第1040話 検証の準備
レナさんからハーレさんへフレンドコールがかかってきたので、情報共有板への報告と情報収集はとりあえず終わり。今の段階で必要そうな情報は大体手に入ったし、再現についてはこれからだ。
「レナさん、心当たりの人はどうだったー!? うん、うん! おぉ、手伝ってくれる事になったんだ!? えっと、ミズキの森林で……滑らせる手段って、ケイさんのコケ以外も試してみるのー!? おぉ!? まさかの種族なのです! はーい! それじゃ移動しておきます! また後でー!」
ハーレさんが話してる声しか聞こえなかったけど、なんか気になる内容があった気がする。俺のコケ以外でも試すって言ってたよな?
「ハーレ、無所属の人以外にも誰か来るの?」
「なんだか、ケイ以外に滑らせる手段を用意してるみたいに聞こえたかな?」
「コケ以外の滑らせる事が可能な種族か」
「ふっふっふ、それは会ってからのお楽しみです!」
「って、教えてくれないんかい!」
ちょ、思わせぶりな内容が聞こえてたのは分かってるだろうに、そこでわざわざ出し惜しみをしてくる!? よし、こうなったら自力で他の種族とやらを当ててやる! スリップはコケのみのスキルって訳じゃないから、滑りそうな種族で……何がいる?
あ、一般生物ではあるけど、今日見たじゃん! 思いっきり滑りまくる魚のウナギ! 青の群集でエルクさんがウナギだったはずだから、間違いなくプレイヤーとして存在してるもんな。
「ハーレさん、ウナギのプレイヤーだな?」
「あぅ!? ケイさんにあっさりと見破られたのさ!?」
「そりゃウナギは夕方に見てたからな!」
「あぁ、そういえばウナギを獲って捌いてたとか聞いたな。一定以上の質になると、試食データに変わるって話だったか」
「……なに? アルマースさん、その話は本当か?」
「あぁ、事実だぞ。ゲーム内のスキルの強化だけ、リアルでの技術だけ、そういう中途半端だと成功しない事例だそうだ」
「両方兼ね備えてないと、無理な感じだな。場合によっては手分けも必要」
「……なるほど、そりゃハードルが高けぇな」
羅刹は全部の競争クエストまでは完全な味方なんだし、このくらいは教えておいても良いはず。場合によっては羅刹にも食べて回復してもらう必要もあるんだし、変に隠し立てはしない方がいい。その辺は信用関係になってくるしね。
「そういや、羅刹は明日からはどうするんだ? PTを維持出来るのは今日ログアウトするまでになると思うけど……」
「そっちに戻れる手段がありゃ戻ってPTを組んでみるが……てか、ここって転移の実は使えるのか?」
「それは地味に気になるのさー!?」
「その辺は重要になってくるから少し確認して……あぁ、登録は不可能みたいだな。ここから他の場所への転移も出来んらしい」
「あぅ……残念なのです」
「まぁ流石にそれは仕方ないよね」
うーん、やっぱりそこまで便利な状態にはしてくれないか。そういや今回って、この安全圏へと任意で転移して戻ってくる手段もないんだよな。まぁ進行していけば可能になる可能性はあるけども……。
「ところでのんびり話してて良いのかな?」
「いやー、よくはないと思うぜ?」
「はっ!? そうでした!?」
「ハーレ、とりあえず向かうのはミズキの森林で良いの?」
「それで問題ないのです! 湖の畔で待ち合わせなのさー!」
「よし、それじゃアル、出発だ!」
「おうよ!」
という事で、ミヤビのとこから転移をして戻ろうじゃないか。えーと、ミヤビから転移出来るのは森林エリアのエニシのとこだけっぽい。まぁそこまで戻れば普通に森林深部まで転移して、ミズキの森林まで更に転移すればいい。
さて、レナさんが連れてくるのは2人っぽい……ん? 2人なのか? まぁ最低2人なのは間違いないよな。うん、とりあえずそれは合流すれば分かる事だから、まずは転移していこう!
◇ ◇ ◇
そうして何度か転移を繰り返し、ミズキの森林にある湖の畔までやってきた。あれ? 競争クエストに向かってる人が多いのかと思ったら、そうでもないっぽい。結構いつも通りな感じに人がいるね。
「おや、ケイさん達かい? こんばんは」
「ソラさんだー! こんばんはー!」
とりあえずみんなで火と風を纏っている感じのソラさんに挨拶をしていく。そっか、ソラさんみたいに対人戦はパスって人達がここに集まってる感じか。あー、でもモンスターズ・サバイバルの面々もいるからそうでもない?
「そういえばさっき情報共有板で検証の話をしていたけど、ここでやるのかい?」
「その予定なんだけど、レナさんはまだ来てない?」
「あぁ、そういえば無所属の人がくるけど攻撃はしないようにって伝えて上風の丘の方に走っていったね。途中で会わなかった?」
「会ってないはずかな?」
「多分そのはずなのさー!」
ミズキの森林は森エリアとしては結構見通しが良いし、レナさんが俺達を見落とすとも思えない。呼んだ人を迎えに行くのを優先してスルーした可能性はあるけど、まぁそこは優先してもらってもいい話だしね。
「えっと、グリーズ・リベルテの皆さんですよね?」
「ん? それはそうだけど……」
何やら湖の方から声が聞こえてきた気がするから、そっちを振り向いてみたら……水面から魚の顔が出てる? あ、畔まで移動してきたけど、この人がウナギの人か! てか、なんか青みがかった白い色をしてるんだけど、もしかして氷属性?
「レナさんに呼ばれたウナギのシラヤキです。情報共有板は見てたので、何をするかは把握してますよ!」
「あ、把握済みなんだ。検証はよろしくな、シラヤキさん!」
「白焼き……ウナギ……白焼き……ウナギ……ジュルリ……」
「えっ!? えっ!? いきなりどうしたんですか!?」
ちょ、ハーレさんが獲物を見つけた目になってる!? あー、夕方にヨッシさんとカインさんで作ったウナギの白焼きは結局食べられてないままだから、その反動が今出てきたか! シラヤキさんが悪い訳じゃないけど、どうしても連想してしまう名前だもんな。
「ハーレ、ストップ!」
「あぅ!? サヤ、殴るのは酷い気がするのさー!?」
「……こうでもしないと、止まる気がしなかったかな!」
「あはは、シラヤキさん、この子は食べ物については見境がないとこがあってね? 気にしないでくれるとありがたいんだけど……ほら、ハーレは謝る!」
「あぅ……シラヤキさん、ごめんなさいなのです……」
「あ、いえ、大丈夫ですよ!」
ふぅ、とりあえずこれで一応はハーレさんは落ち着いたみたいだね。それにしても、ウナギは2ndって事は、地味に狙ってる感じもする名前だよなー。
「ん? シラヤキさんって灰のサファリ同盟の雪山支部の人なのか」
「あ、はい、そうなりますね。普段の活動がしやすいように氷属性に進化させてる感じです」
「あー、そういう理由か」
なるほど、ウナギで氷属性な理由はその辺があるんだな。それに灰のサファリ同盟の人かつ、さっきの情報共有板の状況を見てたなら、レナさんからの協力要請があればすぐに受けてくれるのも不思議じゃない。
「おっ、もうみんな勢揃いしてるねー! 無所属で手伝ってくれる人を連れてきたよー!」
「…………よろ……しく」
「ちょーっと人見知りがあるけど、そこは気にしないであげてねー! あ、ヨッシさん、抗毒魔法の方の検証は後からでもいい? もし時間が厳しいみたいなら同時に進めていくけど……」
「23時は過ぎたとこだけど、なんとかいける範囲だね。みんながいけるなら私はいいけど、どう?」
「両方見ておきたいので、問題なしなのさー! ケイさん、いいですか!?」
「まぁ明日は土曜だし、多少遅くなっても問題ないか」
とはいえ、あんまり夜更かしをし過ぎても明日の動きに支障が出るから、遅くても日付が変わるまでにしよう。てか、そろそろ夜明けの演出に切り替わってくる時間帯か。七夕の特殊演出の星空もそろそろお別れの時間が近付いてきてるんだな。
「私も問題ないかな!」
「俺も問題ねぇぜ」
という事で、全員の意見一致で問題なしだな。ふー、明日が休みでよかった、よかった。そういえば明日が休みで思い出したけど、明日はフラムをぶっ殺しに……そういやあのバカは根本的にログイン出来てるのか?
「およ? ケイさん、フラムさんと何かあったの?」
「あー、うん、リアルで俺の個人情報の流出をやってくれたみたいでさ。ちょっとその報復に……」
「あらら、そりゃケイさんの気持ちも分からなくはないねー。うん、そういう事なら後で弥生とかルアーさん達に聞いてみるよ。ケイさんが自分で聞くよりは良いでしょ?」
「お、それは助かる!」
ふっふっふ、首を洗って待っていろ、フラム! 明日はお前の杉の木かツチノコをぶっ殺しに行ってやる! あ、でもログインしてなかったらどうしよう?
「ケイさん、ケイさん!」
「ん? どうした、ハーレさ……うげっ!?」
なんでフラムから俺のキャラ情報を聞き出した張本人のアイルがここにいる!? コケの群体塊でコロコロと転がってこっちに来てるじゃん!?
「……えっと、いきなりその反応は傷付くなぁ。私、何かした?」
「人の情報を聞き出して、ゲーム内まで追いかけて勧誘しにきてるのに何を白々しい!」
「あちゃー、もしかしてどこかで聞かれてた? 状況的には完全に否定出来ないのが痛いところだね……」
なんだか申し訳なさそうな声音だけど、そうはいくかっての! フラムから俺のプレイヤー名やら、所属やら、活動範囲やらを聞き出してきてるのは把握してるんだからな!
「およ? ケイさんと……えっと、アイルさんはリアルで知り合いか何かなの?」
「同級生ではあるけど、違うクラスの人! 今日まで欠片も交流は無かったから、名前は知らん!」
「えぇ!? 選択授業の美術は一緒だけど!?」
「え、マジで……?」
「うん、ここで冗談は言わないって」
いや、そこは完全に把握してなかったけど、それとこれとは関係ない! そこでも大して交流がないのは間違いないもんな。って、サヤが目の前に割り込んできた?
「部活の勧誘か何か知らないけど、嫌がってるのを無理に追いかけてくるとかどういうつもりかな?」
「……無理に勧誘するつもりではなかったんだけど、完全に警戒されちゃってるよね。うーん、どうしよう?」
「『どうしよう』も何もない! ケイは嫌がってるんだから、それで話は終わりかな!」
「ちょ、サヤ、ストップ! なんで俺よりキレてんの!?」
「……勝手に人の個人情報を聞き出して、嫌がってるのを無視するのは好き勝手するのは嫌いなの!」
「サヤもケイも、とりあえず落ち着け。周りに人がいるのを忘れんな」
「……ほいよっと」
「……ごめんかな」
確かにそこはアルの言う通りだ。他に色んな人が集まってる中でこんな風に言い争いをしていいような状況じゃない。ふぅ、とりあえず落ち着こう。
「アルさん、抑えてくれてありがとね。ちょーっとこれは見過ごせそうにないから、フラムさんに……およ? ログインしてないね? んー、だったら水月さんに連絡を取ってみるから、少し待ってて。あ、水月さん、競争クエスト中で悪いんだけどちょっとフラムさんに関して聞きたい事があるんだけど今大丈夫? うん、ケイさん絡み。ちょっと放置出来なさそうな案件だから、事情が知りたいんだよね」
なんというか、検証どころの話じゃなくなってきてしまった。あぁもう、何がどうしてこうなった!? 全ての元凶はフラムか! あの余計な事をするあいつのせいか!
「……今、私が何を言っても無理そう?」
「この状況の俺の身にもなってくれる?」
「……ごめん。客観的に考えたら確かに無理だね……」
勧誘狙いで追いかけてきた人に謝られても知るかー! それにしても、サヤがあんな風に怒ると思わなかった。……なんかサヤは嫌な思いをした事があるんだろうか? あー、変に聞くのも無神経過ぎる内容か……。
「シラヤキさん、風音さん、検証に付き合ってもらう為に来てもらったのに、なんだかごめんね」
「なんかリアルのトラブルみたいだしそこは気にしないけど……ヨッシさん、検証はどうするの?」
「…………すぐ……無理なら……帰る」
「わー!? それは困るのさー!?」
レナさんが連れてきた無所属の人はトカゲの……読みは多分『かざね』の風音さんっぽい。トカゲとは言っても緑色で1メートルは超えてそうなデカいトカゲだけど。
なんかパッと見ではワニに見えそうな雰囲気ではあるけども、よく見たら風属性のトカゲで合ってそうではある。いや、ほんとにトカゲだよな? 危機察知持ちってとこから推測してるんだけど、実はワニとか言わないよね?
てか、折角の検証に付き合ってもらうはずだったのに、こんな形で台無しになるのはゴメンだぞ! 灰のサファリ同盟のシラヤキさんはともかく、無所属で危機察知持ちの風音さんに帰られるのは困る!
「うん、それで了解! うん、うん、急にごめんね、水月さん。うん、それはケイさんに伝えておくね。うん、それじゃまた。あ、競争クエストは負けないからね! うん、それじゃ!」
あ、どうやらレナさんは水月さんとのフレンドコールが終わったっぽいね。さて、水月さんからは何が聞けたのやら……。
「アイルさん、フラム君から具体的にどういう流れで話を聞いたのかを説明してもらえる? その辺の具体的な説明をしないとどうにもならなさそうだし、ここは私が仲裁役をするからさ?」
「えっと……それは良いんですけど、リアルの話をここでするのは?」
「あ、それもそだね。アルさん、樹洞を借りれる?」
「まぁそれは仕方ねぇな。『樹洞展開』! 入れる制限は同じ群集にして、遮音設定にしておくか」
「うん、ありがと」
周りを気にせず話が出来る環境を用意したって事は、何か話し合う余地でもあるのか? レナさんは水月さんから何を聞いた? フラムがログインしてないって言ってたのは……もしかして、テスト関係以外にも何かある?
「申し訳ないんだけど、ハーレとシラヤキさんと風音さんで検証を進めておいてくれない? どうも変な拗れ方をしてるみたいだから、こっちを解消しておきたいからさ」
「了解なのさー! シラヤキさん、風音さん、よろしくねー!」
「よろしくお願いします!」
「……よろ…しく」
「今のサヤは検証の方が良さそうだね?」
「……うん、そんな気がするかな」
ふー、とりあえず検証の方はみんなの方で進めておいてくれるらしい。それにしてもレナさんは変な拗れ方をしてるって言ってたけど、どういう事? 何か拗れるような要素ってあったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます