第1078話 その場を離れてから
黒の統率種に率いられていたっぽい10体の敵は何とか倒した。倒したけども、戦力差での消耗が半端ない!
他の群集が戦闘中に現れればとは思ってたけど、まさか誰も来ないまま黒の統率種に逃げられただけになるとはね。ジャングルを一部何もない地形に変えてしまったし、これじゃ格好の餌食になってしまうからすぐに離れないと!
「みんな、すぐに移動するぞ! アルが元のサイズに戻ると目立つから小型化したままで、各自移動!」
「おう! ケイと風音さんは俺に乗って、少しで良いから魔力値の回復をしとけ! 『根の操作』!」
「助かる!」
「……分かった!」
「ヨッシとハーレはこっちに乗ってかな! 『略:自己強化』!」
「了解!」
「はーい!」
アルが俺を根で回収してくれて、風音さんが自分でアルの木に止まり、サヤが大型化させていた竜に乗ってヨッシさんとハーレさんを回収していった。みんなの咄嗟の判断だけど、これならバラバラに動くよりは安全か。
いや、まだ完全に安全とも言えないな。さっきの戦闘中に獲物察知の効果が切れてるし、動向を探る為にも使っておかないと。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 63/106(上限値使用:5)
えっと、これで近くに反応は……げっ!? 北の方から割と近くに赤の群集の反応あり!? しかも、結構な集団でどんどんこっちに近付いてきてる! 黒い矢印は点在してるけど、東の方が反応が薄め? 近くには青の群集の反応は全くない訳じゃないけど、警戒すべきほど近くには見当たらないか。灰の群集も同様だな。
いや、それを深く考えてる場合じゃない。今の状況で赤の群集の集団に近付かれるのはマズい! くっ、来るならもっとタコが逃げる前に来てくれよ!
「アル、サヤ! 北から赤の群集の集団反応あり! 一度、南に下がって体勢を立て直す!」
「おう! サヤ、先行して道を切り拓けるか?」
「任せてかな! 『自己強化』『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」
流石にアルのクジラは小型化したままでも他の種族よりも大きいから、逃げに徹する状況でも全くの痕跡無しとはいかないか。でもまぁ空中で敵から丸見えの状態で進むよりは、痕跡が残ってもジャングルの中を通れる程度に追撃の風の刃で切っていくのがマシだな。
「ひとまずこれで距離を取るから、ケイはとりあえずさっさと回復をしとけ!」
「ほいよっと!」
俺らの動き自体が獲物察知で捕捉されてる可能性もあるけど、その妨害手段は持っていないから、その部分についてはどうしようもないしな。アルとサヤが距離を取るのに専念してくれてる間に迎撃出来るだけの準備はしておかないと。てか、落ちないようにアルの木の根に掴まっとこ。
みんなのダメージの受け具合は……遠距離主体で昇華魔法もぶっ放したおかげでHPはあんまり減っていない。むしろ、俺のロブスターが1番減ってるよ。まぁそこまで劇的に減ってる訳じゃないから、今は先に魔力値の回復だな。既に風音さんもレモンを齧って回復してるしさ。
「……あのサイ……どういう攻撃?」
「多分あれは、水属性持ちの突撃系の応用複合スキルなのさー!」
「だろうなー。てか、属性部分にも物理ダメージの判定があるみたいだったし、多分本来なら多段攻撃っぽい」
「あ、それは気になったのさー! 強制解除のタイミングがおかしかったのです!」
「……水は吸収したのに……ダメージを受けてる。……応用複合スキルは……魔法の形をした……物理攻撃?」
「魔法ダメージもしっかりあるっぽいけど、性質的にはその表現が合ってるかもなー」
青の群集の罠へと突っ込んでいった時に飛んできていた風の刃もそんな感じだったし、実際に相対してみるとかなり厄介な気がする。ただ、物理ダメージと魔法ダメージに分散してるから、どちらかへの耐性を持ってれば威力自体はそこまでの脅威ではない? いや、追撃ではなくスキルの性質そのものが変わってるなら単純比較も出来ないか。
「話すのはいいが、間違っても落ちるなよ?」
「その辺は分かってるって。……でも、そうなるとアイテムが食いにくいな!」
「あー、そういう問題もあるのか」
片方のハサミで落ちないように根に掴まった状態で、インベントリから取り出したレモンを掴むのが難しい。でも、ここで行動値を使ってしまったら意味ないし……って、この手があった!
<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 70/106 → 70/104(上限値使用:7)
よし、邪魔にならない程度に小さめに展開した水のカーペットを並走させて、テーブル代わりに使おう。この上に一旦レモンを取り出してから、それをロブスターのハサミで掴んで食べておく!
「……操作技術の無駄遣いに見えるが、実態としては凄い有効活用してるよな?」
「まぁそうなるなー。って、ちょいストップ!」
「何かあったか!?」
「どうしたのかな!?」
「さっき俺らがいた場所に赤の群集の軍団が辿り着いたけど、その瞬間に反応が消えた。多分、察知妨害がされてる」
「……青の群集か?」
「はっきりとは言えないけど、赤の群集と青の群集で戦闘になってる可能性が高いなー。一部、東の方が反応が薄かったしさ」
「なるほどな」
赤の群集が獲物察知の妨害をするなら移動の最中からやっていればいい話。あれだけ派手に暴れれば、近くにいれば青の群集も気になって見に来るはず。そこで鉢合わせになった可能性は十分ある。
まだ戦闘になってない可能性もあるけど、俺らの痕跡を追いかけようとする赤の群集へ奇襲を仕掛ける青の群集ってパターンもあるはず。少なくとも、何かしらの動きがあったのだけは間違いない。
「ケイ、ここからどうするのかな?」
「あー、悩ましいとこだな。全快させてから、今来たとこを戻って一網打尽を狙うって手もあるけど、正確な状況が分からんとなんとも……。アル、久々に『同族同調』で視界を飛ばして偵察とかいけるか?」
「いけると言えばいけるが、それは獲物察知には引っかかる……あぁ、妨害されてるのはむしろ都合が良いのか」
「そういう事だな!」
同族同調が獲物察知に引っかかる事は知らなかったけど、結果的には都合が良いから問題なし! 今はさっきまでの進行方向には敵の気配はなかったし、様子を窺うのでも問題はないはず。
闇雲に進んでも何かが見つかるとは限らないし、昇華魔法で一気に一網打尽で送り返すのは戦力を削るのには……って、ちょっと待て!? 何か急に変な反応が――
「はっ!? なんか周囲の雰囲気が変わったのです!?」
「これ、瘴気が集まり始めた時と同じかな!」
「俺の方にも別の件で反応ありだ! 黒く染まりつつある赤い矢印の反応が、西の方から近付いてきてる!」
「え?」
「なんだと!?」
「……何が……あるの?」
多少は回復出来たとはいえ、ここで重要そうな要素が出てくる可能性がありかよ! あー、目に見えて瘴気が集まり始めてきた。……そして、変な反応の主も姿を表してくる。
「マサキと同じで、骨を被ったキツネになるのか!?」
「みんな、戦闘準備! とりあえず識別をするけど、何か嫌な予感がするからヨッシさんと風音さんで瘴気の塊を封鎖してくれ!」
「了解! 『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
「……分かった! 『アースクリエイト』『岩の操作』」
よし、これで集まってきている瘴気の塊へ向かっていくのは出来なくなったはず。露骨にそこに向かっている様子なのに、そのまま放置出来るかよ!
「アル、根の操作で捕縛! サヤとハーレさんは、変な兆候がないか挙動を見ててくれ!」
「おうよ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「ハーレ、気は抜かないようにかな!」
「サヤこそなのさー!」
他の敵に対する警戒が薄れてしまうけど、この状況では仕方ないか。もし敵が来たとしても、この異常な状況の情報収集を狙ってくれれば助かるんだけどな。
ともかくあからさまに聞いていた今のマサキの状況に似てるし、これは大当たりを引いたかもしれない。しかもこの獲物察知への反応の仕方、まさしく青の群集が仕掛けてた罠と同じような反応だ! まずは識別で正確な状態を把握しよう。
<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します> 行動値 78/104(上限値使用:7)
『サクヤ』Lv1
種族:群集支援種
進化階位:未成成体熟体・赤の群集支援種
属性:なし
特性:赤の群集の支援、傀儡、半覚醒、支配抵抗(1/10)
『支配骨キツネ』Lv1
種族:???(???種)
進化階位:未成成体熟体・???
属性:瘴気、???
特性:支配、堅牢、骨鎧、瘴気強化
ちょ、なんだこの識別情報!? 骨の方がサクヤって赤の群集の群集支援種を支配をしようとしてるのは分かったけど、進化階位の表記がおかし過ぎる。未成体と成熟体が混ざってんじゃん!
「この骨は正直訳が分からんけど、多分一応は支配種! 進化階位は表記がおかしくて、未成体なのか成熟体なのか不明! 分かる範囲では属性は『瘴気』と意味不明な『???』、特性は『支配』と『堅牢』と『骨鎧』と『瘴気強化』! マサキっぽいキツネは赤の群集支援種のサクヤで、こっちも表示がおかしくて未成体なのか成熟体なのか分からない! でもなんか特性に支配抵抗ってのがあって、何かがカウントされてる感じがする! 最大値が10で、今は1だ!」
「……あと1回で……何かが変わる?」
「カウントが増えてるのか、減ってるのか、それが分からないと判断出来ないよね!?」
「ともかく、瘴気の元に辿り着かせるとヤバい気がする! 残り1回で何かがあるなら阻止しないと!」
どう考えても、こいつは瘴気の塊に向かって動いてるしな! 半覚醒の割に全然反応がないし、カウントダウンで残り1回でアウトの方が正解な気がするよ。
「ケイ、こいつは捕獲して連れ帰るか!?」
「もちろんそのつもり! サヤ、競争クエスト情報板でみんなにこの場所の座標を伝えて増援を頼んでくれ! 捕獲だけなら多分俺らだけでもいけるけど、それ以上は無理だ!」
「分かったかな!」
どこにどれだけの人数の敵がいるかも分からない中で、捕獲を優先したまま移動は無理だ。どう考えても遭遇した敵と戦うだけの戦力が足りなさ過ぎるし、休憩すらままならない。
というか、今の状況で見つけたのは相当運が悪いな。多少回復は出来たとはいえ、全快とは言えない上に、ここまでやって来た方向には赤の群集と青の群集の両方がいる可能性がある。すぐ近くに増援を期待出来る灰の群集の人の反応も特に無かった。それに増援を頼む以上は、下手に移動し過ぎる訳にもいかない。……ここで持久戦か。
「ちょ!? なんだ、急に引っ張る力が強くなりがった!?」
「はい!?」
今の今まで、普通に抑え込めてたサクヤの骨の鎧から瘴気が溢れてきたと思ったら、アルが引き摺られてるんだけど!? 特性の瘴気強化ってこういう事かよ!
「みんな! ベスタさん達がすぐに来てくれるって! それまで逃がさないように死守しろって指示かな! 他にも比較的近くにいる人が来てくれるって!」
「そりゃ朗報! アル、俺も抑え込む方に回るぞ!」
「頼む! 俺だけじゃ抑えきれん!」
アルの根を骨に巻きつけまくって抑えてるのに、その状態でアルのクジラごと引き摺るってどんな力をしてるんだよ、こいつ!
だー! 下手に倒すとどうなるか分からないし、マサキの解放の為の分析にも使いたいし、露骨に瘴気の塊の元へ行こうとしてるのが厄介過ぎる! 大人しくしてやがれ!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 77/104(上限値使用:7): 魔力値 279/282
<行動値を19消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 58/104(上限値使用:7)
岩を生成してこの骨を固めて動きを封じて……って、なんだこの馬鹿力!? ヤバい、これは思った以上に操作時間が削られるのが早い!
「へぇ、面白い状況になってんな、ケイさん。少し前は盛大に利用してくれたじゃねぇか? 」
「おっす、ケイさん!」
「ルアー!? ライさん!?」
「おっと、俺もいるぜ? ほー、サクヤが変だとは聞いてたが、こりゃほんとに変だな。さて、俺らのとこの群集支援種だし、離してもらおうか」
「ガストさんまで!? くっそ、嫌なタイミングで!」
ちょっとこのタイミングで、この3人が出てくるのはヤバすぎるんだけど! よりによって、赤の群集がここで出てくる!? てか、なんで接近に気付かな……って、ライさんがいるからかー! いつの間にか完全に獲物察知の反応が消えてるじゃん!?
「邪魔はさせないかな!」
「ここは死守するのです!」
「ケイさん、今は防衛に専念するよ!」
「だー! 今はそれしかないか! 風音さんも任せた!」
「……分かった。……小型化解除」
この状況で、瘴気の塊の封鎖に戦力を割いてる余裕はない。俺とアルの2人がかりでこの骨を抑え込むのが精一杯だし、それすら余力がある訳じゃない。誰でも良いから、早く増援が来てくれ! この骨を瘴気の塊に行かせるのは本気でヤバい気しかしないんだよ!
「……久しぶり……ルアー」
「風音さん!? ……灰の群集から参戦ってどういう事だ?」
「……対人戦に……戻る覚悟は……決めた」
「そう……か。それ自体は良かったが……こういう形で会うとはな」
「……今は……灰の群集として……全力で行く!」
「ハハッ! 上等だ、風音さん!」
あー、風音さんとルアーは面識があるのか。まぁルアーも色々言われた側だったはずだし、その辺は何かあってもおかしくはないもんな。……でも、こういう余裕がない時は止めてほしくなかった再会ー!
「詳しい事は分からねぇが、いくぜ! 『ウィンドインパクト』!」
「させないよ! 『アイスウォール』!」
「ライさん、隠れても無駄なのさー! 『狙撃』!」
「うおっ!? 相変わらずどうやって見つけて……って、おわっ!?」
「話してる暇は与えないかな! 『爪刃乱舞』!」
「その言葉、そっくり返すぜ! 『回鱗刃乱舞』!」
「……押し潰す! 『アースインパクト』」
俺とアルで骨を抑えてる間に乱戦が始まった。だー! ここからどうにかするには増援が来ないとどう考えても無理だぞ! それまでこの骨を抑え込めるかどうか、それ自体が怪しいんだけど!? なんなんだよ、この馬鹿力!
そもそも、こいつはどうしてしまうのが正解なんだ? 群集支援種を支配しようとしてる骨が瘴気の塊まで行ったら、一体何が起きる? 状況的に考えると成熟体への進化が発生しそうだけど、仮にそうなった後ってどうすればいい? 情報が足りなさ過ぎて判断が出来ん!
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