第1050話 新しい水魔法の検証開始


 みんなが勢揃いになったので、とりあえず水魔法をLv10にした結果で手に入った『アブソープ・アクア』について説明しておいた。さて、どんな反応になるかな?


「敵の水属性魔法を吸収出来る『アブソープ・アクア』か……。使い所を間違えれば全然使い物にはならないが、状況次第では相当凶悪なスキルでもあるな」

「そだね。相手が水魔法を持ってないと意味はないけど、持ってたらこれはとんでもないよ」

「ケイ、それって効果範囲はどうなるのかな? 昇華魔法もどうなるんだろ?」

「あ、気になるのです!?」

「そういや、その辺ってどうなるんだろうな?」


 全然効果範囲に関する記載は無かったから、どこまで有効なのかが分からない。昇華魔法に有効かどうか、もの凄く重要なはず。それにコケでも全ての部分で吸収出来るのか、核の部分だけに限定されるのか、2ndのロブスターにも影響があるのか、そこの範囲も重要になってくるもんな。

 正直、コケのスキルだから同調とは言ってもロブスターの部分はアウトな気もする。流石にそこまで影響が出るなら、効果範囲が広過ぎる。まぁコケの核以外からでも吸収出来るなら効果範囲は増殖で広げられるけど、そこは試してみないとなー! 試すのには水魔法を使う敵が必要だし、ミズキの森林にいるんだからとりあえず水砲ザリガニで軽めに――


「ケイ、それを試すのは少し待て」

「え、なんで?」

「それは後で俺と模擬戦で試してみた方がいい。その方が吸収効果も分かりやすいし、昇華魔法への効果も試せるからな」

「あ、そりゃそうだ!」

「おぉ!? ケイさんとアルさんの模擬戦なのさー!」

「いや、検証するだけで本気では戦わんぞ?」

「ほんの僅かな儚い喜びだったのです……」


 いやいや、ハーレさん、そこで崩れ落ちて悲しそうな言い方をしなくていいから! てか、この反応は本気で落ち込んでるんじゃなくて、ただ単に遊んでるだけだよなー!? 


「さてと、ハーレの悪ふざけは置いておいて、確かにそれは模擬戦で検証はした方がいいかもね」

「あ、そういえばアルは水魔法Lv7にはなったのかな?」

「おう、割とすぐに上がって、スキル強化の種も使わずに済んでばっちりだ!」


 おー、昨日の夜にログアウトする前に言ってた水の付与魔法の取得は成功したんだな。しかもスキル強化の種を使わずに済んだのはいいね!


「よし、それじゃ『アブソープ・アクア』は後回しで模擬戦で試すとして、水魔法の試し撃ちをやっていくぞー!」

「「「「おー!」」」」


 という事で、とりあえず忘れないうちにみんなにPT申請を送っておこう! こっちから攻め込む予定ではあるみたいだけど、魔法の確認中にミヤ・マサの森林へ青の群集からの強襲がないとも限らないからね。


<ケイ様の率いるPTが結成されました>

<ハーレ様がPTに加入しました>

<サヤ様がPTに加入しました>

<ヨッシ様がPTに加入しました>


 よし、俺をリーダーにしてアルとPTを組んだ状態で、そこにみんなが加入する形でPTの結成は完了! さてと、Lv8〜10の水魔法を試していくとして、9時までには全部終わらせておきたいところだなー。

 場所は今いる湖の畔が空いてるし、モンスターズ、・サバイバルの面々やそこに集まってる人からの視線もあるし、ここでいいだろ。新魔法になるんだし、後の情報の拡散の事を考えるなら見る人が多い方がいいしね。


「とりあえず通常発動と魔法砲撃での2パターンをやってくか」

「ん? 付与魔法の強化は試さないのか?」

「……試したいけど、流石の時間がなー。ほら、俺だけでそこまで時間使う訳にもいかないだろ?」


 みんなバラバラで特訓していくのならそれでも良いんだけど、そんな気は……無さそうだもんな。まぁ俺だって見る側の立場なら、絶対に見逃したくはない内容だけども。


「そういう事なら、ケイが気にならない程度にスキルの熟練度稼ぎでもしておくのでどうだ?」

「アル、それは良い案かな! 爪撃Lv10が気になるから、素振りしながら見てようかな?」

「おー! サヤが爪撃なら私はただの投擲とついでに土魔法を鍛えて……それは後にして、今は昨日取り損ねた大型化を今度こそ取るのです!」

「あ、そのまま取らずにスルーになる訳じゃないんだな?」

「昨日の竹で、必要だと思ったのさー! どっちでも使えるように、リスとクラゲの両方で取るのです!」

「おー、頑張れー」


 リスの頭の上で触手を色んな方向に伸ばしてるクラゲだけど、本当によく伸びるもんだな。まぁなんとか大型化の取得は頑張ってくれ、ハーレさん!


「それなら私は氷の付与魔法を目指そうっと。これなら邪魔にならない範囲? 『アイスウォール』!」

「それくらいなら問題ないぞー」

「了解! あ、ケイさん、発声なしで思考操作の方がいい?」

「あー、そこまでしなくての多分大丈夫だけど、そこら辺は任せた!」

「それなら、思考操作での誤発動を抑える特訓も兼ねてやるかな! 弥生さんの相手は、それくらい出来ないと……!」

「あはは、そうかもね。サヤ、ファイト!」


 なんだかんだで俺がこれから検証していく間でも、みんなも鍛えていく部分はしっかりあるんだな。これなら付与魔法のありの検証もしてもいけそうではある?

 いや、それはやるとしても、とりあえず一通りの通常発動と魔法砲撃の変化を把握してからの方がいいか。競争クエストの真っ最中だから、どこでどういう動きがあるか分からないしね。


「アル、悪いけど付与魔法の効果は後回しで良いか? とりあえず先に最小限の検証を終わらせときたい」

「そういう事なら別に良いぞ」

「……ケイ、何か焦ってるのかな?」

「焦ってるって言うか、早めに準備を……って、サヤとヨッシさんにはまだ言ってなかったっけ!?」

「ハーレさんから聞いたが、ミヤ・マサの森林で青の群集に攻め込むって話だよな」

「え、そうなのかな!?」

「だからケイさん、検証を急ごうとしてるの?」

「まぁ、そういう感じ!」


 まだ時間はあるとはいえ、これから検証する魔法は未知のものが多数含まれるもんな。青の群集の中に俺と同じ決断をした人がいれば、それだけでも相当な脅威になりかねない。

 単純に知らなかった、だたそれだけで勝敗が決まる可能性は充分あるからね。参加する人に情報を広める時間は欲しいから、出来るだけ試し終わるのは早い方がいい。


「おし、俺がケイの確かめた情報を情報共有板に随時書き込んでいく。ケイ、それでいいか?」

「そこはアルに任せた!」

「おう、任せとけ!」


 アルは特訓にはならないかもしれないけど……って、普通に水球を空中に浮かしてたよ! えっと、これは俺の生成する水と見た目が変わらないから海水じゃなくて普通の水の方か。


「それじゃ始めるぞー! まずは水魔法Lv8の通常発動から!」


<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 99/107 : 魔力値 250/274


 砂岩魔法のサンドショットに比べると相当魔力の消費量は少ないんだろうけど、それでもLv8ともなると結構な量を使うよな。まぁ応用スキルと比べるのが間違ってる気がするけど。

 それはともかく……この魔法、発動のタイミングだけで照準設定がないっぽい? そういえばLv8の魔法は自分を中心に拡散していく魔法だって話だったけど、味方への影響はどうなんだ? 勝手に巻き込むと思ってたけど、正しく確認してない気がする。


「この魔法、みんなに影響があるかもしれないから、その辺は注意してくれ!」


 とりあえずみんなにそう伝えたら、頷きが返ってきた。さてと、実際どんな風になるのかは試してみないとな! って事で、アクアディヒュースを発動!


「うぉ!? なんかすげぇ!?」


 視界全体をぐるっと水に覆われて、それが一気に全方位に向けて広がっていった!? なんというか、不思議な感じがする魔法だな。


「「「「あっ」」」」

「ん? そのみんな揃って『あっ』って……って、風音さん!?」


 ちょ、待って!? さっきまで誰もいなかった場所だったけど、そこに現れたワニサイズの緑色のトカゲに直撃して吹っ飛んでいった!? いや、吹っ飛ばすというよりは、押し流していってる!? あ、魔法の発動が止まった……。


「…………ログイン……早々に……吹っ飛ばされた」

「すみませんでしたー!」


 完全に今のは事故だと思うけど、だけどここは謝るのみ! てか、みんなは全然吹っ飛ぶ様子はなかったのに、無所属の風音さんだとあんなに吹っ飛ぶのか……。

 ワニサイズだからそれなりに大きい部類なはずなんだけど、結構威力があるっぽい。しかも今の1撃で1割ちょっとも削れるとは……全方位の範囲攻撃としては相当な威力じゃないか?


「…………ここで……ログアウトした……こちらの……不注意……気にしなくて……いい」

「そう言ってくれると助かる!」


 って、なんかすごい勢いで駆け寄ってきた!? え、本当は怒ってません? なんか近いんだけど!? これは何事!?


「……ところで今の……何? ……まだ見た事ない……水魔法? ……Lv8?」

「あー、それは……えーと」


 無所属の風音さんに魔法の内容を教えるのはありなのか!? いや、昨日の件では普通に協力してくれてたんだし、レナさんが協力者として連れてきてくれた人だし、言っても大丈夫なのか?

 なんかボーッとしてる印象があったけど、魔法に対して興味津々って感じで喋り方もちょっと変わった? え、風音さんって魔法に興味がある感じなのか?


「みんな、おはよー! ケイさんが水魔法Lv10にしたって聞いたけど……およ? 風音さん、どしたのー? なんかダメージ受けてる……あ、もしかしてケイさんの実験中の魔法を受けちゃった?」

「……レナ……水魔法Lv10って……ほんと?」

「あらら、風音さんの好奇心が出ちゃって、ケイさんが困惑してたってとこ?」

「まぁ、そんな感じになるのか……?」


 なんというか風音さんの魔法に対する反応の差が凄いんだけど……こんなに魔法に興味がある人だったのか。なんだか火とドラゴンにこだわりのある紅焔さんの、魔法版みたいな感じっぽい?


「……レナ……水魔法Lv10まで……見たい!」

「んー、良いよって言ってあげたいんだけど、そこはわたしに決定権がある訳じゃないしねー。それに流石に内容的に無所属に気軽に流せる情報でもないし……」

「……分かった。……それなら交換条件……闇魔法の取得方法と……交換。……まだ分かってないって……昨日……レナが言ってた」

「およ? 風音さん、もしかして闇魔法の取得条件を知ってるの!?」

「……2ndの闇属性の龍で……持ってる。……レナには……まだ見せた事……ない」

「……あはは、こんなとこに知ってた人がいたよー」


 ちょっと待って、風音さんの2ndが闇属性で闇魔法持ちの龍!? それって思いっきり心当たりがあるんだけど、ひょっとするとひょっとするんじゃないか?

 あ、レナさんが俺のすぐ近くまでやってきた。これは多分どうするかの相談だろうなー。この状態、決定権は俺にありそうだし。


「ねぇ、ケイさん。闇魔法の取得条件がさっぱり不明のままなんだけど、ここは交渉に乗るのはどう? 風音さんは集団行動が苦手なのと、ちょっと色々あって競争クエストに参戦してくる可能性は低いから、情報流出の心配はそこまでないよ」

「あー、そういう感じなのか。ただ、ちょっと風音さんに確認したい事があるから、それを聞いてみていい?」

「それは良いけど、どういう内容?」

「人違いの可能性もあるから、それは聞いてみてからで……」

「んー? なんか気になるけど、了解ー!」


 もし風音さんが俺が想像している通りの人なのだとしたら、そして羅刹が言っていた人と同一人物でもあるとしたら、この情報交換は非常に重要な意味を持つ可能性はある。


「風音さん、少しだけ質問してもいいか?」

「…………内容による。……けど……いいよ」

「それじゃ遠慮なく。この間の木曜日の夜、ネス湖の湖底森で成熟体のアロワナを仕留めてなかった?」

「…………なんで……知ってるの? ……もしかして……見てた?」

「まぁぶっちゃけその場にいた。あ、でもだからどうって訳じゃないからな! ただ確認したかっただけだから」

「…………別に……問題ない。……闇魔法を持ってる……証明になる……し」


 レナさんの事を信じてない訳じゃないけど、俺らは風音さんの事はほぼ何も知らないに等しいからね。あの時の黒い龍の人が風音さんだと分かったなら、闇魔法を持っているという情報は信用出来る。


「みんな、水魔法Lv10まで見せるのを交換条件に、闇魔法の取得条件を教えてもらうのでいいか?」

「もちろんなのさー!」

「あのブラックホールって闇魔法は厄介だったしな。赤の群集も青の群集も使ってきてるのに、灰の群集だけ不明なのは不利だし、ありだと思うぜ」

「私も賛成かな!」

「このチャンス、逃す手はないよ!」


 みんなも同意してくれているし、ここはその方向でいきますか! 全く想像もしてなかった展開だけど、俺らとしても利益は大きいしな。


「風音さん、その交換条件で頼む」

「…………交渉成立。……それじゃ、まず先に……闇魔法の取得方法を……教える」


 魔法Lv10まで見終えた後から教えてくれるんじゃなくて、先に教えてくれるのか! 条件次第ではあるけど、聞いたらすぐに情報共有板に流してベスタ辺りに取得を狙ってもらいたいところだな。


「……最低限、必須なのは……『魔力制御Ⅱ』と『闇属性』と『闇の操作Lv4』……になる。……重要なのはここから。……『闇の操作』を途切れさせず……闇で覆い続けた状態で……成熟体を倒し切る事。……称号の取得に重ねる必要はない」

「おいおい、称号に重ねる必要がないのか!」

「およ? もしかして、それって倒すのに他の攻撃スキルの使用はしたらいけないの?」

「……そこが盲点。……闇で覆うのは移動操作制御じゃダメ。……それと倒すのは……1人でやらないと……多分ダメ」

「地味にハードルが高いのさー!?」

「そりゃ、条件が不明な訳だよね……」

「赤の群集も青の群集も、よくその条件を見つけたかな!?」

「こりゃ聞いておいて正解だったかもな……」


 何かの要素で簡略化出来るものがあるそうな気もするけど、そこはまぁ後で考えてみればいい話だろう。少なくとも、称号に重ねる必要がないって情報は非常に有益な話なのは間違いないしね。

 弥生さんなら闇の操作を維持したまま、通常攻撃だけで成熟体を仕留めるくらいは平然とやってしまいそうだしなー。

 

「風音さん、闇魔法の情報は助かった! これから水魔法の検証を再開していくから、思う存分に見学していってくれ!」

「……そうする。……それじゃまず……さっきから教えて?」

「あー、さっきのは水魔法Lv8でアクアディヒュースって言ってな? 性質としては――」


 とりあえず風音さんを巻き込んでしまった、さっきの通常発動でのアクアディヒュースについての説明をしていこう。それにしても風音さんは魔法が好きみたいだけど、なんで無所属にいるんだろ?

 全部の魔法を自分だけで手に入れようってのはシステム的に現実的じゃないし、群集にいた方がその手の情報は手に入れやすい思うんだけどな? まぁ事情は人それぞれにあるだろうし、変に詮索するのはやめとくか。

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