第1094話 シュウからの提案


 シュウさんから『刻瘴石』についての検証の話を持ちかけられた。さーて、これはどう答えるのが正解か……。俺としてはやっておきたいとこではあるけど、俺だけで決められる内容でもないもんな。


「シュウさん、少し相談させてもらっていい?」

「それは問題ないよ。あぁ、別に今すぐにって訳でもないからね。時間もお昼時だし、戦闘が終わったばかりで疲れもあるだろうしさ」

「あ、そうしてもらえると助かる!」


 別にこれからすぐにって話じゃないんだね。ただ単純に近くにいたから、戻る前に話をしてしまおうってだけ……とも限らないか。地味にまだ青の群集は撤退し切ってないし、あえて交渉をしているのを見せつけるのが目的? 流石にこれは考え過ぎか?


「あ、シュウさん、その前にケイのコケを倒してもらえないかな?」

「そういや、それを頼むのを忘れてた!」

「それは別にいいけど、良いのかい? 占有エリアになった後のリスポーンの仕様の変化を僕らに教える事になるけど?」

「ふん、その程度の情報は問題ない。ケイ、さっさと仕留められて元の状態に戻してもらえ」

「ベスタから許可は出たし、シュウさんよろしく!」

「そういう事なら問題ないね。いくよ、『アースインパクト』!」


 仕様が変わるといっても、多分通常エリアと同じになるだけだから問題ない情報ではあるよね。もし全然違う仕様だったらビックリだけど、それは大丈夫なはず。

 

<群体が全滅しました>

<リスポーンを実行しますか? リスポーン位置は一覧から選択してください>


 という事で、シュウさんに仕留めてもらってコケは死亡! もうすぐ12時だから、サクッと話をまとめてログアウトしないとなー。その為にも即座にリスポーン!

 普通にアルの木に設置してるリスポーン位置が選択出来るから、通常時の設定に戻ってるね。ニョキっとコケからロブスターまで一緒に生えて、リスポーン完了! うーん、相変わらずコケからロブスターが再生されるのは不思議な感じ。


「シュウさん、ありがとな!」

「どういたしまして。ただ、相談は出来るだけ早めに頼むよ。僕も弥生も、決して疲れてない訳じゃないからね」

「そりゃそうだよなー! ほいよっと!」


 いくら強いからと言って、疲弊しない訳じゃない。シュウさんも弥生さんも平気そうに見えるけど、それでもかなりの集中力は必要だったはず。てか、弥生さんの黒いネコは気を抜いて完全に伸びきって、寛ぎモード……。


 それはともかく、俺の復活に合わせてみんながアルのクジラの上に登ってきたし、手早く相談を済ませますか。まぁすぐに結論が出なくても、少し考える猶予をくれって内容でも待ってくれそうな気がする。普通にレナさんも混じってるけど、レナさんからも参考意見は欲しいから丁度いいか。


「みんな、今のシュウさんからの提案はどう思う?」

「青の群集のアドバンテージを潰すって意味では賛成だ。だが、俺らを競争クエストに参戦させない為の抑えという可能性もあるぞ」

「今、明らかに赤の群集の動きがおかしいもんね。どうもベスタさんやレナさん達を足止めしてた感じもするし……」

「いつの間にかいなくなってる様子のルアーさんやガストさんの事も気になるかな」

「ライさんも戻ってきた様子はなかったのさー!」

「あー、やっぱりみんなもその辺は気になるとこか」


 ベスタ、レナさん、ダイクさん、風雷コンビは完全に今回のジャングルでの1戦では抑え込まれてた。その代わりに俺が総指揮をする事になったけども、ベスタほど上手くは出来てなくてもそれなりに代役を勤められる相手も封じようとするのはあり得る話。

 ただ、俺らが単純に他の場所の情報を持ってないだけって可能性もあるんだよな。ボス戦の総指揮をしてたけど、ジャングル全体の総指揮をしてた訳じゃないし。この付近での戦闘以外の情報がさっぱりだ。


「レナさん、赤の群集が他のエリアで動いてるって情報は掴めたりしてない?」

「ケイさん、わたしもついさっきまで戦闘してたのを忘れないでねー?」

「あ、そういやそうだった。つい、レナさんなら把握してる気がしてつい……」

「まぁ今はダイクに情報を集めて貰ってるとこだけどさー。まだこれといった有力情報はないけど、ジャングルへの戦力投入が途中から鈍化してたのは確実みたいだね。んー、傾向として、自分達の防御を捨てて確実に仕留めに動いてきてた感じ?」

「それ、相手を巻き込みつつ、わざと殺されようとしたのかな?」

「どうだろ? プレイヤー層的には、赤の群集には自滅覚悟で突撃する人も多めだしねー」


 あー、赤の群集は好戦的な人が多い傾向ってのは今も変わらずか。こりゃ一度、参戦した人からの目撃情報を集めて分析した方がいいかもな。まぁ流石に少し休憩を挟んでからだけど。


「はい! 青の群集との総力戦の為に、今は戦力の温存にしている可能性はありますか!?」

「あるかないかで言えば、その可能性もあるだろうねー。青の群集がムキになって動いてたのは確実だし、そこを狙ってた可能性はあるかも?」

「その印象を強める為にルアーさん達が出てきて、それを青の群集に見せつけるのが目的だったとか? それなら青の群集が、より勢い付くよね?」

「昼からの総力戦に向けての青の群集の消耗を狙った作戦ならあり得るな。それ、赤の群集に作戦参謀が誕生してねぇか?」

「……それは嫌な可能性だねー」

「だよなー。でも、無視は出来ない可能性だよな……」


 もしそうだとするなら、今のシュウさんからの提案自体が作戦の一部の可能性もある? くっ、まだ判断材料が足りなさ過ぎる!


「……それなら……検証は……赤の群集と……青の群集の……総力戦? ……そのタイミングに……合わせるのは?」

「それなら、俺らの方の動きは制限されにくいか。確か昼からって話だったよな?」

「正確な時間は分からないけどなー」

「うーん、まぁ『刻瘴石』の検証はしときたい内容なのは間違いないし、この機会を逃すと多分競争クエストが全部終わってからになりそうだし、その方向で調整しよっか」

「もしそこの時間帯を避けようとしたら、私達の動きを抑えるのが目的の可能性が高いのです!」

「確かにそりゃそうだなー」


 『刻瘴石』の検証をするには、灰の群集以外の人の協力が必要不可欠なのは間違いない。アブソープ系のスキルの取得自体はかなり早い段階だとは思うから、競争クエストの他のエリアのクリアの為に『刻瘴石』が必須にはなってないはず。

 でも、有利にする要素を持ってる可能性は否定出来ない。少なくとも、俺を含めて全群集に最低1人はアブソープ系のスキルを持ってるんだから。それに何の確証もないんだけど、あの異形のアンデッド系に関係してそうな予感もする。


「おし、その方向で進めるとして……俺らは昼から、何時からやる?」

「14時くらいに集合で良いんじゃないかな? 流石にちょっとのんびりしたいよ」

「同じくなのです……。結構疲れたのさー」

「いつ何があるか分からなかったし、戦闘は控えめでも集中力をかなり使ったもんね」

「俺も14時に集合で賛成だぜ。流石に疲れたからな」

「……同じく……大丈夫!」

「およ? 風音さん、参加する気満々?」

「……ここまでやって……仲間外れは……怒るよ? ……それに……あのシュウって人……魔法型で……相当強い」

「あはは、そりゃ風音さんはそうだよねー! わたしは昼からはあちこち探ってくるから、その辺は任せていーい?」

「まぁ俺がいなきゃ成立しない話だし、そこら辺は任せとけ! って、レナさん、トーナメント戦は? 確か13時半からやる予定だったよな?」

「そっちは根回しはもう終わってるから、灰のサファリ同盟に任せるよ。赤の群集の今の動向、流石に無視は出来ないしね」

「そりゃそうか」


 魔法Lv10を目指す人限定のスキル強化の種を狙ったトーナメント戦の仕切りはレナさんじゃなくなるんだな。まぁ開催自体はどこの共同体にも所属してないレナさんじゃ不可能だし、そこを灰のサファリ同盟に任せるのがいいか。


「って、風音さんはトーナメント戦に参加する予定だったんじゃ!?」

「……それがあった!? ……どうしよう!?」


 あ、思いっきり頭を抱えてるよ、風音さん。紅焔さんといがみ合ってたし、ここで不参加になるのは不本意だろうしなー。かと言って、検証を前倒しにしたら休む時間が減るし、トーナメント戦が終わってからだと具体的な時間が分からなくなる。


「……今回は……検証は……諦める。……纏瘴は使えないし」

「あ、そういや俺も今日はもう使えないんだった!?」


 いや、でもシュウさんも水の昇華は持ってないはずだし、他に瘴気魔法を使える人に一緒に来てもらえばいいだけか。土の昇華を持ってる人の心当たりはチラホラあるし。あ、でも予定を聞かないと分からない!? うーん、まぁそこは後で考えよ。


「ケイさん、そろそろ時間が危ないのです!」

「だー! 時間が足りない!? とにかく、14時から検証って方向でいいな!?」


 よし、全員頷いてるからそれで問題なし! それじゃサクッとシュウさんのとこまで戻って、話を済ませてしまおう! って事で、アルのクジラの背の上からロブスターで飛び降りる。うん、やっぱりこの操作感が今は馴染んでますなー。


「ケイさん、どうするかは決まったかい?」

「検証をするのは了承に決まったよ。時間としては14時を希望するけど、シュウさん達はその辺の都合は?」

「その時間なら問題ないよ。僕と弥生は、青の群集との総力戦には参加しないからね」

「……それ、言っていい内容なのか?」

「変な警戒心は解いておいた方がいいだろう? あぁ、多分可能性として考えてるとは思うけど、総力戦の間にケイさん達を他のエリアへ進出させないのも目的の1つではあるからね」

「目的を隠す気、一切なし!?」

「まぁ僕も弥生も、青の群集とだけ事前に話を合わせて総力戦をやるのには反対だったからね。今話した事は、その分の埋め合わせだと思ってくれればいいよ」

「……なるほど」


 そっか、弥生さんとシュウさんは青の群集との総力戦についてはあんまり良い印象を持ってなかったんだ。まぁあれは誰もが納得する類のやり方じゃないけど、赤の群集からは青の群集に対して、灰の群集とも総力戦をするように調整しろとも言えないか。まして、まとめ役から外れた今の赤のサファリ同盟からは無理だよなー。


「それで場所なんだけど、ミズキの森林に少しだけお邪魔させてもらってもいいかい? それと水の瘴気魔法を使える人を連れてくるけど、それも大丈夫かい?」

「あー、まぁ場所的にはその方がいいよな。それは了解。こっちも俺は今日はもう瘴気魔法が使えないから、他の人を連れてくるぞ」


 まぁまだ誰を連れて行くかは全然決まってないけど! でも土の昇華持ちの人なら、灰のサファリ同盟を筆頭に結構な人数はいるはず。まぁ誰か、手伝ってもらえる人はいるだろ!


「それならお互い様だね。それじゃミズキの森林に入る前に、連絡はしておくよ」

「ほいよっと。それじゃ14時に!」

「よろしく頼むよ。弥生、話は済んだから戻ろうか」

「あ、うん! シュウさん、今日のお昼はたまには外食でどう? お腹空いたから、今から作るのはちょっとね……」

「たまにはそれもいいね。それじゃ急いで戻ってルストにも伝えようか」

「そだねー! ベスタさん、次は倒すから!」

「ふん、それはこっちの台詞だ」

「あ、レナ! 折角だし、一緒にどう?」

「んー、わたしも手早くお昼は済ませたいし、お邪魔しよっかな!」

「なら、それで決定! それじゃログアウトしてから集合ねー!」

「弥生、それなら早く戻ろうか。ここでログアウトする訳にもいかないしね」

「そだねー! それじゃレナ、また後で!」

「うん、また後でー!」


 弥生さん達とレナさんがリアルで知り合いなのは分かってた事だけど、思ってる以上に近くに住んでる? そうじゃなきゃ、今から一緒の食べに行こうなんて話にはならないよな? うーん、まぁ詮索するような事でもないし、別にいいか。


「ケイ、総指揮を押し付ける形になって悪かったな。あぁ、検証の件は後で俺の方から通達をしておこう」

「お、それは助かる! それと、ベスタこそ弥生さん達の抑えに回っててくれて助かったよ。あの弥生さんとシュウさんが、ボス戦の最中に突っ込んで来てたと思うと……」


 もう大惨事しか想像出来ない。抑えられる人が限られるんだから、あの状況だと誰かがベスタの代わりに総指揮をするしかなかった。まぁまさか俺にその役目が来るとは思わなかったけど!


「ケイがそう言うなら問題ないか。まぁお疲れ様とは言っておこう」

「ベスタもな!」

「実際、弥生と真正面から戦ってみて疲れたしな。各自、昼飯時だからしっかりと食べて休憩をしておけよ! 今日、この1戦で終わるとは限らんからな!」


 そのベスタの大声に、この場に残っていた灰の群集のみんなが声を返している。まぁ今は土曜の昼だもんな。まだ転移の経路が確立出来てない所の経路を確立して、次の1戦にも備えていかないとね。昼飯を食い終わったら、一度羅刹にも連絡を取ってみようっと。


「さてと、一旦昼飯で解散! 昼からは14時にミズキの森林に集合で、検証からやっていくぞー!」

「「「「おー!」」」」

「……トーナメント戦の……合間で……可能なら……見に行く!」


 あ、確かにトーナメント戦なら待ち時間も発生するし、タイミングが良ければそれも可能かも? まぁそこら辺は運次第だな。

 とにかく、午前の部はこれにて終了! あー、競争クエストは楽しいんだけど、本気で疲れる! 今日はまだ戦う可能性はあるけど、せめてあと1戦までにして欲しいとこだね。


 命名クエストの結果については、昼飯を食べ終わってから確認でいいや。まだ15分くらい投票時間もあるし、もう12時になるタイミングでそれは待ってられないもんな。さーて、それじゃログアウト!



 ◇ ◇ ◇



 そして、いつものようにいったんのいるログイン場面にやってきた。えーと、今回の動体部分は『競争クエスト、本格的に動き出す!』となってる。うん、本格的に衝突が始まって、1ヶ所目の結果が決まったとこだよ。

 でも、まだまだ8エリアある対戦エリアの内、1ヶ所が終わっただけなんだよなー。今回全力で頑張ったけども、少なくともあと2戦くらいは参戦する事になりそう。ま、そこは頑張っていきますか!


「いったん、ログアウトを頼む! 競争クエストでかなり疲れた!」

「お疲れ様〜! スクリーンショットの承諾が来てるけど、そっちはどうする〜?」

「それは後回しで!」

「はいはい〜! それじゃしっかりと休憩してきてね〜」

「ほいよっと」


 という事で、最小限のやり取りだけでログアウト! あー、もう普通に腹減ったし、疲れた! とりあえず今は昼飯を食って、1時間くらいはまったり休憩にしようっと。そういや今日の昼飯ってなんだろうな?

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