第1048話 みんなが揃うまでに


 なんだか違う方向性へとパワーアップしたカインさんの竹を使った投擲を見てから、今の競争クエストの状態を聞き終えた。まさか海エリアの方で経路確立になってるとはなー。それと、明確に行方不明が確定したキツネのマサキの動向が気になるところ。


「さてと、俺は一旦休憩してくるわ!」

「え、カインさん? まだ8時ちょいだぞ?」

「あー、俺は朝6時からやってんだよ」

「おぉ!? 早起きなのです!?」

「随分早いな!?」

「別に早起きしようって訳でもなかったけどな。5時半くらいに起きちまって妙に目が冴えちまって、その時に思い付いた事をそのままやってただけだしよ」

「……なるほど」


 別に早朝を狙ってた訳ではないけど、それが結果的にさっきの竹の使い方に繋がったのか。そんなに頻繁にある訳じゃないけど、変なタイミングで目が覚めてそのまま起きてるって事はあるよなー。


「一区切りついたし、少し眠気もあるから10時くらいまで仮眠してくるわ」

「はーい! カインさん、おやすみなさい!」

「あ、カインさんは11時からの攻め込み作戦は参加するのか?」

「おう、そのつもりだぜ! ぶっちゃけ、その為の仮眠だな! ケイさん達も都合が悪くなけりゃ参加だろ?」

「まぁ他のみんなにも聞いてみないと絶対とは言えないけどなー」

「多分、みんなも駄目だとは言わないと思うのさー!」


 俺としても、アルもサヤもヨッシさんも断ってくるとは思っていない。参加出来ないとしたら、リアルの都合でそもそもログイン出来ない可能性の方が高そうだしね。その場合は……まぁその時に考えよう。もしもだけど、俺とハーレさんしかいない事になれば流石に控えるかもしれないし。


「それじゃ、また後でな!」

「ほいよっと!」

「また後でねー!」


 そうしてカインさんは一度ログアウトしていった。まさか朝6時からログインしてたとは思わなかったけど、まぁそういう事もたまにはあるだろう。カインさんはレナさん相手にトーナメント戦でかなり善戦をしていたし、戦力として期待だね!


 さてと、ログインして早々にカインさんとあれこれがあったけど、まだサヤ達のログイン状況が確認出来てないんだよな。という事で、フレンドリストを確認!


「……みんなはまだログインしてないんだな」

「サヤとヨッシにはログイン前にメッセージを送っておいたので、ログイン出来るようになったら多分返事が来ると思います!」

「既に根回し済みかい! まぁサヤとヨッシさんについてはそれで良いとして……アルはログインしてみるまで分からないか」

「そればっかりは仕方ないのさー!」


 今日は明確に何時に集合とかは決めなかったしなー。アルは一人暮らしだから時間の都合は付けやすいんだろうけど、色々とやらないといけない事も多いだろうしね。

 とりあえずサヤかヨッシさんからの連絡が来るまではハーレさんと2人で何か……あ、その前に確認すべき事があった。時間が時間だからまだログインしてるかどうかは分からないけど、羅刹はどうなった? フレンドリストは開いたままだから……お、現在地は不明にはなってるけどもうログインしてた!


「ハーレさん、ちょっと時間をくれ。羅刹がログインしてるから、今の状況がどうなってるかを聞いてみる」

「おー! それは重要な情報なのさー!」


 既にベスタもログインしてるからそっちに情報は回ってそうな気はするけど、とりあえずフレンドコールをするだけしてみよう。もし都合が悪い状況だったら、すぐに切られるはず。その場合はベスタの方に聞いてみよう。って、すぐに出たな!?


「おう、ケイさん、ログインは早いじゃねぇか」

「おっす、羅刹! そっちの状況は大丈夫?」

「あぁ、問題ねぇよ。丁度こっちからフレンドコールをしようと思ってたとこだからな」

「……ナイスタイミングだった?」

「ま、声が響かない位置まで移動してたから、そうなるな。それでだ、聞きたいのは俺の現在地だろう?」

「だなー。単刀直入で聞くけど、今どこにいる?」

「まだ峡谷エリアにいるぜ。ログアウトしても、傭兵は他のエリアには飛ばしてくれんらしい」

「ちょい待った。傭兵は……?」

「あぁ、ログインしたばっかでまだその辺は確認出来てないのか。群集所属のプレイヤーは、ログアウトでも強制的に安全圏へと送り返されるみたいだぜ?」

「マジか!?」


 うわっ、その情報はまだ知らなかった! 死んでも、ログアウトしても、どっちでも安全圏へと送り返されるのか。転移の実や種も使えなさそうだし、進んだ先に留まらせてくれないようになっているのか? 毎回進んだ状態がリセットされるのは、正直キッツイなー。


「1つ確認。それは羅刹がいる峡谷エリアでは安全圏がまだ確立されてないからって可能性は?」

「ベスタから聞いた話だから、俺の状況は関係ねぇだろうな。むしろ、俺からの情報としては無所属の傭兵がその例外になるって部分だ」

「……なるほど」


 その要素は傭兵のメリットと考えるべきか、デメリットと考えるべきか、少し悩むところだな。そういう仕様だと、傭兵の人とは死亡はどうにか避けたとしてもログアウトでどうしても分断される状況が発生してしまう。

 何を目的として傭兵だけはその場に残るような仕様になっている? 単純に考えれば無所属の傭兵に明確な役割を与える為な気はするけど、そんな単純な話なのか? うーん、まだ情報が足りなさ過ぎて判断し切れないなー。


「あぁ、そうだ。ケイさん達の方で青の群集の仕掛けてきた手段の再現については聞いたぜ。すげぇ厄介なもんを用意してきやがったな、青の群集。どうやって対処すんだよ、あれ」

「地味にそこが問題なんだよなぁ……」


 危機察知を掻い潜って届く攻撃だから、気付く為には目視で確認するしかない。でも、貫通狙撃は根本的に射程が長いし、事前に気付けるチャージ中の銀光まで隠されてしまうと冗談抜きで対処が難しいんだよな。

 思い付く手段としては守勢付与での自動防御や、カウンタースキルや防御用のスキルでの自動回避なんだけど……ダメージ判定の都合で無所属の人の手を借りなきゃ無理だから、検証が難し過ぎる! 攻撃された事さえ分かれば、弾自体が銀光を放っているから思いっきり可能な限り大急ぎで思考操作でスキルを発動すれば防御自体は……。


「ん? あ、そうか! 移動操作制御で水の膜でも作って判定代わりにすれば、危機察知代わりになる!」

「……いや、ジャングルの中でそれは無茶じゃねぇか? どっかに当てても解除になるだろ」

「そこはハッタリも加えるんだよ! 誰でもいいからそれで1回でも防げたら牽制にはなるし、多分あの方法で狙ってくるのは空中戦力だろ! 防がなくても回避でもいいし!」

「……確かにそれはそうだな。あの手段だと、ジャングル内の相手に当てる難易度は跳ね上がるか」


 俺らの場合なら、俺かアルが水のカーペットで覆っておいて、それが消え去った時にアルに旋回で緊急回避してもらえばどうにか避けられるはず。もし当たったとしても精密な狙いが必要だろうから、少なくとも本命の狙いは外せられる。


「ケイさん、話が脱線してませんか!? なんだか重要な内容で、蚊帳の外に置かれてる気がするのです!」

「あ、悪い!?」

「ん? いきなり謝ってどうしたよ?」

「あー、今のは隣にいるハーレさんに謝っただけ! 脱線し過ぎてるって言われて……」

「なるほど、そういう事か。ま、確かに今のは脱線だし、俺よりは群集の方に作戦として伝えておくべき内容だな。とりあえず俺の現状報告はそんなとこだ」


 ん? あれ、戻ってくる方法を探ってるとか、現地の調査とかもしてたんじゃなかったっけ? あー、でも俺らがログアウトしてからどれくらいやってたかは分からないし、今日ログインしてどれくらい経ってるかも分からないから、まだ成果なしって可能性もあるんだな。


「ちなみに色々と探っていて戻れそうな怪しいのは見つけたんだが、今の俺は身を隠しておきたいからな。誰か無所属の傭兵がこっちに来たら試してもらうつもりでいる」

「あー、その制約があるのか。……ちなみに怪しいってのはどんな感じだ?」

「イブキが転移してきた瘴気の渦があったろ? それが所々で発生してて、空間が歪んで見えるの場所は見つけたぞ」

「……その中に入れば、戻ってこれる可能性はある?」

「出口がどこになるかが分からんがな。あぁ、そうだ。検証に協力してたっていう無所属のプレイヤーの名前は分かるか?」

「それなら風音さんだな。ワニみたいにデカい風属性っぽいトカゲの人」

「……聞き覚えがない名前だな」

「まぁそういう事もあるだろ!」

「それもそうか。さて、俺は引き続き峡谷エリアの探索を進めておくから、何か発見があればフレンドコールで伝えるからな」

「ほいよっと。それじゃそっちは任せた!」

「おう、任せておけ」


 とりあえずフレンドコールは終了! 羅刹がこうして味方として動いてくれると頼もしいもんだよなー。イブキだと頼もしいというよりは、暴走していく心配が必要になりそうだしさ。

 サバンナエリアに飛ばされてるイブキが今どうなってるのかが気になるとこだけど、さっきフレンドリストを見た時には流石に居場所不明に設定されてたし……教えるような誰かが味方にいる? うーん、自分で気付いた可能性はあるし何とも言えないか。


「ハーレさん、待たせた!」

「脱線してた内容は、危機察知を掻い潜ってくる投擲の防御方法なのー!?」

「あー、まぁそうなる」

「やっぱりそうなんだ!? ちなみにその辺の情報をまとめで見てたけど、回避用のスキルのスキルLvがかなり高ければ可能性はあるそうです! 守勢付与は反応はするけど、威力負けして押し切られるらしいのさー!」

「意外と検証が進んでた!? そっか、風音さん以外にも協力してくれる無所属の人がいたのか」

「ううん、灰の群集の人で競争クエストの戦力になる自信がない何人かが一時的に無所属になって検証してくれたそうです!」

「そんな手段ってありなのか!?」

「ふっふっふ、ありみたいなのです!」


 検証する為に動いてくれたのはありがたいけど、まさか一時的にとはいえ灰の群集を抜けてまでやるとは……。そうなると、間違ってそういう人達が灰の群集のエリアにいても倒さないように気を付けないといけないな。


「ちなみにそういう人達は常闇の洞窟の転移地点の1ヵ所に集まっているそうなので、絶対に襲わないようにという通達が出てるのです!」

「あ、なるほど、あの中にいるのか!」


 確かにあの中ならただの無所属の人が容易に入ってこれる場所じゃないし、イベント中の対象エリアにでもならなければ、まず他の群集の人が入ってくる事もない。

 常闇の洞窟の中の転移地点なら灰の群集の所属プレイヤーならすぐに移動出来るし、これ以上ないって程の好条件の場所だな。もうすっかり行く事がなくなってたけど、そういう活用方法もあったんだね。


「という事で、さっきケイさんが思いついてた手段を報告にいくのです!」

「あー、まとめに報告を上げるだけじゃ駄目か?」

「それでも良いけど、ケイさん、どうかしたのー?」

「いや、グリースのLvを上げときたくてさ。それと、スキル強化の種を使おうかと悩んでるところ」

「おぉ!? ケイさん、何を上げるので悩んでるの!?」

「水魔法か土魔法のどっちかをLv10まで上げてしまいたいんだよ。砂岩魔法のサンドショットは威力は申し分ないけど、どうしても溜めが気になってなー。あと、単純にLv10までの魔法の種類が知りたい」

「という事は、水魔法と土魔法のどっちにするかを悩んでる感じですか!?」

「ま、そうなる。水の操作や土の操作も考えたんだけど、俺が今持ってるスキル強化の種じゃLv9までが限界だからな」


 ぶっちゃけ、ここで水の操作か土の操作がLv7になってくれれば、そっちをLv10にするのもありなんだけどね。今、俺が一番気になってるのは上限になるLv10になった時に何かこれまでとは違う追加効果の有無が気になってるんだよな。

 爪撃Lv10で行動値が回復に転じるなんて効果があったんだ。他のスキルにも、同様に何かがあってもおかしくはない。今回の競争クエストは冗談抜きで油断が出来ないから、そういう部分で切り札が欲しい。


「それなら水魔法がいいと思います!」

「……その理由は?」

「最近、ケイさんは土魔法の使用の方が多いからなのさー!」

「それって理由としては逆にならない? 使う頻度の多い方が……」

「ふっふっふ、使う頻度が多いからこそ自力で熟練度は稼げるのです! だから、使用頻度が減ってる水魔法が良いと思うのさー!」

「……なるほど、そういう考え方もありか」


 確かに土魔法や土の操作や岩の操作の汎用性が高いから、今後も使用頻度が下がる事はないはず。逆に今の水魔法は明確に使用頻度が下がってるのは間違いない。別に使えないから使わなくなった訳ではないから、土魔法とは違う優位性を持たせるのも悪くはない選択か。

 温存し続けても使いどころを見失うだけだし、今後もスキル強化の種は手に入るだろうし、ここは水魔法に注ぎ込む事にするか! まだ水魔法Lv8までしか判明してないんだから、Lv9とLv10の内容自体が貴重な情報になるだろうしね。


「よし、決めた! 水魔法をLv10まで上げるぞ!」

「それでいいと思うのさー!」

「そういやハーレさんはスキル強化の種は使わないのか? ハーレさんは確か4個は持ってたよな?」

「とりあえず応用連携スキルの『爆連投擲』をLv2にするつもりではいるのです! それ以外はまだ未定なのさー! 選択肢が色々あって、悩むのです……」

「あー、そういう感じか」


 まぁ俺も水魔法と土魔法の2択まで絞るまででも結構悩んだからなー。それこそ並列制御Lv2で同時に使えるスキルの数を増やしたりとか、水流の操作や岩の操作をLv7まで上げてみようかとか、水の操作や土の操作の同時操作数を増やすとか、色々考えたもんだよ。

 だからハーレさんがどういう選択をするかは、もっと選択肢を絞ってからでも良いはず。すぐにスキル強化の種を使わなきゃいけない理由もないんだしね。

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