第1053話 検証の最中に


 水魔法Lv10のアクアクラスターの通常発動での効果は分かった。分かったけども、正直狙いが付けられないのが地味に痛い気がする。いや、広範囲に12発も撃ち込む上に、味方へは『水の刻印』なんていう水属性への耐性を与えるんだからとんでもないけどさ。


「クラスター爆弾がモチーフだとして、これが魔法砲撃になるとどうなるのやら……」

「全然想像がつかないのさー!?」

「確かに単純に12連発で撃ち出すとも思えないかな?」

「どうなるんだろうね?」

「とりあえず試してみるしかないなー」

「……楽しみ!」


 考えても分からないし、これについては試せばすぐに分かるんだからやらない理由はどこにもない。さて、それじゃ早速試して――


「およ? ベスタさんからのフレンドコール? ちょっとごめんねー!」

「ん?」


 これから魔法砲撃の水魔法Lv10を試そうってタイミングでレナさんにベスタからフレンドコール? なんか緊急の用件でもあったりしたんだろうか?

 まぁベスタが俺らの検証のタイミングを把握……いや待て、アルの方で説明は書き込んでる最中だし、あのベスタが把握してないとは思えない! これって、かなりの緊急事態なんじゃ!?


「アル、何か情報共有板に重要な情報は!?」

「ちっ! 今その重要な情報が上がってきたとこだ! 青の群集がミヤ・マサの森林に攻め込んできたってよ! ……ヤバいな、群集支援種が仕留められて行方不明か」

「このタイミングで!?」

「向こうは俺らが何をしてるか、知らないだろうからな……」

「まさか先に攻められたのさー!?」

「ケイ、どう動くかな?」

「とりあえずベスタからレナさんへのフレンドコールが終わるのを待とう。今のタイミングは意味がないとも思えないしさ」

「確かにそれはそうだよね」


 ベスタならレナさんがどこに居たかくらいは把握してそうだし、わざわざフレンドコールをしてくるくらいなんだから何かあるはず。それこそ顔の広いレナさんだから出来る事といえば……大急ぎで人手を集める事か。


「…………青の群集! 邪魔は許さない!」

「か、風音さん……?」

「……決めた。……今すぐ灰の群集に入って……青の群集……ぶっ飛ばす!」


 ちょ、なんか風音さんがキレてるっぽいんだけど!? え、青の群集からの襲撃で検証が中断状態になってるのに怒ってる!? というか、そういう理由でなら普通に競争クエストで戦っても良いんだ? これは俺らとしては結果的に良かったって事になるのか?


「はーい、それじゃわたしの方で呼びかけとくねー! うん、了解! その間に捜索をよろしくー! さてと……風音さん、今のは聞こえてたけど本当に良いの?」

「……問題ない! ……レナ……群集拠点種まで連れていって!」

「あらら、完全に怒っちゃってるねー。うーん、青の群集はご愁傷様?」

「……早く!」

「それはやるから、ちょーっとだけ待って? ここにいる人達にベスタさんからの指示を伝言しなきゃだし」

「……分かった……けど……早くして」

「そんなに急かさなくても、こっちも急ぎだから大丈夫だって、ね?」


 なんというか、風音さんの圧が凄い……。見てた最中の魔法の検証が中断になったので、そこまで怒るのか。うん、これから味方になるとはいえ、相当にクセが強い人な気がするから、その辺は注意しておこう。下手に怒らせると怖い人っぽい。


「えーと、なんか妙に目立っちゃってるけど、まぁ都合が良いから別にいっか。みんな、今の状況を簡単に説明するよ! ミヤ・マサの森林に新しく来てる群集支援種のカトレアが防衛の人達を破って青の群集に仕留められて、ランダムリスポーンで行方不明! 青の群集の参戦規模は不明だけど、散発的な戦闘しか発生してなかったのが急激に攻勢へと切り替わったらしいから、元々このタイミングを狙ってたっぽいね!」


 ミヤビの代わりに来ていた群集支援種ってカトレアって言うのか。って、そこは後回し! 灰の群集の人数が揃う前に攻め込んできたって事は、散発的な戦闘だけで油断してたとこを一気に攻め落としてきた?

 常に防衛要員が足りている訳じゃないだろうし、このタイミングは予め狙われていたと考えた方がいい。これからの時間帯でどこもログインしてくる人が増えてきて、防衛の交代とかもあるはず。どうしても少なからず隙が出来る時間帯か。


「青の群集は、朝の人が少ない時間を狙ってた!?」

「いや、それならもっと早い時間でもいけるはずだ! 人が増えてきて、情報の引き継ぎのタイミングを狙われてたのかも……」

「……今ってリーダーがいたんじゃなかったのか?」

「いくらリーダーでも、数で押されたら負けるぞ!?」

「……実際負けたって話だしな」

「元々このタイミングを狙われてたんなら、そこに防衛戦力を揃えてなけりゃ無理だろ!」

「はいはい、みんなが慌てるのも分かるけど、少し落ち着いてねー! このタイミングを狙われてたのは確実みたいだけど、まだ青の群集も十分な戦力が揃ってるとは限らないからね! ただ、いきなり敵が現れたって報告が多いみたいだから、下手すれば昨日からログアウトする位置を調整してた可能性もあるんだよ」

「昨日から仕込んでた!?」

「様子見っぽいのが多いって話だったけど、奇襲の為の下準備!?」

「青の群集、今回は本気過ぎないか!?」

「……完全に取りに来る気か!」

「だから、みんな落ち着いてー! これからベスタさんからの作戦を――」

「……『魔法砲撃』『並行制御』『ウィンドクリエイト』『ウィンドクリエイト』! 話が進まない! 大人しく聞く!」

「「「「……あ、はい」」」」


 うおっ!? 風音さんがトカゲの口から魔法砲撃で上空に向けてストームを撃ち放ったよ。うん、流石にみんな唖然として、ざわめいていた様子が収まってきた。なんというかこういう時って、強引な手段で意識を逸らすのって効果的だよね。


「ありがと、風音さん。それじゃベスタさんからの作戦伝えていくよー! 競争クエストに参戦するつもりの人は、とりあえずミヤ・マサの森林まで移動! その中で戦力に自信がある成熟体の人と、隠密での捜索が得意な人はカトレアの捜索班! まずはカトレアの捜索で動いてもらうけど、戦力の方の人は見つけた後からは防衛班になるからそのつもりで! 捜索が得意な人の方は、青の群集の偵察に動いてもらうからね!」


 なるほど、得意な事を中心にして班分けをしていくんだな。今のカトレアが行方不明な状態は一刻も早く見つけ出さないといけないし、ここは当然の措置か。でもまだそれだけではないはずだから、大人しく聞いておこうっと。


「それとまだ成長体か未成体の人で、死亡覚悟でも良いって人は青の群集の群集支援種のカレンを捜索! 殺されても特にデメリットはないから、敵の群集拠点種の位置特定を最優先! 何をやったのか分からないけど、こっちも行方不明になってるみたい!」

「レナさん! 青の群集の群集支援種まで行方不明ってどういう事だよ!?」

「……味方は殺せないんじゃ?」

「そこは詳細不明! 例の遠距離からの奇襲で、その辺を見張ってた人達は全滅しちゃったらしくて……」

「……レナ……傭兵じゃない無所属が関わってるかも?」

「それだと、相当厄介だね……」


 そっか、そういう手段もあるんだな。……それこそ俺ら灰の群集で、戦力として自信のない人が検証の為に一時的に無所属になっているのと同じような事をしてる可能性もある。

 監視をしていた人達を排除した上で、あえて自分達の群集支援種を殺してランダムリスポーンで行方を眩まさせて、そこからの強襲か。……これは思っている以上に用意周到な作戦な気がする。


「とにかく後手に回ってるのは確実だから、要警戒ね! 成長体と未成体の人はカトレアの位置が特定出来次第、エニシから『浄化の守り』の運搬を任せる事になるから、その辺も承知しておいてね!」


 えっと、確か群集支援種……カトレアに、群集拠点種……エニシから貰える特殊なバフを受け渡して『浄化の守り』ってので防衛していくんだったよな。そっちの補充要員が成長体と未成体の人って話だったはずから、カトレアを見つけ次第そっちの役割に変更する訳か。


「あと、これもベスタさんから! 青の群集に確実に目を付けられてるグリーズ・リベルテのみんなは遊撃をお願いだって! ベスタさんを筆頭に、風雷コンビや、わたしもそっちで動いて、青の群集の主戦力の牽制に動くから!」

「レナさん、それは了解!」

「うん、ケイさん、よろしくねー! 風音さんはわたしと動く?」

「……上等! ……2ndの龍を出す」

「あはは、本気だねー! それじゃわたしは色んなとこに通達していくから、その合間に加入を済ませちゃおっか」

「……わかった!」

「という事だから、みんなもよろしくねー! 遊撃班はわたしの方で直接声をかけていくけど、それ以外の各班の人はみんなに伝えていって! もし可能な人がいれば、森林エリアの西側からじゃなくて、他の方向からも進めていってくれると助かるよー! それと競争クエストでの詳細のやり取りはミヤ・マサの森林の『競争クエスト情報板』でやり取りをするから、PT単位で動く場合はチェックを怠らないようにお願いね! それじゃ行くよ、風音さん!」

「……うん!」


 そうして慌ただしくレナさんと風音さんは東に向かって駆けていった。あー、風音さんがミズキからの転移が使えないから、陸路から行くしかないんだな。


「……さてと、それじゃすぐに動きますか!」

「だな。それにしても昨日の強行偵察といい、俺らは目立つ役目を押し付けられてねぇか?」

「あはは、まぁそれは仕方ないんじゃないかな? 青の群集なら、尚更ケイをライバル視してるジェイさんもいるしね」

「……だよなぁ」


 それがなくても、前回の総力戦で負けたのも関係してそうではある。羅刹から聞いた話では、元々灰の群集に狙われてるって話だし……警戒されても仕方ない部分ではあるもんな。青の群集自体が俺らへのリベンジに燃えてそう。


「今回はジェイさんは出てくると思いますか!?」

「……色々と事前に仕込んでたみたいだし、出てこないとは全然思えないなー。むしろ、思いっきり指揮を取ってそうな気がする」

「それはそうだよね。ケイさん、遊撃とは言われたけど、どういう風に動くの?」

「んー、そうだな……」


 とりあえずまずミヤ・マサの森林の競争クエストを受けて参戦出来るようにするのが最優先だけど、まぁ既にあそこは通れるようになってるから空を飛んでいけば問題はない。

 遊撃と言われると、明確な役割は決まってないからなー。青の群集の動きは明確には分からないけど、時間帯としては向こうもそう大人数でもないはず。赤の群集の方との対戦もあるだろうし……あ、良い事を思いついた!


「よし、赤の群集に青の群集が俺らの方に攻め込んでるってリークするか!」

「……ケイ、地味にえげつない手段を考えるもんだな。だが、有効な手段ではあるか」

「だろ! 予想外の敵襲には、予想外の敵襲でやり返すのみ!」


 赤の群集としては、青の群集から占有エリアは奪い取りたいはず。そして今、青の群集が灰の群集へと攻め込んでいる状況を知れば、そこをチャンスと考えて動く可能性はある。

 まぁ赤の群集が青の群集との真っ向勝負に拘って突っぱねられる可能性や、青の群集がそっちのエリアを放棄する可能性もあるけど、こればっかりは実際に状況を動かしてみないと何とも言えないとこだな。


「そうなると、問題は誰にリークするかだな……」


 赤の群集だからといって、伝える相手が誰でも良い訳じゃない。弥生さんは戦闘自体は好きな感じだからこの手の話に乗ってくるとは思えないし、シュウさんは弥生さんが望まないなら乗ってはこないはず。

 水月さんやアーサーなら……いや、その2人に限らず赤のサファリ同盟に所属している人は、今はもう群集のまとめ役からは外れているから無理だな。


 可能性があるとしたら、勝ちという明確な成果を欲しがる人。ウィルさんを筆頭に一時無所属になっていた人達は可能性はあるけど、逆にそうでない人達の反感を買う可能性はあるね。少なくとも許す気がない風音さんを見て間もないから、そこは尚更に。

 そうなると、俺が連絡出来て可能性があるのはルアーかライさん辺りか。とりあえずその2人がログインしてるかを確認して……よし、ルアーがいた!


「ケイ、一応ベスタさんに相談してからの方が良くないかな?」

「あー、確かにそれもそうか。今、フレンドコールに出てくれたら良いんだけど……」


 流石に俺らの独断で動くのはマズいよな。場合によっては、戦況に大きく影響を与える可能性があるんだし、統括しているベスタには予め伝えておいた方が良いはず。……ベスタ、フレンドコールに出てくれよー! あれ? 思ったよりあっさりと繋がった?


「ケイ、どうした? 今は忙しいから手短に頼むぞ」

「いや、ちょっと思い付いた事があって、実行して良いかの確認をしようと思ってたとこでさ。青の群集から攻められてる情報、赤の群集のルアーにリークしちゃってもいい?」

「……ふっ、何かと思えばそうきたか!」

「あー、これは流石にマズかった?」

「いいや、逆だ。むしろ、その方向性を今考えていたところだったからな」

「え、マジで!?」


 ベスタの意見を聞いて、問題なさそうなら実行しようと思ってたけど、まさかの同じ作戦を考えている状態だった!? ははっ、敵の敵は味方とも言うし、ここは本格的に赤の群集を巻き込む方向になりそうだ!

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