第1092話 決着の行方


 折角みんなで頑張って、この硬いカメのHPをほぼ削り切ったのに……最後の最後でトドメだけ持っていかれるなんて、いくらなんでもあんまりな結果過ぎる。


<『瘴気汚染・重度』が『瘴気汚染』に軽減されました>


 システム的な判定でもどれだけダメージを与えたかじゃなくて、どこの群集のプレイヤーがトドメを刺したかで判断されるって、そりゃないよ……。今ここで、瘴気汚染・重度が軽減されたところで何の意味もない。


「……青の群集! ……今すぐ――」

「風音さん、今はキレてる場合じゃないよ! 落ち着いて立て直さないとそれこそ青の群集の思い通りになるけど、いいのかな!?」

「……ごめん」


 何かサヤが怒ってるような声が聞こえる。でも、なんだかぼんやりとして上手く内容が頭の中に入ってこない。頭が上手く回らない。今のはみんなの頑張りを台無しに……。


「ケイ? ねぇ、ケイ! 聞こえてるの!? 何を呆けてるのかな!」

「……サヤ」

「まだ競争クエストは終わってないかな! 今のは斬雨さんに出し抜かれたけど、呆けてる場合なの!? それとも、もう負けで終わりにするつもり!?」

「サヤ、ちょっと落ち着いて!?」

「ヨッシ、止めないで! ケイ、その辺はどうなのかな!?」


 そうだ、今のは完全にしてやられた。でも、まだ競争クエストは終わっちゃいない。何を呆けてるんだよ、俺! ここで呆けてる場合か! あのカメが青の群集の群集支援種になったからって、今どこにいるかも分からないランダムリスポーンになってるんだ! 俺らの優位性は、まだ損なわれちゃいない!


「……悪い、サヤ、心配かけた。もう大丈夫だ」

「うん、もう大丈夫そうかな」


 ははっ、今のは流石に情けないとこを見せた……って、それは今更か。でも、サヤのおかげではっきりとやるべき事を見据えられる。

 灰の群集のみんなは俺と同じことように呆けてるいる人も多いみたいで、青の群集はこの場から離れようとしてるか、今の隙を狙って攻撃を仕掛けようとしてきてる。そんな真似、させるかよ!


「全員に通達! 青の群集のプレイヤーを片っ端から安全圏に送り返せ! 新たな青の群集支援種を見つけさせるな! 灰の群集は既にマサキは確保してるから、優位性はまだこっちにある! やられっぱなしで終わらせるな!」

「あ、そうか!」

「まだマサキがいたんだ!」

「呆けてる場合じゃねぇ! 青の群集の思い通りにさせるな!」

「ちっ、思った以上に立て直しが早い!」

「灰の群集の足止めと、群集支援種の捜索に分かれていくぞ、青の群集!」

「「「おう!」」」

「させねぇよ! 行くぞ、灰の群集!」

「「「おう!」」」


 よし、これで一度はカメの討伐アナウンスを見て放心状態になってたみんなが目的を持って動き出した! まだやれる事は残ってるし、勝敗は決まっていない!


「紅焔さん、マサキは無事だよな!?」

「ちゃんと死守してるぜ! でも、ここからどうすんだ!?」

「多分、ここの大地の脈動をマサキに制御させるんだろうけど……」


 その手段が分からない。ろくに確認する余裕が無かったからまともに見れてなかったけど、ツキノワさん達の三日月のメンバーに任せた瘴気が溢れ出してる部分はどうなった!?


「ツキノワさん、そっちはどうなってる!?」

「浄化の光で、多少は瘴気を少なくは出来たぞ! だが、根本的な解決にはなってねぇ!」

「抑えてもらってるだけでも上等ってとこか。……まだ一手、何かが足りないな」


 前回の参加した競争クエストを思い出せ。最後の最後で必要なのは何だった? あの時は確か……そうだ! 『浄化の実』を使って一気に瘴気を除去して、その地の大地の脈動を正常化して制御下に置いたら勝ちになっていた!


「ミゾレさん、安全圏への連絡を頼む! 『浄化の実』に関する情報が出てないか調べてくれ!」

「確かにそれは最重要事項ですね。大急ぎで確認しましょう!」


 可能性としては森林エリアの群集拠点種のエニシが『浄化の実』を生成して、こちらに送ってくれる事。それを使って、マサキが大地の脈動を制御下に置くという手順はあり得る。

 今回は『浄化の実』の作成の手順は無かったけど、これからってのは勘弁してくれよ!  流石にそれじゃ青の群集にボスを倒されたのが痛過ぎるからな。


「おい、ケイさん! ずっとボーッとしてたマサキがなんか喋り出したぞ!」

「紅焔さん、マジか!? あー、他の群集には聞かれたくないから、一旦近くまで来てくれ!」

「おうよ! ライル、頼む!」

「えぇ、分かりました」


 マサキがずっとボーッとしてたのは知らなかったけど、このタイミングで何かを話し出したのなら高確率でここからの流れに関係があるはず! 大急ぎでライルさんがマサキを乗せたままの状態で浮いた岩ごとすぐ近くまで降りてきてくれた。


『……ここは? あっ、ミヤビは!?』

「……サヤ」

「分かったかな」

『何をするんだよ! 離してくれ!』


 とりあえずサヤにすぐにでも駆け出していきそうなマサキを止めてもらったけど、これは立ち会った人がなんとか情報を聞き出さないといけない感じっぽい? まぁとりあえずそれ自体は別に問題ない要素だから、なんとか必要な情報を聞き出すだけだ。


「ミヤビなら、行方不明になってたお前の心配をしてたって聞いたぞ」

『……ミヤビが? それに行方不明……うぐっ!? あ、頭が!?』


 ちょ、なんか苦しみ出したけど大丈夫か、これ!? 演出なんだろうけど、そうだと分かってても苦しんでる様子はあまり気分の見てて良いものじゃないね。


『……思い……出した。何か異常な力に、僕は乗っ取られてかけて……意識が朦朧として……いや、違う。あれは……あの力は……僕はもう知っていたのに!』


 これって瘴気の事か? 1回目のミヤ・マサの森林での競争クエストではマサキが半覚醒の黒の暴走種だったはずだから、少し形は違っても影響を受けるのは今回で2度目になるのか。


『僕はミヤビを守るって決めたのに……こんな有り様じゃ情けなさ過ぎる! 何が群集支援種だ! 支援どころか……助けられて……守られて……そんな事でミヤビを守れるもんか! 僕は……ミヤビ、みんなを、守れるだけの……力が欲しい……!』


 悔しさに打ちひしがれてるマサキだけど、これは俺らはどうすれば良いんだ? ミヤビから何か接触でもあって、マサキに進化する力を与える感じか? いや、でもそれだと何か違う気がする。

 って、なんかノイズっぽい変に甲高い音が聞こえた!? あ、普通に戻った? 今のはなんだ?


[マサキ、そなたの心意気、しかと聞かせてもらったぞ]

『……クオーツ? なんで僕に直接接触を?』

[我とて、大事なものを守りたいという気持ちは持っておる。エニシからの預かり物だ、受け取るがいい]

『……これは『浄化の実』!? クオーツは、僕らの争いには干渉はしないんじゃ!?』

[なに、それは平等にそれぞれの勢力から受け取っておる。だが、他に渡す相手は……自我すら乗っ取られておるからな。それを使い、奴らも解放してやるといい。我はそなたの守りたいという意思に、少しだけ手を貸すだけだ。少しだけ我なりにアレンジもしておいた]

『……ははっ、これも貰い物の力にはなるけど……それでも僕は……ミヤビを……みんなを守るんだ!』

[ならば行け。その為の地は、そなたの仲間達が知っていよう]

『分かった。……この地は、僕が浄化する! みんな、もう一度力を貸してくれ!』


 なるほど、こういう形であの瘴気が溢れ出ている場所にマサキを連れて行けばいいんだな。ミヤビを守る為に、『浄化の実』を使って新たな進化をしてこの地を守るか!


「よし、任せろ! みんな、マサキをカメのいた場所に送り届けるぞ!」

「つっても、すぐ目の前だけどな!」

「アル、それは言ったらダメかな」

「マサキを守り切ったからこそ、こうなったのさー!」

「あはは、確かに守り切らなかったらこの展開は無かったかもね」


 多分、ハーレさんの言う通り、異形への進化を防げたからこその展開な気がする。もしマサキが、サクヤやロベルトみたいな進化をしていたのなら……もっと大変だったのかも。ぶっちゃけ、サクヤとロベルトはまだ争ってるままだし。


「最後の大詰めだ、オオカミ組! 何がなんでもマサキを守り抜け!」

「皆で他の群集や、サクヤやロベルトから守り抜きますよ!」


 そんな蒼弦さんやミゾレさんの声に応じて、大歓声が上がっていく。それと同時に、他の群集へ向けての攻勢が激しさを増し始めていた。


「おらおらおらー! この先は死んでも通さねぇ!」

「青の群集をぶっ飛ばせー!」

「ちっ! クリアをさせるな! あのキツネをぶっ殺せ!」

「だー! 異形になってない群集支援種を確保済みとか、想定外じゃね!?」


 あちこちからそんな声が聞こえてきてるけど、必死そうな青の群集と、気合が入りまくってる灰の群集ってのが対照的だね。

 赤の群集は……露骨に人が少なくなってるし、戦ってはいるけど勝とうという意識が全然見えない。この感じだとやっぱりもうジャングルでの勝ちは捨ててるな。


「さぁ、最後の守りといきますか! ライル、カステラ、辛子、守り切るぜ! どう考えても邪魔な、あの異形のキツネ2体をどうにかするぞ!」

「えぇ!」

「ここまで守ったんだしね」

「最後まで全力でやろうじゃねぇか!」

「カステラ、一気に叩き上げますよ! 『アースクリエイト』!」

「アップリフトだね、ライル! 『アースクリエイト』!」


 おぉ! なんか争いながら瘴気が溢れ出してる中州へと向かっていくサクヤとロベルトを上空にアップリフトで打ち上げた!


「いくぜ、辛子! 『ファイアクリエイト』!」

「やれやれ、紅焔が使いたいつってたから取ったのがここで役に立つとはな。『アクアクリエイト』!」


 その追撃として、空中でスチームエクスプロージョンが炸裂し、身動きを取る術がない異形のキツネ2体は北の方へと勢いよく飛ばされていった。これで完全に邪魔者は排除した!


「ちっ! 『旋回』!」

「おわっ!? アル、なんで急に止まる!?」

「ケイさん、東側なのさー!」

「……東? って、うわっ!?」


 なんか東の方から盛大に色々と吹っ飛んできてる!? って、マンドレイクのダイクさんがさっきまでのアルの進行方向に吹っ飛んできて……ポリゴンとなって砕け散っていった。ダイクさんが吹っ飛んできたって事はひょっとして!?

 東の方を見てみたら黒いオオカミに電気を纏うライオンと龍、それに赤いリスがいた。やっぱりベスタ達か! てか、やっぱりまだ戦闘中だったんかい!


「ちっ、ダイクは死んだか。レナ、風雷コンビ、まだいけるか!?」

「わたしは大丈夫!」

「この程度、まだまだいける。なぁ、疾風の!」

「おうとも、迅雷の!」

「そりゃ結構だ。こっちは……どうも大詰めみたいだが、俺らが邪魔になりかねんか」

「あははははははははははははははははは! 何かやってるねー!? 何をやってるのかなぁー!?」

「行かせるか! レナ、風雷コンビ、シュウを抑えろ!」

「了解! 『連脚撃』!」

「『ウィンドウォール』! 中々しぶといね、レナさん。それに風雷コンビもかい」

「そっちこそ、随分と張り切ってるよね、シュウさん! ダイクの仇はここで討つから! 『双連蹴』!」

「僕らの方も大概やられてるんだけどね。『ウィンドボム』」

「っ!? またその回避! 風雷コンビ!」

「いくぞ、疾風の! 『エレクトロエンチャント』『強獲牙』!」

「おうよ! 『エレクトロインパクト』!」

「おっと! 危ない、危ない」


 なんか凄い事になってるけど……シュウさんは魔法型なのに、レナさんと風雷コンビを同時に相手にした上で魔法を自分に使って強引に躱しきってる? 危ないとか言ってるけど、全然声がそんな風に聞こえないのは気のせいか? なんだかこの状況でも余裕があるような……。


「ケイ、こっちには構うな! ここまで押し込まれておいてなんだが、抑え切るから心配はいらん! やるべき事をやれ!」

「あはははははは! いいね、いいね、いいね! 更に動きが鋭くなったね、ベスタさん!」

「ちっ、まだペースが上がるのか! ともかく、何があってもそのまま進め、グリーズ・リベルテ!」

「だー! 分かったよ、ベスタ! 負けるなよ!」

「ふん、誰に言っている。ケイこそ、ここからしくじるような真似は許さんぞ!」


 ははっ、それでこそベスタだな! 弥生さんの方にはペース配分なんてものは皆無だけど、ベスタ1人で抑え込めてるっぽい。あの戦闘はいかにシュウさんに弥生さんのフォローをさせないかが重要っぽいけど、もうそこは任せるのみ!


「アル、急げ! もう目の前だぞ!」

「分かってる! 行け、マサキ!」

『うぉおおおおおおお! これで、僕がこの地を浄化する!』


 アルが瘴気の溢れ出ている中州の真上まで辿り着くと、そんな雄叫びを上げながら飛び降りていった。その口に浄化の実を含んで噛み砕きながら。


『……浄化の力、それに瘴気の力、どっちも扱い方は分かった。どちらもただ在るべきものじゃない、循環させて偏らせずに調和させるもの!』


 そして、温かな浄化の光を放ち出したマサキが溢れ出す瘴気の中へと飛び込み……それまで溢れ出ていた瘴気が次第に消えていく。あ、争いながらこっちに戻ってきてる様子のサクヤとロベルトの姿が粒子のように崩れていって、それぞれ東と西に飛んでいった。これは正常化した上で、それぞれの群集の安全圏へと飛ばしてるっぽいね。

 というか、瘴気と浄化は循環させるもので、ただ在るべきものではない? あぁ、そういえばその2つが循環しているからこそ生命として存在してるって設定だっけ。


『待ってて、ミヤビ。この地は僕が……いや、僕と君で守り抜く!』


 そのマサキの言葉と共に、浄化の光がジャングルを汚染していた瘴気を消し飛ばしていく。いや、循環させているのであれば、消しているのではなくて一体化させて流れを正しているのが正解なのか?


 いつの間にやらかなりの戦闘音が収まって、周囲を見てみればみんなは光の柱を上げ始めたマサキの方を見ている。もうここまで来れば勝敗は決まったようなものだし、これ以上はただ無粋な――


「あははははははははははは!」

「この状況でも止まらないのか!? おい、シュウ!」

「……弥生、今回は時間切れだね。僕らの勝負は引き分けだよ」

「はっ! あ、進化が始まってる? あちゃー、決着付かずかー。強いね、ベスタさん」

「……そっちもな。それに……まだまだ余裕がありそうだな、シュウ」

「さて、何のことだい?」

「まぁいい、決着はまた今度だ」


 うん、この状況でも戦闘が止まってなかったとこも一部あったけど、そこも止まったから戦闘は完全に終了。あとはマサキの進化が終わって、勝敗の結果を告げるアナウンスだけだろうね。

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