第1054話 青の群集への対策


 青の群集からの強襲に対抗する手段として、赤の群集にその状態のリークを行おうと思ってベスタに確認を取ってみたら、ベスタがまさかの同じ作戦を考えていたところだった!


「それなら、ベスタからルアーにリークするのか?」

「いや、流石にその余裕はなさそうでな。今も決して余裕がある訳じゃないし、まだ青の群集に知られる訳にもいかん」

「……まぁそりゃそうだ。てか、ベスタは今どこにいるんだ?」

「ミヤ・マサの森林の上空へ駆け上がっているところだな」

「なんでそんなとこに!?」

「あえて狙いやすい的になりながら、上からカトレアを探している。まぁここまで露骨な挑発をしていても、短絡的に狙ってくる気配はないから指揮系統はしっかりしているようだ」

「……そういう理由かー」


 青の群集の出方を伺いつつ、群集支援種のカトレアの捜索中だったのか。まぁ空中に駆け上がっているならフレンドコールの内容を聞かれる心配はないね。

 それにしてもわざわざ狙われやすいように上空にいるって無茶するなー。例のあの遠距離攻撃を仕掛けてくるリスのスミがいるっぽい事はレナさんが言ってたけど、まぁそう簡単には挑発には乗ってくれないか。


「ケイ、丁度いい機会だから軽く説明しておく。この青の群集からの強襲自体は考慮していたんだが、仕込みが思った以上に多い。だから、ここから可能な限り不確定要素を潰していく」

「……不確定要素? あの危機察知に反応しない遠距離攻撃をする人の位置特定とか?」

「それもあるが、主戦力でどういう奴が来ているかを確認するとこからだな。レナから作戦は聞いたか?」

「それは聞いた。俺らは遊撃なんだよな?」

「あぁ、ケイ達……特にケイ自身はジェイに警戒されているから、堂々と動いていれば無視は出来んだろう。場合によってはジェイと斬雨の2人が直接狙ってくる可能性は高い」

「……遊撃という名の、また囮?」

「否定はせん。ただ、お前らを防衛側に回して集中砲火を狙われるよりは、敵の戦力の切り離しに使いたいとこではある」

「……それは確かに」


 俺らは明確にジェイさんから狙われるというのが分かっているのに、群集支援種の防衛に回して大規模な乱戦化は避けたいって事か。うん、俺でも作戦として動くならそういう選択をする。

 あえて青の群集が俺らを無視して攻勢に動く可能性もあるけど、その場合は遊撃として後ろから攻め込んで挟撃するか、青の群集の群集支援種を潰しに動くのでも良いはず。……って、待てよ? そういえば、この情報を知らないな?


「ベスタ、カトレアって種族としては何になる?」

「あぁ、そこを知らないのか。カトレアってのはランの名前ではあるんだが……まぁ、人名として使われているから普通の移動種の木になる。種類としては栗の木の未成体だ」

「あー、そういう感じかー。それでなんだけど、ランダムリスポーンさせるメリットは? それで居場所を把握出来なくなるのは、青の群集も同じだよな?」

「そこも不確定要素の1つだな。防衛要員を倒すまでで『浄化の守り』を補充出来ないようにして青の群集の方で固めて足止めをする方が、位置を分からなくするよりは確実なはずなんだがな……」

「だよなー?」


 成長体から未成体への進化になる頃の対戦エリアだから、今の成熟体への進化が進んできている今は踏破するのは大して時間がかかる訳じゃない。散らばって探せば、あっという間に見つかるはず? そうなると……。


「俺らの方の戦力を分散させて、ゲリラ戦法で各個撃破が狙い?」

「その可能性はないとは言えん。だからこそ、わざと成熟体とそれ以外のメンバーでで目的を分散させている」

「……なるほど」


 全域で捜索するのは変わらないのに、戦力になる成熟体をカトレアの捜索、それ以外を青の群集の群集支援種のカレンの捜索に振り分けたのはそういう狙いなんだな。混在するPTにしても良かったはずなのに、敢えて分散させたのか。

 青の群集から見たら誰がどっちを捜索してるのかは分からないだろうし、戦闘になった人の傾向を把握すれば、攻撃としての戦力を潰すのか、『浄化の守り』の補充としての戦力を潰すのか、そこが分かってくるはず。

 あぁ、だからこその俺らを含めた、ベスタやレナさんや風雷コンビとかでの遊撃になるんだね。青の群集の出方が分からないからこそ、狙いを把握する為の布石を打っている状態なのか。……本当に狙いを早めに掴まないと、手の上で転がされかねないな。


「さて、それで赤の群集へのリークの件だが、そこはケイがやってくれ。出来るだけ話を長引かせながらな」

「え、俺がやるの!?」

「あぁ、その間に俺がそれをあえて青の群集に伝えてやる。ルアーが話に乗ろうが、乗るまいがな」

「あー、撹乱作戦かー。話を長引かせろって、要するにルアーへの直接の確認をさせない為?」

「そういう事だ。ジェイが俺らがリークをする可能性を考慮に入れてないとも思えんからな。場合によっては、既に赤の群集と休戦協定でも結ばれている可能性すらあるぞ」

「……その可能性があったか!?」


 確かに赤の群集とも再戦状態に入っている青の群集としては、戦力の分散を避けたいはず。もう今の段階で赤の群集と話が付いていて、それこそ前回の最終戦みたいな総力戦の予定を立てていてもおかしくはない。……もしそうなってたら厄介だな。


「赤の群集が俺らのリークを受けて青の群集に攻め入るなら、それもよし。そうでなくても既に話が付いているなら、デマであろうが青の群集は少なからず警戒はするしかなくなる」

「そこで窓口になるルアーへのフレンドコールだけでも塞いでおくのが俺の役目って事か」

「そうなるな。ただ、リークをやるのは現地入りしてからにしろ」

「……俺の名前を出して煽る気? それでフレンドコールを切らせる為に狙われろって?」

「嫌なら無理にとは言わんぞ?」

「あー、それはやるよ。そもそも完全に後手に回ってるんだから、徹底的に向こうの予定を乱してやろうじゃん!」


 青の群集がどこまで何を仕込んでいるかはまだ分からないけど、それでもこちらも作戦を立てて反撃していかないとな。どういう形になるかは赤の群集次第だけど、少なくとも全く動揺が発生しないはずはない。そこがつけ入るチャンスになれば良いんだけど……。


「現地入りしたら、ケイ達の誰かに到着した事を『競争クエスト連絡板』に書き込んでくれ。それを作戦開始の合図にする」

「ほいよっと! あ、そうだ。レナさんなんだけど、多分とんでもない味方を引き入れてそっちに行くと思うぞ」

「……なに?」

「無所属の風音さんって人が今、灰の群集入りしてる最中のはず。魔法の検証が中途半端のなったので、青の群集に対してキレてたぞ」

「……なるほど、ケイの水魔法の情報と引き換えに闇魔法の情報を提供してくれた人か。よし、そこは了解だ」

「それじゃ俺らはとりあえず現地入りするわ!」

「あぁ、任せるぞ」


 今の段階では、立てられる作戦はここくらいまでだな。後は青の群集の動きに応じて、その都度作戦を修正しつつ動いていくしかない。赤の群集の反応次第な部分もあるからなー。


「みんな、とりあえずミヤ・マサの森林まで移動! 移動中にベスタと決めた作戦の内容を伝える!」

「断片的に聞こえてた限り、あんまり穏当な手段とは思えないかな?」

「ま、完全に後手に回ってんだ。引っ掻き回して、ペースを乱すのが先決だろうよ」

「その辺は移動中に詳しくだね」

「ふっふっふ、競争クエスト、頑張るのです!」


 みんなそれぞれの反応をしてくれているけど、とりあえず今は現地に行くのが最優先! まだミヤ・マサの森林の競争クエストへの参戦の登録はしてないから、そこからやっていかないとな。



 ◇ ◇ ◇


 それからみんなにベスタとの会話の内容を説明しつつ、ミヤ・マサの森林へのエリア変更の前まで辿りついた。何度か転移をしてきたけど、その道中では人が多過ぎたよ……。いや、空中から移動出来て、本当に助かった!


「おし、まずは競争クエストに参加して、ケイがルアーさんへフレンドコールだな。狙われるのが目的なら、もう初めから飛ばしておけばいいか?」

「その方が良いだろうから、アル、頼んだ!」

「おうよ! ヨッシさん、抗毒魔法を展開しておくか?」

「青の群集にはもう把握されてるだろうし、その方がいいかもね。うん、ケイさんがフレンドコールをかけた時点で発動しておくよ」

「作戦開始の合図は私が書き込むから、索敵はハーレがお願い」

「了解なのさー!」


 さて、すぐに狙われる可能性も無いとは言えないから、その辺は要注意でいこう。あの危機察知を掻い潜る投擲を防ぐ手段は……一応アルには伝えとくか。


「アル、危機察知を掻い潜る投擲を防ぐ件なんだけど――」

「それならハーレさんから聞いている。俺の方で守勢付与と水の膜は張っておくし、旋回での回避は任せとけ」

「お、マジか! それなら助かる!」


 いつの間に聞いたのか分からない……って、あれか! 俺が水魔法をLv10まで上げてる最中にハーレさんが説明してくれてた時か! まぁ、説明が省けて助かった!


「おし、それじゃ競争クエストの再戦、やっていくぞー!」

「「「「おー!」」」」


 みんなの気合いは十分だし、それじゃ現地入りしていきますか! なんだか俺らと同じようにミヤ・マサの森林へと向かっていってる人達にも気合が伝播して、気合の入った声が聞こえてきたのは……まぁ良い事のはず!

 それにしても、ログインしてきた人が増えてきてるみたいだし、慌てての移動だから混雑がかなり酷いな。これ、地上から移動するのは結構大変かも……。なんというか、混雑状態を作り出すのも狙われて用意されたものの気がする。


<『始まりの森林・灰の群集エリア1』から『ミヤ・マサの森林』に移動しました>

<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『防衛せよ:ミヤ・マサの森林』が発生します>


 おっと、エリアを切り替えた瞬間に競争クエストの参戦の意思確認の演出が始まった。あー、この後に演出があるんだろうけど、今は時間が惜しい……。大体の内容は予想出来るし、この演出ってスキップは……あ、普通に出来そう?


「今は演出を見てる時間が勿体ないのさー! スキップなのです!」

「あ、スキップ出来るのかな!?」

「流石に今は見てる余裕はないから、後で追憶の実で見よっか」

「その方が良さそうだな」

「そうだなー!」


 という事で、グレイの姿が出てきてこれから話していこうという場面ではあったけど、演出はスキップで!


<競争クエスト『防衛せよ:ミヤ・マサの森林』を受注しますか?>


 その為に来たんだから、ここはYES以外の選択肢はない! さーて、これで受注マークが出たら作戦開始だな。


<受注を確認しました。競争クエスト『防衛せよ:ミヤ・マサの森林』を開始します>

<競争クエストの受注中には該当エリアにいる間、識別カーソルの上部に受注マークが表示されます>

<受注マークのあるプレイヤー同士の戦闘では経験値の増減はありません>

<受注マークがないプレイヤーの立ち入りは禁止となります>

<現在地のエリア内限定で『競争クエスト情報板』が開放されました。ぜひご活用ください>


 よし、ミヤ・マサの森林での競争クエストの参戦はこれで完了! みんなにも受注マークが出たから、このまま上空を少し進んでから――


「はっ! どこかから攻撃が来るのです!?」

「はい!?」

「どこからだ!?」

「みんな、上!」

「青いモヤと茶色いモヤ……? あ、これ、『魔力視』の効果かな!」

「その組み合わせって、不味い気がするんだけど!?」


 危機察知で方向が分からないって事は擬態持ちからの攻撃の前兆か! 魔力視で攻撃が魔法だという事が分かって良かったけど、水滴と小石が生成されたから確実にデブリスフロウじゃん! 俺らは大急ぎで回避出来そうなタイミングだけど、下には他のプレイヤーが大量にいるんだけど!?

 くっそ、これはまだ一度も試せてないし、昇華魔法に効果があるかは分からないけど使ってみるしかないか! 大急ぎで思考操作!


<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 100/106(上限値使用:1): 魔力値 256/274


 回避すればみんながデブリスフロウで押し潰されてしまうし、この状況で相殺は……間に合わない! 魔法砲撃をそのままにしといて良かったよ! ロブスターの口から魔法砲撃にしたアクアインパクトをアルのクジラの背に吐き出して、その反動で上空へと噴き上がる! 思考操作で、急げ、急げ、急げー!


<行動値上限を10使用して『アブソープ・アクア』を発動します>  行動値 100/106 → 96/96(上限値使用:11)


 一か八かで、新スキルの発動! あ、これって俺を中心にしてキャラ全体を覆うような水の膜が形成されるんだ? おぉ、デブリスフロウがその水の膜にに触れた途端に水分が一気に消失して、砂が落ちていくようになった。よし、昇華魔法にも有効!

 って、魔力値が全快になっただけじゃなくて、上限値を超えて回復してるんだけど、これって大丈夫?


「「なっ!?」」


 なんか驚いてる声が重なって聞こえてきたけど、昇華魔法を使ってきた相手か! どこにいる!? ちっ、こんなとこに伏兵がいるなんて思ってなかったぞ!

 うーん、水要素は消えたけど、砂が当たる分だけのダメージはあるっぽい! 威力は相当下がってるけど、このままだとアルのクジラまで叩きつけられる!? いや、この程度なら死にはしないか?


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 386/274


 何か表示されたけど、過剰魔力値って何!? あー、もうよく分からんけど、使用だ、使用! 強化に使用出来るなら、使わない理由はない! って、なんか目の前に水の球が漂いだした?

 とにかく水分が無くなって砂だけになってるデブリスフロウをどうにかしよう。これだけ威力が下がってれば防壁魔法でも結構凌げるはず。


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 91/96(上限値使用:11): 魔力値 259/274

<過剰魔力値の使用により『アブソープ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 91/96 → 91/106(上限値使用:1)


 真上に向けて、魔法砲撃にしたアクアウォールを砂に当てて展開! って、漂ってた水球を取り込む感じになったんだけど……なんか展開したアクアウォールがとんでもなくデカい上に、耐久値が凄い高いんだけど!? しかも、これを使ったら自動解除なのかよ!


「『根の操作』! おらよっと!」

「アル、助かった!」


 ふぅ、なんか凄いアクアウォールで防御しながら落ちていってる俺をアルが根で支えてくれた。この効果はとんでもないな……。でもまぁ、なんとか昇華魔法を凌いだぞ!


「ハーレ、右側は任せたかな! 『魔力集中』『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『連閃・風』!」

「了解なのさー! 『魔力集中』『爆連投擲』!」

「「位置がバレてる!?」」

「おい、カメレオンが2人いるぞ! 多分、さっきの昇華魔法を使ったやつらだ!」

「集中砲火で仕留めちまえ! 『魔力集中』『連速投擲』」

「木に縛り付ける! 『並行制御』『根の操作』『根の操作』!」


 おー、サヤとハーレさんが敵の位置を特定して、そこに近くにいたみんなが次々と攻撃を叩き込んでいってるね。まぁエリア切り替えの目の前で、こんな奇襲をされたらたまったもんじゃないからさっさと仕留めてしまうに限るか。

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