第1042話 今度こそ検証を


 部活の勧誘騒動はとりあえず片付いたので、ハーレさん達が先にやっていた検証の方を進めていこう。とりあえず曲げる事は出来たけど、狙いが付けられないんだったね。具体的にどんな風になってるのかを見てみないと何とも言えないから、ここは現状の把握から。


「ハーレさん、シラヤキさん、今の段階を見せてくれ。その上で改良点を考える」

「はーい! シラヤキさん、もう一度やるのさー!」

「分かりました! それじゃ準備しますね! 『空中浮遊』『グリース』!」

「いっくよー! 『投擲』!」


 そうしてハーレさんが投げ放った小石は、シラヤキさんのウナギの表面に当たって滑って、少し上方に向きを変えて飛んでいった。

 向き自体はしっかりと変わってはいるけど、どの向きに逸らすかの指標が何もない感じか。それなら、それを作ってやれば良さそうだけど……あぁ、氷属性のシラヤキさんにはちょうど良いかも?


「ケイさん、何か手段はあると思うけど何か思い付きますか!?」

「とりあえずシラヤキさん向けのは1つなー。コケの方は……基本的にはこれで上手くいくなら同じ方式でいけそうだけど、少し面倒か……」

「おぉ!? 思い付くのが相変わらず早いのです!」

「それでどんな手段なんですか?」

「その前に1つ確認。シラヤキさんは氷の昇華は持ってる?」

「あ、はい。それはありますね」

「それなら、よし!」


 思い付いた手段を試すには氷の操作は必須になるから、そこがないと話にならない。まぁ無ければ無いで、俺の土の操作かヨッシさんの氷の操作で代用すれば済む話ではあるんだけど。


「氷の操作を使って何を……あ、もしかしてウナギの体表に氷でレールみたいなのを作って方向を誘導するんですか? その間をグリースで滑らせるんです?」

「おっ、正解! シラヤキさん、出来そう?」

「多分出来ると思いますけど、とりあえずやってみますね。えっと、グリースの効果はまだあるから、これで! 『アイスクリエイト』『氷の操作』! こんな感じですか?」

「そんな感じだな!」


 なんというかウナギの背中が2本の氷の柵でヌメヌメと滑るグリースを挟んでいる感じになった。うん、なんかよく滑りそうなウォータースライダーっぽいイメージ? ……それは何か違う気もする。


「あ、何か変わった様子になってるかな!」

「おぉ、ケイさん、早速進展ありー?」


 少し離れたところで話してたレナさんとサヤが戻ってきたけど、なんだかサヤの雰囲気はいつも通りに戻っているね。あんまり聞くのもどうかと思ってPT会話は意図的に聞かないようにしてたけど、レナさんが上手くサヤに説明してくれたっぽい。

 そういや元凶のフラムはどうしてくれようか? ……今回のは本気で俺のキャラ情報を売り払った訳じゃないみたいだし、大目に見ますかね。俺があいつを生贄にして逃げてなければ起きなかった事でもあるしな。さて、検証を続けていこう!


「今から改良版その1の実験だな。ハーレさん、氷のレールの間を狙えるか?」

「命中精度に高めの補正がある狙撃なら多分いけるのです!」

「よし、それじゃまずはそれで。そういや魔力集中は使ってないけど、その辺はどうした?」

「初めは使ってたけど、変な滑り方をして竈を1つ壊したので自重したのさー!」

「そんな事になってたんかい!」

「なってたのです! そこで魔力集中を切って、シラヤキさんのすぐ近くに風音さんにいてもらって、危機察知を掻い潜れるかを先にしたのさー!」

「あー、そういう感じでやってたのか」

「…………結果として……当たりそう……なのは……全部……危機察知には……反応……しなかった」

「なるほど。風音さん、協力ありがとな」

「…………ただの……気まぐれ」

「それでもありがとな!」

「…………うん」


 今までの情報を総合すれば、既に危機察知を掻い潜る手段として間違っていない事は確定。後はどうやって狙った方向へ正確に流れ弾へと変えるのかを再現してしまえばよくて、その可能性は充分に見えている。

 というか、他にも試したい事が出来た。上手くいくかは分からないけど、これからの実験をしてる間に可能であれば手配してもらいたいところ。


「レナさん、ちょっと頼みがあるんだけど、いい?」

「およ? 頼み事自体はは良いけども、これから方向の誘導を試すんじゃないの?」

「まぁそうなんだけど、これが上手くいったら試したい事があってさ?」

「お、悪巧みだねー? よーし、可能な範囲なら引き受けるよ! それで何をすれば良いの?」

「まだ少ないだろうけど、油は手に入る? グリースの代わりに使えないかと思ってるんだけど」

「ほほーう? 種族の縛りが無くなるなら、それはありだね! わたしの手持ちにあったら良かったけど今はないから、ちょっと伝手から調達してくるよ!」

「レナさん、頼んだ!」

「任せといてー!」


 まだまだ油は量産段階にはなってないだろうけど、今回の使い方ならそんなに量はいらないはず。既に青の群集では確立してる遠距離攻撃の手段だから、そのまま真似をする必要もないし、どうせなら思う存分に魔改造してしまえ!

 とりあえずレナさんは油の調達の為にフレンドコールをしてくれているから、それを無駄にしないようにやっていこうじゃないか!


「それじゃハーレさん、シラヤキさん、実験を頼む!」

「えっと、これはどっちの方向に逸らせばいいんです?」

「あー、それを決めてなかったっけ」


 ふむ、左右だと変な方向まで飛んでいく可能性もあるし、狙った方向に曲げられるかだけを試すなら……曲げる先は地面でいいか。上空だと、勢いがなくなった後に落ちてくるのが面倒だしね。


「今回は下向きでいこう」

「わかりました。えっと、こんな感じですか?」

「それで問題なし!」


 少し高度を上げたシラヤキさんが、ウナギで弧を描くよいな形で頭をハーレさんの方に、尻尾を地面へと向けていく。それに合わせて氷のレールも微調整してくれてるね。


「それじゃハーレさん、頼む!」

「了解なのさー! Lv1の『狙撃』!」


 少し距離を取ってからハーレさんが投げ放った小石が、シラヤキさんのウナギの……顎? 顎でいいのか? まぁいいや、そこから氷のレールにぶつかりながらもグリースによって滑って地面へとぶつかっていった。

 あー、これはまだ問題ありか。グリースで滑ってはいるけど、投擲の曲がる具合は少しだけど荒ぶってる。ただの狙撃だけならこれでもいいけど……。


「ちゃんと狙い通りに地面に落ちたね」

「今のは成功……いや、そうでもないか」

「あぅ……多分、これだと威力を上げたら失敗なのです……」

「え、そうなの、ハーレ、アルさん?」

「無駄に荒ぶり過ぎてて、このまま威力を上げたら氷のレールから外れて吹っ飛んでいくな。ケイ、そんなとこだろ」

「多分なー」

「私もそうなると思うかな」


 ふむ、アルもサヤもそんな印象だったんだな。俺的には操作系スキルでLvが低い時に荒ぶってる感じに見えたからアルも同じ感じだったんだろうけど、サヤとハーレさんは単純に鋭い観察力で把握したってとこか。

 ヨッシさんが分かってなかったから、意外と気付かない人も多いくらいの範囲なのかもしれないけど。威力が上がれば上がるほど、この辺は明確に目に見えて影響が出てくるはず。


「お待たせー! とりあえず油の調達の目処は着いたけど……およ? 何か失敗した感じ?」

「強引に方向を曲げてるから、その反動が抑え切れて無いっぽいみたいなんだよ。Lv1の狙撃なら問題ない範囲だけど、応用スキルだと多分無理」

「ありゃりゃ、そっか、そういう問題点もあったんだね」


 うーん、これを安定させるにはどうすればいい? 完全に氷の操作で覆って筒状にしてしまう……? いや、それだと投擲の威力を無駄に下げてしまいそう。

 それならいっそ潤滑油になるグリースではなく、水流の操作……いや、それは確実に目立って奇襲として成立しなくなる可能性が高い。なんだ? 何を見落としている?


「あのー、ケイ君、ちょっといい?」

「……なんだ、アイルさん?」

「敵認定は解けたみたいだけど、警戒心は継続中っぽい声なんだ……。えっと、今のに私が意見を出すのはあり?」

「……まぁダメな理由はないけど、何か気になる部分があった?」

「うん、ちょっとね。えっと、投げてたのってリスのハーレさんだよね?」

「そうなのですさー! それで気になった事ってなんですか!?」

「私は今日始めたばっかだから色々と把握出来てない事も多いんだけど、さっき投げたのって小石だよね? あれって、色々と抵抗は大きいんじゃない?」

「はっ!? それは気にした事がなかったのです!?」


 ほほう、方向を変えようとした時に荒ぶる原因はハーレさんの投げた小石にあるって意見か。確かに完全な球形の小石なんて、このゲームの中じゃ早々手に入るものじゃない。

 でも、確かに方向を変える際に小石の凸凹が乱している可能性は充分にあるか。そうなるとドングリみたいな木の実ならその辺は影響を受けにくい? あ、いやそれ以上に最適な手段もあるか。


「ハーレさん、真球に近い小石を生成は出来るか?」

「あぅ!? それは正直自信がないのです!?」

「まぁダメ元で良いから、とりあえずやってみてくれ」

「失敗しても笑わない!?」

「笑わない、笑わない」


 ここで失敗しても笑いはしないさ。しれっと頼んでみたけど、そこまで精密な生成は俺だって簡単な事じゃないしなー。でも、真球に近い球状の小石なら、無駄に荒ぶらずに滑らせるのも可能かもしれない。やってみる価値はあるはず。


「うぅ……とりあえずやってみるのです。『アースクリエイト』! あぅ……やっぱりちょっと歪なのさー!?」

「いや、それでも普通の小石よりは相当マシだぞ。とりあえずそれでさっきと同じようにやってみてくれ」

「うー、了解なのです。シラヤキさん、スキルの効果時間は大丈夫ー!?」

「あと少しくらいなら大丈夫だから、そのまま投げてくれていいよ!」

「了解なのさー! それじゃ『狙撃』!」


 弾だけを変えて、手順はさっきとやったのと同じ。さて、これでどうなる? おっ、さっきみたいに荒ぶってる感じがないどころか、なんか加速してる?


「わっ!? なんか加速してたのです!?」

「お腹の上を、なんか凄いスムーズに滑っていったよ!?」

「今度こそ成功みたいだな。ケイ、言っとく事があるんじゃねぇか?」

「……それもそうだな。アイルさん、助言ありがとな」

「うぇ!? いやいや、気になった事を言っただけだし、そんなに大したことは……なんかさっきまで警戒されてたのに、そう言われると調子が狂うなぁ……」


 なんかどんどん小声になっていってるけど……まぁさっきまで盛大に敵認定をしてて、敵視丸出しにしてたもんな。まだ警戒心を完全に緩めた訳じゃないけど、アイルさん的には変な気分なのかもしれないね。

 とはいえ、実際に助言をもらったんだから、その辺のお礼を言うのは当然だしなー。うーん、ここまでの経緯がややこしかったせいで妙な感じ……。まぁいいや、次をやろう、次を!


「ハーレさん、その状態で貫通狙撃でいけるか?」

「さっきの小石で良いのなら、それでもいけると思うのです!」

「ハーレさん、それでやってみよう! なんか楽しくなってきた!」

「シラヤキさん、了解なのさー!」

「ちょっと再発動するから待ってね。『グリース』『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「私も準備なのさー! 『アースクリエイト』『貫通狙撃』!」


 そうして再び生成した小石を手にしたハーレさんは銀光を放ち出していく。狙いの付け方が分かってきたんだし、ただ曲げるだけというのも面白みに欠けるか。よし、それじゃこうしよう。


「シラヤキさん、ハーレさん、今度は的を用意するから狙ってみてくれ」

「おぉ、それはやり甲斐があるのです!」

「ケイさん、お願いします!」

「任せとけ!」


 さっきシラヤキさんが言ってたけど、本当にこの検証が楽しくなってきてるっぽいね。なんか初めより声が弾んで楽しそうだしなー。さて、その為にも的を用意していきますか。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 106/107 : 魔力値 271/274

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します>  行動値 103/107


 あ、そういや夜目は切れた状態のままか。七夕の特殊演出で明るい星空だったから、全然気にしてなかった。まぁそれは良いとして、折角だから星空が映り込んでいる湖の上に少し大きめの土の塊を的として生成っと。


「的は湖の上な!」

「了解なのさー! チャージ完了までもう少しなのです!」

「えっと、狙いとしてはこんなもの……? あれ? これ、地味に狙う為の補助が何もないから難しい……かも?」


 まぁこの手段で正確な狙いをつけるのは難しいだろうな。これが終わったら俺のコケでも試してみる気ではいるけど……それも一筋縄ではいかない気もするんだよなー。

 今は2人がかりでやってるけど、推測の通りなら青の群集は遠隔同調を使って1人でやってるはず。いや、複数人でやってる可能性もあるにはあるんだけど、正確な狙いをつけるのなら遠隔同調で2つの視点を同じ人が見れる方が確実だろうしさ。距離があればあるほど、尚更に。

 まぁその条件を前提にしたやり方は後で実際にやってみるとして、今はハーレさんとシラヤキさんの2人でどれだけの事が出来るのか、それを確認していこう。


「チャージ完了です! シラヤキさん、いいー!?」

「えっと、当てられる自信ないけど、もうやっちゃおう!」

「了解なのさー! それじゃ、えいや!」


 そのハーレさんの掛け声と共に眩い銀光を放つ小石が、シラヤキさんのウナギの腹部にあるグリースにより滑りだし、氷のレールも相まって向きが変わっていく。投げられた小石が変に荒ぶってる様子もないし、湖に向いているシラヤキさんのウナギの尻尾の方に向かって銀光が飛んでいった。

 そして盛大に水飛沫を上げる湖と、何も当たっていない的の土の塊が湖の空中にポカンと浮いているだけである。あー、外れたか。


「あぅ……外したのです!?」

「これ、本気で当てようと思ったら相当練習か、かなりのセンスが必要かも……?」

「どうもそうみたいだなー」


 貫通狙撃を曲げる事には成功したけど、根本的に簡単に当てられるような代物ではないようだね。……これ、青の群集で相当練習したんじゃないか? あー、分析されたところで簡単には真似出来ないとかジェイさんが思ってそうな気がする!?

 ええい、やっぱりそのまま真似るんじゃなくて魔改造して凶悪な攻撃手段に変えて使ってやる! とはいえ、どういう風に魔改造したもんかな?

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