第1064話 検証の為の模擬戦 その3


 次に試すのは、魔法で生成した水を水の操作で支配下に置いている時にどうなるか。これは魔法吸収では吸収出来ない方法だけど、大きく影響が出そうなとこだから非常に気になる。


「ケイ、とりあえず水の操作からいくぞ」

「ほいよっと。まぁ水の操作と水流の操作で結果が変わるとも思えないけど……」

「それには同感だが、実際に使って確認しとくべきとこだろ。『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「そりゃそうだなー。さて、どうなるやら……」


 という事で、アルが生成した大きめの水球を操作して叩きつけてくる。おぉ、水の膜に触れた瞬間にあっという間に吸収していった。なるほど、こういう結果になるんだな。


「操作があろうが無かろうが、問答無用で吸収か」

「……思った以上に厄介そうだな」

「だなー。吸収量は1だけど、問題はそこじゃないし」

「おし、それじゃ水流の操作もいくぞ。『アクアクリエイト』『水流の操作』!」

「ほいよ!」


 今度は水球ではなく流れる水だけど……こっちも当たった側からどんどん吸収されている。あ、でも水量が多いと一気に吸収は出来てない? いや、これは多分違いそうな予感。


「アル、もしかして追加生成をしてるか?」

「おう、やってるぞ。だが、追加してもすぐに吸収されてるから大して意味はねぇな」

「……いや、意外とそうでもないかも?」

「あー、なんかまた思いついたか?」

「まぁなー。とりあえずそれは吸収し終わってから、みんなも含めて説明って事で」

「なら、これ以上の追加生成はやめとくか。ちなみに魔力値の吸収量は変わったか?」

「そこは吸収量が1のままで、特に変わりないなー」


 操作があっても根本的にアブソープ・アクアでの吸収には関係なく、ただ魔法で水を生成するのに使われた魔力値が基準になるっぽい。ただし、その性質を利用した攻撃方法なら思いついた。


「どうやら水の操作も水流の操作も、アブソープ・アクアの前には無力だったようですね! 解説の皆さん、これはどう分析しますか?」

「分析っていうか、流石は最大Lvに到達する事で手に入るスキルって感じだな。水魔法に対する絶対的な防御性能が凄まじいもんだ!」

「……それは同感。……無力化されるのより……魔力値の……回復までされるのが……厄介。……下手に使うと……威力が高いものほど……相手にとっては有利」

「うん、わたしもそれは思ったとこだねー! 効かないから使えないのと、相手を回復させるから使ってはいけないのじゃ、かなり意味合いが変わってくるからね! それで、ケイさんは何を思いついたの? なーんか、面白そうな事を考えてそうな気はするんだよね」

「確かにそれは気になるところです! さて、それではケイさん。思いついたという内容をお聞かせ願えますでしょうか?」

「ほいよっと」


 操作すらも関係なく絶対的な防御性能を持ち、その上で回復性能まで持っているんだからとんでもない内容ではある。俺のアブソープ・アクアは水魔法に対して絶対的な優位性を持っているのは間違いない。でも、それはあくまで水魔法に対してのみ。

 アルに手順を説明して、実際にやってみて……あー、ちょっとアルには向いてない手段になるか? いや、出来なくはない? でも、認識を誤魔化す必要があるし、やっぱりアルには不向きか。


「あー、ちょっとアルには不向きな感じだから、どんな感じのイメージかを俺が実演するのでいい? 吸収するとこは見れないんだけど……」

「おいおい、ケイ? 俺には不向きなのか?」

「クジラと木の両方を小型化してもらってもデカ過ぎるからなー。根の操作だとバレバレ過ぎるし……あ、海水の操作ならどうなんだ……?」

「おい、待て。本気でどんな手段を思いついた?」

「それは見てからのお楽しみって事で! アルに説明してやってもらうより、俺が直接やった方が早いしな」

「……まぁ、それでもいいか」

「そんな感じなんだけど、ハーレさん、それでいいか?」

「はい、問題ありません! ただ、実演後に見ている方からの質問があれば、そちらへの回答はお願いします!」

「それは了解っと。それじゃやっていくか。あ、今回は普通に分かりやすく発声して使うけど、戦闘で使う場合は思考操作で何をしてるかは誤魔化す感じで!」


 仕込みを隠す為にも、発動しているスキルの全貌は知られない方がいい。絶対的な優位性があるって意識に対して、それを掻い潜る為の奇襲の手段だしね。

 まぁ今回は解説込みだから、しっかりと発声しながら発動していきますか!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 96/97(上限値使用:10): 魔力値 145/274

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 94/97(上限値使用:10): 魔力値 142/274

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 まずは並列制御で重ならない位置に水と少量の砂を生成。今回のは対アブソープ・アクアを想定して構築する手段だから、小石ではなく砂でいく。この辺、相手の属性によって手段が変わってきそうだよな。

 ともかく、生成した水と砂が落ちる前にさっさと操作してしまおう。……それにしても行動値の回復は滅茶苦茶早いし、魔力値も吸収以外でも結構な量は回復してるなー。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『水流の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 75/97(上限値使用:10)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『砂の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 37/97(上限値使用:10)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、これで水流の中に、可能な限り散らばせた少なめの砂を混ぜて流してしまえば準備は完了。とりあえず上空で混ざった状態で加速させておいて、擬似的に狙いを再現していきますか。


「おーっと!? まさかの水流の操作と砂の操作の並列制御での発動だー! ですが、砂が非常に視認しにくいように分散されていますね!」

「あ、そういう事! 良い案を思いつくね、ケイさん!」

「レナさん、何をやるのかもう分かったのか!?」

「……分かったかも? ……面白い手段」

「分かってないの、俺だけかー!?」


 解説陣では紅焔さんは俺が何をしようとしてるのか分かってないっぽい。というか、この段階で気付くレナさんと風音さんが鋭いだけな気もするけどさ。いや、ここまでやれば気付く人は気付くか。

 さて、何に当てるんが良いんだろう? その辺の木を的にしてもいいんだけど、ここは実際にアルが受けた感想を聞いてみたいとこではあるよな。


「これで、アルのクジラに攻撃してもいい?」

「……まぁ即死にならんだろうから、別に構わんぞ。避けない方がいいか?」

「あー、あくまで参考用だから避けない方向で頼む」

「おうよ。それにしても……大体の察しはついたが、やられると地味に嫌な手段だな」

「まぁ実際に使う時は、相手の属性や自分の持ってる手段によって違った形にはなるだろうけどなー。それじゃいくぞ!」

「おう!」


 という事で、アルに向けて砂の混ざった水流をぶつけるべく加速させていき……アブソープ・アクアで吸収されたという想定で、水流の操作をキャンセル!

 操作を消したら魔法産のものはすぐに消えるから、勢いだけ残ってる散らばった砂を集めつつ追加生成もして、それを盛大に加速させてアルのクジラの頭に叩きつける! おー、見事に直撃したし、もういらないから砂の操作も解除っと。


「うおっ!?」

「よし、成功!」

「……どうなるかは想像してたが、実際にこの挙動になるとビックリするな!?」

「とまぁ、思いついたのはこんな感じの内容になる。まぁ吸収出来るのは同じ属性の魔法だけだから、その中に他のものを混ぜてからあえて吸収させる事で、隠した本命が出てくる感じだな」


 あくまでこれはアブソープ・アクアへの対処方法だから、アブソープ系の他の属性に対してはそれぞれの属性に合わせた調整は必要にはなってくるはず。

 一応アブソープ・アースへの対応策自体は、生成した岩の中に何かを隠す形でいける。場合によっては、隠すのはスキルでなく、プレイヤーって手段もあるしね。


「なるほど、今の手段は吸収されるのを前提に、本命の攻撃を隠していく形になるのですね! 解説の皆さん、この手段はいかがでしょうか?」

「あー、こういう内容か! アブソープ系で優位に立ってると油断してるところを狙うんだな。なるほど、アルマースさんが不向きだってのは、隠すには小型化しても大き過ぎるからか」

「……あえて……何度かわざと吸収させて……油断させるのも……あり?」

「ありだと思うよー! それに、これは偽装潰しにも使えそうだね。吸収せずに避けたら偽装の可能性が高いだろうからそのまま追撃すればいいし、吸収されても2段構えの攻撃で意表をつけばいいからさー。だた、全属性で同じ事が出来るかというと……少し怪しいね?」

「あー、風属性や雷属性だと、隠すのが難しいか。その辺は色々と考えてみる必要がありそうだ」

「……ジェイのアブソープ・アースなら……岩の中を空洞にして……誰かが潜むのも……あり? ……レナ……適任?」

「およ? 確かにそれはありかも?」


 おぉ、俺が考えてたアブソープ・アースへの対抗手段を風音さんが言ってる。ヨッシさんに岩の中に入ってもらって毒での奇襲とか考えてたんだけど、基本的な理屈は同じもの。

 火属性を持ってるレナさんが、ジェイさんの至近距離から急に現れれば一気に形勢がひっくり返る可能性は十分にある。ただ、問題としてはジェイさんがこの手段に気付いているかどうか。こればっかりは実際にやってみないと分からないからなー。


「まだまだ色々考える余地はあるようですが、少なくとも今の時点で警戒すべき青の群集への対応策の1つとして考えても良さそうですね!」

「あ、ハーレさん、そこで締めくくるのはちょっと待って。今回の青の群集は本当に用意周到だから、今の手段を向こうが使ってくるって前提で考えておいた方がいいはず。その辺は油断しないように!」

「確かにそれはそうですね! 少なくとも青の群集には最低でも1人はアブソープ系のスキルを使うのは確定ですので、用心した方が良いのは間違いないでしょう!」


 今回は冗談抜きで俺らが先に進んでいるという油断というか慢心は完全に捨てておくべきだ。青の群集がミヤ・マサの森林を攻め落とす為に用意してた作戦の多くを台無しには出来ただろうけど、総力戦になるには少し間があるからその間に新たに作戦を立てられる可能性もある。というか、間違いなく用意してくる。

 少しの油断が、敗北に繋がる可能性は考えておかないとね。そうじゃなけりゃ、仕切り直しに持っていった意味がない。


「見ていて思った事があるので、質問をよろしいでしょうか? あ、『モンスターズ・サバイバル』所属のエレインです」

「エレインさんか! ハーレさん、質問がきたから少し進行はストップで!」


 エレインさんは、前にフィールドボスの連戦をしてた時に一緒にやった人だよな。見ていて思った事ってなんだろ?


「……はい、『モンスターズ・サバイバル』所属のエレインさんからの質問ですね! どのような内容でしょうか?」

「単刀直入にお聞きしますが、その『アブソープ・アクア』をアルマースさん側から解除する術はあるのでしょうか? 水の膜が形成されていますが、抗毒魔法のように攻撃で解除する事は出来ますか?」


 なるほど、確かにそこは重要な内容だし、これは今のうちに確かめておくべき内容だな。ただ、耐久値が設定されてないから、破壊出来るかはちょっと怪しいとこではある。


「……はい、質問内容を確認しました! 敵が発動しているアブソープ・アクアを解除する術はあるのかどうかという質問になりますが、ケイさん、その辺りはいかがええしょうか?」

「正直に言えば、耐久値が設定されてないから、抗毒魔法みたいに解除出来るかは怪しい気はしてる。だけど、試してみた方が良いとは思うから、アル、頼めるか?」

「おう、そこは任せとけ。『魔力集中』!」

「との事なので、次の検証はアブソープ・アクアは破壊出来るのかという内容で進めていきます!」


 さーて、それじゃアルの攻撃で破壊出来るものかどうか、それを確かめていこうじゃないか! 予想としては破壊出来ない気がしてるからダメ元ではあるけど、それでもちゃんと確かめておくべき事!


「おし、とりあえず物理攻撃で行くぜ。ケイ、死ぬなよ?」

「ちょ、それってどういう――」

「『旋転連突撃』!」

「ぐはっ!? ぐふっ! がはっ!」


 思いっきり銀光を放ち始めたクジラに吹っ飛ばされて、木に叩きつけられた!? ちょ、次々に連続で突撃してきてるけど、そこで応用スキルで突撃してくる必要ってある!?


「ケイさんが盛大に吹き飛ばされていますが、全く消える様子がありませんね!」

「水の膜は完全に素通りっぽいな。そもそもダメージ判定が出てるようには見えん!」

「……普通の破り方じゃ……破れない?」

「見た感じ、そうっぽいねー! うーん、可能性があるとしたら『黒の刻印:剥奪』での無効化? ハーレ、アルマースさんってそれは試せる?」

「私達はまだ誰も刻印石を入手してないので、それは不可能です!」

「あらら、それじゃ試せないかー。まぁそれは仕方ないから、また別の機会にだね」


 あ、そうか。普通の手段では破壊出来なくても、操作系スキルの支配権を奪えるっていう『黒の刻印:剥奪』なら解除出来る可能性はありそうだ。

 刻印系スキルは何種類かある効果の内の1種類しかセット出来ない仕様らしいし、試してみる価値はある。まぁ今の状況では試しようがないけども!


「……アル、思いっきり攻撃し過ぎじゃね?」

「これだけやっても壊せないって証明にはなるんだから、別にいいだろ? ついでにこっちもだ。『ルートスキューア』!」

「ちょ、更に魔法で追撃!? ぐっ!?」


 水の膜は完全に素通りして、思いっきりロブスターを根が貫通したんだけど!? くっ、確かにこれで魔法でも破壊出来ないのは分かったけど、HPが3割近く減ったのが痛いな。これでも威力は抑えめにしてくれてるんだろうけどさ。

 でもこれでアブソープ系のスキルは容易に解除出来ないという事は分かった。対応策もまだ全属性に対応出来るものではなくて不完全ではあるけども、それでも多少の指標にはなったはず。

 さーて、それじゃ次は昇華魔法と清水魔法の吸収の仕様を確認していきますか! 特に過剰魔力値がどういう風になってるのかの確認は重要になってくるはず。

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