第1044話 抗毒魔法の破り方


 まだ色々と不完全ではあるけども、魔改造の方向性は見えてきた。とりあえず俺1人でアースバレットを曲げるとしたら、もっとグリースのLvが必要なのは確定と考えていい。竹を利用した手段については、ちょうど油が届いたところだからこれから実験だな。


<『遠隔同調Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 75/106(上限値使用:1)

<『遠隔同調』の効果による視界を分割表示を終了します>


 おっと、もう遠隔同調の効果時間切れでコケの核がロブスターの背中のコケに戻されたね。ふむ、遠隔同調自体はすぐに再発動出来るけど、強制的に引き戻されるからそう連発は出来ないか。

 でも、それは敵が遠隔同調を使う場合も同じ事。遠隔同調をスキル強化の種でLvを上げて効果時間を伸ばすって可能性もない訳じゃないけど、それでどの程度伸びるかは分からないな。


 まぁ遠隔同調のスキルLvについては考えても結論が出る訳じゃないし、今はいいや。それよりも後でやるつもりだった抗毒魔法の破り方が既に判明したとはね。まぁ俺らだけが動いてる訳じゃないし、そういう事もあるか。


「アル、とりあえず分かってる抗毒魔法の破り方を教えてくれ!」

「私は特に聞いておく必要があるよね」

「ま、ヨッシさんは確実に把握しておくべき内容だろうな」


 だよなー。俺らのPTではヨッシさんが使う可能性が高いんだから、全員把握しておいた方がいいけど、最優先で把握しておくべきはヨッシさんになる。場合によっては俺のコケとアルの木を守る最大の防御になる可能性もあるしね。


「おし、それじゃ説明していくぞ。羅刹、ずっと静かだが問題はないか?」

「峡谷エリアを降りていったら地味に声が響いて、喋るのを避けてただけだから問題ねぇよ。ただ、そういう理由であまり喋らないが勘弁してくれ」

「おぉ!? それは了解なのです!」


 少し前から殆ど羅刹の声が聞こえなくなってたけど、そういう事情があったのか。ふむふむ、これも一連の検証が終わった時に一緒に報告しておいた方が良い内容だな。

 それにしても峡谷エリアは声が響くのか。そんな特徴があると下手に口頭での指示が出しにくそう。逆にデマ情報を流すという手もあるけど、そこら辺は赤の群集も青の群集も普通に思い至るだろうから、中々厄介なエリアになりそうだ。


「およ? 羅刹さんはなんて?」

「あー、峡谷エリアは声が響くんだそうだ。それで変に喋れないんだとよ」

「へぇ、そういう性質のエリアなんだねー! アルマースさん、出番が多いかもよ?」

「……あぁ、樹洞の遮音設定か。確かにそれはありだな」


 あ、そうか! 樹洞の中に入ってしまえば外には声は聞こえないし、指示を出す場合だけ指示を出す人が樹洞の中に入ってしまえばいい。連結PTのメンバーまでならPT会話で指示は出せるし、少し手間はかかるけどその辺は移動種の強みになりそうだな。

 ふむふむ、先行して羅刹が偵察してくれているのが役に立ちそうだ。進出する前からエリアとしてデメリット要素が分かるというのはありがたいね。


「さて、抗毒魔法の破り方の話に戻すぞ。とりあえず分かってる範囲での破り方は3つだ」

「あ、3つも手段があるんだね」


 思い当たる手段はいくつかあるけど、まぁ今は大人しく確定で破れる手段を聞いていこう。もしその中に思い当たる手段が含まれてなかった時に詳しく聞けばいいしね。


「まず1つ目の手段だ。まぁ厳密には2つにはなるんだが、まとめてになる」

「そういう言い方って事は、『魔力集中』と『自己強化』かな?」

「あぁ、その2つになるな。どちらかを発動中に近接攻撃で紫の光の膜を攻撃すれば耐久値を削れるそうだ。当たり前だが、削れる耐久値は威力が高いほど多くなって、耐久値が無くなれば解除になるぞ」

「そこは順当なとこだなー」


 概ねこれに関しては予想通り。そして近接攻撃と言ってるからには遠距離攻撃は別枠か。まぁヨッシさんが青の群集から例の奇襲を受けた時は、思いっきり素通りしてたもんな。


「2つ目の手段は、発動者そのものを攻撃する事だ。これはチャージ系スキルや昇華魔法と同じで一発で破られるらしい。遠距離の物理攻撃でも有効だそうだから要警戒だ」

「およ? 遠距離でも物理攻撃に限定なの?」

「魔法だと狙いやすいから、別枠判定になってるみたいだな」


 なるほど、それは確かにそうなるよな。見えてさえいれば、魔法の発動位置は任意で指定が出来るんだし、投擲とは別判定になってもおかしくない。

 ん? いや待て、遠距離の物理攻撃なら基本的に魔法で生成したのを使わなければ操作系スキルは物理判定だけになるから、そっちでも破れるのか。投擲系スキルや、操作系スキルで破る時は本体狙いになるって事で良さそうだね。


「それで魔法での破り方が3つ目になる」

「具体的にどう破るんだ?」

「魔法を使うキャラが、抗毒魔法の光の膜のすぐ近くにいる必要があるらしい。それで初めて耐久値が削れるそうだ。そうでなければ魔法は膜を素通りらしいぞ」

「え、マジで!? それ、絶好の攻撃チャンスじゃね?」


 抗毒魔法を発動中は、発動者は動けないというデメリットはある。それなら近付いて、抗毒魔法は無視して魔法を叩き込みまくる方が……あ、いやダメか、これ。


「今の無しで。抗毒魔法を使う時に1人でいる訳がないから、魔法メインで距離を詰める事自体がデメリットになるな」

「そんな状態になったら、私達ならヨッシ以外のみんなで総攻撃を仕掛けるのさー!」

「あはは、それはそうかな!」

「そうなった時は、みんな任せるからね!」

「任せとけ、ヨッシさん!」


 PTで動く以上、抗毒魔法で毒への防御をして動けなくなるヨッシさんのフォローをするのは他のメンバーの役目だもんな。冗談抜きで腐食毒や溶解毒に対しては植物系は弱過ぎるから、この対抗手段は防御の要になり得る。


「あ、そうだ、アルさん。具体的に防いでいる毒の魔法を受けた場合にどうなるかってのは分かる?」

「あぁ、それか。対象としてる毒の魔法を受けたら、その毒魔法は消滅との事だ」

「それじゃ複合毒で複数の毒を持たせてる場合は?」

「その場合は、対象の毒の効果だけが消えるみたいだな」

「そっか、そういう感じになるんだね。そういう仕様なら……」


 ん? なんだかヨッシさんが聞き取れないくらいの小声で何かを呟いてるね。何か考えを整理してるような感じがするけど、どういう事を考えてるんだろう?


「ヨッシ、どうしたのー!?」

「あ、ちょっと考え事をしてたんだけど……うん、決めた!」

「決めたって何をかな?」

「抗毒魔法にスキル強化の種を使ってLv2にするよ。それで腐食毒と溶解毒を両方防げるようにしておくね」

「え、良いのか?」

「そりゃ助かるが……」

「うん、良いの。アルさんとケイさんは倒されると、一気に厳しくなりそうだしね」

「あー、なるほど」

「……確かに否定は出来ないか」


 基本的にいつも俺かアルが指示を出す形になってるし、アルが仕留められれば機動力は一気に落ちるもんな。支配進化になった今のアルなら、木への防御は尚更に必要かもしれない。俺自身も他の弱点はまだ対抗策はあるけど、腐食毒と溶解毒への明確な対応策は用意出来てないもんな。


「もう決めたし、今上げちゃうね。……うん、抗毒魔法はこれでLv2になったよ」

「ヨッシさん、折角だから見せてもらってもいいー? 抗毒魔法って、まだ見た事がないんだよねー!」

「それじゃレナさんの要望にお応えして。『アンティヴェニン・デュオ』!」


 おぉ!? ソロの部分がデュオに変わって、紫色の膜も二重になったっぽい。これで俺とアルへの毒への対策が出来て……いや、物理毒は防げないって話だから、そこは変わらず要注意か。


「こうなると、ヨッシさんへの守勢付与の自動防御は常にかけておきたいな」

「……確かにそれはそうだな。ケイ、少し時間をくれ。明日までに水の付与魔法を取得出来ないか、この後で熟練度を稼いでみる」

「え、守勢付与なら俺の方でやるぞ?」

「ケイに常にその余力があるとは限らんだろ。リスク分散だ」

「あー、確かにそうな。そういう事なら任せた!」

「おうよ!」


 とりあえずアルはすぐにスキル強化の種を使って上げるという訳ではないみたいだけど、ありな手段ではあるよな。多分、競争クエストが激化するのは休日になる明日や明後日の土日になるはず。

 それまでに俺らももう少し強化をしておきたいけど、今からは流石に厳しいよなー。全然、刻印石とやらは手に入らなかったし……。


「今ふと思ったんだけど、刻印系スキルで『白の刻印:守護』ってのがあったよな? あのキャンセルを防ぐやつ! あれって、抗毒魔法にも有効?」

「……その情報は出てなかったな」

「あー、情報は無いのか……」

「ケイさん、アルさん、そこは仕方ないよー! まだまだ刻印系スキルを持ってる人は少ないからねー! 厳密には刻印石が全然足りてないって言うべきだけどさ」


 うーん、抗毒魔法のキャンセルを防ぐ手段として思いついたけど、まだ実際に試してみれる状況にはないのか。こりゃ、どこかで刻印石を早めに手に入れたいとこだな。


「あー、まだ無理なもんは仕方ない! それじゃまだ残ってる竹と油を使った貫通狙撃の曲げる手段の方をやっていくか!」

「それもそうだな。そっちもやっていくか」

「頑張るのです!」


「…………レナ……そろそろ……眠い。……もう……いい?」

「最低限の確認したい事は確認出来たし、風音さんありがとねー! それじゃ――」

「………それじゃ……おやすみ」


 そう言って風音さんはログアウトしていった……って、ここでログアウトー!? え、無所属の風音さんがここでログアウトして大丈夫なのか?


「あらら、外まで送っていこうと思ったのに、その前にログアウトしちゃったかー。えっと、肉食獣さんは……いなさそうだね。桜花さんはもう帰っちゃってるし……仕方ない、わたしの方で――」

「レナさん、それなら僕の方で伝えておこうかい? もうしばらくはログインしているし、倒さないように言伝を頼んでいくくらいはなんとか出来るよ?」

「およ? いいの、ソラさん?」

「まぁ僕は競争クエスト自体には参加しないしね。これくらいの手伝いはさせておくれ」

「そっか、それじゃソラさん、お願いねー!」


 ソラさんって対人戦が好きじゃないだけであって、別にイベントで騒ぐ事が嫌いって訳じゃないっぽいもんな。参戦しない形でなら、イベント自体には関わりたいってとこなんだろうね。


「へぇ、集まってる人達で色んな試行錯誤をしながら、大型イベントは進めていくんだ。一歩間違えたら滅茶苦茶になりそうだけど、指揮系統がしっかりしてる? ちょっとまとめてる人に会ってみたいかも……」


 なんかず見学してたアイルさんのそんな呟きも聞こえてきたけど、まぁベスタのリーダーとしての素質が大きいのは間違いないもんな。赤の群集も青の群集も、裏で糸を引いていたスライムはいたけど、実際に滅茶苦茶になってた時期もあったしね。

 まぁその辺はいいや。まだアイルさんの事を全面的に信用出来てる訳じゃないし、わざわざベスタに紹介しようとも思えないからなー。


「ところでレナさん。竹に穴は開けたけど、ここからどうやって油を流し込むの?」

「それなんだけど、ヨッシさん、氷で漏斗みたいなのを作れない?」

「あ、そのまま順当な手段なんだ。それならちょっと作ってみて……『アイスクリエイト』『氷の操作』! これで……あっ、この形は難しいかも……!?」

「うーん、やっぱりちょっとこの形は厳しかった? それじゃ別の方法でやろっか」

「……その方が良さそう。氷の操作、解除で」


 あー、流石に漏斗の形に氷を形成するのは難しかったっぽい。多少大きくて良いなら作れそうではあるけど、竹の中に油を注ぎ込む為のサイズは流石に厳しかったか。

 うーん、流石に俺も漏斗の形に岩を生成する自信はないな。あ、でも水のカーペットで真ん中に穴を開けるみたいな感じなら出来そうな気がする。


「別の方法はどうやるんですか!?」

「ハーレ、クラゲの触手を空けた穴に突っ込んでくれない?」

「はーい! こうですか!?」

「うん、そんな感じ! それじゃ触手を伝って油を流し込んでいくよー!」

「おぉ!? そんな手段だったのさー!」


 どうも俺が水のカーペットを応用してどうこうする必要は無かったみたいだね。そんな感じで、どんどんと油が竹の中へと注ぎ込まれていく。


「そういえば、油の量は大丈夫なのかな?」

「あはは、正直に言えば全然余裕はないよー! ただ、増産した後の料理以外での活用方法を模索してる検証組には出し惜しみ無し!」

「地味に責任重大なのです!?」

「ハーレさん、ミスするなよー!」

「ケイさんの発案なのに、なんで他人事なのさー!?」

「実行するのはハーレさんだからだな!」

「あぅ……プレッシャーが凄いのです」

「ハーレ、ファイトかな!」

「頑張ってね、ハーレ!」

「うぅ、こうなったら意地でも成功させるのです!」

「その意気だね、ハーレ。はい、油入りの竹」

「受け取ったのさー! わっ、かなり重めなのです!?」


 ふらふらとよろけながらもクラゲの触手をグルグルと何本も竹に巻きつけて支えていくハーレさんである。うーん、リスより何倍も長い竹なんだけど、やっぱり支えるだけでも無理があったか? でもハーレさんはやる気いっぱいだし、やるだけやってみますか。


「それじゃ実験開始なのさー!」


 さて、魔改造の第2弾はどうなるかな? まぁ魔改造の第1弾もまだまだ未完成だから、失敗する可能性は考えておかないとね。竹の中に入れた油の中を投擲の弾が通っている間に強引に向きを変えて飛んでいく方向を変えようって、言ってはみたものの相当無茶だとは思うしなー。

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