第1098話 刻瘴石だけではなく


 とりあえず1個目の『刻瘴石』の生成は完了した。その反動で、分かってはいたけども今日2度目の瘴気汚染・重度になったねー。もうこれは時間経過で回復するのを待つしかない。


「さてと、僕の方も生成していこうか。『アブソーブ・アース』!」


 おっと、シュウさんの方も早速『刻瘴石』の生成の準備をし始めた。進化を試す素体は1体しかいないけど、まぁここはお互いに1個ずつ作っておく方が良いしね。


「あの、少しよろしいでしょうか?」

「なんだい、エレインさん?」

「いきなりの申し出にはなるんですが、浄化魔法の方も試してみるのは駄目でしょうか? 多分、何かありますよね?」


 あ、そういえばそっちもあった! 浄化魔法を吸収したらどうなるか、地味に試せてないやつ! エレインさん、ナイス発案!


「……おや? あぁ、なるほど、そういう事かい。ケイさん、まだアブソーブ・アクアを取ってから間がないね? 灰の群集全体でも所持者は……情報を公開する人の中には他にはいないと考えて良さそうだ」


 ちょ、なんでそれをシュウさんが把握してる……って、既に検証済みなのか、エレインさんが言った案件!? やばい、灰の群集じゃまだ浄化魔法の吸収は試せてない事が筒抜けになった!

 連鎖的に他のアブソーブ系のスキルを持ってて、情報公開をしてるのが俺以外に出てない事まで見抜かれてんじゃん!? どうする!? ここをどう誤魔化す!? って、どう考えても誤魔化せる内容じゃない!


「皆さん、すみません。今のは私の失言です……」

「……今のは仕方ないって、エレインさん」


 シュウさん達の方が全然その部分に触れてなかったから、俺らと同じような状況だと勘違いしてしまうのも仕方ない。提案自体はおかしなものじゃないんだから、尚更に!


「……ふむ、どうしたものかな。そっちも実際に生成してみたいところではあるから、提案自体は受けても良いんだけど……弥生はどうしたい?」

「んー? 別にそれで良いんじゃない? あー、でも試す個体がどう考えても足りてないよね。それならちょっと一走り行ってきて調達してこよっか?」

「手間がかかるけど、いいのかい?」

「試すのを待ってくれればそれで良いよー! あ、サヤさん達の方で、このネズミを預かっててもらえない? 流石に連れたままじゃ行けないしさ」

「それなら任せてかな!」

「よろしくねー! それじゃちょっと行ってくるー!」


 そう言いながら弥生さんは大型化して凄い速さで駆けていった。ネズミはサヤが龍で巻き付いて捕獲してる状態だなー。それにしても、この展開はちょっと予想外。


「シュウさん、俺らが知らない事を教えるのって良いのか?」

「元々、僕ら赤のサファリ同盟だけで検証した情報だからね。流石にまとめ役を引き受けてた時は出来なかっただろうけど、今は僕らを止める権限はないよ」

「……なるほど」


 あくまで赤のサファリ同盟として持ってる情報だから、その扱いはリーダーである弥生さんがOKと言えばどうとでも出来るのか。まぁまとめから引っ張ってきた他の人が調べた情報を伝えるのは無しでも、自分達で調べた情報の扱いについては誰かに制限される筋合いもないしなー。


「はい! 浄化魔法を吸収して出来るのは、何てアイテムですか!?」

「今のうちにその辺は説明しておこうか。浄化魔法を吸収する事で生成出来るのは『刻浄石』だよ。まぁ性質はまだ不明だけどね」

「えっと、刻む浄化の石で『刻浄石』で合ってる?」

「それで合ってるよ、ヨッシさん」

「なんだか『刻瘴石』と『刻浄石』は対になってる感じがするのです!」

「てか、間違いなくそうだろうな」

「だよなー」


 元々、纏浄と纏瘴が対になってるようなもんだし、そこから派生して生成出来るアイテムも対になってても何の不思議もない。ただ、どういう性質を持っているかというのが重要か。


「さて、今度は僕からの質問だよ。ケイさん、さっき生成した『刻瘴石』の説明を教えてもらってもいいかい?」

「あ、そういやそうだな。確認してみる!」


 聞いてばっかじゃ共同での検証にはならないもんな。ここはお互いに情報を出していかないと意味がないよ。という事で、アイテムの詳細表示!


『刻瘴石』

 多量の瘴気を凝縮し、石状に結晶化したもの。

 許容量を超える瘴気を刻みつけ、異形の姿へと変貌させる。


 なんか抽象的で具体的な説明になってないけど、これは瘴気石の説明でも同じような感じだったはず。でも、この内容でも分かる事はある。


「『許容量を超える瘴気を刻みつけ、異形の姿へと変貌させる』って説明があるから、多分高確率で敵の進化絡みのアイテムだな」

「異形の姿って事は、例のアンデッド系のゾンビやスケルトン絡みか?」

「説明的にそんな感じなのさー!」

「……なるほど、その辺は大体想像通りだね。正確な事は実際に進化させて試すしかないけど、あの進化を誘発させられる可能性はある訳だ」

「俺、話には聞いてるけど、そのアンデッド系の敵ってまだ見てない!」

「場合によっては、この後の検証で見れるかもしれませんね」


 俺も確証こそなかったけど、アンデッド系のあの異形の進化に関わる何かな予感はしてた。聞いている感じだと、シュウさんの見解も同じようなものだったか。うん、流石は赤のサファリ同盟の副リーダー。検証慣れしてるよね。


「でも、そうなると『刻浄石』だとどうなるんだろ?」

「……全然想像が出来ねぇな」

「瘴気の力で強くなってる敵に浄化の力を与えたら、むしろ弱くなりそうかな?」

「黒の暴走種に使ったら、半覚醒になっちゃいそうなのです!」

「半覚醒化かー。それはそれで面倒そうだな……」


 勝手な推測で言ってるけど、もしかすると使用する対象が限定される可能性もあるのか? うーん、どう考えても今はまだ情報が不足し過ぎてる! とりあえず弥生さんが戻ってくるまでに準備を進めておくしかないか。


「さて、弥生が戻ってくるまでに『刻浄石』の生成をしてしまおうか。それで良いかい、エレインさん?」

「あ、はい! それじゃ私は纏浄をして、浄化魔法を使いますね」

「うん、よろしく頼むよ」

「それでは始めます。『纏属進化・纏浄』『並列制御』『アースクリエイト』『浄化の光』!」


 エレインさんの温かい浄化の光を帯びた土砂が、シュウさんの周囲に漂う砂の膜に迫っていき、それはあっという間に吸収され消滅していった。そして、浄化魔法の反動によって、纏浄は解除になり、エレインさんは動けなくなって松の木がその場に倒れ込む。

 浄化魔法の反動って、かなりキツいよな。瘴気汚染も大概厄介だけど……って、そういや浄化魔法を受けた場合ってどうなるんだ?


 えーと、これは流石に他の群集の人に聞くのはマズい気がするから、大急ぎでまとめを確認だー! この手の情報はほぼ確実に存在してるはず! ……よし、見つけた!

 浄化魔法を受けた場合のデメリットは……『過剰浄化』って状態異常になるのか。ふむふむ、スキルの使用の度にデメリットとしてダメージが発生かー。マサキの言っていた、偏っていたら駄目だという言葉の意味はこういうデメリットの部分にも関係してるのかもね。


「これで『刻浄石』の生成も完了したね。『過剰浄化・重度』はやっぱりデメリットが厳しい……あぁ、ケイさん達は知らないんだね。『浄化魔法』を受ければ『過剰浄化』になるけど、吸収したら悪化して『過剰浄化・重度』になるから要注意だよ」

「えーと、どう変わるのか聞いてもいい?」

「スキルの使用でダメージが発生するのが『過剰浄化』だけど、そのダメージ量が大幅に増えたのが『過剰浄化・重度』だね。死にはしないけど、あっさりと瀕死まではいくから気をつけるといいよ」

「あー、そういう感じか! 説明、助かる!」


 まとめで確認したけど、シュウさんがあっさりと説明してくれたよ。それでシュウさんの目の前にある温かな浄化の光を放つ石が『刻浄石』か。『浄化の輝晶』に比べると、光ってさえいなければ普通の石っぽいんだよな。てか、これも触れたら『過剰浄化』になったりする?


「説明文には『浄化の力を刻みつけ、瘴気の影響を抑え、失っている意識の覚醒を促す』とあるから、半覚醒の可能性は高くなったかもしれないよ」

「そういう説明文になってるのか! あー、それだと本格的に半覚醒の可能性が出てきたなー」


 何気なく言ったっぽいハーレさんの言葉が、本格的に真実味を帯びてきた。でも、半覚醒なら、対象は中に精神生命体が存在している黒の暴走種に限定されるはず。


「弥生、見つけられたらで良いから、未成体Lv30の黒の暴走種を捕まえてきてくれないかい? うん、瘴気強化種じゃ駄目な可能性が出てきてね。残滓は……黒の暴走種が見つからないようならで。うん、よろしく頼むよ」


 その辺に気付かない筈がないシュウさんが、既に弥生さんに伝えてたっぽい! なんとも手際が良い事で。まぁ半覚醒なら、中に精神生命体がいる黒の暴走種じゃないと意味ないし、これは必須な手順だよなー。


「さてと、フィールドボスの誕生はここでは無理だろうから、弥生から捕獲の連絡があったら上風の丘に移動しようと思うけど、良いかい?」

「あー、確かにここじゃフィールドボスの誕生は出来ないしな。みんな、それで良いか?」

「ま、それしかないだろうな」

「問題なしなのさー!」

「あ、エレインさんは動けるの?」

「動けないのは5分間だし、大丈夫じゃないかな?」

「流石に弥生さんが戻ってくるのに5分以上はかかるでしょうから、大丈夫だと思うますよ」

「って事で、問題ないぞ、シュウさん」

「そうみたいだね。それじゃ少し待っていようか」


 という事で、弥生さんが戻ってくるまでに少し待機中だね。急に検証内容を増やしたから発生した待ち時間だけど、まぁ予定を変えたんだからそこは仕方ない。さて、ただボーッと待ってるのもつまらないから、気になってる点をダメ元で聞いてみますか!


「シュウさん、少し質問いいか?」

「なんだい、ケイさん? なんでも答えられる訳じゃないけど、答えられる範囲なら答えるよ」

「それじゃ遠慮なく。ぶっちゃけ、弥生さんはどこに敵を確保しに行ったんだ?」

「あぁ、それかい? まぁそれくらいなら教えても問題はないね。ほら、ジャングルの競争クエストの途中で安全圏に敵が出現しただろう? 念の為に聞くけど、灰の群集でも出現してるので間違いないかい?」

「まだ直接は見てないけど、出現したのは間違いないのです!」

「それ、他のエリアへの移動の妨害ボスなんだよ! だよね、水月?」

「えぇ、その通りです。そちらもジャングルではあったんですが、弥生さんが向かっているのはそちらですね。あちらのエリアからこちらのエリアまでの転移なら、敵も持ち込めるようですよ」

「あー、そういう仕様なのか」

「なんか、こっちに持ってこいって仕様な気もするな」

「確かにそんな感じはするよね」


 そういやエリアを跨いで敵を運ぶ事は普通に出来たけど、転移で敵を持ち運ぶって出来たっけ? 確か今までは出来なかったような気がするけど、新エリアだとその制限が無いのか。


「てか、安全圏は他の群集でも残ってるんだ?」

「あっちの新エリアの方に行く為の中継地点として確立しているみたいだね。まぁ本題はそこじゃなくて、その妨害ボスを倒した先のエリアだね。そこを少しだけ探索してみたけど、基本的には成熟体ばかりのエリアだよ。ただし……」

「そこに少数だけどLv30の未成体もいるって事か」

「アルマースさん、ご明察。まぁここのすぐ近くの初期エリアが森林エリアで良かったよ。ジャングルの安全圏から転移で持ってこれるのは、森林エリアまでだからね」


 なるほど、転移で敵が持ち運べないと思ってたのは勘違いじゃなかったんだな。あー、だからこそ検証場所としてミズキの森林を指定してきたのか。赤の群集の森林エリアは近いし、西に行けばすぐにフィールドボスの誕生を試せる上風の丘もあるもんな。

 ぶっちゃけこっちのエリアで成熟体のフィールドボスの誕生が実行出来るのかは分からないけど、そこは実際に試してみるしかない。まぁ持ち込んでこれるなら、出来る可能性は高そうだけど。あ、そうだ。今のうちにこれは決めておいた方がいい気がする。


「シュウさん、もし進化が上手くいったらどういう風に討伐するんだ?」

「とりあえずケイさんと水月さんと僕は、戦力としては除外だね。あぁ、そういえば連結PTがまだだった。えっと、確か今のリーダーはアルマースさんで良かったかい?」

「おう、それで合ってるぞ。あ、シュウさん、少し待ってくれ。ほれ、ケイ、ハーレさん」

「ん? あ、そういやまだPTに入ってなかった」

「忘れてたのさー!?」


 遅刻はしてないけど、慌てて移動してきたからすっかり忘れてたよ。とりあえずアルからのPT申請は承諾!


<アルマース様のPTに加入しました>

<ハーレ様がPTに加入しました>


 これでPT加入は問題なし! ここからは戦闘になる可能性が高いんだから、PTは大事だよなー。


「いいぜ、シュウさん」

「それじゃ連結PTにしておこうか。弥生、一旦リーダーをくれるかい? うん、ありがとう」


<シュウ様のPTと連結しました>


 シュウさんにPTリーダーを切り替えてから、これで連結PTの結成は完了。てか、連結PTを組むって事は、成功したら俺らで討伐かー。まさか競争クエストの真っ最中にこうなるとは思わなかったよ。

 まぁ瘴気石を使った未成体でのフィールドボスの誕生の法則を考えたら、進化したとしても今はまだ成熟体でフィールドボスになるとも思えないし、倒せるかどうかの心配まではいらないか。


「よく考えたら、『刻浄石』で半覚醒になるなら群集混在の連結PTがいいんだな」

「あー、確かにな。どこの群集の半覚醒になるか、その辺が未知数過ぎる」

「同じ群集の半覚醒を引き当てた場合、どうなるか興味深いとこだね」

「それもそうだよなー」


 どう考えても自分の所属群集と同じ半覚醒なら、ダメージの通りが極端に悪くなるから討伐難易度は跳ね上がる。だからこそ、赤の群集のシュウさん達といるのが本当に都合はいい。


「シュウさん、思った以上に強く進化して、倒せなかったとしたらどうしますか!?」

「それに関してはあまり心配はしてないけど、まぁいざとなればランダムリスポーンを繰り返して僕らで処理するしかないね。流石に放置は出来ないし」

「意地でも倒すしかないんだな!? まぁ同じ進化階位なら、倒せないって事もないか」

「そういう事だね。いくらなんでも完全体に進化するって事はないだろうし、まぁ万が一でそうなった場合でも、それはそれで興味深いだろう?」

「それはないとは思うけどなー!?」


 シュウさんがサラッと恐ろしい事を言ってくれてるけど、いくらなんでも完全体に進化する事はないはず。てか、あってたまるか! そんなもん、今のプレイヤーの誰も勝てないわ!

 あ、でも待って。倒せない敵がいた時期ってあったよねー!? 成熟体への進化の足止めを受けてた辺りでさ! いや、いくらなんでも今のタイミングでそれはないよな!?

 

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