第1063話 検証の為の模擬戦 その2
『アブソープ・アクア』の効果範囲は大体把握。他の種族でどうなるかは実際に試してもらわないと確実な事は分からないけど、少なくとも同調でも同調相手に自体に効果は出ないという情報は貴重なはず。
ウォーターフォールで俺の魔力値は空っぽにしたし、吸収する為の準備は完了。過剰魔力値については後からやるとして、まずは普通の水魔法の吸収からだな!
「さて、今度は吸収の実験をやっていくぞ!」
「そりゃ良いんだが、どの魔法をぶっ放せば良いんだ?」
「とりあえず手始めにアクアボールで! 生成したのは後から!」
「本当に手始めだな。ま、それでもいいが……いくぜ! 『アクアボール』!」
「おっしゃ、こい!」
そうしてアルが撃ち出したアクアボールが、水の膜に当たって消滅していった。うっわ、全然なんともない。これってやっぱり、水魔法に対する圧倒的な防御性能があるよな。
「ケイさんの『アブソープ・アクア』に、アルマースさんの『アクアボール』が呆気なく完全に吸収されたー! 今の吸収結果はどうなっていますか!?」
「えーと、魔力値が3回復してる。アルのアクアボールって魔力値の消費は?」
「……聞かなくても分かってるだろうが、魔力値の消費は6だな」
「あ、やっぱり?」
ふむふむ、アクアボールでは大した吸収量にはならなかったけど、もっと魔力値の消費の多い魔法を吸収してみれば、正確な吸収割合は分かってくるはず。生成魔法の場合がどうなるのか気になるけど、あれはそもそもの性質が少し特殊だから後回し。
「これ、吸収量は相手が魔法に使用した魔力値の半分になんのか?」
「……その可能性は……高いけど……判断するには……まだ早い」
「そこは風音さんの言う通りだねー! それじゃアルさん、次々行ってみよー!」
「ここからは吸収量の確認という事になりますね!」
さーて、それじゃ次々とアルの水魔法の吸収をやっていきますか! 支援系の魔法も吸収出来るのか、その辺も気になるよなー。
「ケイ、次はどうする?」
「とりあえず水魔法のLv3からLv7まで、続けてやっていく感じでいいんじゃね?」
「ま、それが妥当なとこか。それじゃLv3をいくぞ。『アクアプリズン』!」
アルの発動した拘束魔法のアクアプリズンは、俺のアブソープ・アクアに触れた瞬間に吸収されて消えていった。ふむふむ、本当に水属性の魔法は無力なものになってるね。
「回復した魔力値は……4か。端数は切り捨てっぽい?」
「消費魔力値は9だから、そういう事になるな」
ふむふむ、一応全部で確認していった方が良いだろうけど、今の時点でも少なからず傾向は見えてきた。というか、少しの間は単なる傾向の確認作業だな、これ。
気になる事もあるにはあるけど、そっちはまだどうなるかは分かってないしなー。
「ハーレさん、とりあえずLv7まではサクサクやっていくから、解説とかはその後で良いか?」
「光景自体は大して変わらない気もしますので、その方が良いかもしれませんね! それで了解しました! 少々退屈な光景かもしれませんが、皆さん、お付き合いをお願いします!」
「いや、退屈な光景って……そりゃ大体の結果は予測出来てるから、気持ちは分かるけど!」
「……ケイ、さっさと終わらせようぜ。他にも気になる案件はあるしな?」
「それもそだなー」
「それじゃ次はこれだ! 『アクアボム』!」
これも見事に、水球が爆発すると同時にその爆発そのものをあっさりと吸収していった。アブソープ・アクア自体に耐久値が存在しないのは、割と重要な部分な気がする。これって、破壊する事は可能なのか? んー、まぁそれも後だな。
「今回の魔力値の回復量は6だな」
「やっぱりか。おし、次いくぞ! 『アクアウォール』!」
ん? アルが俺の前ではなく、自分の目の前に水の防壁を展開したね。まぁ防壁魔法なんだから、実戦的に確かめるならこの方がいいか。
「この場合、俺が近付いていく方がいい?」
「そのつもりで展開してみたが……問題あったか?」
「いや、それは問題なし。とりあえず普通に歩いて、触れてみるかー」
って事で、アクアウォールの前まで歩いていって、アブソープ・アクアの水の膜に触れさせてみる。おー、耐久値とかお構いなしに一気にこれも吸収していった。
「ふむふむ、防壁魔法の突破も楽勝か。ちなみに今回の吸収量は7だったぞ」
「消費が15だから、やっぱり吸収量は使用量の半分で、端数は切り捨てみたいだな。それにしても、防御すらもここまで無力化されるか……」
「思った以上に、吸収自体も早いもんな」
水の膜に触れた瞬間に、とんでもない速度で吸収してしまうんだから恐ろしい。しかも、まだまだ俺の魔力値は回復する余地があるからなー。
「次はこれだな。『アクアインパクト』!」
「こいやー!」
アルによって叩きつけられたアクアインパクトも、何の衝撃を感じることもなく即座に吸収していった。少しの衝撃すらないとは……。
「えーと、今の吸収量は9だな」
「今の消費は18だし、まぁそこはここまでの傾向通りか」
「だなー。さて、次が通常の魔法では最後!」
「おうよ! 『アクアエンチャント』!」
敵への付与魔法は、同属性の相手に使った場合はその属性の強化になってたはず。さて、ここは……うん、思いっきり吸収していって、付与魔法の効果は一切出なかった。
「えーと、今の吸収量は10だけど……正直、ここは吸収されなくてもよかった気がする……」
「あー、敵からの同属性付与は状況次第とはいえ、決して悪い効果だけではないもんな」
「そうなんだよなー」
俺のコケへ敵から水属性の付与が行われたら、雷属性への耐性が下がるけど、その代わりに水属性の強化になるもんな。土属性も持ってるから雷属性への耐性は高めだし、メリットの方が多いはず。
いや、実際に付与されて使った事がないから絶対とは言えないけども。でも、付与魔法の吸収に関しては決してメリットだけとも言えないかー。
「今ので現状で確認出来る普通の魔法に対しての吸収効果の確認は終わりましたね! 解説の皆さん、今の結果は如何でしょうか?」
「んー、ケイさんとアルマースさんも言ってたけど、付与魔法に関しては必ずしも良い事だけとは言えなさそう。でも、基本的には水魔法への強力な耐性を得ている感じだね」
「……今の段階では……使える人は相当限られる。……だけど……偽装が出来る事も含めて……相当厄介」
「だよなー! あー、あと2個、どこかでスキル強化の種を手に入れたら『アブソープ・ファイア』を手に入れてやる!」
「火属性が『アブソープ・ファイア』で名称が正しいのかは分かりませんが、その辺りは紅焔さんに期待しておきましょう!」
その辺は紅焔さんらしい反応ではあるし、火属性の魔法に関してはカインさんに並ぶ第一人者なんだからそこら辺は期待しておこう。まぁ紅焔さんは火属性好きではあっても、魔法特化型ではなくバランス型で近接攻撃も使うから、その辺の育成のバランスが難しいのかもしれないけどね。
俺だって、ロブスターの方はコケの魔法に比べたら相当劣ってるもんな。実戦で使えないレベルではないけど、オールラウンダーとして成立させるにはまだまだ遠い。
「さて、『アブソープ・アクア』は相当厄介な性質を持っているという事が分かりました! どうやら吸収した後の魔力値の回復量は、使用した魔法の消費魔力値の半分を吸収して、端数が出た場合は切り捨てという事のようですね!」
「……下手にこの系統のスキルを……持ってる人へは……同じ属性で……攻撃しない方がいい。……偽装を見破るには……他の属性か……魔法以外で……やるべき」
「ただ、偽装でなく本物であっても、回避に動かれると見分けがつかないだろうねー!」
「レナさん、それはどういう事でしょうか?」
「んー、例えばケイさんが『アブソープ・アクア』を展開した上で、水魔法を躱したらどう思う? あ、『アブソープ・アクア』を持っているという事を知らない前提で考えてね」
「あー、それだと移動操作制御での偽装を破られないように躱した風に見えるな。……あれ、水魔法を避けたら、余計にその疑惑は大きくなるのか?」
「紅焔さん、正解! それで偽装だと思わせて、水魔法でも大丈夫だと判断して大技……それこそウォーターフォールとかの大技を使ってきたところを吸収してしまうとかね?」
「……偽装っぽく見せかける……本物の運用方法」
あー、確かにそういう使い方もありか。持ってる事が確定すればそもそも同じ属性の魔法は迂闊に使えないし、確定でなければそういう騙し打ちも可能になるもんな。あれ、ちょっと待てよ?
「今ので思いついた事があるから、ちょっと言ってみていいか?」
「……ケイ、何を思いついた?」
「えーと、他の偽装での運用?」
「どうやらケイさんが何かを思いついたようなので、説明をお願いします!」
「どんなのだろうねー?」
「……期待!」
「ケイさん、期待してるぜ!」
おー、レナさんも風音さんも紅焔さんも思いっきり食いついてる。俺としても折角思いついた手段なんだから、食いついてもらった方がありがたいしね。
さて、それじゃ説明していきますか。とは言っても、俺だけで思いついた内容って訳でもないんだけどね。
「ヒントになったのは、風音さんがジェイさんの『アブソープ・アース』を砂の操作と魔法吸収の並列制御と誤認した事。単純に言えば、発声ではアブソープ系の名前を言いつつ、その裏で思考操作にして実際には魔法吸収で吸収する」
「ほう? 要するにアブソープ系のスキルを持ってるように偽装しようって話だな?」
「アル、正解!」
多少、挙動は違うようになる気はするけど、それでも誰もが実物を見てるとは限らない。ハッタリとして使うには十分ありな選択肢になるはず。
「……植物系しか……魔法吸収は……使えない」
「およ? 風音さん、それは情報が古いよ?」
「レナさん、それはどういう事でしょうか!?」
あ、そういえばそんな情報もあった気がするけど、完全に忘れてた……。でも、その情報が古いって事は、他の種族でも魔法吸収を得る手段がある?
「えっとね、魔法吸収が植物系でしか使えないのは確定でいいの。でも『同属喰い』と『魔喰い』ってスキルが、他の種族で使える事は判明してるよ」
「それはどちらも聞いた事はありますが、どういう違いがあるのでしょうか!?」
「『同属喰い』はまぁ似たような名前のスキルがあるから例に出しただけで、性質としては異なるんだけどね。こっちは、同じ属性の敵に対して捕食攻撃を行う事で魔力値の回復を行うスキルなの」
ふむふむ、いつか岩山エリアで戦った土属性のドラゴンが使ってきてたスキルが確かそれだったはず。それで『魔喰い』の方は、グラナータ灼熱洞でフェニックスが使ってたって話だっけ?
「それに対して『魔喰い』は、同じ属性の敵から魔力値をそのものを食べる事と、操作されてない同じ属性の魔法を食べる事が出来る補助スキルだね。ケイさんの偽装案で使うなら、『魔喰い』で魔法を食べるのが良いかも?」
ほほう、そういう使い方も出来るのか。魔法吸収だけで考えてたけど、これはこれで貴重な話だね。そういえば纏樹や纏草を使ってる最中なら、魔法吸収も動物系でも使えたりするんだろうか? んー、コケがいる俺には無縁な話ではあるから、何とも言えないとこだな。
「ちなみにどっちも応用スキルで『同属喰い』なら特性に『大食い』が、『魔喰い』なら特性に『魔喰い』が必要になるよ」
「なるほど、そういう違いがあるのですね! 解説、ありがとうございました!」
あー、『魔喰い』って攻撃用のスキルではないのか。そこはちょっと意外だったけど、敵の魔力値や操作されてない魔法そのものを食べられるってのは大きいかも?
「……魔力値の回復手段……意外とある?」
「うん、あるにはあるよー。ただ、その中でぶっちぎりの性能をしてるのは、今検証中のアブソープ系だね」
「確かに、同じ属性の魔法へ絶対的な性能をしてるもんな」
「……Lv8からLv10までの……魔法を吸収したら……どうなるか……気になる」
「気にはなるけど、流石に今はそれは厳しいよ?」
「現状では貴重なスキル強化の種の使用が絶対条件なので、そこまで魔法のLvを上げる事自体が難しいですからね!」
うんうん、俺だって全部注ぎ込んだからこそ到達出来たとこだもんな。魔法だけに注ぎ込めばいいってものでもないし、そもそも個数が足りないという事も……って、あれ?
「ふと思ったけど、アルって地味に水魔法Lv10に出来るんじゃ?」
「あー、出来るには出来るが……貴重なスキル強化の種なのに、同じPTで属性を被せる意味があるのか? やるとしても、別属性の方がいいだろ」
「……確かにそりゃそうだ」
検証という意味ではやってみたいとこではあるけど、実用性という意味で考えるならPTの中では分散させた方がいいのは間違いない。数があるなら別だけど、そういう訳でもないしなー。
「さて、他にLv10の魔法に至る方が出てくるかは今後の動向次第になりますので今は置いておきましょう! 普通の魔法の吸収についてはこの辺りで終了でよろしいですか?」
「問題ないぞー」
「だな。ケイ、次はどうする?」
「とりあえず、生成した水を操作したのがどうなるかを試したいとこだなー」
「あぁ、それは俺も気になってたとこだし、次はそれでいくか」
「なら、それで決定で!」
水の操作や水流の操作の支配下にある、魔法産の水に対しても吸収が有効なのかは非常に気になるところ。それすらも吸収出来るとしたら……冗談抜きで俺はジェイさん相手に土属性の魔法を使った攻撃が一切出来なくなる。
逆に操作さえしてしまえば吸収出来ないのであれば、岩の操作でジェイさんのコケをすり潰すという戦法は有効だ。カニの方も岩で串刺しにするとかも出来るはず。
「さぁ、次の検証案件が決まりました! 操作された魔法産の水に影響があるかどうか、非常に気になるところです!」
「うん、これは相当大事な内容にはなってくるね」
「……攻撃手段の……幅が大きく変わる」
「どうなるかが見逃せないとこだな!」
他の人達からもざわめきの声は聞こえてきてるし、みんなの反応はそうなるよなー。さっきまでの普通の魔法の吸収と違って、この成果によって大きく意味合いが変わってくるしね。
あ、そういえば魔法砲撃にした場合もどうなるかは気になるところ。でも、アルって魔法砲撃は持ってなかったような気がする? うーん、まぁ今はアルと2人で検証出来る範囲でやっていきますか。
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