻の要素は水属性で、緑の線が風属性って感じか。しかも今回参加してきたって事は、このホタテは成熟体へ進化済みなんだろうね。


「ビックリはしたけど、水月さんならやりやすいか」

「確かにそれはそうかな!」

「そう言っていただけると嬉しいものですね。あぁ、ケイさん。フラムが色々とご迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした」

「それについてはもう済んだ話だから別に良いけど、今、アイツ何してるんだ? 水月さんの伝手でアルバイトとか聞いた気がするんだけど」

「私の仕事は守秘義務があるものも多いですし、そもそも業務用の資格も必要ですから手伝わせてはいませんね。ただ、フラムの住んでいる辺りに農家の友人がいますので、その手伝いという形になってますよ」

「あー、そういう感じか」


 この真夏の暑い中、農作業ご苦労さん! 水月さんが業務用VR機器を持ってるとか聞いたけど、伝手は伝手でも全くその辺は関係ない内容だったね。ま、アイツの事はもういいや。


「よーし、シリウスがログインしたら一緒にジャングルに行って……あれ? ケイさん、こんにちは! え、なんでここに赤の群集の人達がいるんです!?」

「おっ、フーリエさんか。ちょっと共同で検証する事があって来てるだけだから警戒しなくていいぞー」

「あ、そうなんですか! なんか変に警戒してすみません!」

「いやいや、ここで僕らを見て警戒するのは当然だし気にはしないよ。ただ、流石に少し場所は移した方が良さそうだね」

「確かにそれもそうだなー。エレインさん、湖の方は大丈夫だったりする?」

「湖でしたら、赤の群集の方がいても何か理由があるのは一目瞭然なので問題はないかと。下手に人目がないところよりは良いかもしれませんね」

「シュウさん達はそれでもいいか?」

「問題ないよ、ケイさん。僕らは本来、ここに立ち入らない方が良い立場だからね。そこは全面的に灰の群集の都合に合わせるよ」

「ほいよっと。それじゃとりあえず湖の方に移動って事で……」


 ん? なんかアーサーの様子が変な感じがするけど……って、そうか! どこかで会わせようかと思ってたけど、アーサーとフーリエさんはこれが初対面だ! 確かアーサーはその辺を気にしてたって聞いた覚えもある。


「フーリエって事は、コケのアニキの弟子の人?」

「……そうですけど、それが何か?」


 ちょ、しまった!? 俺からの紹介を挟まずに会ってしまったし、ケインの件もあるからフーリエさんはアーサーの事を敵視する可能性もある! これはすぐに割り込んで――


「くぅ、コケのアニキ公認の弟子は羨ましいなー! 俺、アーサーって言うんだ!」

「……え? あ、はい?」

「いやー、コケのアニキの弟子の人と会ってみたかったんだよ!」

「えっ? えっ? ケイさん、これってどういう状況ですか? もしかして、コケのアニキ呼びはケイさんが許可してる感じなんです!?」

「あー、まぁそうなるな。競争クエストの最中は無理だと思ってたけど、機会があれば紹介しようと思ってた赤の群集で俺を慕ってくれてるアーサーだ。初対面の頃こそ問題はあったけど、今は何も問題ないから、良かったら仲良くしてやってくれ」

「そういう事なら警戒する必要もないんですね? えーと、アーサーさん、よろしくお願いします?」

「フーリエさん、よろしくな!」


 なんというかフーリエさんは困惑気味だけど、アーサーの方は純粋に俺の公認の弟子のフーリエさんに会ってみたかっただけっぽい? この感じなら変なトラブルになりそうにもないし、ただの偶然ではあったけど紹介する機会が出来て良かったのかも?


「アーサー、自分の都合だけを押し付けないように。フーリエさん、困惑してますよ」

「あっ、ごめん! 俺、ついなんか嬉しくて……」

「あ、いえ! ちょっと面食らっただけで、嫌って訳じゃ……えっと、今からは待ち合わせがあるから無理だけど、どこかで機会があれば? あ、フレンド登録しておくのはどうです?」

「うん! してもらえるなら、喜んで!」


 おー、まさか困惑してたフーリエさんの方からフレンド登録を申し出るとは思わなかったな。変な言い争いになるかと一瞬警戒したけど、全然そんな事はなくてホッとした。


「それじゃ僕は待ち合わせがあるので行きますね! あ、ケイさん! 成熟体にはなんとか進化出来たので、一緒に戦える機会があったら嬉しいです!」

「おっ、頑張ったな、フーリエさん! それなら俺の方も戦力として期待してるぞ!」

「はい! それじゃ失礼します!」


 そうしてフーリエさんはミズキから転移していった。ここに転移してきたんじゃなくて、ログインしてきたタイミングだったんだな。そっか、成熟体への進化に到達したんだな、フーリエさん。


「弟子がいるとは、やるね、ケイさん! 今の子、女の子?」

「え? あー、そういやどうなんだろ?」


 そういやフーリエさんの性別って気にした事がなかった気がする。水月さんと同じで割と中性的な声だから、フーリエさんの性別も分かりにくいんだよな。見た目じゃ一切、その辺は判別出来ないし……。


「ケイさん、フーリエさんは女の子の可能性が高いですよ?」

「え、マジで!? 水月さん、分かるのか!?」

「えぇ、声の聞き分けは得意なので。フルダイブ中は自分の声だと思ってる声が反映されますので、自分自身を女性として認識が薄い場合にたまにあるんですよ。多分、フーリエさんはアーサーと同年代くらいじゃないでしょうか?」

「え、そういうもの?」

「えぇ、そういうものです」


 なんか力強く水月さんに断言されたけど、そういうものなのか。って事は、フーリエさんはまだ中学生で、そこまで極端に意識をしてない?

 まぁだからといって、これまでの対応変える訳でもないしなー。性別がどうだろうとフーリエさんは俺の弟子だし、今まで通りでいいだろ。


「弥生も水月さんも少しリアル側に首を突っ込み過ぎだよ? その辺は嫌がる人は嫌がるからね」

「あっ、つい!」

「……そうですね。今のは少し余計な事を言い過ぎました」

「さて、それじゃ湖の方へ移動しようか。といっても、僕はその位置を知らないんだけど……」

「シュウさんに同じ!」

「それでは私の方で案内しますので、着いて来てください」

「エレインさん、お願いします」

「お願いします!」


 という事で、湖に向けてエレインさんの先導で移動開始。シュウさんも弥生さんも、ここでの競争クエストには参加してないはずだから、場所を知らなくても当然だ。

 水月さんとアーサーは来た事はあるはずだけど、全体像を把握してるかはかなり微妙なライン。ルストさんなら共闘クエストの時にやってきてたけど……。


「そういえばルストさんは来てないのか?」

「ルストならこの件よりもスクショが重要って一言で、決着前に海の方へすっ飛んで行ったよー! 少し悩んではいたけどねー」

「海は僕ら赤の群集の占有エリアになったけど、少し前に決着の演出があったはずだからね。それを撮りに行ってそのままだね」

「……なるほど」


 対人戦には興味のないルストさんだけど、決着の演出を見に出向いて行った訳か。スクショが最優先というところが、ルストさんらしいな。勝負そっちのけで、ただひたすらにスクショを撮ってそうだよなー。



 ◇ ◇ ◇



 少し雑談をしつつ、それほど時間はかからずに湖まで移動は完了した。まぁ流石に赤の群集の、それも最大級の戦力の2人である弥生さんとシュウさんがいるんだから、思いっきり目立つなー。遠巻きにギャラリーが集まりまくってるよ。


「ところでずっと気になってたんだけど、弥生さんが運んできたネズミは何ですか!?」

「え、これ? 未成体Lv30の瘴気強化種のネズミだよ。ほら、もし『刻瘴石』がフィールドボスの誕生に使うものなら元になる個体は必要じゃない?」

「やっぱりそういう可能性は考えてたんだな。でも1体で足りるのか?」

「アルマースさんこそ、その言葉が出てくるって事は灰の群集でも可能性は考えていたね?」

「一緒に検証をすると決めた以上、隠しておいても仕方ない情報だからな」

「まぁそれは僕も同意だね。ここはお互いに関係情報の出し惜しみは無しといこうじゃないかい」

「賛成だぜ、シュウさん。で、1体で足りるのか?」

「おそらくLvの問題でフィールドボス化は無理だろうけど、そもそも進化に使えるかという点を確認したいだけだからね。それ以上は時期尚早と判断するよ。……まぁシンプルに、時間的な問題で2体は確保出来なかったというのもあるんだけど」

「……確かにそりゃそうか。あくまで、フィールドボスになるかじゃなくて、進化の為に使えるかの確認なんだな」

「そういう事になるね。アブソープ……いや、修正が入ったからアブソーブだね。これの取得自体がまだ早過ぎるものではあるはずだよ」

「そりゃ違いないな」


 言葉とは裏腹に、地味に緊迫感はある状態ですけどねー!? お互いに『刻瘴石』以外の情報を引き出そうとしてる雰囲気。てか、堂々と出てきてたから無意識的に除外してたけど、作戦参謀はシュウさんという可能性もありそうな気がしてきた。うん、あり得そう。


 てか、どこでLv30の未成体を仕入れてきたんだろう? ……そういや、安全圏に出た移動妨害のボスっぽいのも確認出来てなかったっけ。もしかすると、その先のエリアで調達してきた? もしくは、他の競争クエストのエリアに進出してるとか?

 その辺、灰の群集でどうなってるかも確認しないとね。まぁ今は『刻瘴石』の検証が先だな。その後に報告しに行く時に確認すればいいや。


「とりあえず生成するところからだよな。シュウさん、どっちの群集からやっていくんだ?」

「ケイさん、好きな方を選んでもらっていいかい? 言い出したのは僕らの方だから、そこは委ねるよ」

「ほいよっと」


 まぁどっちの群集でも『刻瘴石』は作るんだから、そこまで順番にこだわる部分でもない。だけど俺とシュウさんとエレインさんと水月さんが瘴気汚染・重度になるから、回復は少しでも早い方が嬉しいな。受ける側は、瘴気汚染まで軽減しても回復し切れないっぽいしね。


「それじゃ俺からやるよ」

「ケイさんからだね。それじゃ水月さん、よろしく頼むよ」

「えぇ、分かりました。『纏属進化・纏瘴』!」


 おぉ、禍々しい瘴気を纏った空飛ぶホタテへと進化した。うーん、水月さんはクマのイメージが強いから、このホタテはどうにも違和感が凄い。というか、進化中のエフェクトは短くなってるような気もする? 単に元々こんなもんだっけ?


「なぁ、アル。纏属進化って早くなった?」

「ん? そういう仕様変更の覚えはないが……どうかしたか?」

「いや、なんか体感的に早くなったような気がしてさ」

「纏瘴に関しては何度か見てるからじゃねぇか? どっちかというと、これまでが長く感じてただけって気もするぞ?」

「あー、なるほど」


 そう言われてみると、確かにそうかもしれないなー。初めて見る時ほどじっくりは見てないし、それが体感的な差になって出てきてるだけか。そういう事なら納得。

 さてと、とりあえず不思議の思った事は解消したし、俺も準備しておきますか! えーと、いつの間にかハーレさんはアルの木の方に移ってるし。、飛行鎧はいらないから解除しとくか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 109/109 → 109/115


 よし、これで飛行鎧は解除完了! それじゃアブソープ・アクア……じゃなかった。アブソーブ・アクアが修正後の正しい内容だな。次の定期メンテまでは大丈夫だけど、それ以降はこっちに完全に切り替わるんだから意識しておかないとね。


<行動値上限を10使用して『アブソーブ・アクア』を発動します>  行動値 109/115 → 105/105(上限値使用:10)


 俺の周りを水の膜が覆い始めたから、これで準備は出来た。後は水の瘴気魔法を吸収して、過剰魔力値を『刻瘴石』の生成に回せばいい。


「準備完了! 水月さん、いつでもいいぞー!」

「分かりました。それではすぐに始めますね」

「ほいよっと!」

「いきます! 『並列制御』『アクアクリエイト』『瘴気収束』!」


 水月さんの禍々しくなったホタテから放出される禍々しい水の放出だけど、アブソーブ・アクアの水の膜に触れた途端にあっさりと吸収して、消えていくね。いやー、この吸収っぷりはなんか爽快感はあるな。……瘴気汚染さえ無ければだけど。

 吸収し始めてすぐに瘴気汚染になり、それもあっという間に瘴気汚染・重度へと変わっていく。早いな、これ。


 そういえば瘴気は浄化と調和させるものってマサキが言ってた気がするけど、この状況で纏浄に出来たりしないかな? あ、でも3時間経過しないと纏浄は使えない……って、3時間? あれ、場合によってはギリギリ経過する?

 あー、駄目っぽい。多分、瘴気汚染が回復し切る方ちょっとだけ少し先になりそう。……しまったな、確認するチャンスを逃したかも。


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 291/290


 おっと、他の事を考えてる内に吸収は完了したね。それにしても瘴気魔法を吸収した場合は、本当にしょぼい過剰魔力値だなー。ともかく今は使用しないを選んで、『刻瘴石』の生成に回す!


<使用されなかった過剰魔力値を結晶化します>

<『刻瘴石』を1個獲得しました>

<過剰魔力値の結晶化により『アブソーブ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 105/105 → 105/115


「おし、『刻瘴石』の生成完了!」


 今回は模擬戦じゃないから、破棄される事なく無事に生成が出来た。なんかあんまり触れたくないような禍々しい石だけど、まぁ既に瘴気汚染で瘴気に蝕まれてるようなエフェクトは出てるし、触れたところでどうって事はない! って、ちょっと待った。


「……これ、普通の状態の人が触ったどうなんの?」

「そこは試せてない部分だね。誰か試してみるかい? 誰もしないなら、僕がやってみるけど」

「シュウさん、俺がやってもいい!?」

「アーサー君か。ケイさん、構わないかい?」

「アーサーがいいなら、別に問題ないぞー!」

「うん! それじゃやってみる!」


 恐る恐るという感じだけど、地面に置いた生成した『刻瘴石』にアーサーがイノシシの脚を触れさせていく。おぉ、触れた瞬間に、触れた場所からアーサーのイノシシが瘴気に蝕まれ始めた。


「わっ!? 瘴気汚染になった!?」

「触っただけで汚染されるのか。これ、生成した人が持ってた方が良さそうだなー」

「どうやらそうみたいだね。ケイさんに所有権があるだろうし、ケイさんが持っていてくれるかい?」

「ほいよっと」


 さて、とりあえずこれで『刻瘴石』は1個生成出来たね。あとはシュウさんとエレインさんの方でもう1個生成して、それからは性能の把握だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る