第1043話 魔改造を目指して


 とりあえず応用スキルである貫通狙撃を曲げるのには成功した。ただ、今はまだ2人で手分けをして使っている状態になるから、これを1人で完結させられるのかを確認する必要があるんだよな。可能なら滑らせる役目と投擲の役目を1人で全部やりたいんだけど、俺じゃ投擲が使えない……。


「あっ! そうか、この手があった!」

「……何か思い付いたのか、ケイ?」

「別に試す遠隔同調で出来るかどうかなら、投擲でなくても良いじゃん! 魔法砲撃で射出魔法を使ったら良いだけだ!」

「およ? あ、そっか。何も投擲に拘る必要はないもんね」

「……投擲ばかりに気を取られてたが、確かにそれはそうだな」

「よし、これなら俺1人で完結させられるし、その方向で試してみるか!」


 ダメージがきちんと入るかどうかは、実際に曲げられるかどうかを確認してみてからだ。魔法砲撃でやってみたとしても、投擲と同じ挙動になるという保証もないからね。


「あぅ……私はお役御免になったのです……」

「ハーレ、それは違うから安心してかな!?」

「そうだよ、ハーレ! 貫通狙撃を実際に曲げられるかどうかは、重要な案件だったよ?」

「……そこは私じゃなくても出来る事なのです」


 あー、ハーレさんが露骨に拗ねてしまった。そこでサヤとヨッシさんが俺の方を見てきたけど、正直どうしようもなくね!? 貫通狙撃の方が確実に射程が長いから、俺のこれからやろうとする事と完全に被る訳じゃないんだけどな……。

 うーん、ハーレさんだからこそ出来る事は何かないか? リスの投擲とクラゲを組み合わせてみるとか……ん? ちょい待った。クラゲを活用する方法が何か浮かびそうな……。


「あ、これだ! レナさん、油と竹って今持ってる? 竹は未加工のやつ」

「およ? 油ならもう少ししたら届くと思うけど、なんで未加工の竹?」

「竹の節の中に油を予め詰めといて、節の部分は貫通狙撃で破壊しながら、竹を貫通する前に向きを変えるってのはどうよ?」

「……タイミングがシビアにはなりそうだけど、それでも危機察知からは外れそうだし、ありはありかも? あ、ハーレのクラゲで竹を持って、その中に貫通狙撃でやる気? でも、大きさ的に厳しくない?」

「あー、そういや大きさは考えてなかった……」

「ケイさん、無茶を承知でやりたいです! 持ち上げなくても、支える感じならいけそうな気もするのです!」

「よし、それならそっちも並行してやっていこう! レナさん、その辺の調整は任せていい?」

「任せておきなさーい! あ、ヨッシさん、竹の中に油を入れる為の穴を開ける部分を手伝って貰えない?」

「あ、分かりました!」


 よしよし、魔改造計画はこれでもう1案出来たな。多分、竹の耐久性を考えると威力を抑え気味にする必要はありそうな気はするけど、それでも危機察知を掻い潜る手段としてはありのはず。……問題はハーレさんのクラゲで支えられるかだけど、まぁそこは後で考えよう。


「油は届き次第になるけど、今のうちに穴を空けていくよー!」

「下準備ですね。『魔力集中』『刺突』!」


 おー、ウニが無色のオーラを放ちながら、その棘の1本で竹に穴を空けていってるね。竹についてはレナさんが持っていたのを出してくれたようである。さて、そこはレナさんとヨッシさんに任せよう。

 空洞の竹だと上手くいかないだろうから、油を方向を強引に変える時の緩衝材と勢いを出来るだけ殺さない為の潤滑油にすればいい。まぁ上手くいくかはやってみて確認するしかないけどさ。って、アイルさんが群体塊のコケでコロコロと転がってきた。


「……ケイ君、いつもこんな感じにやってるの?」

「ん? まぁ状況によってやる事は多少の違いはあるけど、そうなるなー」

「そっか。軽く見た感じでも、検証型のプレイヤーって印象だね」

「……頼むから、リアル側でフラムに情報流出とかはやめてくれよ?」

「いやいや、それはしないって。大規模な対人戦の途中に、そんなスパイみたいな事はしないよ」

「ケイ、早く試そうかな!」

「おっと、呼ばれてるから色々とやってくるわ」

「うん、頑張って」


 事情が分かった上でこうして話してみると、警戒していた程アイルさん自体は特に何か問題があるって訳ではなさそうだ。まぁなんだかサヤが警戒してる雰囲気もあるけど、一度俺以上にキレてたもんな。

 俺の情報が伝わった経緯を知った上でも、納得出来ない部分もあるのかもね。結果的にそうなっただけとはいえ、俺の意思に反して情報を得て下心もありつつやってきた事には違いはないしさ。流石に警戒心剥き出しにはしないけど、その辺は俺も気には留めておこう。


「さて、それじゃ始めますか!」


 まずは具体的な手順を整理しよう。まず、グリースを使う為にコケの群体数を増やしておく必要がある。ここは初めから遠隔同調を使ってから準備をするという想定でやっていくか。

 あ、その前に的として作ってた土の塊は解除だな。……よし、解除は出来たから遠隔同調から使っていこう。


<行動値上限を15使用して『遠隔同調Lv1』を発動します>  行動値 103/107 → 92/92(上限値使用:15):効果時間 5分


 えーと、最終的に射出魔法……今回はアースバレットで試してみるけど、それは並列制御で発動しないといけないから……あ、地味に滑らせる為の土台にするつもりだった魔法で生成した岩や土の表面にコケで覆う事が出来そうにない!?

 そうなると岩の形成は無理だから、天然の土を使うしかないのか。まぁそれならそれで仕方ないし、やり方もどうにかある! 手順としては先に滑らせる為のコケの用意と、グリース発動が優先になるそうだし、そこからやっていこう。


<行動値を2消費して『群体化Lv2』を発動します>  行動値 90/92(上限値使用:15)

<行動値を2消費して『群体内移動Lv2』を発動します>  行動値 90/92(上限値使用:15)

<『遠隔同調』の効果により、視界を分割表示します>


 この周辺は結構人の出入りが多くて踏み荒らされてるからかコケが少なめだからLv2で発動っと。これでコケとロブスターの2つの視界に分割出来た。とりあえず今はコケ側の準備が必要だからコケの視点をメインにしておいて……。あ、そういやこれも使っておかないと。


<行動値上限を1使用して『魔法砲撃Lv1』を発動します>  行動値 90/92 → 90/91(上限値使用:16)


 よし、魔法砲撃での射出魔法の準備はこれでいい。次は滑らせる為のコケの準備だな。コケが少ないから、少し増殖で増やしておこう。


<行動値を5消費して『増殖Lv5』を発動します>  行動値 85/91(上限値使用:16)


 あ、でも地面の表面をコケで覆ってしまったら、土の操作の対象として指定出来たっけ? ダメだったらダメだったで仕方ないとして、このまま試してみるしかないな。


<行動値を1消費して『グリースLv1』を発動します>  行動値 84/91(上限値使用:16)


 よし、コケの視点からじゃ分かりにくいけど、ロブスターの視点からはコケの表面に油が出てきているのは確認出来た。

 それじゃここまでで下準備は完了だから、次は並列制御で実際に発動させていくか。それにしても凄く注目されているのは分かるんだけど、みんな無言だねー。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 81/91(上限値使用:16)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値4と魔力値6消費して『土魔法Lv2:アースバレット』は並列発動の待機になります> 行動値 77/91(上限値使用:16): 魔力値 268/274

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 おっ、増殖させたコケと群体化したコケの真下の土は操作の指定が出来る! でも、元々ある普通のコケの真下の土はダメっぽい。へぇ、こんな違いがあったのは初めて知ったね。とりあえずまだアースバレットは発射せずに、発動待機にしておこう。


「下準備は終わったから、これから実験を始めるぞー!」

「おうよ。それで、ケイ。どこを狙うんだ?」

「あー、とりあえず被害が出なさそうな湖に向けてやってみる。それで上手くいきそうなら、風音さん、ダメージは入るかの確認をしてもらってもいい?」

「…………元々……その役目で……来た……問題……ない」

「よし、それじゃその時は頼んだ!」

「…………うん」


 無所属の大きなトカゲの風音さんだけど、こうして協力してくれているのは本当に助かるよ。流石はレナさんの人脈だし、引き受けてくれた風音さんにも感謝!


「さて、それじゃやっていきますか!」


 という事で、支配下に置いた土を表面にある、グリースの効果中のコケごと空中へと持ち上げていく。真っ平らではどこへ飛んでいくか分からないから、シラヤキさんがやっていたように向きを誘導する為に、弧になるように曲げておく。その両端を曲げてレール状にすれば……うん、これで多分いけるはず。

 それじゃ発動待機にしておいたアースバレットを魔法砲撃にして、ロブスターの右のハサミを起点に指定! 今回はお試しだから、3連射にはせずに単発での発動でいこう。ロブスターの視点をメインに切り替えて、コケのサブ視点からもロブスターの狙いをつけてるハサミを確認。魔法砲撃だからどこをどう狙っているのかが分かりやすくて、狙いの調整がしやすいな。


「アースバレット、発射! って、あれ!?」


 ちょ、コケのグリースでは滑らずに、操作した土の中に埋まったんだけど!? えぇ、そんな結果ってあり!? アースバレットの弾は砂にしたり、小石にしたりの調整は出来るから、出来るだけ丸い小石にしたつもりなんだけど……。


「……上手くいきそうな気はしたが、ケイ、なんで失敗になったんだ?」

「ぶっちゃけ分からん……」


 アースバレットを撃ち込む角度が悪かった? いや、でもハーレさんの貫通狙撃もこれくらいの角度がだったはず。威力的にも貫通狙撃の方が上だろうから、どこか別のところに原因が――


「あの、すみません。ケイさんのグリースってLvはいくつですか?」

「俺のはLv1だけど……って、シラヤキさんのグリースは!?」

「あ、やっぱりそこが原因かもしれないです。私のグリースはLv3ですし」

「……原因はそこかー」


 要は俺のグリースではスキルLvが足りてなくて、アースバレットを滑らせる事が出来なかったんだな。うーん、そうなると有用性はあるけど、今の俺には扱いきれない手段か……。


「ケイ、シラヤキさんと共同でアースバレットを曲げられるかどうかは試しておいた方が良いんじゃないかな?」

「……確かにそうだな。シラヤキさん、頼めるか? あと風音さんも頼む」

「貫通狙撃よりは速くないので、狙いはつけやすそうですし、やりましょう!」

「…………うん」


 よし、シラヤキさんと風音さんの協力が得られる! これでしっかり滑ってくれるなら、明日にでもグリースを強化していくのもありだ。Lv3までであれば土曜の明日中に到達出来る可能性は高い!


「それじゃ準備しますね。『グリース』『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「…………ここで……待機。『自己強化』」


 シラヤキさんがハーレさんとの検証の際にやってた手順を行って、風音さんはシラヤキさんの真横に陣取っている。その風音さんの位置なら、曲がりさえすれば確実に当たるね。なにせ、風音さんは1メートル超えのデカいトカゲだしさ。


「それじゃ始めるぞー!」


 今度はただ魔法砲撃でアースバレットを撃つだけで良いから手順としては簡単だな。とりあえずまだ効果中の土の操作は、今は邪魔でしか解除で。

 もしこれで上手くいきそうなら他の人に土の攻勢付与をかけてもらって連射もありかもね。貫通狙撃ほど超距離攻撃は出来なくても、ジャングルでの奇襲には使いやすそう。


<行動値2と魔力値6消費して『土魔法Lv2:アースバレット』を発動します> 行動値 75/91(上限値使用:16): 魔力値 262/274


 魔法砲撃にして起点は今回も右のハサミで、撃ち出すのも単発で! 魔法砲撃には命中補正もあるから、シラヤキさんの用意している滑らせる為のレールの間を狙い撃つ!


「これで上手くいってくれ!」


 そして俺が撃ち出したアースバレットは、ハーレさんの貫通狙撃と同様に弾道が曲がり……風音さんのHPを結構減らす事に成功した。てか、風音さんのHPが思った以上に削れてた!?


「…………危機察知に……反応は……ない」

「おっしゃ、成功!」

「やりましたね、ケイさん! それに貫通狙撃よりは安定してた感じです!」

「だな! まぁ威力が高い貫通狙撃の方が制御は難しいんだろうな」


 それでもかなり再現も魔改造も、どっちも完成への道のりが見えてきた。これってグリースのLvがもう少し高ければ、滑らせての曲げ方は安定するんじゃないか?


「レナさん、灰のサファリ同盟からお届けもんだ!」

「お、桜花さん、ありがとねー! さーて、今度はハーレの番だよ!」

「ふっふっふ、ケイさん発案の魔改造版の危機察知を掻い潜る攻撃を完成させるのです!」


 どうやら桜花さんがメジロの方で出張して油を届けに来てくれたみたいだね。おっしゃ、それじゃハーレさんに提案したもう1つの手段を試していきますか!


「あー、みんなちょっといいか? 特にヨッシさん」

「え、アルさん、私がどうかしたの?」

「いや、情報共有板に抗毒魔法の破り方の情報が上がってきてな。俺らで検証する必要は無くなったっぽいぞ」

「え、マジで!?」

「……あはは、まぁそういう事もあるよ」


 まさかの抗毒魔法の破り方の検証の終了のお知らせだった。まぁ絶対に俺らだけでやらなきゃいけないわけじゃないし、他の検証をしてたんだしな。ちょっと残念な気はするけど、手分けをして検証していけるのは良い事だよね!

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