第1091話 城塞ガメの討伐戦 下


 青の群集の群集支援種が異常な進化したらしきロベルトというキツネが、盛大にジャングルを薙ぎ倒しながらこちらへ向かってきている。ここに辿り着くのも時間の問題だ。


「手段は思い付いてるんだな、ケイ?」

「まぁな! って事で、アルは合図をしたら水の生成をよろしく!」

「おう、そこは任せとけ!」

「それじゃ時間もそう無いから大急ぎで説明するぞ! ヨッシさん、氷塊の操作で巨大なカーブのある氷の道を作ってくれ! 突っ込んできてるロベルトを、カメの顔の方向に滑らせる為のやつ」

「……え、それってどういう……? あ、ロベルト自体を滑らせてカメの方に突撃させるの!?」

「簡単に言えばそうなる。それと確実性を高める為に風音さんのブラックホールでロベルトを生成した氷塊の方へ誘導してほしい。余裕があれば、方向を変えた後にカメに突っ込む時にも」

「……それは余裕。……任せて」


 ヨッシさんの生成した氷塊のレールだけではロベルトに避けられたら失敗だけど、風音さんのブラックホールも合わせて確実に向きを変えさせる! 強引に引っ張って向きを変えようとしてもあの馬鹿力で無理そうだけど、走る場所の方を弄って方向の誘導が出来ればいいんだけど……これは博打だな。


「ケイさん、それなら俺の方でロベルトの脚も凍らせて――」

「蒼弦さん、悪いけどそれは却下。ただ当てるだけならそれでもいいけど、ロベルト自身がサクヤみたいに初撃を叩き込むのを期待してるから、それを阻害する可能性があるのは無しで」

「……なるほど、あくまで攻撃自体はせずに誘導のみにするんだな」

「そういう事。正直、博打だから不確定要素は少なめにしておきたいんだよ」

「それなら了解だ! 博打になるのは初見だから仕方ねぇ!」


 正直に言えば、ブラックホールで吸い寄せるのが攻撃判定になるのかどうかが怪しいんだけど、こればっかりは蒼弦さんの言う通り初見なんだし、実際にやってみるしかない。

 あ、少しロベルトの向かう方向が変わった? よりカメに近付こうとする感じに斜めに方向が切り替わったな。もう発動しないと思った方向への誘導は間に合わないかもしれないし、やっていきますか!


「ヨッシさん、風音さん、頼んだ!」

「了解! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷塊の操作』!」

「……まずは……氷の道へ……引き摺り込む! 『ブラックホール』」


 ヨッシさんの手によってロベルトの進行方向からカメの頭の方に向けて巨大な傾斜のついた氷の道が形成されていく。見た目としては、レースゲームのサーキットとかにある傾斜のあるカーブをより急にした感じ!

 そこに風音さんのブラックホールでロベルトを吸い寄せて……あぁ、やっぱり離れようと暴れてはいるね。でも、速度自体は全然緩めてないから、このままいけ! よし、氷の道に入った!


「……ブラックホール……一旦解除」

「アル、合図!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「合図っすよ! すぐに攻撃を中断して速やかに退避っす!」

「「おうよ!」」


 あ、アルの合図で退避とは言ってたけど、攻撃部隊の大半の人は先に退避を済ませてたっぽいね。今攻撃役をしてたのはオオカミ組の2人で、その2人もスムーズに退避を済ませていた。

 これでカメの顔面はガラ空き! って、氷の道をロベルトはもう自発的に滑りながら走ってる!? いや、これは丁度いいから問題ない。それにロベルトの纏う瘴気が良い感じに溢れ出した!


「おい、ケイ! カメが白の刻印を使ったぞ!」

「ケイさん、これは『堅守』です!」

「はい!? ちょ、いくらなんでもこのタイミングでそれは!?」


 くっ、確かにカメが白光を放ち出して、盾をモチーフにしたようなマークが出てる! ミゾレさんが教えてくれたけど、これが白の刻印:堅守で物理攻撃の大幅軽減か! 


「……ここは任せて。『高速飛翔』!」

「任せた、風音さん!」

「……間に合って!」

「乱暴だが、水で吹き飛ばすぞ!」

「……お願い、アルマースさん!」


 もうロベルトはカメの頭に向かって、溢れる瘴気を纏った爪を振り下ろす寸前。でも、合図としてアルが生成してた水で乱暴に吹き飛ばされた風音さんがギリギリ間に合うか!?


「『黒の刻印:消去』!」


 風音さんがカメの甲羅に激突するのと、ロベルトが爪を振り下ろしたのはほぼ同時。カメの白光は消えたけど、効果を発揮したからなのか、それとも風音さんの刻印の消去が間に合ったのか……。


「ぐっ!」

「「「風音さん!?」」」


 勢いを殺さずに突っ込んだ風音さんには朦朧が入ってるみたいで、そのまま地面へと墜落していってる!? このまま落下させるのは絶対にダメだ! この状態で落下は、風音さんへのダメージが大きいはず!


「アル、風音さんを!」

「分かってる! 『根の操作』!」

「……ありがと。……間に合った?」


 今のは風音さんの特攻に近かったけど、カメのHPは……ゴッソリと減っている。ははっ、凄いギリギリだっただろうけど、間に合ってた!


「風音さん、ナイスファイトだ! カメを一気に弱らせたぞ!」

「……それなら良かった」

「負けてられねぇぞ、攻撃部隊の野郎ども! 攻撃再開だ!」

「サヤとハーレさんは合図に戻ってくれ! ヨッシさんはアルが風音さんを引き上げたら回復を頼む」

「了解!」

「おらよっと! 乱暴な手段になって悪かった」

「……問題ない。……無駄にならなくて……良かった」

「風音さんは少し休んで。勢いが勢いだったから、結構なダメージだよ」

「……うん」


 無茶に無茶を重ねたような手段だったけど、それでも風音さんのお陰で作戦自体は成功した。今ので一気にカメのHPの3割くらいは削れたから、残りは2割ってとこか。後は地道に――


『グァォオォアォオオォアッ!』

『グォァァアアァオオオッ!』


 ちっ、今度はなんだよ!? 微妙に違う叫び声が2つ聞こえたけど……って、サクヤとロベルトが戦い始めた!? あ、どっちもカメを倒そうとしてるっぽいし、お互いに邪魔な相手でしかないのか。

 まぁ勝手に潰しあってくれるなら放っておけばいいや。その隙にカメの方を仕留めて……って、砂を生成して凝縮し始めた!?


「カメはカメで動くのかよ! 攻撃部隊、カメの頭への攻撃は中止! 脚の方に攻撃対象を変更! ハーレさん、危機察知に反応は!?」

「反応なしです! 狙われてるのは私達じゃないのさー!」

「ほいよっと! 攻撃部隊、狙われてるのPTはいるか!?」

「ケイさん、悪い! 連結PT内のオオカミ組に危機察知持ちが足りてねぇ!」

「こちらも同様です! PTの半分には危機察知持ちの方はいますが……全員分の判定は不可能です」

「あー、マジか……」


 PTの編成の際にそこまで気を回している余裕がなかったしね。流石の急増の寄せ集めで、全PTに配置するのは無茶があった。事前にしっかり準備が出来てた訳じゃないから、どうしても不備が出てくるのは仕方ないけど、そこはなんとか補わないと!


「それなら標的の判断はグリーズ・リベルテの方でやる! 今はサンドショットの発動準備中の可能性が高いから、溜めがない側に回れ! サヤ、ハーレさん、凝縮してる砂の追従がないかの確認を頼む!」

「了解なのさー!」

「任せてかな!」


 今は合図を出せるタイミングじゃないから、サヤとハーレさんにはカメの攻撃の標的を割り出してもらう。だー! くっそ、俺が自由に動ける状況でかつウォーターハンマーだったならアブソープ・アクアで問答無用で吸収してやったのに!


「カメの行動パターンの変更だ! 攻撃部隊、気を引き締めろ!」

「ケイさん、リスク分散で白の刻印と黒の刻印の2PTをセットにして、位置分散を提案します!」

「ミゾレさん、それ採用! 刻印を使う組み合わせが噛み合う2PTで、カメの4本の脚に分散で!」

「オオカミ組、カメの右前脚に移動だ!」

「『剛力』『脆弱』のPTは左前脚、『増幅』『低下』のPTは左後ろ脚、混在のPTは右後ろ脚へ!」


 よし、蒼弦さんとミゾレさんが即座に割り振ってくれて、攻撃部隊のみんなはスムーズに分散して動いてくれている。これでカメの攻撃対象が分かればいいんだけど……。


「ケイさん! プレイヤーを狙ってる様子はないのです!」

「この感じ、多分だけど狙いはサクヤとロベルトかな!」

「だー! そうきたか!」


 それなら放置したいって気分だけど、サクヤとロベルトが戦いながら動き回り始めたせいで、結構広範囲なサンドショットなんか撃たれたら巻き添えが絶対に出るぞ。ちっ、厄介な!


「蒼弦さん、一発攻撃を叩き込んでくれ! キャンセル出来るか試しておきたい!」

「了解だ! 『爪刃双閃舞』! ちっ、ダメか!」

「……みたいだな」


 刻印なしでの応用スキルでも決してダメージがない訳じゃないけど、効率が悪過ぎるし、何よりもサンドショットの溜めは妨害出来ていない。これはカメの方をなんとかするより、サクヤとロベルトをどうにかした方がいいか? よし、その方向でいこう。


「予定とは全然違った形になるけど、ヨッシさんとミゾレさんでダイヤモンドダストを頼む! それでサクヤとロベルトの動きを鈍らせてみる!」

「先程は出番はありませんでしたが、お任せを!」

「それはいいけど、すぐにやってもいいの?」

「あー、攻撃部隊に先に通達をするから少しだけ待機で!」

「了解!」


 よし、それじゃカメの討伐ももう大詰め! これで一気に攻め落とすぞ! って、カメと暴れてる群集支援種に集中してる訳にもいかないけど、他の状況は……なんとか大丈夫そうだな。


「攻撃部隊に通達! カメの狙いは俺らじゃなくてサクヤロベルトだから、攻撃部隊はそのまま順次攻撃で! 攻撃はカメの頭を基準に時計回りに、合図に合わせて順番にやっていってくれ! サヤとハーレさんは、これまで通り同じ手順で合図を頼む!」

「分かったかな!」

「了解です!」


 他の攻撃部隊の人からも了承したって返事は聞こえてきてるから、とりあえずそっちは大丈夫。さて、それじゃダイヤモンドダストで――


「ケイ、提案だ! 俺が根で動きが鈍ったサクヤかロベルトを持ち上げて、カメの攻撃の発動の瞬間を狙って放り込むのはどうだ!? それならもっと確実に方向は誘導出来るだろ?」

「そりゃそうだけど……出来るのか、アル!?」

「やってみなくちゃ分からねぇが、ここはやるしかねぇだろ! それにさっき根の操作がLv7になったしな!」

「おぉ、良いタイミング! それじゃ任せたぞ、アル! ヨッシさん、ミゾレさん、もう時間がないからすぐに動いてくれ!」

「了解! いくよ、ミゾレさん! 『アイスクリエイト』!」

「えぇ、やりましょう! 『アイスクリエイト』!」


 よし、ダイヤモンドダストに覆われて縦横無尽に好き勝手に走り回っていたサクヤとロベルトの動きが明確に鈍った! これ、カメの方に使おうかと思ってたんだけど、こういう形になるとはね!


「アル、サクヤとロベルトの距離が近い! まとめてどっちもってのは可能か!?」

「どっちも巨体って訳じゃねぇし、動きが鈍ってんなら問題ねぇ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」


 おぉ、もう何本あるのか一瞬では数え切れないくらいの本数の根がサクヤとロベルトをまとめて巻きついていく! ははっ、これならいける!


「おらよ! 吹っ飛んどけ、異形のキツネども!」


 そしてアルが盛大に根で勢いよくサクヤとロベルトを投げ飛ばし、そこにカメが凝縮させていた砂の散弾が解き放たれていく。おぉ、凝縮していた砂の目の前に投げ飛ばせていたから、サンドショットはサクヤとロベルトにほぼ全てが当たったっぽい。

 そうしている間にサヤとハーレさんの合図を元に、次々と刻印を刻みつけて攻撃を繰り広げていっている。よし、あと少しでカメのHPは削り切れる!


「次をいくかな! 『略:エレクトロボール』!」

「おっしゃ、次は俺か! 『黒の刻印:脆弱』!」


 よし、残りHP的に上手くいけばこれでカメにトドメに――


「あっ!? これ、マズいよ!」

「おい、アリス!? っ!? 川に何か――」

「今更気付いても、もう遅ぇよ! 貰ったぜ、そのカメの首!」


 川の中から緑色の銀光が混ざった風の刃が放たれて……カメの首が斬りつけられた? ちょ、今のでHPが全て無くなって、カメがポリゴンとなって砕け散っていった。……え?


<規定条件を達成しましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開のジャングル』が進行します>

<エリアボスの討伐ボーナスとして、『城塞ガメ』は青の群集所属の群集支援種になり種族を変更した後にランダムリスポーンとなります>


<ケイがLv4に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『城塞ガメを弱らせたモノ』を取得しました>

<『刻印石』を1個獲得しました>


<ケイ2ndがLv4に上がりました。各種ステータスが上昇します>

<Lvアップにより、増強進化ポイント2、融合進化ポイント2、生存進化ポイント2獲得しました>

<規定条件を満たしましたので、称号『城塞ガメを弱らせたモノ』を取得しました>

<『刻印石』を1個獲得しました>


 え? えぇ!? ちょっと待って、何そのトドメを持っていったらボーナスがもらえる的な仕様!? 城塞ガメが種族を変えて青の群集の群集支援種としてランダムリスポーンって、そんなのあり!? てか、今のって斬雨さんじゃね!?


「はははっ! ジェイの読み通りじゃねぇか、ボスが1体のみだと討伐後の所属がどうなるか分からねぇから何か要素があるかもしれないってな!」

「シオカラ、モコモコ、昇華魔法だ!」

「完全にやられた!? 『ウィンドクリエイト』!」

「トドメだけ持っていくとか、青の群集は! 『エレクトロクリエイト』!」

「うがー! ここで絶対に倒す! 『爆連投擲・浄』!」

「ここで死ぬのは計画の内だ。こうされたら勝った気はしねぇだろ、灰の群集!」


 それだけ言い残して、斬雨さんはあっさりと……それはもうあっさりと死んでいった。今の、俺らがミヤ・マサの森林での対戦をご破算にした件の意趣返しか! あー! くっそ、冗談抜きで最後の最後を持っていかれて、カメのHPはほぼ削り切ったのは俺らなのに勝った気がしない!

 てか、ロブスターは今は死んでるけどLvって上がるんだね。うん、なんか……今はそんなのはどうでも良い気分だよ。何この結果!? みんな相当頑張ったのに、あんまりだろ!




【ステータス】(弱体化中なので、正常時のステータスで表記)


 名前:ケイ

 種族:同調激魔ゴケ

 所属:灰の群集


 レベル 3 → 4

 進化階位:成熟体・同調激魔種

 属性:水、土

 特性:複合適応、同調、魔力強化、魔法耐性、属性強化


 群体数 500/9900 → 500/10150

 魔力値 282/282 → 282/286

 行動値 111/111 → 111/113


 攻撃 103 → 105

 防御 179 → 182

 俊敏 130 → 132

 知識 296 → 302

 器用 340 → 348

 魔力 433 → 442



 名前:ケイ2nd

 種族:同調激強ロブスター

 所属:灰の群集


 レベル 3 → 4

 進化階位:成熟体・同調激強種

 属性:なし

 特性:打撃、斬撃、強靭、堅牢、同調


 HP 12950/12950 → 12950/13400

 魔力値 134/134 → 134/136

 行動値 101/101 → 101/103


 攻撃 432 → 440

 防御 392 → 400

 俊敏 332 → 339

 知識 98 → 100

 器用 129 → 132

 魔力 68 → 69

 

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