第1080話 大乱戦 後編


 弥生さんとシュウさんがジャングルの奥から出てきたと思えば、いきなり弥生さんに銀光を放つ弾が着弾して吹っ飛んだ。え、でもよく見たら弥生さんのHPは思ったほど減ってない? ……今の弥生さんの挙動、ちょっと違和感はあったけど何をどうした?


「弥生、大丈夫だね?」

「少し勢いは殺しきれなかったけど、大丈夫だよ、シュウさん! あはは! あははははは! あははははははははは! いいね、いいね、いいね! それでこそ、大乱戦!」

「今のを真っ正面から凌ぎますか!?」

「……口で咥えて、勢いを殺すように自分から跳ぶとかどういう反射神経をしてやがる!」


 うげっ!? さっきの弥生さん、そんな真似をしてたのか! てか、それを見極められる斬雨さんもヤバいんだけど――


「あはははははははははははは!」

「弥生、補佐するよ。『ウィンドエンチャント』!」

「まずは、誰からいこうかなー! あははははは!」

「ぐはっ!? なんで!?」


 って、弥生さんがライさんを吹っ飛ばしたー!? シュウさん以外は本当に敵味方の区別なしに暴れ回るっぽいな、弥生さん! だー! ここまで派手な乱戦になったなら、もうコソコソ動いてても仕方ない!


「アル! ここで真正面から戦うのは得策じゃないから、空中は移動だ! 紅焔さん、辛子さん、他の増援の人は来るか!?」

「俺ら2人が先行しただけでライルとカステラは向かってきてるぜ! リーダー達や他のPTも移動中のはずだ!」

「おし、了解! とりあえずみんな、アルに乗れ! それとみんなでサクヤを探せ!」

「小型化解除! 急げ!」

「あ、いつの間にかいないかな!?」

「了解なのさー!」

「イブキさんもいないよ!?」

「……ドサクサに紛れて……消えた?」


 ここでとんでもない集団の中の乱戦で無理に戦う必要はない。元々、赤の群集の群集支援種のサクヤを確保するのが目的だったんだし……そっちを最優先! てか、いつの間かイブキもいなくなってるんだけど、どこ行った!?


「あははははははは! 逃がさな――」

「「『エレクトロインパクト』!」」

「っ! あはははは! 来たね、来たね、来たね! 獲物が続々と!」

「ここは我らが食い止めようぞ! なぁ、疾風の! 『紫電一閃』!」

「おうともよ! なぁ、迅雷の! 『サンダースピア』!」

「また増援ですか! 『アースディヒュース』!」


 電気を纏う龍の疾風さんの背の上に電気を纏うライオンの迅雷さんがきたけど、喜んでるだけじゃどうにもならない状況じゃん! 風雷コンビはどっちも溜めに入ってるっぽいし、拡散魔法には拡散魔法で対抗だ!


<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 52/96(上限値使用:15): 魔力値 236/282


 よし、俺らの方に向かってきてる全方位へ砂を叩きつけるみたいなのは俺の魔法で相殺出来た。相殺出来るのはお互いにぶつかった部分だけになるっぽいけど、まぁ灰の群集のメンバーへの被弾は防げた。


「ルアー、ライ、離れるぞ!」

「おう!」

「うわっ!?」

「あははははははははははは!」

「これは厳しいね。『並列制御』『ウィンドエンチャント』『ウィンドウォール』!」


 赤の群集の方は……距離を取っているのと、真っ向から銀光を放ちつつ相殺してるのと、普通に防御してるので思いっきり人によってバラバラだね。てか、ガストさん達は俺やジェイさんの魔法から離れたというより、弥生さんから離れてない?


「辛子! 俺らはガストさん達を抑えに行くぞ!」

「おう! ケイさん達はなんとか例のやつを捕獲して、作戦通りに行ってくれ!」

「ほいよ!」


 元々、サクヤを捕獲して安全圏まで連れて帰って様子を見るのが作戦だからね。運ぶ間の護衛として増援を頼んだ訳だけど、想定外過ぎる乱戦になってしまってる!

 ともかく今はサクヤをもう1度見つけ出して……って、獲物察知が機能してない!? でも、極端に離れてるとは思えないから近くにいるはず。


「例のやつ……先程サクヤとか言っていましたね……? 確かプレイヤーにそのような方もいた筈ですが、さては群集支援種ですか?」

「そんなもん教えるか!」


 サクヤってプレイヤーがいる事自体知らなかったけど、ここでそんな情報を教える訳ないだろ! って、言ってる場合じゃない! あー、もうこうなったらいっそみんなで総攻撃して敵は一掃した方が良いのか? 人数的には有利なはず……だけど、消耗が激しい過ぎる!

 てか、冗談抜きでサクヤはどこ行った!? イブキは……別にいる必要はないけど、どこに消えたのかも気になるし……。


「あっ! イブキさんが、サクヤを咥えて飛んでいってるのです! 結構遠いのさー!」

「持ち去ったの、イブキかよ! アル、追いかけろ!」

「おう! ハーレさん、どっちだ!」

「北の方なのです!」

「ここから北か。ある意味、イブキにとっては良くない方向にはなるか」

「……だな。サヤとハーレさんはイブキの方を見失わないようにしといてくれ! 攻撃が届くようになったら、攻撃で! 無理に当てなくてもいい!」

「了解です!」

「分かったかな!」


 南に行ってくれる方が俺らとしてはありがたかったけど、ここから北なら溶岩で空き地にしてしまった場所になる。マサキの捜索をしてる人達は北の方にいるし、赤の群集の集団もいた方向。無所属のイブキには味方はいないから……状況次第ではそのまま乱戦になりそうだな!


「アル、そのまま北までイブキを追い込むぞ! 風雷コンビ、ここは任せた!」

「「任せておけ!」」

「それじゃいくぜ! 『自己強化』『高速遊泳』!」

「逃がしませんよ! 斬雨、出し惜しみはせずに属性変更を! 移動は私が! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「見せるのが早い気もするが、仕方ねぇか! 纏氷解除、『纏属進化・纏風』! 『白の刻印:守護』『断風』!」

「はい!?」


 ちょ、今の今まで氷属性になってた斬雨さんが、風属性に纏属進化のし直し!? しかも、ジェイさんの用意した土の上に乗った状態で緑色の混ざった銀光を放ち出すってどういう事!?

 それに加えて、白光も放ち出して六角形のバリアみたいなマークが出たんだけど……『白の刻印:守護』の効果は聞いた覚えがあるはず。えっと、確か……あ、そうだ! チャージのキャンセル防止の効果があるやつ……って、今使われたら最悪なやつじゃん!


「……先にやられた!」

「これって風音さんがやろうとしてた事かな!?」

「あ、そういやそうか!」


 纏属進化で一時的に得た属性を使って、応用複合スキルの取得を試す事だったよな。それを実際にやってるのが、今の斬雨さんか! これ、相当厄介な手段だろ!

 くっ、イブキがいる前方ばっか気にしてられないか。今ならジェイさんが移動に専念してるし、チャージの妨害が出来ないのはキツい! 溜めてる間に倒し切る……のも、この状況じゃ厳しそうだな!


「あははははははははは! みんなして……どこに行くの?」


 怖っ!? 今、後ろから聞こえてきた弥生さんの声が怖っ!? いやいやいや、サクヤを確保する為にイブキを追いかけないといけない状態で、弥生さんを真っ向から相手にするのは嫌過ぎるんだけど!


「我らが相手だ! 行くぞ、疾風の!」

「おうよ! 迅雷の!」

「あはははははは! ……邪魔!」

「「ぐぅ!」」

「風雷コンビ!?」

「支援するのです! 『拡散投擲』!」


 ブラックホールで風雷コンビの動きを鈍らせて、どっちの大技も躱して、その上で地面に向けて叩き落とすとか無茶苦茶過ぎるわ! いや、でも風雷コンビもすぐに体勢を立て直して――


「弥生の邪魔はさせないよ。『並列制御』『アースクラスター』『アースウォール』!」

「「何!?」」

「あぅ!? 防がれたのです!?」

「……貴方もLv10の魔法ですか、シュウさん!」

「ジェイさんが言う事じゃないよな!」

「ケイさんにも言われたくはありませんけどね!」


 そりゃごもっとも! でも、俺にとってはシュウさんが土魔法Lv10だというのは、むしろ都合が良い話! ジェイさんとは別に対策を考えなくても済むんだし、ジェイさん自体が土属性の魔法が非常に使いにくくなったはず。

 てか、風雷コンビは大丈夫か? あ、普通に空から叩きつけてくる岩を回避してるし……って、追尾されてるから魔法砲撃で思いっきり照準をつけられてたんかい! ん? それにしては変な挙動を……って、考えてる場合じゃない!? 俺らは俺らで斬雨さんに狙われてるんだった!


「……ケイさん、隙を作って。……白の刻印は……消す。……黒の刻印は……消去に設定してる」

「ほいよっと!」


 ははっ! 小声で風音さんが伝えてくれたけど、あの白いバリアマークを消す手段を風音さんが持ってたよ! だけど、もうチャージが終わる寸前まできてる気がする。ここから風音さんが黒の刻印で白の刻印を消す……って、そもそもどういう手順でやるの!?


「何か企んでるようだが、もう遅いぜ! 斬り落としてやるよ! おらぁ!」

「アル、上に旋回! ヨッシさん、アイスプロテクション!」

「それしかねぇか! 『旋回』!」

「了解!」

「わわっ!?」

「きゃ!」


 うおっ!? 急な真上への旋回はキッツいな! でも、その急な挙動と、ヨッシさんが思考操作で防御を間に合わせてくれたから、アルのクジラは真っ二つにならずに済んだ。てか、落ちる、落ちる!?


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 59/96(上限値使用:15): 魔力値 241/282

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 56/96(上限値使用:15)


 大急ぎで水のカーペットを展開して、落ちかけたみんなの確保! 咄嗟の事過ぎて、みんな上手く飛べてないし、俺自身も落ちかけてたけど、なんとかセーフ! 本当に危ないな!?


「まだだ! 『連風――」

「あははははは! 追いついた!」

「なっ!? 弥生――ぐふっ!」

「斬雨!」

「次はジェイさんの番だねー? あはははははは!」

「本当にどういうプレイヤースキルをしてるのですか、貴方は! がはっ!」

「あははははは! 次、次、次!」


 ちょ、俺らが緊急回避をしてる間に斬雨さんとジェイさんが2人ともジャングルの中に叩き落とされた!? いやいやいや、どんだけヤバいんだよ、暴走状態の弥生さん! この前に負けた時よりもヤバくない!?

 でも今の弥生さんは空中に駆け上がってきてるから、これはチャンスでもある! 失敗したらヤバいけど、そこは一か八かだ! アルの体勢は元に戻ったし、水のカーペットは解除! みんながちゃんと着地出来るかの確認をしてる余裕がないから雑なのはすまん!


「風音さん、ブラックホールを並列制御で発動はいけるか!?」

「……並列はもう無理。……単発なら」

「贅沢言ってる場合じゃないか。それで弥生さんの足止めを頼む!」

「……分かった! ……『ブラックホール』」


 流石に消耗してる現状では、並列制御で使うのは無理だったかー。まぁそれでも単発で使えるなら動きの阻害は出来るはず。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値10と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 49/96(上限値使用:15): 魔力値 211/282

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値20と魔力値30消費して『水魔法Lv10:アクアクラスター』は並列発動の待機になります> 行動値 29/96(上限値使用:15): 魔力値 181/282

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 両方のハサミで魔法砲撃にして、12連発の照準の水滴を2倍、最大速度で撃ち放つ! 狙いはもちろん、ブラックホールで動きが鈍ったところを――


「弥生の邪魔はさせないと、何度でも言うよ? 『レイ』!」

「光魔法!?」


 くっ、シュウさんは光属性のみの魔法型なんだし、この可能性は考えておくべきだった! いや、風音さんのブラックホールが相殺されたけど決して無駄じゃない! それだけシュウさんの魔力値を削れたって事になる!

 ともかく今は弥生さんにどうにかアクアクラスターの水滴の照準を……って、全然当たらない!? くっ、弥生さん相手に狙いがバレバレな魔法砲撃を当てるのは無理か。これなら普通にぶっ放して問答無用で撃ち込んだ方がマシだったかも……。


「あはははははは! いいね、いいね、いいねー! でも、その程度じゃ当たら……っ!」

「いや、回避に専念させただけで十分だ。『重爪刃・連舞』!」

「ベスタ!? それにダイクさんとレナさんも!」

「ここは任せろ。レナ!」

「了解! 今日は倒させてもらうからね、弥生! 『並列制御』『回蹴・重爪脚』『重脚撃』!」

「あははははははははははははははは! ……全力でいくよ、レナ!」

「ちょ!? 俺、逃げていい!?」

「いい訳ないでしょ! みんな、弥生の相手は任せなさーい!」

「ベスタ、レナさん、ダイクさん、任せた!」

「やっぱり俺は場違いだー!?」

「ケイ、とりあえずアクアクラスターは最後までぶっ放していけ! 当たりはしなくても動きの制限はかけられるからな!」

「ほいよっと!」


 なんかダイクさんの悲鳴が聞こえているけど、そこは頑張ってくれとしか言いようがない。とにかく弥生さんの動きを妨害する為に、アクアクラスターの13発目を両方発射! これでベスタ達の支援になってくれれば良いんだけど……そこはベスタ達を信用しよう。

 というか、あのメンバーで無理なら弥生さんはもう止められないぞ……。シュウさんの支援ありの弥生さん、昨日よりも相当強いしな。


「みんな、イブキの方はどうなってる!?」

「……少し先のところに墜落したかな」

「それから動く様子は今のところ無いのです!」

「はい!? え、なんでそんな事になってんの!?」

「あー、どうも避けた斬雨さんの断風が当たったみたいでな?」

「……あはは、そんな偶然もあるんだね」

「……ラッキー?」

「そんな事になってたのかよ!? いやまぁ、確かにラッキーだけど!」


 まさかギリギリで回避したあの攻撃が、イブキに命中していたとは……。てか、それってあの攻撃の有効範囲はかなり長くない!? うっわ、改めて考えると恐ろしいんだけど……。


「とりあえず状況は分かった! ベスタ達が弥生さんを押さえてくれてる間にイブキのとこまで急ぐぞ! それまでの間に、可能な範囲で各自回復!」

「「「「おー!」」」」

「……うん!」


 敵は弥生さんだけじゃないし、他の群集の人達も地面に落とされただけで全員が倒されてる訳でもない。俺らに対しての攻撃が途切れた今のうちに、なんとかサクヤを再び確保しないとな!

 もし邪魔をするなら、イブキは仕留めてしまうのみ! その為にも減ってるHPと魔力値を回復させておこう。……行動値の回復は、非戦闘時の自然回復に任せるしかないな。

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