第1041話 事情の確認


 なんだかレナさんが仲裁役という感じで促されてアルの樹洞の中に入ったけど、拗れてるって何が? フラムを生贄にして逃げてきたのは失敗だったとは思うけど、それで部活の勧誘をしにゲームの中まで追ってこられるとか迷惑でしかないんだけど。


「とりあえず暗いから灯りだね。『ファイアクリエイト』『火の操作』! えっと、何か食べながらにする?」

「……いや、いらない」

「……私も遠慮しときます。今は食べられる気がしない……」

「まぁそうだよねー」


 あー、こんな事してないで検証の方に行きたいんだけど……。PT会話で準備をしているみんなの声が聞こえるのがなんか落ち着かない。なんでこんな事になってんの?


「……事と次第によっては、週明けの朝一番に職員室まで行くからな。顧問がどの教師かは知らないけど、職員室で聞けば分かるだろ」

「ちょっと待って、ちょっと待って!? それは本当にやめて!?」

「あらら、完全にケイさんは敵認定しちゃってるね」

「……それに何か問題が?」

「警戒されるってこういう事!?」

「はーい、だからわたしが間に入るの。ケイさん、正直気持ちは分かるけど、少し落ち着いてね?」

「……ほいよ」


 なんでレナさんがって言いたくはなるけど、元々レナさんは関係ないのにこの状況をどうにかしてくれようとしているんだから、そこで文句を言うのは無しだな。レナさんは決して敵じゃない。……責めるべき相手は他にいる。


「それで、あのバカからどうやって俺の情報を聞き出したんだ? 今、盛大に金に困ってるはずだから、買収でもしたか?」

「っ!? いくらなんでもそんな事はしてないよ!?」

「……へぇ?」

「……全然信じてもらえてない気がする」


 状況が状況だし、この人が言う事をそのまま鵜呑みに出来ますかっての。あいつなら、今月分のプレイチケットを買う為に俺の情報は売りかねないしな。……あー、冗談抜きであいつを生贄にして逃げ出すべきじゃなかった。真っ向からキッパリと断っておくべきだった……。


「ケイさん、そこは水月さんに確認したから事実だよ。夜にお金が無くて泣きつかれたけど、自分でバイトしろと突っぱねたって言ってたからね」

「あ、そうなんだ。……買収を疑ったのはすまん」

「えっ!? ……そこで謝られるとは思わなかったよ?」

「信頼性のある情報源だからな。間違ってたら、謝るもんだろ」

「……どうしよう、すごく罪悪感に押し潰されそうなんだけど」


 そのまま潰れて強制ログアウトになってくれれば、俺としては検証に戻れて助かるんだけどなー。買収でないなら、誘導尋問でもしたのかもなー。あいつ、そういうのは簡単に引っかかるし。


「これはまずケイさんの警戒心を解かなきゃ無理だね。アイルさん、わたしは水月さんから事情を軽く聞いたから分かるけど、経緯を説明してくれない?」

「あ、はい。とりあえず佐……フラム君が部室に来てからの話をした方が良いですよね」


 ん? あれ、ちょっと待った。なんでレナさんが水月さんから事情を聞いたという事で納得出来るんだ? そこの繋がりなんか知るはずないよな?


「レナさん、実は初対面じゃないのか?」

「アイルさんとは初対面だよ? そこに疑問を持つ要素ってあった?」

「仲裁役をしてるのはレナさんだから初対面でも不思議じゃないけど……なんで、水月さんから聞いたってので納得するのかが分からない」

「あぁ、そこ! それはアイルさんから直接聞いて。そこが拗れてる理由だからさ」

「……なるほど」


 どうもレナさんは俺が知らない何かを水月さんから聞いて、それで拗れてるって言ってるみたいだね。……この感じだと、あのバカは水月さんの事も話してた? ふむ、詳細を聞かないと分からなくなってきたか。


「……あの、続きを話しても?」

「いいよね、ケイさん?」

「……とりあえず聞くだけは聞く。その後どうするかは聞き終わってから考える」

「ほっ……えっと、初めにフラム君に何のゲームをやってるのかを聞いたんだよね。うん、単純にどんなゲームをしてるのかが気になったからさ」


 今は余計な口は挟まないで……いや、最低限の相槌くらいはしておくか。少なくともレナさんは状況を把握した上で、俺が警戒しなくなる内容であると判断してるっぽいし。


「……それで?」

「えっと、やってるゲームについて把握したのはその段階でだね。言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど、私は強引に聞き出す気はなかったし、フラム君も話す気はなかったみたいだとは言っておくよ!」

「……それがどうしてこうなるんだよ」

「それはそうなんだけど……フラム君と話してたらさ、いとこの2人と一緒に始めたって聞いてさ。さっき納得してたのは、そこで水月さんとアーサー君の話を聞いたからなんだ」

「いや、それもどうなんだ?」


 確かにあいつがこのゲームを始めるのに関して、出会った頃の滅茶苦茶なアーサーをどうにかしたいという水月さんの頼みが絡んでたのは間違いない。雑談の流れで、その辺の事をつい喋ったってのはありそうだ。

 まぁいとこと一緒にやってるくらいの話なら、言っても良い範囲内……って、ちょっと待て! それだと、必然的に俺の話が出てきても不思議じゃなくなってきたぞ!?


「……もしかしてアーサー絡みの話で、俺の名前が出てきた?」

「うん、そうなるね。コケのプレイヤーにボコボコに倒されて、そこから態度が急変してって話になって……そのきっかけがケイ君だって事が判明して驚いたって感じでね」

「やっぱりか!」


 うわー、アーサーに関しての話をしてたら結果的に俺の情報が出てきたって感じかよ。いや、確かにあの件を話すなら俺が話題に出てくるのは避けられないし、フラムからしても同じクラスの同級生で驚いたって話をしたくなる気持ちは分からなくもない。


「いや、でもそれだけじゃ色々と情報は足りてないだろ。サービス開始の割とすぐの話で、今とはかなり状況が違うんだけど……」

「えーと、それはそうなんだけど……そのアーサー君の話が割と多くてね? コケのアニキと呼ぶようになったとか、ケイ君とよく似た構成の人と揉めてた荒ぶってたとか、そういう感じの話が結構あってさ」

「大体アーサー絡みの話かい!」


 しかもケインとの騒動もアーサーから見た感じで、俺の種族構成の情報がバレてたのか! あー、名前が似てるってとこでキャラ名も出てたのかも……。それにケインを見ても、ちゃんと人違いだと判別出来た理由はそこら辺にありそうだ。


「……そんな感じで、他の話題をしてる間にケイ君に関するキャラ情報が大体揃っちゃった感じです! なんかごめんなさい!」

「なんというか、それだと責めるに責められないな……」


 意図的に聞き出そうとした訳でもなく、フラム自身も俺の情報を暴露しようとするつもりで話した訳じゃなかったのか。

 あー、これだとフラムの方にも怒りにくい内容じゃん。あいつは悪気がなくても厄介な事をするけど、意図しない形でそういう結果になっただけかよ……。いや、でもまだ問題が片付いた訳じゃないな。


「俺の情報を知った経緯は分かったけど……それで?」

「……勧誘に関してだよね。このゲームに少し興味が出たのはあったんだけど……ケイ君の方がプレイが上手いって言ってたし、あわよくば勧誘出来たらいいなって思ってました! でも強引な勧誘まではやる気はなかったから、それは信じて欲しいかも……?」

「はぁ……意図せず俺の情報が手に入ったから、少しの下心はありつつもゲームをやってみたかったって事か」

「うん、そうなるね。……気分を害したなら、本当にごめんなさい!」


 あー、確かにこういう内容ならレナさんが変に拗れているって言った理由も分かった。根本的に俺を勧誘しに来る為に情報を聞き出した訳じゃなかったし、強引な勧誘もする気はなかったと。……ただし、全く下心が無かった訳ではないんだな。


「はぁ……だったら、俺はその勧誘は完全にここで断っとくぞ」

「……まぁ、そうなるよね」

「でもまぁ、それ以上は俺の方からは何もしない。ただし、今後勧誘してくるような事があれば……部活が無くなる覚悟はしてもらうぞ?」

「分かった! 勧誘の下心があった事は謝るから、それだけは勘弁して!? 1年がかりでようやく創部になったのに、すぐに廃部になったらみんなに恨まれる!?」

「はーい、それじゃこれで決着って事でいいね?」

「俺の方はそれでいいぞ」

「……うぅ、無事に済んで良かった!」


 ふぅ、これで一件落着っと。俺のキャラ情報を把握した経緯は不可抗力の範囲だという事は分かったし、今後は勧誘行為はしてこないというのであれば問題はない。とりあえず警戒心はもう緩めて、敵認定も解除して大丈夫そうだな。


「ところでレナさん、フラムってどうなってるか知ってる?」

「水月さんの伝手で、この土日にアルバイトをさせるって言ってたねー。具体的な内容は聞いてないけど、昼間で日払いって言ってたから明日の夜にはいるんじゃない?」

「あー、そういう感じになったのか」

「水月さんの伝手!? え、それって興味深いね!」

「……え、なんでそんな反応?」


 あれ、水月さんってそんなに特殊な伝手を持ってるの? 具体的に水月さんがリアルで何をしてるのかって聞いた覚えがないから、その辺はよく分からないんだけど……。


「え? ケイ君は水月さんが医療用の認証で業務用のVR機器を持ってるの、聞いてないの? 生まれつき視力がなくて開発段階のVR機器の臨床試験に参加してたとも聞いたんだけど……」

「え、マジで!?」

「およ!? それはわたしも初耳だよ!?」

「……言わない方が良かった内容?」

「間違いなくそうだな。まぁここだけの話にしとく」

「わたしもそうするね。アルマースさんもそれでよろしくねー!」

「おう、それは了解だ」

「って、アルも聞いてたんかい!」

「いや、そりゃ当然だろうよ」


 あー、よく考えなくてもアルの樹洞の中なんだから聞こえてますよねー! というか、俺の発言についてもPT会話でみんなに聞こえてるよなー! はぁ、なんか妙に気疲れした。


「ケイさん、話は済んだー!?」

「とりあえず一応は穏便に済んだぞ! 検証の方はどうだ?」

「普通の投擲をグリースで曲げる事と、危機察知に反応しない流れ弾にするのには成功したかな! ただ、曲げる方向の調整が難しいみたいで安定してないね……」

「ケイさん、その辺の安定させるアイデアを考えてもらえない?」

「あー、そういう状況なのか。よし、それじゃ今の段階で出来てる状態を見てから考えてみるわ」


 ふむふむ、グリースで曲げるのは不安定ながらも成功はしたんだな。そしてその言い方だとスリップでは上手くいかなかったって気がするけど、まぁその辺は実物を見せてもらってから考えよう。


「レナさん、まだ検証が完全には上手くいってないみたいだから、途中参加だけどやっていこう!」

「そだねー! 厄介な攻撃だから、その辺は対策を練らないと!」


 という事で、余計な事は片付いたから樹洞を出て途中参加にはなるけど検証をやっていこう。まずは弾道を曲げた後の方向を安定させる手段を確立させないとなー。どういう手段で――


「あ、あの、ケイ君!」

「……まだ何か?」

「その検証って、見ててもいい? このゲーム、他のゲームよりも色々と特殊で、個人的にちょっと楽しくなってきてて……」

「そういう事なら、別に普通にゲームを楽しむのを止める資格はないからご自由に。別に同じ群集の人相手なら、検証内容は隠してないしな」

「あ、そうなんだ! それじゃ見物させてもらうね、ケイ君。私の事はアイルって呼んでくれて――」

「流石に呼び捨てにする気にはなれないから、アイルさんで」

「……あはは、まずは信用されるとこからかー」


 別に俺の場合は呼び捨てが必ずしも信頼の証って訳でもないけど、警戒を緩めただけであってアイルさんを全面的に信頼してはいないし。

 信頼してるヨッシさんとハーレさんは呼び方を変えるタイミングがないだけだし、信頼度が低いからこその呼び捨てのフラムとかイブキとかもいるからな。まぁハーレさんは妹という事もあるから、意図的にやってはいるけども。


 さて、そんな事を考えながら樹洞の外へ出てきた! それじゃ検証の続きをやっていきますか! なんだか出てきた瞬間にサヤの警戒心が上がった気もするけど、アイルさんはサヤにも盛大に警戒されたなー。


「うっ!? 仕方ないとはいえ、サヤさんにも警戒されてるね……」

「ふー、そこはわたしの出番だねー! サヤさん、ちょっといいー?」

「あ、レナさん。……状況は教えてもらえるのかな?」

「そのつもりだから、安心して! あ、ケイさん、アルマースさん、検証の方はお願いね!」

「ほいよっと。それじゃやるぞ、アル!」

「おうよ!」


 まぁアルは普通に見てはいたんだろうけど、喋ってる様子はなかったからなー。とりあえず今の状況を見てから、どういう手段が取れそうか考えていこう。あと、俺のコケでどう出来るかも試しておきたいとこだね。


「…………少し……待機」

「風音さん、今のうちにこれどうぞ」

「…………あり……がと」

「今のうちに回復はしておいた方がいいよね」


 おっと、風音さんとヨッシさんとソラさんは少し離れたところで果物を食べながらHPを回復して待機してるっぽいね。というか、いつの間にやらギャラリーも増えてますなー。

 地味に対人戦で見かける人が多い気がするし、この検証は結構注目されてるっぽい。さて、みんなの期待に応える為にもまずは現状把握からやっていきますか。

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