第1079話 大乱戦 前編


 赤の群集の群集支援種であるサクヤの身柄は確保した。確保したけど、赤の群集のルアー、ライさんことラインハルトさん、ガストさんの3人がやってきて乱戦に突入してしまった。

 俺とアルはサクヤの捕縛に専念してるけど2人がかりでも抑えきれるか怪しいくらいの暴れ方だし、増援は頼んだばかりだから時間がかかりそう。獲物察知は妨害されてるから状況が分からない状態だし、ルアー達が隠れて近付いてきてたのは偶然じゃない可能性がある。そうなると、どの方向に移動しても危険だろうね。


「……ルアー、少し前のフレンドコールに関して地味に根に持ってたりする?」

「むしろ不満に思わない理由がねぇよな、ケイさん! 『回鱗鋭刃舞』!」

「ですよねー!? サヤ、頼んだ!」

「大型化解除! 竜の大型化をしてたのは失敗だったかな! 『爪刃双閃舞』!」


 しまった、サヤは簡略指示でクマの行動値の上限を使用して竜を大型化させていたから、行動値の最大値が半減してる状態か! アルのクジラも大型化で同じ状態だから、思いっきり不利じゃん! あー、風音さんもか。くっそ、これは地味にキツい!

 サヤがなんとかルアーが飛ばしてくる銀光を放つ鱗を斬り落としてくれてるけど、この状況はどう考えても良くない。ここはサクヤの捕獲は諦めて逃げに徹する? それともサクヤを連れて上空へ逃げて……いや、ダメだ。増援が来てからならまだしも、今はそこまで目立つ動きは出来ない! それこそ格好の的になる。


「ライ、やれ!」

「了解っと! 『トキシシティブースト』『並列制御』『ポイズンクリエイト』『アクアクリエイト』!」

「ちょ、ポイズンミスト!?」

「ヨッシ、お願いかな!」

「了解! 『アンティヴェニン・デュオ』!」


 よし、これでライさんの発動したポイズンミストは防げ――


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 78/104 → 78/106(上限値使用:5)


 ちょ、水のカーペットが強制解除になった!? しかもロブスターが動かない……? やっば、麻痺毒を受けてるじゃん! 抗毒魔法で防ぐのに失敗した……?


「あぅ……身体が動かないのです……」

「動かないかな……」

「ちっ、そうきたか……」

「みんな!? これってシンプルな麻痺毒……ライさん、やってくれたね! 『エレクトロクリエイト』『雷の操作』!」

「やばっ!?」

「おらよ! それくらい避けろ、ライ」

「複合魔法の発動中に無茶言うなよ、ガスト! てか、助かった!」


 くっそ! ヨッシさんの抗毒魔法は2種類同時までは防げるけど、あえて効果の弱い麻痺毒を選んで抗毒魔法の回避を狙ってきたのかよ! しかもガストさんがライさんをタカの脚で掴んで距離を取られてしまった。

 ヨッシさんは状態異常への耐性があって大丈夫だったっぽいけど、他のみんなは壊滅状態。こんなシンプルな手段で一気に動きを封じられるって、スキルの使い方は奥が深い……って感心してる場合かー! どう考えても大ピンチだから!?


「青の群集の方はケイさんのコケを倒すのに固執してるようだが、土台を潰せばそれで済む話だ。悪いな、まずは1番の危険因子から排除させて――」

「……ルアー……それはさせない! 『ブラックホール』!」


 おぉ! なんとか風音さんが毒の霧には呑まれずに上空へ退避してたっぽい。そっか、危機察知を持ってるからそれで回避反応が早かったのかも? この状態ならブラックホールで毒の霧を吸い寄せて影響を薄められるかも――


「ガスト!」

「おう、任せとけ! 『レイ』!」

「……っ!? ……光魔法!」


 ここでガストさんが光を収束させて……って、光がブラックホールに吸い込まれてどっちもが消滅した? そういえば風音さんがお互いに打ち消し合うって言ってたような……って、それは今はいい! それより拘束してたサクヤは……あっ、瘴気の渦の方に――


「わーっはっはっは! 再び出口を見つけたし、今度こそ他の戦闘中のエリアへ……って、あれ? いきなり麻痺毒!?」

「「「は?」」」

「どういうタイミングで出てくるんだよ、イブキ!」


 ルアー達の唖然とした声が重なる気持ちも分かるわ! 拘束から逃れたサクヤが瘴気の渦の飛び込もうとした瞬間に、その中から勢いよく龍が出てきて吹っ飛ばした挙句に、麻痺毒を受けて落下したら驚くしかないって! というか、そういう風に戻って来れるんかい! しかも白いカーソルがかなり黒に染まってきてるし!

 色々ツッコミたい事はあるけど、今はこの毒の霧をなんとかしないと麻痺毒の影響から抜け出れない。でも、イブキの唐突な登場のおかげで、今動けるヨッシさんから意識が逸れてるのがチャンス!


「『同族統率』! 行け、ハチ1〜3号! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷の操作』『氷の操作』!」

「おわっ、一気に来た!? ヘルプー!?」

「ちっ、統率個体のハチ3体と氷のナイフを6本ってか! 手分けしていくぜ、ルアー! 『羽飛ばし』!」

「おう! 『回鱗刃乱舞』!」

「きゃ!? これ、私だけじゃ全然駄目だよ!」

「……ヨッシさん! ……視界が悪くて……大技が使えない! ……霧の中から出てきて!」

「了解! 『高速飛翔』!」

「毒の耐性持ちは厄介だし、逃すかよ! 今のうちに1人でも仕留めるぞ、ルアー! 『高速飛翔』!」

「分かってる! 『高速遊泳』!」

「……見えた! ……気休めだけど『アースエンチャント』」

「風音さん、ありがと!」


 毒の霧の外での戦闘になってるから、何がどうなってるのかが全然見えん! 自分達が使う分には良かったけど、こんな形でヨッシさんと風音さん以外全員が状態異常で動きを封じられるとは思わなかった。なんでこんなに強力なんだよ、この麻痺毒! Lvいくつになってんだ!?

 くっそ、即座にアブソープ・アクアで吸収してしまえばよかったのに……そこは完全にしくじった。ヨッシさん、なんとかポイズンミストの効果時間切れまで耐えてくれ!


「これってどういう状況!? うおっ!? なんだ、この骨を被ったキツネ!? てか、赤の群集と灰の群集が戦闘中……ってよく見たらケイさん達じゃん! わっはっは、麻痺毒で動けねぇのかよ!」

「人の事を言える状況じゃないよな、イブキ!?」


 こいつは俺らを煽りにでも来たのかよ! あぁもう、早くポイズンミスト効果は切れろ! 多分再発動してくると思うから、そこから状況を覆す……よし、ポイズンミストの効果が切れた!

 麻痺毒自体は効果時間は長くないから、すぐに解除になるはず。急げ、急げ、急げ!


「ライ!」

「再発動いくぜ! 『トキシシティブースト』『並列制御』『ポイントクリエイト』『アクアクリエイト』!」

「……させない! ……『アースウォール』!」

「ただの岩の壁なんざ、ぶち壊せば良いだけだ! 『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドインパクト』!」

「待て、ガスト! そんな単純なはずが――」

「……もう遅い」


 ははっ、風音さん、ナイス時間稼ぎ! 少しの間だけど、土の壁で毒の霧を堰き止めてくれたおかげで俺の麻痺毒の解除は間にあった。それだけで、もう俺としては十分過ぎる。


<行動値上限を10使用して『アブソープ・アクア』を発動します>  行動値 78/106 → 78/96(上限値使用:15)


 よし、これで霧の水要素を吸収して……って、なんか濃縮された毒が残って、雨みたいに降り注ぎそう!? くっ、こんな風になるとは思わなかったけど、それならこれだ!


「なんじゃそりゃ!?」

「ちっ! ケイさんが水のアブソープ持ちかよ!」

「仕留める順番を間違えたか!?」


 そういう反応をしてくるって事は、赤の群集にも誰かアブソープ系のスキルを誰かが持ってるな。シュウさん辺りが怪しそうだけど、今はそれは後回しだ!


<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 70/96(上限値使用:15): 魔力値 257/282


 今はこの全方位攻撃で、濃縮された感じの毒を弾き飛ばす。ははっ、なんだかんだで新魔法、使い所は結構あるじゃん!


「「うぉ!?」」

「ぎゃー!?」

「ぐはっ!?」


 よし、ルアーもガストさんもライさんも吹っ飛ばした! おまけに麻痺って転がってたイブキも吹っ飛ばして……って、サクヤまで吹っ飛ばしてかなりHPを減らしちゃってるじゃん!? そこは攻撃したら駄目なとこ!?


「これは随分と面白い状態になってますね?」


 え? この声は……まさか、このタイミングでやってくるのかよ!? でも、なんでこんな近くから声が!? 今、全方位攻撃で吹き飛ばした……いや、木くらいを盾にすれば受けずに済むのか。周囲の木を全部薙ぎ倒した訳じゃないもんな。


「どこから来た、ジェイさん!?」

「それを教える訳がないでしょう? 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」


 げっ、これはヤバっ!? 


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 69/96(上限値使用:15): 魔力値 254/282

<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します>  行動値 50/96(上限値使用:15)


 大急ぎで思考操作で発動して、なんとかコケの表面を岩で覆って防御はしたけど、ジェイさんの岩の中に閉じ込められてしまった。くっそ、完全に不意を突かれた。なんとか1番ヤバい状態だけは防いだけど、これだけじゃ凌ぎ切れるかは分からないぞ。

 俺を覆う岩でロブスターのHPはどんどん削られてるし、岩の操作の操作時間も削られてるけど、それでもやらないよりはマシなはず!


「ケイさん!? 『略:ウィンドインパクト』!」

「今助けるかな! 『共生指示:登録3』!」

「やらせる訳ねぇだろ! 『纏属進化・纏氷』『連氷閃』!」

「「えっ!?」」

「……銀光を放つ……氷の刃?」


 岩で遮られて分かりにくいけど、この声って斬雨さんか! 状況が見えてないんだけど、なんかとんでもない状況になってない?

 だー! 外の事を気にする前に自分の事をどうにかするのが先だけど、防御しか出来なかったし、耐え切れるかも怪しいし、ここからどうすれば……!


「面白いもんを持ってんじゃねぇか、斬雨さん! 『火刃熱閃舞』! だけど、やらせねぇ!」

「ちっ、邪魔するんじゃねぇよ、紅焔さんよ!」

「そりゃお互い様ってもんだ! 斬雨さんは俺が抑えるから、辛子は今のうちにケイさんを助け出せ!」

「了解だ! 荒っぽくなるが勘弁してくれよ! 『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドインパクト』!」

「うぉ!?」

「ちっ、増援が来ましたか!」


 ロブスター側の岩が破壊されて、すっぽ抜けるように下に落ちた!? ちょ、落ちたら困るから残り僅かな操作時間の岩でなんとか地面に着地! ふー、助かった。

 どうやら紅焔さんが斬雨さんが打ち合ってるし、辛子さんが助け出してくれたみたいだし、これは増援が間に合ったっぽい? はぁ……本気でやられるかと思った。


「辛子さん、助かった!」

「そりゃいいんだが……まだ油断すんなよ、ケイさん。てか、ジェイさんはどこにいる?」

「分からないまま捕まったから、さっぱりだ!」

「……なるほど、完全に奇襲を受けたんだな」


 周囲を見渡してみても、ジェイさんの姿は見えない。でも、声が聞こえるからに近くにいるのは間違いないし、支配進化から同調にはなってないはず。……なってて遠隔同調を使われてたら相当厄介だけど。


「……今のでコケかロブスター、どちらかは潰しておきたかったんですけどね」

「言ってくれるな、ジェイさん! 思いっきり乱入してきやがって! ライ、位置は分かるか!?」

「あー、こりゃ多分ややこしい状態になってんな、ジェイさんは! ガスト、この辺全体に軽く風を流してくれ!」

「させないかな! 『略:突撃』!」

「うぉっと!? ライ! 状況を見て言えや!?」

「『散弾投擲』!」

「ちっ、『ウィンドウォール』!」

「って、乱戦中ー!? サヤさん、ハーレさん! ジェイさんを見つけるから少し攻勢を抑えてくれね!?」

「ライさんのその手には乗らないかな! 『強爪撃』!」

「風が必要なら、私が一緒に吹っ飛ばすのです! 『略:ウィンドクリエイト』『略:強風の操作』!」


 おー、ハーレさんがクラゲの風を使って周囲をなぎ倒して……って、あれ? 不自然な感じの葉っぱが……って、これは葉っぱじゃない!?


「……ジェイ、見つけた! 『ファイアインパクト』!」

「おっと、擬態が破れましたか。『アースウォール』! 危ないですね、風音さん」

「……ジェイの3rd! ……今度こそ……潰す!」


 そんな何気ない言葉と一緒に飛び上がった葉っぱに見える蝶……青いカーソルとジェイという表示が出てるし、これがジェイさんの3rdっぽい。3rdの表記がないって事は、コケと蝶の共生進化で、コケでログイン中?

 でも、どこにコケが……って、蝶の胴体部分か! うっわ、分かりにく過ぎる!?


 というか、なんだか殺気立ってる風音さんの雰囲気と、ジェイさんが今までと違う姿で現れたという事もあって、一旦みんなの動きが止まった。……下手に動けないぞ、これ。


「ルアーさん、1つ提案です。灰の群集を倒すまで共闘とまではいきませんけど、休戦はいかがですか?」

「そりゃ、そっちが今の人数的に不利だからって話か?」

「まぁ簡潔に言えばそうなりますね。それに、どうもケイさんが変な姿をしてますし……」

「……確かにな」


 ジェイさん、思いっきり俺らの前でそういう提案をするのかよ!? てか、変な姿ってアブソープ・アクアを発動中なくらいなもので……あ、群体塊を発動したままだ! これってただの発動の切り忘れなんだけど、まぁ勝手に警戒してくれるなら別に良いか。

 とはいえ、ジェイさんの戦闘スタイルが変わってる可能性があるのに、赤の群集と青の群集に手を組まれるのは嫌だな。ここにいる誰もが油断出来る相手じゃないし……。


「誘い自体は悪くねぇが……まだ伏兵を隠している相手とはお断りだ! シュウさん、弥生さん!」

「……気付かれていましたか。それに……その2人がいるのなら、そう判断しますよ」


 ちょ、ここでその2人が出てくる!? しかも、伏兵がいるって……あ、さっきハーレさんがほぼ全員に攻撃して擬態や獲物察知の妨害は破れてる筈なのに、獲物察知が機能してない!? 


「さて弥生、始めようか」

「あははははははは! いいね、いいね、いいね! 対人戦はこうじゃなくっちゃ――」


 あ、弥生さんとシュウさんが出てきた瞬間に、どこからともなく銀光が迸って弥生さんに直撃して吹っ飛ばした!? 伏兵ってあの長距離狙撃かよ! うげっ、思った以上に厄介だぞ、この状況……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る