第1089話 城塞ガメの討伐戦 上

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すみません!


――――


 ボスのカメの攻略の為に、硬い防御を突破する為の刻印系スキル持ちのメンバーを大急ぎで集めてもらっている。赤の群集がジャングルを捨てて他のエリアを狙ってる可能性が出てきてるけど、そっちは今すぐどうこうするべきじゃない。


「ケイさん、オオカミ組の再編成完了っす!」

「サンキュー、湯豆腐さん。内訳を教えて貰っていいか?」

「了解っす! カメの属性を考えて、風の昇華を使える人で白の刻印:増幅が5人っす! それに合わせて黒の刻印:低下を5人揃えたっすね!」

「お、そりゃ良い……って、そんなに都合の良い人数がいたのか!?」

「流石にいなかったっすから、この場で設定してもらったっすよ!」

「あー、なるほど。それは助かる!」

「良いって事っすよ! これも勝利の為っす!」


 まさかこの場で調整してくれるとは思わなかったけど、ありがたいのは間違いないな。後は蒼弦さんと灰のサファリ同盟の方での、周辺にいる人達からのメンバー集めがどうなってるか……。


「ケイさん、灰のサファリ同盟の方で該当の刻印系スキルの所持者のPT構築が完了したとの事です。内訳は、白の刻印の『剛力』と『増幅』がそれぞれ8名、黒の刻印の『脆弱』と『低下』がそれぞれ8名。白の刻印と黒の刻印で、連絡要員を含めて1名分空きはありますがそれぞれの連結PTにしています。PTも基本は同一の刻印で揃えて、収まり切らなかったところは混合PTとなってます。戦闘中での死亡も考慮して、他の希望者の方は周辺警戒へと回ってもらいました。状況次第で逐次メンバー交代も行っていきますよ」

「わざわざ色々と調整してくれたんだな。ありがとうって伝えといてくれ!」

「えぇ、伝えておきますね」


 さて、これで攻撃戦力は揃ったと考えて良いはず。あとは実際に戦っていくだけだけど……灰のサファリ同盟で調整してくれたメンバーと、オオカミ組で揃えたメンバーに俺らやツキノワさん達の共同体の三日月を混ぜると逆にややこしくなりそうだ。そうなると、出来るだけ役目は分散させた方がいいか。


「ツキノワさん、ちょっと質問」

「ん? 何か足りない情報でもあったか?」

「単刀直入に聞くけど、あのカメが白の刻印で防御を高める可能性ってある? というか、そういうタイプの白の刻印はある?」

「……あるにはあるな。『堅守』が物理攻撃耐性の大幅上昇、『障壁』が魔法攻撃耐性の大幅上昇だ。あー、そうなると黒の刻印を使ってくる可能性もあるのか……」

「やっぱりその可能性はある――」


 って、うおっ!? なんか急に地面が揺れ出したけど……って、カメが歩き出した!? 歩みは遅いけど、1歩毎に思いっきり揺れてるんだけど!?


「アル、とりあえず空中に移動! ツキノワさん達は……アルの真下を進んでくれ! 蒼弦さんはPT会話で指示を出す! ミゾレさんは俺らと一緒に!」

「おうよ! 『空中浮遊』!」

「了解だ! いくぞ、共同体『三日月』!」

「「「「おー!」」」」

「了解だ、ケイさん!」

「わかりました!」


 ともかく動き出したカメの様子を直接視認しながら判断していくしかない。まずはこのカメが何をしようとしているかを把握しないと。って、カメは向きを変えてるっぽい? あ、いい加減鬱陶しくなったのか、サクヤの方へと方向転換をしてるみたいだな。


「わっ!? 全身から茶色が混じった銀光を放ち始めたのです!?」

「あ、カメの表面を岩が覆っておくかな!?」

「ちょ、これって応用複合スキルか!?」


 ひたすらカメに攻撃を繰り返していたサクヤがいるのは、オオカミ組が焼き払った側のジャングルの川岸……要するにみんなが集まってきてる場所! 『突撃』の特性があったからチャージ系の突撃攻撃なのは確実。『鈍重』の特性で、動きが遅い代わりにチャージのキャンセルが不可能になるのが厄介だな! これはどうやっても回避するしかない。


「風音さん、ツキノワさん達を引き上げる為に岩の足場を頼む!」

「……分かった。『アースクリエイト』『岩の操作』」

「助かるぜ! 全員、即座に作ってくれた足場に乗れ!」


 ふぅ、とりあえず俺らの真下にいたツキノワさん達の待避は出来た。本当なら俺がやりたいとこだったけど、それが出来ない状態なのが悔しいな……。てか、俺らだけ退避してても駄目だっての! だー! 全体を把握しながら適切なとこの適切な指示を出すって、総指揮は地味に大変じゃね!? 


「全員、カメの真正面から離れろ! 『鈍重』の特性はチャージをキャンセル出来ないから、そのままだと吹っ飛ばされる可能性が高い!」

「みんな、聞いたね! チャージが終わる前に大急ぎで、西か東に退避!」

「ぎゃー!? 逃げろ、逃げろ、逃げろー!」

「ちょ、押すなって!?」

「退避を急げー!」

「えっ!? ええっ!? どっちに逃げれば!?」

「げっ、青の群集!?」

「他にも敵がいるんだった!?」


 くっ、灰のサファリ同盟とか俺らと連結PTになってないオオカミ組とかの大きな共同体のメンバーはスムーズに退避してるっぽいけど、そうではない個人やPT単位で参加してる人達の退避状況が悪い。

 この規模だとやっぱりベスタみたいに上手くは回せないな。でも、引き受けた以上はやれる事を全力でやるまで! ちょっと強引な手段にはなるけど、この際仕方ない。


「蒼弦さん、ミゾレさん、乱暴でも構わないから、下にいる人達で混乱してる人達を水流の操作で押し流せるか!? カメの攻撃の威力が全然分からないし、下手したら一気に死にかねない!」

「確かにその危険性はありますね。私では無理ですが……肉食獣さん、モンスターズ・サバイバルの方で水流の操作で混乱している人達を押し流してもらえますか!? えぇ、西側にお願いします! 蒼弦さん、オオカミ組は東側の方へお願いします!」

「了解だ! オオカミ組、混乱してる奴らを水流の操作で東に押し流せ!」


 おぉ!? 流石はオオカミ組とモンスターズ・サバイバル! 無駄に水流同士が干渉しないようにしつつも、退避の為に一気に水流で大勢を流してくれた。

 流石に根下ろしをしていた木の人とか無理な人もいたけど、こればっかりは仕方ない。こういう時は飛べる種族の人には優位性があるな。


「おわっ!? た、助かった!」

「いや、青の群集が来てるのを忘れるな!」

「ちっ、ハチが大量出現したかと思えば、なんで灰の群集があんなに集まってやがる!」

「なにかヤバそうなカメが見えるんですけどー!?」

「ともかく、灰の群集を仕留めろ! 数を減らさんとどうにもならん!」

「みんな、青の群集には邪魔させないよ!」


 東側の方では結構な範囲で青の群集との戦闘が発生してるみたいだけど、もう誰の声が味方か敵かの判別が難し過ぎる! 知らない人の方が多いし、こんなもん全員分を即座に把握し切れるかー! 細かい指揮は、指揮出来る人に分散して任せるしかないな。

 西の方では……全然赤の群集がいない訳じゃないけど、違和感があるくらいには少ない。……死んだらそのまま安全圏から立ち去ってる? って、そこを考えてる場合じゃない! カメのチャージが済んだっぽいし、そっちに集中! 


「全員、衝撃に備えろ! カメがサクヤに向けて突っ込むぞ!」

「げっ!? 戦ってる場合じゃねぇ!?」

「いや、逆にチャンスだ! 灰の群集をカメの前に放り出せ!」

「わーっはっはっは! させるねぇよ、青の群集! 『並列制御』『アクアクリエイト』『ポイズンクリエイト』!」

「ちっ、麻痺毒と神経毒だと!? 灰の群集!」

「どんどんポイズンにミストを追加しちゃえ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『ポイズンクリエイト』!」

「動けなくなった青の群集を吹っ飛ばせ! 『連強衝打』!」

「こういう時こそ、これだー! 『双打連破』!」

「ぎゃー!?」

「ぐふっ!」

「毒には毒でやり返せ! 『並列制御』『アクアクリエイト』『ポイズンクリエイト』!」


 うっわ、なんかポイズンミストの大量発動になってて、その中であちこちで銀光が放たれて強くなっていったり、消えていったり、とんでもない大乱戦になってるし……。群集関係なく、毒が効かなかった人がカメの進行方向に敵をどんどんぶっ放してるー!


「……これ、戦場のコントロールは無理じゃね?」

「まぁ流石にこれだけ大勢がいたら無理だろうな。もうこれは仕方ねぇから、今はカメに集中しろよ、ケイ」

「……だな」


 全員が退避しきれてる訳じゃないし、大乱戦になってるのも一部ではある。もうカメの前に放り出された人達をどうにか助けるのは……無理だ。既にカメがサクヤに向かって突撃を開始したしね。


『グァァアァァアアァァァァアァアッ!』

「ぎゃー!?」

「ぐふっ!」

「がはっ!」


 荒々しい雄叫びを上げながら瘴気を溢れさせながら踏ん張って突撃を抗っているサクヤと、その余波……というか巻き添えでHPが消し飛びポリゴンとなって砕け散って消えていく、結構な数のプレイヤー。結構生き残ってる人もいるけど、それなりにHPが減ってれば即死もあり得る威力って恐ろしいな、これ!


 えーと、ここからどうする!? サクヤの排除はした方がいいのか、それともこのままカメと戦わせていた方がいいのか、どっちだ!? 今のカメの1撃でサクヤのHPはかなり減って……って、瘴気を吸ってHPを回復し始めた!?


「ケイさん! カメがいた所から、瘴気が溢れ出てるのです!」

「げっ、マジかよ! サクヤが吸収してる瘴気はあれか!」


 マズいな、まさかこのボスのカメが瘴気を堰き止める役目を果たしていたとは思わなかった。微妙に残ってる中州からどんどん瘴気が溢れ出てきていて……川が禍々しく染まって、一般生物の魚が浮いてきてるのか。ジャングルも周辺がどんどん枯れてきてる……。

 これって瘴気自体が地面の中を急激に広がってないか? まるでエリア全体に脈打つように……って、これは今まで何度か出てきた、このエリアの大地の脈動か! しかも特に強烈なのが3方向に向けて……これ、マップの西と東と南の方の向かってる?


「ラック、それは本当ですか!? ……なるほど、そういう感じで経過観察中ですか。えぇ、伝えておきます。はい、それでは」

「ミゾレさん、何か連絡か?」

「えぇ、安全圏の方に異常発生です。例の種族名の分からないアンデッドらしき敵が、安全圏の内部に発生したとの目撃情報が入りました」

「安全圏に!? ミヤビは大丈夫か!?」


 この状態で群集支援種を変な進化をさせた元凶みたいなアンデッド的な敵が、安全圏にも登場って嫌過ぎるんだけど! これ、場合によってはミヤビまで変な進化をさせられる危険性があって、それを防ぐ為に戦力を分けないとマズいかも!?


「ケイさん、落ち着いてください。ゾンビのような大蛇が現れたそうですが、動く気配はないそうです。推測ではありますが、それがエリア移動を阻害するボスなのではないかと」

「あ、その可能性もあるのか」

「今は先程のカメの攻撃で死亡した方が結構安全圏に戻っているのと、カインさんが死に戻ったそうなので、そちらで様子を伺っておくという話です。何か異変があれば、私経由で改めて状況をお伝えしますね」

「……ほいよっと」


 とりあえずさっきので死んだ人達が安全圏に戻っているのなら、即座に戦力を分散させる必要はないっぽい。なんか死に戻ってるらしいカインさんがいるけど、有名どころかつ物怖じしない人がいるなら助かる!

 もしエリア移動の妨害のボスなら、多分この競争クエストの攻略自体には関係なく、ただ競争クエストそのものが進行した事で要素が解禁されただけとも考えられるんだな。……よく考えたら、この可能性は普通に思い至ったはずだ。


 あー、総指揮で妙なプレッシャーがかかってるから、ちょいちょい冷静さを失うなー! とにかく何か異変があればミゾレさんが伝達してくれるんだから、そこは気にせずいこう!


 改めて今の状況を観察。カメはまた動きが止まってるけど、これはさっきの攻撃の再使用時間の経過を待ってる可能性はある。アルのクジラに匹敵するサイズでのとんでもない威力の突撃と、今の段階ではまともに攻撃が通らない防御力。ボスだからこその特別仕様っぽい。

 でも、それ以上にヤバそうなのがサクヤの方だな。溢れ出てきている瘴気を吸収して、どんどん身体が大きくなってきてる。これはどう考えてもヤバそうだ。もう下手にここからメンバー構成に手を加えてる時間もない。その上で……よし、これでいく!


「ツキノワさん! 三日月のメンバーで、あの溢れ出してる瘴気をなんとか出来るか!? 放置したらマズそうだ!」

「おっ、俺らはそっちの別働隊か! でもマサキはどうする!?」

「あー、そっちが問題か!」


 どうする? ここでマサキを放置するのが得策だとは思えない。だからと言って、溢れてる瘴気も何とかしないとサクヤがどこまで強化されていくかが――


「ケイさん、困ってるか?」

「紅焔さん!? それに飛翔連隊のみんな!」


 対人戦には参戦しないソラさんはいないけど、ここで紅焔さん達が来てくれたのはありがたい! ははっ、空中戦力は目立つけど、今の状態なら狙ってきた相手を逆に狙いやすいか。


「紅焔さん、飛翔連隊でマサキの護衛を頼めないか!?」

「それくらいお安い御用だ! ライル、カステラ、辛子、それでいいな!?」

「えぇ、構いませんよ」

「守り切ってやろうじゃねぇか!」

「少し到着は遅れたけど、重要な役目だね」

「それじゃ任せた!」

「おう! ライル!」

「上空で防衛といきましょうか。『根の操作』!」


 空飛ぶ岩に植る松の木のライルさんを中心に、マサキを連れて紅焔さん達は上空に飛び上がっていった。飛翔連隊は空中戦力だから、マサキの事は守りやすいはず。


「おし! 改めてツキノワさん達は瘴気の対応を任せていいか?」

「いいぜ、不安要素も無くなったしな。とりあえずは纏浄で溢れ出てる瘴気を『浄化の光』で払ってみるぞ。場合によっては浄化魔法も使うが、それは極力温存でいく」

「あー、浄化魔法はしばらく戦闘不能になるもんな。よし、それで頼んだ!」

「了解だ! いくぞ、お前ら! 『纏属進化・纏浄』!」

「「「「おー! 『纏属進化・纏浄』!」」」」


 よし、あの溢れてきている瘴気についてはこれでどうにか出来るか試してみるのみ! サクヤが明らかに強化されていってるのは、その結果でどうなるか次第だな。

 だから、俺らが今対処すべきはカメの方! 攻撃のタイミングを合わせる必要もあるけど……あー、俺の持ってる瘴気石を渡して調整してる暇はないし、そこに関しては破棄! 俺らは別の役割で動く!


「風音さん、知ってたらでいい! 昇華魔法に白の刻印:増幅の効果は有効か!?」

「……それは無理。……1つのスキルとして……カウントされない。……多分……威力がありすぎるから……制限がかかってる」

「って事は、黒の刻印:低下の方も影響は無しか!?」

「……ごめん。……そっちは分からない」

「ケイさん、そっちも効果なしだ! 昇華魔法や複合魔法は刻印系スキルの対象外だと考えてくれ!」

「了解っと! サンキュー、風音さん、蒼弦さん!」


 1人でも発動は出来るけど、基本的に2つのスキルを使用して発動するものは1つのスキル判定にはならないって事か。まぁ風音さんの推測の、威力が高過ぎるって理由が合ってそうな気がするよ。


「これからカメへの攻撃を開始する! 攻撃部隊の人以外は他の群集の足止めに専念してくれ!」

「おっしゃ、大詰めだ! 赤の群集や青の群集に邪魔させんな!」

「死んでもいいから、巻き添えでも確実にぶっ倒せ!」

「させるか! 突破して妨害するぞ、青の群集!」

「「「「「おう!」」」」」

「自爆特攻でいくぞ、赤の群集!」

「「「「「おう!」」」」」


 聞こえてくる声は極一部だけど、更に戦闘が激戦化してきたな。でも、ここは灰の群集のみんなが他の群集からの攻撃を抑えてくれるのを祈るのみ! さて、それじゃ準備に時間はかかったけど、カメへの本格的な攻撃を始めようか!


 

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