第1093話 ジャングルでの戦いの終結


 おそらくもう最後の演出のみという段階まできて、マサキの進化が発生している真っ最中。浄化の光が柱のように上がり、その中に4本の尾を持つキツネのシルエットが見え始めてきた。


『これが、僕の新たな姿……』


 そんなマサキの声が響くと同時に、光の柱はガラスが割れるように砕け散っていく。それが中州へと突き刺さり……更なる変化を生み出し始めた。中州の土と混ざり合い、何かを形成し始めていく。


『こ、これは!?』


 それで出来上がったのは温かな浄化の光を緩やかに放つ、鳥居であった。ははっ、ここで鳥居が出来るとか、欠片も想像してなかったよ! 中州は消えて、川の中に立つ鳥居かー。

 進化して新たな姿になったマサキは普通のキツネとはかけ離れていて、4本の尾の先に浄化の光を灯した光属性の暖色系の色合いに似た白いキツネになっている。これが異形の姿ではなく、浄化の力を宿した形で進化した群集支援種の姿なんだね。多分、成熟体か。


『……粋な事をしてくれるね、クオーツ。このジャングルの【大地の脈動】の正常化には成功だね。……散々心配をかけたし、怒られるだろうなぁ』


 粋な事? まぁキツネに鳥居って似合う気もするけど……って、もしかしてクオーツの言っていたアレンジってこの事か! この鳥居は、マサキの進化の一部ではなく、クオーツが作り出したものなんだな。そりゃ地球の情報を持ってるんだから、作れても不思議ではないか。

 って、なんか苗木みたいな小さな木が鳥居の真ん中辺りから生えてきた!? 川の中だけど、それって大丈夫なのか!? てか、何が生えてきたんだ?


『マサキ! 急激な力を増幅と、そこからの経路の確立を感じたかと思えば……これは……この鳥居は! 私たちの!?』

『僕らの故郷にあったのと、よく似ているよね。……ミヤビ、心配かけてごめん』

『本当ですわよ! ですけど……戻ってきてくれたのなら、それで構いませんから……』


 あ、生えてきたのはミヤビか。って事は、安全圏とこの場所の間で経路が確立されたっぽい? しかも、どうやらこの鳥居はミヤビとマサキが人間だった頃の思い出の場所に由来しているのか。


<競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開のジャングル』が完了しました>

<『未開のジャングル』を灰の群集の『群集支援種:マサキ』が占拠しました>

<他の群集のプレイヤーへの攻撃は通常仕様に戻ります>

<『競争クエスト情報板』が使用不可になりました>

<『群集支援種:ミヤビ』を介して『群集支援種:マサキ』が『群集拠点種:エニシ』とのネットワークの構築が完了しました。『群集拠点種:エニシ』への転移が可能になります>

<参加ボーナスとして経験値を獲得しました>

<参加ボーナスとして情報ポイントを200獲得しました>

<勝利ボーナスとして情報ポイントを500獲得しました>


<ケイがLv5に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<ケイ2ndがLv5に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>


 お、ジャングルでの競争クエストの決着はこれで確定! 色々と危ういところはあったけど……。


「おっしゃ、なんとか勝ったぞ! あー、総指揮は疲れた……」

「みんな、お疲れ様かな!」

「大勝利なのさー!」

「あはは、神経張りっぱなしで疲れたね……」

「流石に疲れたな……」

「……でも、楽しかった!」

「だなー! 蒼弦さん、オオカミ組、ミゾレさんもお疲れ様」

「おう、総指揮あんがとな、ケイさん! オオカミ組、反省会をやるぞ!」

「「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」」

「って訳で、連結PTは解除しとくぜ!」

「皆さん、お疲れ様でした。それでは私もこれで失礼しますね」

「ほいよっと」


<蒼弦様のPTとの連結を解除しました>

<湯豆腐様のPTとの連結を解除しました>


 これにてオオカミ組との連結PTは解除。ミゾレさんもアルのクジラの上から飛び降りて、灰のサファリ同盟の人達が集まってる場所へと向かっている。戦闘は完全に収まってるね。


 あー、ともかく今は疲れたから休憩! 灰の群集のみんなの大歓声が聞こえてるし、ボスのカメのトドメこそ持っていかれたけど、それでも勝ちは勝ちだ! このジャングルは灰の群集の占有エリアになったぞ!

 俺は途中からは全然戦闘自体はしてないけど、総指揮の大変さは思い知ったよ。正直、もう2度とやりたくない! けど、今回みたいにベスタが総指揮を出来ない事は普通にありそうだもんな。その時は誰か他の人に任せたい……。


<命名クエスト『命名せよ:未開のジャングル』を開始します>

<本クエストは現在ログイン中の【競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開のジャングル』】の参加者に限定されます>

<以下の選択肢より、30分以内に好きなものを選んでください。最も多かった選択肢が新しいエリア名となります>


【命名候補】

 1:群雄の密林

 2:ジャングル・ウォーズ

 3:追想のジャングル

 4:ミッツリンリーン


 おっと、命名クエストが始まったな! そういや、今って時間は何時……もう12時が近いのか。あー、時間感覚がどうなってたか全然分からなくなってたけど、それなりに時間は経ってたんだ。


「とりあえず命名クエストの候補を選んでから、一旦昼飯で休憩だな。結果を見るのはその後でも良いだろ」

「ま、昼飯時になる今からここで待つのもあれだしな」

「お腹空いたし、賛成なのさー! 決まる瞬間を見たい気はするけど、時間的には厳しいのです……」

「それが良いかもね。流石に休憩しないと、疲れたし……」

「……そうしよう」

「それじゃサクッと選んでいかないとかな!」


 昼飯時でなければまったりとしながら30分待っても良いんだけど、時間帯の問題で却下。投票さえしておけば決定した名称自体は後で分かるんだし、それで問題ないだろ。


 さーて、どれにしようかな? どう考えても4番目はネタ過ぎるから、この選択肢はどう考えても却下だ、却下! 1番目と2番目は表現の違いだけで、意味自体は大差ない気がするね。さっきの演出を見てたら3番目の『追想のジャングル』が良い気がする。


「みんなはどれにするんだ?」

「んー、2回目の競争クエストの1戦目での勝利だし、私は『群雄の密林』にしようかな?」

「私は『追想のジャングル』にしようっと。まさか鳥居が出てくるとは思わなかったし、印象的だからね」

「あっ、ヨッシは私と同じなのさー!」

「……地味に勝利の演出……見たの、初めて。……『ジャングル・ウォーズ』にする」

「流石に誰もネタの『ミッツリンリーン』は選ばないんだな。まぁ俺も『追想のジャングル』にするつもりだが、ケイは何にするんだ? ネタか?」

「折角勝ち取ったエリアでネタ選択肢とか選びたくないって!? 俺はサヤと同じで『群雄の密林』にするつもり」

「なんだ、面白くねぇな」

「そういう面白さは求めてないから!?」


 もし、その『ミッツリンリーン』を選ぶ事があるとすれば競争クエストに負けた腹いせで……って、その心配はいらないか。この命名クエストって、勝った側にしか発生してないはず。

 仕様が変わっていなければ……うん、普通に青の群集の人達は引き上げていってるし、命名クエストが他の群集で発生するなんて変更はないみたい。ふぅ、そこは一安心っと。ともかく俺は『群雄の密林』に1票だ!


「あ、そういえばケイは瘴気汚染とかロブスターのリスポーンはどうするのかな?」

「そういやそうだった。あー、とりあえず纏瘴だけでも解除しとくか」


 正直、今すぐ倒される為に敵を探しに行くのが面倒くさい。でも、纏瘴ならすぐに解除出来るし、サクッと解除してしまおう。


<纏属進化を解除しました>

<『同調激魔ゴケ・纏瘴』から『同調激魔ゴケ』へと戻りました>

<『瘴気制御』『瘴気収束』が使用不可になりました>


 ロブスターの方は死んでるから解除も何も無いんだな。でも、これで瘴気汚染は消えた! まぁロブスターが死んだままだから、コケは弱体化したままだけど。


 あー、疲れたー。疲れたけど、なんとか勝てた! あのカメ、硬過ぎるわ! ハチを早くに片付けといて正解だった気がする。それに青の群集から色々やられたけど、それもなんとか乗り切った……?


「そういやあのカメ、青の群集の群集支援種になったんだよな? この後はどうなるんだ?」

「さぁな? 案外、安全圏でアイテムトレードのNPCになるのかもしれんぞ」

「それはズルいのさー!?」

「……あはは、無いとは言えない可能性かな?」

「もしそうなら、トドメを取られたのは痛いね……」

「だー! 本当に厄介な事をしてくれたな、斬雨さん!」


 指示自体はジェイさんが出してたんだろうけど、本当にあそこはしてやられた! そもそも倒したボスが、トドメを刺した人の所属群集の群集支援種になるとは思ってもみなかった。


「ちょい待った、もしあのカメを無所属が倒してたらどうなったんだ?」

「……その場合、本当にどうなるんだ?」


 無所属専用のNPCが誕生する? その可能性が無いとは言えないけど、流石に試してみる訳にもいかないよな。試したいなんて理由だけで迂闊にボスのトドメを渡したくはないぞ。って、なんか小石を足場にしてレナさんがこっちに向かってきてる?


「よっ、ほっと! みんな、お疲れ様ー!」

「おー! レナさんも弥生さん達相手にお疲れ様なのさー!」

「いやー、ホント疲れたねー。弥生ってば全然行動値が尽きる様子がなかったし、まぁそれはベスタさんも同じだったから、打ち合ってお互いに回復してたみたいだけどさー。もうあの2人は滅茶苦茶だよー」

「そんな戦闘だったんかい!?」


 あー、でも爪撃Lv10で行動値が増えていくって灰の群集に情報はあったんだし、その情報源はベスタか。近接での戦闘が弥生さんやベスタの水準まで行くと、競争クエストみたいな大規模な対人戦だと継戦能力の方が重要になってくるのかも。


「まぁその辺は良いとして、みんなちょっと降りてきてくれない? シュウさんが少し話があるって。主にケイさんに」

「シュウさんが、俺に? どんな用件?」

「まだ聞いてないから、分からないねー。まぁケイさんは状態が状態だし、折角だから倒してもらったら?」

「あー、それは確かにありかも?」


 コケを死なせてリスポーンしなけりゃロブスターが復活しないままだし、シュウさんに頼めるならそれが早いか。多分、リスポーン仕様は通常時のものになってるだろうし、アルの幹にあるコケからリスポーン出来るはず。


「よし、とりあえず話を聞いてみますか! アル、下に降りてくれー」

「おうよ」

「ケイさんに話ってなんだろ!?」

「んー、シュウさんがってとこが気になるよね?」

「それは聞いてみれば分かるかな!」

「……聞かなければ……分からない」


 それは確かに風音さんの言う通り。どんな用件なのかが凄い気になるけど、ドサクサ赤の群集の動向が探れたりしないかな? なんか赤の群集で残ってる人の姿が、弥生さんとシュウさんしか見えないしさ。なんかベスタと話しているっぽいんだよな、シュウさん。

 ライさんが見つけられないのはいつもの事だけど、ルアーやガストさんの姿が見えないのは気になる。あ、アルが地面に降りたけど、俺はどうやってハーレさんの巣から出よう!? ロブスターの甲羅を巣の上に置いてるだけの状態だから、外は見えるように置いてくれてるけど身動きは取れん!


「ケイ、連れて降りるのでいいかな?」

「あ、サヤ。頼んだ!」

「うん、任せてかな」


 ふぅ、なんかこうやって完全に運ばれるだけという状況も久しぶりな気がする。あ、弱体化してても水のカーペットくらいは展開出来た気もするけど……まぁいいか。久しぶりに運ばれるのもいいもんだ!


「来たね、ケイさん」

「おっす、シュウさん。それで話ってどういう内容? 今ここに赤の群集の人達が異常なほどに少ないのと関係してる?」

「予想はしてたけど、すぐに探りを入れてきたね。まぁそれに答えられない事くらいは、言わなくても伝わるよね?」

「……そりゃそうだよなー。でも、そうなると本当にどういう話?」


 競争クエストの真っ最中にこうして名指しで話があるって言うんだから、かなり重要な案件のはず。ベスタは……すぐ近くにいるけど、特に何かを言おうとはしてこない? いや、本当にどういう話だ?


「さて、それじゃ本題に入ろうか。ケイさん、ジェイさんのアブソープ・アースに瘴気魔法を吸わせたね? あぁ、否定するならそれでも構わないよ。その場合は、僕がしようとしてる提案が無くなるだけだから」

「……否定するだけ無意味だろ。赤の群集にあれの目撃者がいない訳がないもんな」


 俺がそれをした事を把握した上で、シュウさんは今の話をしてるのは間違いない。そして、それを話してくる意味は……かなり限定されてくる。


「シュウさん、俺への話って『刻瘴石』についてだったりする?」

「やっぱりケイさんも存在は把握してたんだね。そう、僕の用件はまさにそれだよ」

「……『刻瘴石』!?」

「風音さん、ストーップ! 気になるのは分かるけど、話が進まなくなるからねー」

「……ごめん」


 なんというか純粋に魔法のものって訳じゃないけど、その生成に魔法が大きく絡んでるから風音さんらしい反応が出たっぽいね。まぁ気持ちは分かる。

 てか、シュウさんが俺に声をかけてきた理由が分かった。これは俺にしか話せない……いや、俺じゃないと意味がない話になりそうだな。


「それで具体的にどういう話? ……想像は出来てるけどさ」

「まぁそうだろうね。でもここは提案する僕の方からはっきりと言葉にしようか。ケイさんの行動の結果、この競争クエストの真っ最中に青の群集だけが『刻瘴石』の情報を手に入れた事になる。そこで提案なんだけど、僕らで『刻瘴石』の生成とその性質の調査をやらないかい?」

「やっぱりそういう内容かー!」


 もう途中から想像出来てたけど、想像通りに内容だった。シュウさんとしては、青の群集だけが『刻瘴石』の情報を持っている状態を崩したいんだな。確かに俺としてもそこは崩しておきたいけど、これはみんなの意見も聞いてみて答えないとダメだな。




【ステータス】(現在弱体化中なので、正常時のステータス表記)


 名前:ケイ

 種族:同調激魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 4 → 5

 進化階位:成熟体・同調激魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化、魔法耐性、属性強化


 群体数 500/10150 → 500/10400

 魔力値 286/286 → 286/290

 行動値 113/113 → 113/115


 攻撃 105 → 107

 防御 182 → 185

 俊敏 132 → 134

 知識 302 → 308

 器用 348 → 356

 魔力 442 → 451



 名前:ケイ2nd

 種族:同調激強ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 4 → 5

 進化階位:成熟体・同調激強種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、強靭、堅牢、同調


 HP 13400/13400 → 13400/13850

 魔力値 136/136 → 136/138

 行動値 103/103 → 103/105


 攻撃 440 → 448

 防御 400 → 408

 俊敏 339 → 346

 知識 100 → 102

 器用 132 → 135

 魔力 69 → 70



ーーーーーー

更新お休みについて


第31章が終わったら、少し更新をお休みにします。

詳しくは近況ノートにて。

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