第1061話 検証の模擬戦の準備


 アルのクジラの背に乗って、エンの元までやってきた。さてと、今のエンの近くはどういう状況なんだろう? 意外とそんなには混雑はしてないみたいだけど、慌てて動いてるっぽい人がチラチラと見えている。


「アル、ちょっとだけこの辺の様子を見ていっていいか?」

「あー、別に模擬戦で混雑してるって訳じゃなさそうだし、別にいいぜ。俺も競争クエストへの反応は気になるからな」

「よし、それじゃそういう事で!」

「おうよ」


 PT会話で他のみんなの声がちょいちょい聞こえてきてるけど、レナさんに成熟体用の進化の軌跡への上位変換の方法を伝えてるとこみたいだしね。俺とアルがここまで移動する間だけでは時間は足りなかったっぽい。

 という事で、上空から少し観察。ん? 地味に灰のサファリ同盟の人と、オオカミ組の人が何人かいるっぽいな。お、蒼弦さんがいるね。


「だー、出遅れた! ミヤ・マサの森林に急げ!」

「やってくれるね、青の群集!」

「ん? おーい、そこの2人組、ミヤ・マサの森林での競争クエストなら今は中断になってるぞ」

「「……はい?」」

「ほれ、あっち」

「「……あっち?」」

「繰り返す! 青の群集とのミヤ・マサの森林での競争クエストは一時中断だ! 総力戦という形で協議中なので、続報を待て!」

「ナギの海原での赤の群集との競争クエストと、未開のジャングル、未開の海溝については継続中なので、参戦したい方はそちらへお願いします! まだどこも本格的な衝突にはなってないので、その上で判断して下さい!」

「……何があったんだ?」

「……奇襲を受けたんじゃ?」

「あぁ、青の群集が用意周到過ぎてなー。その作戦そのものをひっくり返して、全部ぶっ壊したんだと」

「「はい!?」」

「あー、リーダーがミヤ・マサ森林を放棄するって、青の群集に言ったらしいな。用意してきた方はたまったもんじゃないだろうな、あれ」

「対戦をするって大前提をひっくり返すとはなー。ま、青の群集は赤の群集と休戦協定を結んでたらしいが……」

「青の群集が本気過ぎる!?」

「結託されてたから、強硬手段ってとこかー」

「それで、青の群集は不戦勝は嫌がって協議中らしい」

「……なるほど」

「それなら、今のうちにLv上げをして進化を目指そう!」

「だな! 急な展開過ぎて成熟体への進化は間に合わないと思ったけど、これならいける!」

「へぇ、そういう事情があったのか。なら、ジャングルの方に行ってくるか」

「それなら海エリアに増援として参戦してこようっと!」


 軽く聞いた感じでは、ベスタがメインとして話が広がってるっぽい。それにそれぞれの人の状況に合わせて、今は好きなように動いているみたいだな。


「なぁ、アル? 海エリアでも再戦の競争クエストをやってる最中なら、そっちに参戦するのもありか?」

「ありといえばありだが、まずは検証が先だぞ?」

「それは分かってるって。その後での話」

「そりゃみんなと相談してからだな。おし、そろそろ模擬戦の準備を始めるぞ」

「ほいよっと」


 ま、みんなとの相談が必要なのは間違いないか。ジャングルの方も気にはなるし、複数箇所で同時展開となるとある程度は参加出来ない部分が出てくるのは考えておかないとなー。

 さて、それじゃ検証の為の模擬戦の準備をやっていきますか! という事で、申請していこうっと。


<アルマース様に模擬戦の申し込みをしますか?>


 そういやアルと模擬戦をするのは地味に初めてな気がする? まぁ今回は模擬戦といっても勝敗を決める為のものじゃないけど……その内、ガチで勝負したいもんだな。


<アルマース様が模擬戦の申請を受諾しました>


 よし、これで模擬戦での対戦の組み合わせは確定。えーと、混雑はしてないとは思ってたけど、今は特に順番待ちは発生してないからすぐに出来そうだな。


「おし、エンの樹洞に入って設定からしていくか」

「ほいよ!」


 さーて、それじゃ『アブソープ・アクア』をメインに、検証をやっていきますか! 昇華魔法に対して使っただけだから、具体的な仕様はまださっぱりだもんな。



 ◇ ◇ ◇



 という事で、サクッとエンの樹洞の中に移動してきて、模擬戦の設定を開始!


「えーと、対戦エリアはどこにする?」

「見晴らしがいい草原……いや、多少は試し撃ち用の障害物はあった方がいいか。森林でどうだ?」

「あー、確かにそりゃそうだ! アイテムは……使用ありの方がいいか。これって確か、実際には消費しないんだよな?」

「そうなってたはずだ。今みたいに検証にも使うんだから、その方が自由に使えるしな」

「よし、それじゃ今回はアイテムの使用ありでいこう! 魔力値が減ったら、アイテムで手早く回復だな。ただ、行動値がなぁ……」

「ん? それなら……あぁ、そうか! あれはケイ達はテスト期間でいなかった間のアップデートか!」

「え、どういう事? なんかあるのか?」


 俺らがいない間に、模擬戦機能に何かアップデートがあったっぽい? そういや、テスト期間中はその辺のアップデートや修正情報って全然見てなかったもんな。どういうアップデートになってるんだろ?


「行動値の回復速度の変化って項目があるだろ?」

「えーと……あ、これか! って、模擬戦中の行動値の回復が大幅に早まるのか!? よし、これは今回の検証にはうってつけだから使おう! てか、こんな便利なのが追加されたんだな!?」

「検証用とか、行動値の制限を緩和して大暴れしたいって要望が多かったらしくてな。確かスクショのコンテストの投票の辺りで実装された感じだ。魔力値の方も普段よりは早くなるが、流石に昇華魔法の連発が出来るのは微妙だからアイテムの方で補えって感じだな」

「マジか! 運営、良いアップデートをしてくれた!」


 どれほど行動値の回復速度が上がってるのかは気になるけど、これから検証しようってタイミングではありがたい機能だね! でも、魔力値に関しては回復アイテムを使えなんだなー。

 まぁアイテムが実際に消費されないなら、検証の時は別にそれでもいいか。流石に模擬戦で昇華魔法の連発はマズいだろうしね。


「公開範囲は灰の群集限定で、こっちの音声も、外部からの音声もありにしとくぞ」

「検証ならそれが良いよな! あ、地味に昼と夜の設定も出来るようになってる? ここは昼でいい?」

「見やすい方がいいからな。天候も晴れでいくぞ」

「だなー」


 えーと、とりあえず見やすさ重視にして、模擬戦の設定は完了。行動値の回復量を大幅に上げた状態で、思いっきり戦ってみたい気もするけど、まぁ今するべき事じゃないか。


「よし、設定完了! みんな、準備終わったぞー!」

「……この検証も楽しみ!」

「はーい! レナさん、準備は良いそうなのです!」

「さーて、どうなる……って、ちょっと待った、レナさん!? PTなら入れるから、蹴らないでー!?」


 あ、なんだかダイクさんの悲壮な声が聞こえた後に、レナさんがダイクさんの方のPTに入ったっぽいね。なるほど、俺やアルと連絡を取る為か。って、あれ? なんで紅焔さんもPTに入ってるんだ? 何か必要性ってあった?


「ケイさん、アルさん、聞こえるー?」

「ばっちり聞こえてるぞ、レナさん」

「おう、問題ないぞ」

「うん、それならよし! えーと、ちょっと模擬戦開始の前の、アップデートで追加された新機能があるだけど、それをオンにしてもらっていい? PTメンバーの音声を他の中継を見てる人へも聞こえるように出来るやつがあるんだけど」


 おー、そんな機能もアップデートで追加されてるんだ? でも、模擬戦の設定の項目にそんな機能ってあったっけ? ちょっとアルの方を見てみたけど、クジラで首を横に振られたって事はアルは知らないっぽいな。


「レナさん、それってどうやって設定すればいい?」

「えっと、模擬戦機能の方じゃなくて、PT設定の方! PT会話の範囲の設定って項目があると思うんだけど」

「PT設定の方か。ちょっと確認してみる」


 えーと、PT設定ってどこから開くんだ? PTメンバーの一覧からいけばある……お、あった! それでこの中に……おぉ、『PT会話を模擬戦の会話に反映させる』って項目があるね。これは、PTメンバーが分析してるのを他の中継を見てる人達にも伝える為の機能か?

 あー、実況とかもこれで各場所の不動種ごとに人を用意しなくても出来るようにもなるのか。実況や解説が出来る人って、それなりに限られてくるもんな。


「アル、これはオンで良いよな?」

「あぁ、俺は問題ないぞ。むしろ、検証するなら必須だろう」

「それもそだなー」


 という事で、オンに設定! って、あれ? オンにならなかった? え、なんで? PTリーダーならオンに出来るっぽい感じだけど……あぁ、もしかして連携PTになってるからダメなのか?


「ん? なんだ、このPT会話の設定変更の承認って?」

「あ、そっか。連携PTだとそれぞれのPTリーダーの承認がいるんだったよ! ダイク、承認をお願いねー!」

「あー、そういう事か! おし、承認したぞ!」


 お、ダイクさんがそう言った直後に設定がオンになった。やっぱり連結PTになってたのが、すぐに設定が反映されなかった原因みたいだね。ともかくこれで、全ての準備は完了なはず!


「それじゃアル、始めるか!」

「おうよ! 遠慮なく、盛大にぶっ放してやるからな。まだ使ってねぇ清水魔法もな!」

「あー、そういやまだ一度も見てなかったっけ。だったら、それも吸収するまで!」


 清水魔法も水属性なんだから、『アブソープ・アクア』で吸収出来る可能性はある。まぁ実際に試してみないとなんとも言えない部分でもあるし、その辺を確かめる為の模擬戦だしね。


 色々と知らない間に増えてた新機能を活用しつつ、検証をやっていくぞー! それじゃ対戦エリアへと通じるエンの樹洞の中にある光の中へと進んでいこう!


<『模擬戦エリア:森林』へと移動しました。模擬戦の開始のカウントダウンを開始します>


 よし、昼間の快晴の森林エリアに転送された。適度に拓けてるから視界は確保しやすいし、過剰魔力値の使用とかになったら試し撃ちの的にもしやすい。アルに撃つのもありではあるけど、その辺をどうするかはその時に考えよ。


「さぁ、始まりました! 称号『水魔法を極めしモノ』で得る強力なスキル、その名は『アブソープ・アクア』! これから、その性質を検証して見極めていこうというのが今回の模擬戦の趣旨となります! 解説はこの御三方! まずは、知っている方も多いと思いますが、言わずと知れた『渡りリス』のレナさん!」

「みんな、聞こえてるかなー? わたしは魔法に関してはそこまで詳しくないけど、戦略的な方向から有用性を見ていきたいと思ってるよー!」

「って、ハーレさん!? レナさんも!? え、解説ありでやるのか!?」

「青の群集に同系統のスキルを持っているという情報がありますので、その対策を兼ねてのものとなりますからねー!」

「あー、そういう……」


 確かに属性こそ違うけど、ジェイさんが『アブソープ・アース』を使ってきてたんだ。今は総力戦への協議中という事にはなってるけど、必ず戦う事になるはず。

 そういう意味で考えたら、今のタイミングで可能な限り周知しておいた方が良いのは間違いないか。


「そして魔法の解説として、飛翔連隊の紅焔さんと、魔法大好きな無所属から移籍してきた風音さんをお迎えして進めていきたいと思います!」

「よろしく頼むぜ!」

「……新入りだけど……よろしく」


 うん、レナさんがダイクさんのPTに入った時に紅焔さんが一緒にPTに入ってたのはこの為か。まぁ風音さんだけだと灰の群集での知名度が無いに等しいから、こうやって解説するのであれば紅焔さんがいた方がいいのかも。

 てか、他の中継場所からも普通に声が届いてきてるけど、気になる内容以外は出来るだけスルーの方向で。


「さぁ、模擬戦のカウントダウンが始まりました! ケイさん、アルマースさん、まずはどういう検証から始めてのでしょうか?」

「アル、その辺はどうする?」

「あー、とりあえず普通の魔法の吸収からで良いんじゃねぇか? 大技は後でも問題ないだろ」

「それもそうか。よし、それじゃその方向で!」

「という事で、まずは普通の魔法の吸収から始めるようです! それではカウントダウンをしていきます! ……3……2……1……これより、検証を開始です!」


<模擬戦を開始します>


 ハーレさんのカウントダウンが終わって、模擬戦も開始になった。さーて、それじゃ色々と『アブソープ・アクア』の性能の検証を始めていきますか!


<行動値上限を10使用して『アブソープ・アクア』を発動します>  行動値 107/107 → 97/97(上限値使用:10)


 よし、無事に発動して俺の周囲をぐるっと覆うような水の膜が生成されたね。劇的に視界が悪くなる程ではないけど、少し鬱陶しいのは仕方ないか。


「その『アブソープ・アクア』って、パッと見で分かり過ぎじゃねぇか?」

「あー、それは俺も思った」


 使ってみて思うけど、発動したのがバレバレ過ぎる演出なんだよな。しかもこれって……正直、似たような見た目を作るのは簡単な気がする。


「さぁ、ケイさんが『アブソープ・アクア』を発動しました! それでは、今回の検証は皆さんの色々な視点から意見を貰いつつ進めていきたいと思います! 何か気になる点がある方は、名乗りを上げてからケイさんかアルマースさんにご質問下さい!」

「おいこら!? そういうやり方自体は別に良いけど、やる前に説明しとけー!」

「……ハーレさん達には他の中継場所からじゃ声が届かないからこそのやり方か」


 まぁそうなんだろうけど! 今回は外部からの音声ありにはしてるし、声だけじゃ誰の発言かも分かりにくいから名乗りを上げて俺らに質問って流れも分かるけど! 全員の声が届くのは俺かアルだけだから、俺らを経由するのも分かるけど! そういう事は先に言えー!


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る