第1090話 城塞ガメの討伐戦 中


 もう正直全体像が把握出来ないほどの大乱戦になっている、ジャングルの北部に流れている川のすぐ近く。カメはサクヤに攻撃する為に焼き払ったジャングルの方へと突撃をして、その退いた中州からは瘴気が溢れ出している。

 その瘴気の対応はツキノワさん達の共同体である『三日月』に任せ、他の群集からの攻勢には灰の群集のみんなが対応中。もうここでの競争クエストは終盤戦になってる気がするし、気を引き締めないとね! これからカメの本格的な討伐を開始だ!


「蒼弦さん、ミゾレさん、待たせた! これより、カメの討伐作戦を開始する! 悪いけど調整してる時間がないから、俺らグリーズ・リベルテは上からの全体把握と、急に動きがあった時の対応で動かせてもらうぞ」

「おう、了解だ!」

「それは問題ありません。それで、どのように攻撃を行っていきますか? 流石に一斉では無理ですよね?」

「……だよな。何か合図が必要か」


 今の戦力としては俺らと連結PTになってるオオカミ組に白の刻印:増幅が5人と、黒の刻印:低下を5人。この戦場にいた人からかき集めてくれた人達で、白の刻印:剛力と白の刻印:増幅で16人に連絡要員が1人の17人の連結PT。同様の形で黒の刻印:脆弱と黒の刻印:低下が1つの連結PT。

 オオカミ組はオオカミで統一されてる……いや、共生進化とか支配進化や大型化してるのや小型化してるのもいるからサイズはバラバラか。かき集めた人達は当たり前だけど、種族も大きさもバラバラ。

 これだけの人数がいれば、相当な回数の弱体化と強化を合わせたタイミングで攻撃が出来るはず。でもこの人数だからこそ、タイミングを合わせる為の合図が必須。それにかき集めた方が知り合い同士もいるだろうけど、初対面の人もいるだろうしね。連携を取るという意味でも合図は欠かせないか。


「よし、サヤの龍でエレクトロボールを上空に放ったら黒の刻印で弱体化を入れて、その後にハーレさんがウィンドボールを放ったら白の刻印で強化して攻撃開始って感じでいくぞ! 瘴気が濃いとこなら視認しやすいだろうから、狙うのはその辺で!」

「え、私とハーレなのかな!?」

「ヨッシと風音さんの方が良い気がするのです!?」

「ヨッシさんと風音さんは万が一の保険だよ。相手はカメだからヨッシさんはダイヤモンドダストで動きを鈍らせるのと、もし白の刻印で防御を上げられた場合には黒の刻印:消去で消してもらう」

「……責任重大」

「……あはは、確かにね」

「そういう事でしたら、私も手伝いましょう。ヨッシさん1人でのダイヤモンドダストよりも私と2人での発動の方が効果はあるはずです」

「あ、それもそうだな。よし、その時はミゾレさんとヨッシさんで頼む!」

「了解!」

「えぇ、その役目、承りました」


 カメの行動パターンが全然分かっていない以上、こうやって予め安全策を用意しておくしかない。それで上手くいけばよし、ダメなら……その時は全滅かもな。そうならない為に頑張るのみ!


「アルは攻撃部隊にしっかりと目印が見えるように位置取りを頼む! ついでに狙われても回避は任せるぞ!」

「サラッと無茶な事も言ってくれてるが、地味だが重要な役目ではあるか。任せとけ!」

「それでこそアル! オオカミ組に先陣を切ってもらうつもりだけど、問題ないか!?」

「お前ら、それで問題ないな!?」

「問題ないっすよ!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」

「それでは私はその間に合図の通達をしてきます。その為のオオカミ組の先陣ですよね?」

「そういう事! 蒼弦さん、そっちは他の攻撃部隊との連絡はどうなってる?」

「それなら競争クエスト情報板で湯豆腐が確認しているから問題ない! 向こうにもそれぞれ連絡要員が付いてるしな」

「それなら問題ないな! 狙っていく場所は甲羅は避けて、頭か足で!」

「ま、そりゃ当然だな!」


 よし、複数の連結PTでの攻撃になるからその辺の連携は不安要素だったけど、流石は大規模な共同体を仕切ってる人達が動いてくれてるだけあって、連絡体制には問題なし!


「それじゃ攻撃開始! サヤ!」

「分かったかな! 『略:エレクトロボール』!」

「おし、行くぜ! 『黒の刻印:低下』!」


 これで……よし、黒い割れた盾と折れた杖をモチーフにしたマークが表示された。これが魔法攻撃への耐性が下がった時の刻印か。このゲームには杖も盾も無い気はするけど、まぁこれくらいがイメージ的に分かりやすいか!


「次、ハーレさん!」

「了解なのさー! 『略:ウィンドボール』!」

「攻勢付与かけとくよ! 『ウィンドエンチャント』!」

「ありがとよ! 『白の刻印:増幅』『ウィンドインパクト』!」


 おっ、白光の入り混じった風がカメの頭に叩きつけられていくね。この場合は魔法を使った人の方に……あぁ、やっぱり白い杖のマークが表示されてた。

 ここまでで1番明確なダメージが出て、カメのHPが削れてる! とはいえ、まだまだ繰り返さないと削り切るには程遠い!


「この調子で次々いくぞ! サヤ、ハーレさん、魔力値が減ってきたら回復は忘れないようにな!」

「分かってるかな!」

「当然なのさー!」


 さーて、地道なカメのHP削りだけど、ともかくこれを続けていくしかない! ただ、途中で行動パターンが変わる可能性があるから、そこには注意しないとな!



 ◇ ◇ ◇



 それから他の攻撃部隊も加わって交代をしながら、同様の手順を繰り返してカメのHPはどんどん削って半分を切ったというところ。途中からは魔法攻撃には同属性の攻勢付与もかけて、ダメージ量は増えているんだけど……。


「カメがチャージを開始! 全員、突撃範囲から退避! 急げー!」


 一定時間が経てば、サクヤに向かって岩で全身を覆って突撃してくる攻撃が厳しい! 兆候が出てから発動までの時間がそれなりにあるから攻撃部隊はちゃんと回避出来てるんだけど、乱戦になってる方はどうしても邪魔しあって被害が出ている。

 まぁ被害が出ているのは灰の群集だけでなく、赤の群集や青の群集でも同じだから均衡が大きく崩れてはいないのが幸いか。サクヤは……回復に瘴気を使うまでが精一杯みたいで、強化には回せてないっぽい。


 それにしても、あれだけ色々仕掛けてきてた青の群集にしては大人しいのが少し不気味。まだ俺の瘴気汚染・重度は回復してないし、ジェイさんもまだ動けてないだけかもしれないけど、他の人の大きな動きがないのがな……。上空で指揮してる俺らが殆ど狙われてないのはなんでだ? 全く攻撃を受けない訳じゃないけど、大体はその手前までで潰されてるけど……指揮系統のトップを潰そうとしてる風には見えない。

 もしかすると、このカメの討伐を押し付けられたりしてない? うーん、可能性としては否定出来ない。てか、べスタ達から全然連絡がないのも怖いんだけど、まだ弥生さん達と戦闘を続けてる最中だったりする? そうだとすると、どっちもとんでもないな。


 あー、色々と気になる事は多いけど、カメの討伐を優先すると決めたんだ。総指揮が方針で迷っててどうする! その辺は警戒だけは緩めずに対応していくとして……。


「それにしても、刻印で弱体化と強化があってこれかー」

「それでもサクヤよりはダメージは与えられてるんだから、マシな方だろ」

「そりゃそうだけどさ。てか、サクヤの場合は甲羅を攻撃してるのが原因じゃね!?」

「……逆に言えば、甲羅の方でもダメージが少しでも通っているのが脅威か」

「そうなんだよなぁ……」


 ツキノワさん達が纏浄で溢れ出る瘴気を減らしてくれているけど、これならいっそサクヤを思う存分強化させて、カメの頭か足に攻撃を誘導してHPを減らした方がマシか?

 どうせ赤の群集の群集支援種だし別に元に戻せなくても……あ、でもこのエリアに強化したまま残られるとかになっても最悪かもしれない……。そもそもどうやって攻撃を誘導するかって話にもなるし……だー! このボス戦、地味にキツいなー!


「ケイさん、少し思った事を言っていい?」

「どした、ヨッシさん?」

「これ、1回の戦闘で倒せるように調整されてる?」

「……されてない気がするなー」


 どう考えても刻印石を手に入れて、刻印系スキルを使って倒すのが前提となってる攻略法だもんな。その事実が判明した段階で、刻印石の入手に動くような調整になってる気がする。

 成り行きで全群集の戦力がジャングルに流れ込んだ結果、普通よりも激戦化してる気がするし、本来はもっと回数に分けて弱らせていくタイプのボスなのかも。とはいっても、今からその状態に持っていくのは無理!


『グァアァアァァァァアァアァァッ!』


 ん? ちょっと待て、何か聞き覚えのある叫び声が聞こえたけど、聞こえてきた方向がおかしい! サクヤはカメに攻撃してる真っ最中だぞ!


「ちっ、今のはサクヤじゃねぇぞ!」

「ケイさん! 東の方から、サクヤによく似た骨を被ったキツネがジャングルを薙ぎ倒しながら来てるのです!」

「ちょ、もう1体追加か!?」


 灰の群集のマサキは紅焔さん達が上空で確保してるから、今向かってきてる異形のキツネは多分青の群集の群集支援種! ちっ、青の群集に大きな動きがないと思ってたけど、本格的にカメの相手を俺らに押し付けて消耗させる作戦な気がしてきたよ!

 弱体化して元の1割くらいしか行動値がないけど、識別だけなら俺でも使えるか? 瘴気汚染・重度が瘴気汚染まで軽減して、その上でリスポーンしないと戦力になりようがないんだから、使い切ったところで問題ないな。どうせなら獲物察知でも使えたらよかったんだけど、死亡中のロブスターのスキルだから使えないのが……。


「サヤとハーレさんは合図の継続! アル、攻撃部隊の動きは止めないように少しの間そっちを頼む!」

「分かったかな!」

「了解です!」

「おう、任せとけ!」

「ヨッシさんと風音さんは、いつでも動けるように警戒! あれの識別は俺がやる!」

「ケイさん、行動値を使って大丈夫?」

「……代わりも出来るよ?」

「いや、戦えない俺の行動値の温存をしてても仕方ないから、そこは問題ない。場合によってはヨッシさんと風音さんに動いてもらうしな」

「そういう事なら了解」

「……分かった」


 本当に状況次第にはなるから絶対にとは言えないんだけど、それでもヨッシさんと風音さんには温存しておいてもらいたい。行動値もだけど、特に魔力値の方。だから、識別は俺がやる。全体に指揮もしなきゃいけないしな。


<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します>  行動値 6/11(上限値使用:1)


『異形のロベルト』Lv2

 種族:黒の暴走種(纏瘴傀儡種)

 進化階位:成熟体・黒の暴走種

 属性:瘴気

 特性:傀儡、強靭、瘴気強化


『支配の異形骨』Lv2

 種族:???(???種)

 進化階位:成熟体・???

 属性:瘴気、???

 特性:支配、堅牢、骨鎧、瘴気強化、野心


 この辺は特に赤の群集のサクヤと変わらないっぽいけど……増えたら増えたで厄介な気しかしないんだけど! ともかく、自分の近くしか把握出来てない人も多いだろうからこの辺はしっかり伝達!


「全員に伝達! 東側から青の群集の群集支援種だと思われるロベルトってのが向かってきてる! 見た目はサクヤとほぼ一緒! ジャングルを薙ぎ倒してきてるから、東側にいる人達は要警戒!」

「ちょ、さっきの叫び声ってそれか!?」

「他にもいたの、あれ!?」

「そりゃあのカメに攻撃してるのが群集支援種ならそうなるよなー!?」

「灰の群集の動きを封じろ! ロベルトに殺させるぞ!」

「「「「おう!」」」」

「やっべ! 青の群集から距離を取れ!」

「今は逃げろー!」


 ちっ、聞こえてきたのはほんの一部だけど、このロベルトの襲来は計画的に行われてる可能性が高いな。完全に黒に染まってるから青の群集の人もダメージは受けるはずだけど、捨て身での巻き添え……いや、違う! これは撹乱作戦か!


「東側! 昇華魔法に――」


 あ、ヤバい、これは判断が遅かった。東側の方に赤いモヤが沢山見え始めて……くっ、この乱戦でこのタイミングを狙っていたのか、青の群集! 次々とエクスプロードが発動していって、かなりの人数がやられた……か。


「くっそ! このタイミングでエクスプロードを何発撃ち込んできた!?」

「ケイさん、落ち着いて下さい。あんまり死んでませんよ、灰のサファリ同盟は。今の私達は、そんなに貧弱ではありません」

「……ミゾレさん? あ、マジだ」


 流石に被害無しとはいかないけど、あちこちで生成された岩が崩れ去っていく様子は見える。岩の生成を重ねて、エクスプロードを凌ぎ切ったっぽい? え、あの一瞬で? 凌ぎ切れずに焼け野原になってるとこも多いけど、それでも発動した数に比べると相当少ないぞ。


「……あれ? 死んだと思ったら生きてた?」

「一気に岩が大量に生成されてたよな?」

「げっ!? 灰のサファリ同盟が生き残りまくってんじゃん!?」

「おい、灰のサファリ同盟のサファリ系プレイヤーは戦闘は弱いって話だろ!?」

「危機察知で反応しても、今の同時攻撃は凌げないだろ!」

「正直、今のは焦ったけどね! でも、緊急防御の特訓の成果は出たよ! 狙われてるのが分かってて、対策しない筈がないでしょ!」

「灰のサファリ同盟の生産部門、甘く見てもらっちゃ困るな! 今ので魔力値が底を尽きた人が結構いるはずだから、そこを狙って反撃開始だ!」

「戦闘自体は強くなくても、岩の操作に関しちゃ下手じゃねぇんだよ!」

「サファリ系プレイヤーを舐めるなー!」

「ちょ!? やばっ!?」

「逃げろー!」


 ごめんなさい、どうも俺もちょっと甘く見てたっぽい。そっか、そうだよな。生産をやってる人達は操作系スキルを使う事も多いだろうし、近接は苦手でもそこに限っては決して水準は低いはずがない。下手すれば、操作で相当な腕の人もいるかも。

 それに灰のサファリ同盟の人の近くにいた人達は結構生き残ってるっぽい。ははっ、灰のサファリ同盟も凄いか!


「東側、エクスプロードを使用してきた人を中心に切り崩せ! ロベルトは無視でいい! それは俺らの方で対処する!」

「はーい! 一気に畳みかけるよ、みんな!」

「「「「「おー!」」」」」


 流石に戦闘中だから全員の声が聞こえる訳じゃないけど、一部の声は聞こえてくる。それに反撃へと動き出していく様子も見えている。他の方角には特にこれといった以上は無し。さぁ、それじゃ俺らは俺らでやるべき事をやりますか!


「蒼弦さん、ミゾレさん、合図の通達を頼む! アルが上空に水を生成したらカメのところから即座に退避で! 顔の部分を開ける形にしてくれ!」

「了解だ! 全員聞いたな!」

「アルマースさんの水が退避の合図ですね! そう伝えておきます!」

「おい、ケイ!? 俺が合図を出すのはいいが、何をする気だ!?」

「なーに、折角突っ込んできてる攻撃的な奴がいるんだから、それを利用するまでだ!」


 凄い勢いでジャングルを薙ぎ倒してきてるロベルト、お前のその野心を利用させてもらおうか! その為の手段はもう思い付いたし、それを実行に移すのみ!

 

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