第1062話 検証の為の模擬戦 その1


 今回の模擬戦機能を利用した検証をするのはいいけど、説明に無かった手段がいきなり提示されてビックリしたわ! いや、まぁそのやり方が悪いとは思わないから反対する気はないけども……。


「ケイさん、アルマースさん、進めていってもよろしいでしょうか?」

「あー、うん、今の言ってたやり方でいいぞ……」

「流石に俺としても先に言っておいて欲しかったが、まぁやり方自体には賛成だ」

「ケイさん、アルマースさん、ごめん! その提案はわたしからだったんだけど、PTに入る前だったから2人に聞こえてないのは失念しちゃってた?」

「「発案、レナさんかい!」」

「……あはは、ごめんなさい!」


 思いっきりアルとツッコミが被った。あー、言ってたつもりになってて、実は伝わってたなかったパターンだったか。


「まぁ別に異論自体はないし、ミスならどうこういう気はねぇぞ。ケイ、それでいいな?」

「だなー。ハーレさん、先に進めてくれ」


 誰にだってミスはあるし、済んだ事は仕方ないからなー。俺だって何度もミスはしてるんだし、変に責め立てたところで何の意味もない。


「はーい! さて、早速でありますが、ケイさんの発動した『アブソープ・アクア』……この見た目、解説の皆さんはどのように判断しますか!?」

「正直、嫌な使い方はすぐに思いついたんだけど……紅焔さん、風音さん、その辺はどう思う?」

「嫌な使い方っていうと、発声なしの思考操作で移動操作制御に登録した水の操作を使って偽装は出来そうだよな」

「……うん。……この見た目なら……Lv10までなってなくても……ハッタリで使える可能性は……ある。……ジェイの『アブソープ・アース』を……見た時……砂の操作と……魔法吸収を……なんで同時に使うのか……不思議に思った……くらい」

「やっぱりそうだよね。うん、これは偽装が出来る可能性があるから、思った以上に厄介かも?」


 実況風に色々言われるのかと少し覚悟したけど、大真面目に分析してたよ!? あー、その辺の見解はみんな同じか。……これはジェイさん、厄介な事を仕込んでいったな!?


「それはそうとして、ちょっと言うべきか悩んだんだけど一言いい?」

「はい! レナさん、どのような事でしょうか!?」

「スキルの性能としては全然問題はないんだけど、『アブソープ』じゃなくて『アブソーブ』じゃない? これが『アブソープション』なら問題ないんだけど、誤植かなー?」

「おーっと、まさかのスキル名の誤植疑惑だー! なんとも言えないところです!」

「うん、まぁ本当になんとも言えないとこなんだけどね」


 え、そんな違いがあったの? うっわ、全然気付かなかった!? これは後でいったんに報告をすべき案件かもしれないなー。うん、でもまぁスキルの性質とは全然関係ない内容ではあるね。


「誤植疑惑はありますが、現状のスキル名は『アブソープ』となっていますのでそのまま『アブソープ』と呼ばせて頂きます! そしてスキル自体は厄介な分析となりましたね! ケイさん、アルマースさん、それぞれにご意見をいただいてもよろしいでしょうか?」

「ほいよっと。とりあえずあの時に、ジェイさんが『アブソープ・アース』を使った狙いは何となく分かった。俺らをハッタリか本物か分からないように警戒させて、魔法での攻撃の選択肢を狭める為っぽい」

「……確かにそうだろうな。あの状況で、まだ罠を仕掛けてくるとは……」

「おおっと、確かにその可能性はありそうですね! やはり今回の青の群集は侮れないようです!」


 いや、ほんとあの状況から、よくそんな手を思いつくもんだよ。少なくとも俺はジェイさん相手に土魔法全般は迂闊に使えなくなったし、岩の操作でコケをすり潰すのは不可能になったと思っていい。

 それにジェイさんだけではないという可能性もあるし、他の人が同じような見た目にしてアブソープ系のスキルを持っているように偽装してくる可能性も否定出来ない。あー、本当に敵に回すと厄介だな、ジェイさん!


 ともかくジェイさんの思惑がなんであれ、俺らは俺らで『アブソープ・アクア』の性質について正確に把握しておかなければ危険過ぎる。何が出来て、何が出来ないのか、まずはそれを調べる事が先決だ。


「あー、森林エリアのツキノワだ。確認したい事があるが、少し良いか?」

「おっ、ツキノワさんか。ハーレさん、質問がきてるから少し進行はストップで!」

「了解しました! えっと、どうやら模擬戦の最中でも共同体のチャット機能を有効にする事が出来るそうなので、アルマースさん、そちらで内容を教えていただけますか?」

「あぁ、そういやそんなアップデートもあったか。……おし、これだな。ケイ、承認してくれ」

「ほいよっと!」


 模擬戦中の共同体チャットの表示の許可って項目の承認申請がアルからきたから、これは承認っと。なんだか模擬戦機能に検証用の項目が色々と追加されてるんだな。


「待たせた、ツキノワさん! それで確認したい事ってなんだ?」

「偽装が出来そうなのは分かったが、そもそもの有効範囲ってどの程度のものだ? 種族によって効果範囲が変わる可能性は? コケのスキルがロブスターの範囲もカバーしてるのか、単純にコケの効果範囲がロブスターも包み込む広さの効果範囲になっているのか、どっちだ?」


 あー、その辺もまだ全然分かってない範囲の内容なんだよな。その辺は俺も気になってたし、まずはそこから調べていきますか!


「えーと、森林エリアのツキノワさんからの質問ですね。簡単にまとめますと『アブソープ・アクア』の効果範囲の判別という内容となります!」

「その辺は大事な内容だから、吸収の検証を始める前にそっちからやっていく! ツキノワさん、それでいいか?」

「あぁ、頼む」


 すぐにハーレさんが見ている人達にツキノワさんからの質問内容を伝えてくれたし、アルが手早く共同体のチャットで伝えてくれたんだろうね。ナイス、アルとハーレさん!


「それじゃ、効果範囲の確認をやっていくぞ!」

「ケイ、具体的にはどうやる気だ?」

「とりあえず、その辺のコケを群体化してみる。それで群体全てに影響があるかどうかが分かるはず」

「……なるほど」


 試し撃ちの的があった方が良いと思って森林エリアにしたけど、こういう流れになるならコケが結構ある森林エリアにしておいて正解だったね。見通しだけを気にして草原エリアにしてなくて良かった。


「3ヶ所くらい、離れた別々のコケを群体化してみるぞ!」


 見ている人が結構いるんだろうし、今回は出来るだけ何をするのかを説明しながらやっていこうっと。


<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 94/97(上限値使用:10)

<行動値を3消費して『群体化Lv3』を発動します>  行動値 91/97(上限値使用:10)

<行動値を3消費して『群体化Lv 3』を発動します>  行動値 88/97(上限値使用:10)


 ふむ、3ヶ所にバラけて群体化させたコケには、どれも水の膜は出てこないって結果になったか。群体全てに効果が反映されている訳じゃないんだな。


「ケイさんが群体化したコケには、『アブソープ・アクア』の効果は出ていないようですね? これはどういう事でしょうか?」

「んー、コケの核から離れた部分には影響が出てない感じかなー? ケイさん、群体化させたコケと、核のあるコケを触れさせてみたらどうなるかも試してもらっていい?」

「ほいよー。ちょっと試してみる」


 さてと、地面のあるコケに触れやすいようにロブスターの表面のコケを増殖させとくか。無駄になってもいいから、多めに増殖させとこ。


<行動値を5消費して『増殖Lv5』を発動します>  行動値 94/97(上限値使用:10)


 うぉ!? なんかあっという間に行動値が全快してた!? って、あれ? なんか水の膜の範囲が広がってるような? あ、地面にまで増殖したコケの表面にも水の膜が出てきてる!?


「おぉーっと!? 増殖してロブスターの体表面のコケが増えたら、効果範囲が広がりましたね!?」

「……コケの核に……繋がっているかが……重要?」

「ケイさん、とりあえずさっき群体化したコケに核を繋げろ!」

「もちろんそのつもり!」


 紅焔さんのテンションがちょっと上がる気持ちは分かるけど、そこは焦らない! とりあえず増殖で地面に広がったコケから離れたら……地面側に残ってるコケから水の膜は無くなったな。

 ふむふむ、そういう感じか。それなら、これなら多分水の膜は出てくるはず。一番近場で群体化したコケに、増殖したコケが覆っているロブスターのハサミを当てていく。お、やっぱりか! コケの表面から40センチくらい離れたところに展開されてるっぽいな。


「どうやら、コケの核に繋がる群体が効果範囲になるようですね!」

「なるほどねー。ねぇ、ケイさん。遠隔同調でロブスターから離れた場合はどうなるの?」

「……それは……気になる」


 なるほど、確かにそれをすればロブスター自体に影響が出るのかどうかの判別は出来るはず。てか、みんなが検証案件を出してくるから、俺が検証内容を考える必要がないな!? まぁたまにはこんな検証も良いのかも?


「おし、それじゃ遠隔同調でやってみるか!」

「……する事ねぇな、俺」

「アルの出番は後であるから!?」


 すぐに吸収の方を実験しようと思ってたけど、この効果範囲の確認も大事なんだから仕方ない! もし遠隔同調でロブスターから離れた上で『アブソープ・アクア』の効果がコケだけになるなら、それは確実に把握しておいた方がいいしね。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 97/97 → 82/82(上限値使用:25):効果時間 5分

<行動値を3消費して『群体内移動Lv3』を発動します>  行動値 79/82(上限値使用:25)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 とりあえず一番遠くの群体化したコケに核を移動させて……おぉ! コケの視点には水の膜が見えてるけど、ロブスターの視点には水の膜が無くなった。

 なるほど、ロブスターからは『アブソープ・アクア』の効果は出てないんだな。まぁ同調とはいえ、流石にこの性能のスキルまで同時に効果は出てくれないか。


「どうやらロブスター自体には『アブソープ・アクア』の効果は出ていないようですね!」

「背中に背負ったコケの『アブソープ・アクア』が、偶々ロブスターを覆ってただけか」

「この様子を見た感じだとそうなるねー! 逆に核があるコケの部分は、全体が水の膜に覆われるみたいだね」

「……極端に……種族にサイズ差があれば……カバーし切れない?」

「ケイさんのコケみたいに、覆う範囲を変動させられる種族の方が少ないしねー。どちらかというと、普通の共生進化や支配進化で使うなら繋がってる位置を変える事でカバーする感じになりそう?」

「極端にサイズ差がない方が、有効活用出来そうでもあるってとこか!」

「はい、皆さん、解説をありがとうございます! ツキノワさん、ご質問への実演での解答はこれでよろしいでしょうか?」

「おう、問題ないぞ」

「…………はい、問題ないようですね!」


 今のハーレさんの言葉には間があったけど、そこはアルが共同体のチャットでツキノワさんからの返事を伝えた事でのタイムラグなんだろうなー。

 まぁ少し手間はかかるけど、俺らの方に中継してる場所から見てる人なら誰からでも声が届く状況だしなー。色んな人がそれぞれに発言すると混乱するから、この手間は仕方ないか。


「それでは次の検証へ進んでいきましょう! 次はどのような検証にする予定でしょうか?」

「ケイ、次はどうすんだ?」

「あー、とりあえず普通に吸収をしてみたいけど……その前に魔力値を空っぽにしといていい?」

「そりゃ良いが、まずは普通の魔法からか?」

「ま、そういう事! 昇華魔法の吸収や、過剰魔力値については後でやる!」

「おし、その方針で了解だ。それじゃさっさと魔力値を空っぽにしてこい」

「ほいよっと!」


 さーて、魔力値を空っぽにするには非常に簡単だ! 単純に昇華魔法をぶっ放せば良いだけの事! えーと、使う属性は何にしよう? ここは何でも良いから、適当にウォーターフォールにしとくかー!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 81/82(上限値使用:25): 魔力値 271/274

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 79/82(上限値使用:25): 魔力値 268/274

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


<『昇華魔法:ウォーターフォール』の発動の為に、全魔力値を消費します> 魔力値 0/274


 完全にこれはただの無駄撃ちだけど、今は過剰に吸収しない状態を把握したい。その為には俺自身の魔力値は空っぽの方が分かりやすいもんな。

 それにしても、単独発動でのウォーターフォールの威力というか規模が大きくなってる気がする。2人での発動に比べるとまだまだ控えめにはなるけど、消費してる魔力値が増えてる分だけ威力は増えてるかー!


 遠隔同調ももう必要ないから普通に戻しておこう。5分程度で検証が全部終わるとも思えないし、特に意味がないのに2つも視界があっても仕方ない。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 82/82 → 82/97(上限値使用:10)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 よし、これでコケの核はロブスターの背中に戻って、『アブソープ・アクア』の効果範囲はロブスターを覆う形に戻った。

 基本的にはこの使い方が良さそうだけど、場合によっては遠隔同調でコケを群体塊にして、水魔法に向けてハーレさんにでも投げてもらうのもありかもね。ふっふっふ、いっそ俺自身がグリースで滑って、奇襲ってのもありか? まぁその辺はこの検証が終わってから細かく考えよ。


 ともかく魔力値は空っぽになったから、ここから吸収の実験をしていくとしますか! さーて、何をどういう風に吸収して、その結果でどれだけ魔力値が回復するのか、その辺は非常に気になるところ!

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