第32章 次の1戦に向けて

第1096話 昼から再びログイン


 アラームの音で目が覚める。あぁ、そういや思った以上に疲れてた感じだったから、少し掲示板を見てから仮眠したんだった。うん、少しの仮眠だけど頭はスッキリ……って、晴香が机の突っ伏して寝てる!?


「晴香もなんだかんだで疲れてたんだな」


 まさか晴香まで寝てるとは思わなかったけどなー。なんか薄っすらとしょーもない寝言が聞こえるんだけど、これは聞かなかった事にするべきか? てか、時間も時間だし起こすべきだよなー。


「はっ!? 私の巨大唐揚げ、どこ行くの!? ……あれ?」

「……起きたか。晴香、どんな夢を見てたんだよ」

「私より大きな唐揚げが飛んで逃げていく夢? 私、寝てたの!?」

「まぁ思いっきりなー。てか、ヨダレを拭け、ヨダレを!」

「あぅ……」


 ササッとティッシュを箱ごと渡したら、恥ずかしそうにしながらヨダレを拭き取ってた、まったく、兄妹だからいいけど……無防備過ぎだろ、今のは。


「14時まで少し時間はあるけど、もうログインしとくか」

「はーい!」


 そうして晴香は自分の部屋に戻っていった。さーて、少しの時間の仮眠だけどその効果はあったみたいだな。それじゃ続きをやっていきますか!



 ◇ ◇ ◇



 そうしていつもの如く、いったんのいるログイン場面にやってきた。いったんの胴体部分の内容は『一部スキルの誤植と、その修正についてのお知らせがあります』となっていた。あ、これはちょっと心当たりがあるぞ。


「いったん、お知らせの詳細を教えてくれー」

「はいはい〜! えーと、まだ取得者の少ない一部のスキルに……って、君は数少ないその中の1人だね〜! 丁度良いからそのまま君が持ってるパターンで説明するけど、構わないかな〜?」

「おう、それでいいぞー」


 てか、どう考えてもその発言的にあれの事なのは間違いないな。検証の模擬戦の最中に、レナさんが誤植って言ってたアブソープ系スキル。正しくは『アブソーブ』になるんだっけ?


「えっと、君が持ってる『アブソープ・アクア』の『アブソープ』の部分が誤植で、正しくは『アブソーブ・アクア』になります〜。既に修正は終わってるけど、しばらくの間は『アブソープ』でも『アブソーブ』でも、どっちでも発動出来るようになってるからね〜!」

「ん? どっちでも発動出来るのか?」

「すぐに切り替えろって言われても混乱するだろうからね〜。運営側の不手際なので、今の時点で所持している人に限りそういう処置になりました〜」

「なるほどね。ちなみにその猶予期間は? 流石に無制限でずっとって訳じゃないよな?」

「えっと、次の木曜日の定期メンテナンスまでだね〜。それまでに切り替えられるようにお願いします〜」

「ほいよっと」


 少しの間はちゃんと意識を切り替えられる期間は用意してくれたんだな。まぁ該当者が少ないからこそって気もするけど、ここは出来るだけ早く正しいスキル名に慣れていかないとね。

 あ、そういえばスクショの承諾は後にしたままだったっけ。今から確認して時間的には間に合うか? うん、まだ大丈夫そうだ。


「いったん、スクショの承諾をするから一覧をくれ」

「はいはい〜。どうぞ〜」

「サンキュー!」


 さてと、どんなのが来てるかな? えーと、ちょ!? 過剰魔力値を使って発動した巨大なアクアウォールのスクショがいくつも来てる!? あー、他にもミズキの森林でアクアクラスターの試し撃ちをしてる時とかのもあるんだな。この辺はほぼ灰の群集の人からだし、承諾っと。

 げっ!? ジャングルでの戦闘中の様子もいくつも撮られてたっぽい。しかも青の群集からが多いんだけど!? これは承諾しない! 意外と赤の群集からのスクショは全然ないっぽいなー。ま、こんなもんだろ。


「いったん、これでよろしく」

「はいはい〜。これで処理しておくね〜」

「それじゃコケでログインを頼んだ!」

「昼からも楽しんでいってね〜!」

「おうよ!」


 そうしていつものようにいったんに見送られながら、ゲームの中へと移動していく。さーて、まずはシュウさん達と合同の検証会だな。って、しまった!? 土の瘴気魔法を使える人を連れていかなきゃいけないのに、その時間を考えるのを忘れてた!



 ◇ ◇ ◇



 慌てながらゲーム内へとやってきた。散々燃やしまくったジャングルの拓けた場所へログインか。戦場を確保する為ではあったけど、占有エリアとして使っていくならこれはありな状態なのかも? てか、もう結構な人が集まってる!?

 すぐ近くのマサキから森林エリアの群集拠点種にエニシへの転移が可能になってるんだし、新しい占有エリアとしては便利なのかも。


「ケイさん、ケイさん! そういえば土の瘴気魔法が使える人の確保がまだなのです!」

「あー、それは俺も思ってたとこ。とりあえずみんなとの合流を急ぐぞ、ハーレさん!」

「はーい! あ、ケイさん、飛行鎧に乗せてください!」

「確かにその方が移動は早いか!」


 という事で、大急ぎで飛行鎧を展開していこう。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 115/115 → 109/109(上限値使用:6)


 成熟体になってから、Lvアップによる行動値の増加幅は多くなったよなー。まぁ不足しがちだった上に、更に消費量も増えてきてるんだからそれくらいになってもらわないと困るけど。

 それはともかく、飛行鎧の展開は完了! すぐにハーレさんがロブスターの上に乗ってきたし、急いで一度エニシまで転移してから、エンに転移して、その後で更にミズキまで転移! まだ10分くらいはあるから、そこまでの移動の時間は問題ないはず。


「それじゃ出発するぞ! あ、ハーレさん、共同体のチャットでみんなの状態を確認しといてくれ!」

「了解なのさー!」


 もしかしたらみんながもうログインしてて、誰か手伝ってくれる人を確保してくれてる可能性はあるもんな。というか、時間的にそうなってて欲しいというのが本音だけど!

 ともかく今は、新たに出来た川の中にある鳥居と、その近くに佇むマサキのとこまで移動しよう。どっちにしてもミズキの森林までは急いで移動しないと駄目だしね。


 あ、近くに行けば直接話しかけなくても転移可能なのは他のとこと同じ仕様か。転移先はエニシかミヤビの2択になってるから、今はエニシで! 安全圏への転移も可能なんだな。


<『群雄の密林』から『始まりの森林:灰の群集エリア1』に移動しました>


 マサキに直接話しかける必要はなく、今までの他の転移の時と同じで近くに行けば転移先の指定はする事が出来た。まぁここには特に用はないから、すぐに森林深部へ――


「速報、速報ー! 未開の海溝での競争クエストの勝敗が決まったぞー!」

「おっ、マジか!」

「2エリア目の決着かー!」

「流石は土曜、進行が早いな」

「勝てたのかな?」

「早く結果を聞かせろー!」

「ちょっとだけ待ってくれ! もうちょい人が集まって落ち着いてから話す!」

「了解ー!」

「さて、海エリアはどうなったのか……」


 ちょ!? すぐに転移しようと思ったけど、聞き逃せない内容が聞こえてきた!? 周囲の人達もその声を聞いてざわめき出してる。転移を確定する前でよかったー! ギリギリセーフ。


「ケイさん、ストップなのさー! これは聞いていくのです!」

「分かってるって! ハーレさん、悪いけどみんなに連絡を頼む!」

「今書き込み中なのさー! あ、手伝いに関してはエレインさんが来てくれるって!」

「それは了解っと!」


 モンスターズ・サバイバルの松の移動種のエレインさんが手伝ってくれる事になったんだな。既にアル達の方で話は通しておいてくれてたっぽい。その状態になってるのはありがたい!


「少し遅れても良いから、勝敗情報はちゃんと聞いてこいってー!」

「ほいよっと!」


 という事で、聞いていく事で決定。えーと、人がそれなりに集まるまで続きを話すのを待ってるっぽい? 多分、今のを話したのはカンガルーの人か。ん? なんかカンガルーのお腹の袋の部分がモゾモゾ動いてるけど、中に何かいる? いや、そこはまぁいいや。


「おし、それなりに集まってきたな! 正直、良い内容ではないから心して聞けよ!」

「え、良い内容じゃない……?」

「まさか、負けた!?」

「絶対に勝てる訳もねぇか……」

「勝ったのはどこだ!?」

「気持ちは分かるが落ち着いてくれ! 勝ったのは赤の群集だ。……陸地のプレイヤー勢が、一斉に海に雪崩れ込んだそうだ」

「あー、赤の群集は海エリアは他のとこより団結力はあるもんな……」

「そこに陸地のプレイヤーを投入したのか」

「ジャングルで後半の方に赤の群集が少なかったのってそういう理由!?」


 なるほど、海の新エリアでの競争クエストの勝者は赤の群集になったんだな。ジャングルでの終盤戦で露骨に赤の群集の人が減ってたけど、この為の仕込みだったのか。ジャングルでの勝ちを捨てて、他のエリアを取りに動かれたらどうしようもない。流石に連戦は厳しいしなー。


「あぅ……海エリアは負けちゃったのです……」

「まぁ流石にそれは仕方ないって。……でも、赤の群集に冷静な作戦参謀がいる可能性は高くなったな」

「そうなの?」

「ミヤ・マサの森林での件で赤の群集を盛大に巻き込んだのに、怒ってる風に見せかけてこの結果だぞ? 青の群集は不満が爆発して、攻め込みまくってたのにさ。全勢力の入り混じった状態に見せかけて、シレッと戦力を他に回す判断を出来る人がいるのは確実。まぁ知ってる人か、知らない人かは分からないけど」

「確かにそうなのさー! え、でも、知ってる人の可能性もあるの!?」

「……正直、ウィルさん辺りが怪しいんじゃないかと思ってる」

「そうなの!?」

「まぁ根拠はないけどな」

「根拠はないんだ!?」


 根拠があれば良いんだけど、何の確証もない勘みたいなもんだしなー。でも、1度は盛大に過ちを犯したとはいえ、その収拾の為に俺とベスタを利用して自分自身でゲームから退場しようとした人だ。冷静に判断さえ誤らなければ、作戦立案で動ける人ではあるはず。

 それにルアーを中心に赤の群集のまとめ役の共同体……えーと、確か『リバイバル』だっけ? そこに多分所属してそうだし、変な悪意で歪められなきゃ周囲を引っ張っていく力もある。それは無所属になってた時に実際に見た部分。……真っ当に敵に回すと厄介な人か。


「まぁその辺は実際に遭遇してみないと分からないけどな」

「決めつけるのは、それはそれで危険なのさー! 実は全く知らない人だった場合に危ないのです!」

「そういう事。あと、これはあんまり考えたくないけど……1人とも限らないんだよなぁ……」

「あ、そっか! それはそうなのさー!」


 ジャングルでの競争クエストで青の群集に人数の誤認はやられたばっかだしね。あの危機察知を回避する遠距離狙撃が使える人数、ここからの競争クエストで意識しておかなければ危険な情報だよな。てか、その辺の情報もどこかのタイミングで共有しとかないと駄目か。


「ま、色々とやるのはシュウさん達との検証の後でだな。ハーレさん、ミズキの森林まで急ぐぞ」

「はーい! あ、私達以外はもう全員揃ってるそうです!」

「もう揃ってるんかい! まだ遅刻じゃないよな!?」

「あと5分はあるから、大急ぎで行けば間に合うはずなのさー! ケイさん、ファイトなのです!」

「俺任せなんだな、そこ!」


 いや、もう意地でも何とか間に合わせるけどな! 可能そうなら、雑談に織り交ぜる感じでシュウさん達から聞き出してみる? ……まぁそこはメンバー次第か。


「それじゃ盛大に吹っ飛ばすぞ!」

「何かを轢かないように要注意なのさー!」

「強制解除になるもんなー!」


 まぁ盛大に飛行鎧で加速させる前に、まずは森林深部に転移からだな。加速させるのは、ミズキの森林まで行ってから!



 ◇ ◇ ◇



<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>


 さて、ここからは大急ぎで……って、普通に目の前にシュウさんと弥生さんがいたー!? あ、許可を得て普通にここまで入ってきてたんだな。てか、弥生さんがなんか踏みつけてるのは何? 黒いカーソルのネズミ……?

 エレインさんを筆頭にモンスターズ・サバイバルの面々もいるし、検証の最中に弥生さんが大暴走するような事はまずないな。対人戦でテンションが上がるって状態じゃないし、後は怒らせるような変な事をする人さえいなければ弥生さんは問題にはならないしね。


「やっときたか、ケイ、ハーレさん」

「思ったより遅かったね、2人とも」

「でもまぁ遅刻じゃないからセーフかな?」

「セーフだよな、ハーレさん!」

「私達は遅刻はしていないのです!」


 待ち合わせは14時で、まだ14時にはなっていない! だから、みんなより遅くはなったけど、決して遅刻ではないから問題にはならない! てか、多少遅れても良いって聞いたんだけど!?


「ふふっ、皆さん意地悪が過ぎますよ? この検証は、別に大急ぎという訳でもないのですよね」

「そうだ、そうだ! エレインさん、もっと言ってやれー!」

「そうなのさー! それに海エリアの勝敗も聞いてきたのです!」

「悪い、悪い。冗談だから、気にすんな。それで、海の方の勝敗はどうだった?」

「……赤の群集の勝ちだってよ」

「残念ながら負けなのです……」

「あ、負けちゃったんだ……。まぁ勝負なんだし負けることもあるよね」

「そこは仕方ない結果かな」


 俺らは海の方には参戦してないし、聞いた限りでは赤の群集の戦力の割り振りが上手くて勝ち取ったって感じだもんな。海エリアのみんなだって頑張ったはずだし、負けたからって責めるような事じゃない。

 それこそ、そういう理由で責め立てるような事をすればいつかの酷い状態だった赤の群集の再来だ。負けは負け、それで次の勝負に向けて意識を切り替えるのみ!


「コケのアニキ、こんにちは!」

「こんにちは、ケイさん、ハーレさん」

「お、その声はアーサーと水月さん……って、ホタテ!? あ、水月さんの2ndか」


 アーサーはこれまで通りコケの生えたイノシシだけど、水月さんの方が浮いているなんか青い貝殻に緑の線が入ったホタテだった。あー、そういや前にチラッと水月さんは2ndをランダムで作ったらホタテだったって聞いた覚えがあるような……。


「さて、これで全員揃ったね。それじゃ『刻瘴石』の生成と性能の検証を始めようか」

「シュウさん、ちょっと待った! えっと、水の瘴気魔法を使うのって誰?」

「あ、それなら私ですよ、ケイさん」

「コケのアニキ! 水月のホタテ、魔法型なんだよ!」

「え、マジで?」

「はい、本当です。海水と淡水と陸地で活動出来るホタテになってますね」

「マジっすか!?」


 まさか水月さんが瘴気魔法の発動要員として来るとは全然予想してなかった! てか、もしかして水月さんのホタテって、俺のコケと同じで特性に『複合適応』を持ってるんじゃ……? いや、そこは重要なとこじゃないから別にいいか!



――――

お待たせしました、連載再開です!


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簡単に説明するなら、受注に応じてその部数だけ印刷する紙の本ですね。

性質上、印刷コストが上乗せになるのでお高め。


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