第1028話 新たなスキルを得る為に
俺らの中には属性ありの魔法ダメージと物理ダメージを併せ持つ『応用複合スキル』を取れる人がいないのは判明した。条件的に誰も取得が出来ないとは思わなかった……いや、性質を考えれば不思議でもないか。
それはそうとして『応用連携スキル』の方は取得可能そうではある。ただし、同時に複数人で取れるかは怪しいのが難点。羅刹の言葉を信じるなら軽減策もあるけど、まだ俺らは成熟体に進化してから一度も戦っていないから、判断し切れないのが痛いところ。
「とりあえず判断材料が足りないから、『応用魔法スキル』の方も取得条件を教えてくれ」
「あ、確かにそっちも大事かな! えっと、こっちはアルから説明をしてもらった時とは全然違う内容が書いていたよ」
「前提の『魔力制御Ⅱ』はもちろん必須で、『キャラが対応する属性の所持』と『その昇華称号の所持』と『その属性のLv6以上の魔法スキルの所持』と『1回の戦闘中にその属性の魔法で合計200以上の魔力値を消費する』のが条件だそうです!」
「ただ、まだ検証件数が少なくて確定条件ではないって話かな」
「そうみたいなのさー! それと昇華魔法で消費するのと、回復アイテムで回復させた分は駄目らしいのです!」
「そういう条件!? あー、ともかく魔法を使いまくれって事か」
「全然条件が違うじゃねぇか……。まぁLv7の魔法が必須と言われなくてホッとしたが……」
「え、アル、なんで?」
「地味にLv7まで上げ損ねてんだよ! クジラの育成や木の完全な魔法型への移行準備が終わって満足して、3rdのフクロウの育成を優先したのはミスった……」
「……あはは、そういう事もあるよ、アルさん。私もLv7なのは毒魔法だけだしね」
「あー、そういう……てか、ヨッシさんも選択肢がそうないのか」
アルのは単純な育成ミスな気もするけど、ヨッシさんも地味にLv7の魔法が条件だったら厳しかったのか。全然条件が違ってたけど、これって案外簡単なのでは? これならサヤの竜とハーレさんのクラゲでも取得出来そう? というか、取得出来るような条件になってるっぽい印象だね。
あ、でも竜とクラゲでログインしてる時じゃないとクマとリスでは魔力値が足りない可能性があるな。俺のロブスターで魔力値は150も無かったはずだし、バランス型なら届きそうで、物理型では足りなくなるのが魔力値200って基準なんだろう。
まぁ物理型では取りにくくなってるのは当然な措置だから良いとして……重要なのはここからだなー。
「その魔力値の消費って、攻撃魔法にこだわる必要はないのか?」
「えっと、多分そうだと思います!」
「付与魔法が使えるなら、PTメンバーに付与魔法を使っていくのが良いってなってたかな!」
「まぁ、そうなるよなー」
もしくは、拘束魔法や防壁魔法で消費しても問題はなさそうだ。それにしても全く違う条件が出てきたけど、緊急クエストで成熟体が少なからず出る様になった影響っぽい?
でも、この条件だと紅焔さんってどういう手段で『炎魔法』を取得したんだ? 火魔法でひたすら攻撃しまくってた? いや、なんか違和感があるような気がするぞ。
「……なんだか俺の知ってる取得方法と全然違うんだが?」
「俺としてもちょっと違和感があるから、羅刹が知ってる方法を教えてもらえないか?」
「あぁ、いいぜ。俺が知ってるのは並列制御を使って『攻勢付与で威力を増幅した衝撃魔法を2回叩き込む』事だ。まぁ前提に『魔力制御Ⅱ』や『対応する属性』が必須なのは変わらんな」
「……なるほどね。ハーレさん、光魔法と闇魔法については分かってる?」
「それは謎なのさー! ちなみに今、羅刹さんが言った方法も未確定な手段として書いてはあるのです! こっちが元々書いてた方みたいなのさー!」
「あー、そういう感じか!」
そうか、応用魔法スキルに関しては取得方法が1つには限定されていないだな。そうなると、光魔法や闇魔法は全く違う条件な可能性もあるね。……付与魔法を持ってる人、意外と少ないのか? いや、運営が成熟体からの応用魔法スキルは魔法Lv6以上を基準としてるだけ?
あー、考えても分からん! とりあえず取得方法が複数あるのなら、俺は並列制御を使って攻勢付与で威力を強化した衝撃魔法を2発叩き込むのが手っ取り早い。それに対して付与魔法を持っていないアルは地道に魔力値を200消費する方法が良さそうだ。ヨッシさんは取る属性によって手段が変わってくるのかも。
「……ちょっと待てよ。サヤ、ハーレさん、『応用連携スキル』でも複数の取得方法が用意されてる可能性は?」
「推測だけは出ていたけど、具体的な条件は全く不明かな」
「なので、説明からは省いておきました!」
「予想自体はされてるんだな」
まぁ俺がすぐに可能性として思い至るんだから、検証をやってる人達の間でそういう意見が出るのも当然だよな。根本的に成熟体が不足してたから検証の試行回数が全然足りてない状態だろうけど、昨日からそれは改善方向に向かっているから検証が進み始めた訳だ。先に別のアプローチから成果が出たのが『応用魔法スキル』なんだろうね。
とりあえず今回は可能性が高い取得方法でやっていきますか! 他の手段での取得方法の模索は他の機会にやろう。さて、どういう組み合わせでやっていくのが効率が良い?
「アルとヨッシさんがひたすら拘束しまくって、その間にサヤとハーレさんが連撃を叩き込むのが良さそうだな。敵は堅牢持ちの物理型に絞る感じで、それ以外は倒さずに逃げるか、俺の魔法の取得に使おう。みんな、そんな感じでどうだ?」
「ケイさん、私とアルさんは同時にしない方が良いんじゃない? それにサヤとハーレもさね。いざって時に無防備になっちゃうよ?」
よく考えなくても、そこの部分はそうだった! 羅刹が多少目を光らせてくれてはいるだろうけど、6人中4人がスキルの取得に動くのはリスクがありすぎるよなー。いや、でも無防備さを晒して、相手の油断を誘うという手もある?
今回の役目としては撹乱してしまえばいいんだから、スキルを取ろうとしているのを見せつけてあえて妨害に動かさせるという手もありか。
「……あえて無防備さを晒してみようかと?」
「ケイ、それは今思いついて適当に言ってないかな?」
「……声に出てた?」
「ううん、今のはただそんな気がしただけかな」
「……なるほど」
うん、声に出てないのに考えてた事がバレてたってどういう事!? いや、今はそれはいいや。戦場のど真ん中にいる事は変わりないし、そこは警戒しとかないと。
「とりあえずさっきの案は破棄するとして、サヤとアルと俺の3人と、ヨッシさんとハーレの2人で分けてやるか。羅刹、ハーレさんがやってる時は危機察知を任せていいか?」
「おう、それは任せとけ」
「それならいけそうかな?」
「それで決定なのさー!」
「うん、そうしよう!」
「俺もそれで良いが……ケイ、魔法は水と土のどっちを取るんだ?」
「あー、そういやそれは決めとかないとマズイのか」
水魔法はアルも狙えるはずだけど、アルは海水魔法と樹木魔法も狙えるはず。ん? 待てよ、海水魔法は根本的に属性が無いような気がする? 海属性って属性は纏海以外では存在してないっぽいし……。自分で調べようがなくて、分からないものは聞くに限る!
「アル、海水魔法の『応用魔法スキル』ってどうなんの?」
「……そういえばどうなるんだ? 海水魔法もだが、樹木魔法にも『応用魔法スキル』はあるのか?」
「今はまだ基本属性の『火』『水』『風』『土』『雷』『氷』の6種類しか取得方法は確認出来てないそうです!」
「え、そうなの? それじゃ昨日見た、あの無所属の黒い龍の人が使ってたのって……?」
「……無所属に闇魔法の取得条件を知ってる人がいるみたいかな」
あー、まだまだ魔法も情報不足か。とはいえ、闇魔法らしきものは昨日見たし、光魔法らしきものは砂時計の洞にいるサボテンや光るアロワナで見た。
基本属性ではない他の属性は個別に条件とかがありそうだなー。俺らで関係してくるのはアルの海水魔法と樹木魔法、ヨッシさんの毒魔法か。確かにこの辺は昇華も少し特殊だったりしたもんな。まぁ海水の昇華は大差なかったけど。
「……無所属の闇魔法を使う黒い龍だと? ケイさん達、そいつに会ったのか」
「まぁチラッと見ただけで会ったというほどではないけど……羅刹、何か知ってるのか?」
「存在だけはな。無所属の中でも、誰とも全く交流をしない完全なソロプレイヤーだ」
「ソロプレイヤーなのか、あの黒い龍の人」
ふむ、要するに無所属にいる十六夜さんみたいな人って事か? あー、いや違うか。十六夜さんは大々的に交流はしてないけど、交流が皆無って訳じゃないもんな。
「羅刹さん、その人が乱入してくる可能性ってあるのかな?」
「……正直、全く分からん。だが、相当な実力者なのは間違いない」
「そんな人の乱入はされたくはないのです!?」
「……あはは、交流をしないなら傭兵としては期待出来そうにないしね」
羅刹が相当な実力者だと言い切るんだから、その黒い龍の人はとんでもなく強いんだろうな。……闇魔法の取得方法が知りたいけど、全然交流しない人なら情報交換は期待出来そうにないか。
「ケイ、ハサミを下ろすな。向かう先が分からなくなるだろ」
「あ、悪い! てか、方針は決まったんだし敵がいる方に……あ、獲物察知が切れたから再発動するわ!」
「おうよ」
さて、どういう手順で動きかは決まったんだし、実際に戦う成熟体の敵を探さないとね。
<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します> 行動値 101/106(上限値使用:1)
よし、再発動完了。それにしてもさっきまでの獲物察知では赤の群集も青の群集も、どっちも反応なしだったよな。サヤとハーレさんも話しながら周囲を警戒してくれてはいたけど、擬態持ちの敵の様子はない。……流石にまだ灰の群集の安全圏に近過ぎて、この辺までは進出してきてないのか?
「はっ!? そこなのです! 『魔力集中』『狙撃』!」
「ちょ、もうバレた!? 『高速飛翔』!」
おっと、どうやら葉っぱに擬態していた蝶の人が近くにいたっぽい。擬態が解けて青いカーソルが見えたから、青の群集の人か。即座に逃げを選択するのは英断だけど、既に羅刹が飛び降りて駆け出している。
「擬態した偵察部隊ってか! 『魔力集中』『並列制御』『重爪刃・連舞』『重脚撃』!」
「くっそ! もう灰の群集に傭兵が――」
あっという間に羅刹の銀光を放つ爪によって斬り刻まれ、連撃とチャージを併せ持つ『重爪刃・連舞』と『重脚撃』の挟撃を受け蝶の人のHPが無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。てか、どっちも銀光に強弱があったから、Lv2以上での発動な気がする!?
今の羅刹のスキルの連携、ヤバい!? 『重爪刃・連舞』は連撃とチャージの特徴を併せて持ってるスキルとは聞いたけど、そこに並列制御で『重脚撃』まで加えていくとは……。行動値が大幅に増えたからこそ出来る事か。
「羅刹、『重爪刃・連舞』って消費行動値ってどんなもん?」
「あぁ、これか? Lv1で25消費で、Lvが上がるたびに消費はLvとの乗算で増えていくぜ。今のなら『重爪刃・連舞』はLv2で50、重脚撃が並列制御で40だから、合計90の消費だな」
「……いきなりぶっ飛ばし過ぎじゃねぇか?」
「何言ってんだ、アルマースさん。目立てって話なんだから、無所属の俺が瞬殺すれば嫌でも情報は広まるだろ?」
「確かにそうなのさー!?」
「まぁそうなるか」
これで青の群集には、羅刹が灰の群集の傭兵として参戦している情報は伝わるはず。さっきの蝶の人が散り際に話してた言葉から考えると、青の群集にも無所属が傭兵として加わるシステムがある事は把握してそうだよな。
少なくとも俺らに動きがあった事はこれで青の群集は把握するから、そこからどう対応してくるかが問題。……そこそこ離れはしたけども、まだ結構灰の群集の安全圏に近いんだけどね、ここ。下手に逃すよりも青の群集の安全圏に送り返す方が安全……だとはまだ断言は出来ないか。まぁその辺はこれからの動きを見てからだな。
「それにしても、随分と近くまで来てたかな」
「ハーレさん、あの蝶の人はどんな感じの動きをしてたんだ?」
「ちょっとずつ近付いてきてたけど、確実に当てられるところまで見て見ぬ振りをしておきました!」
「……さっきの狙撃、外してなかったか?」
「ふっふっふ、羅刹さん、それはわざとなのです! あれなら私がさっきの距離で見つけるのが限界で、慌てて動いたように見えるはずなのさー!」
「へぇ、さっきの動きは索敵範囲を誤魔化す為の布石か」
「そういう事なのです! だから、私達が何か話してるのは分かっても、具体的な話の内容までは分かってないはずなのさー!」
サヤはハーレさんと違う方向を警戒してたからだけど、他のみんなは俺も含めてあの蝶の人には全然気付かなかった。でも、ハーレさんは見つけてすぐには対処せずに、ハーレさん自身の視認での索敵範囲を狭く誤魔化したんだな。
「ハーレさん、ナイス判断!」
「えっへん! ちなみにあの距離なら巣に隠れながらチャージをして、狙い撃つ事も出来るのです! その辺の使用判断はケイさんに委ねるのさー!」
「……油断して近付いてきたら、狙い撃とうって作戦か。それは了解っと」
さーて、予想外にハーレさんが青の群集からの次の偵察に対して、割と凶悪なアドバンテージを作ってくれた。多分この手札は一度しか使えないけど、俺らの索敵範囲を見誤って奇襲を仕掛けてようとした時に、逆に奇襲を仕掛けられる。そうなると一度わざと見逃して奇襲を受けておくのもありだな。その方がより罠としての確度が上がる、
「ハーレさん、次に見つけた場合も今回と同じようにやってくれ。サヤは見つけたらすぐに報告でいい。ハーレさんを俺らの索敵の穴だと誤認させるぞ」
「了解です!」
「分かったかな!」
「……下手に擬態からの奇襲が出来ねぇな、このPT」
羅刹がそんな呟きを漏らしているけど、まぁそれについては俺も同感。サヤもハーレさんも、スキルじゃなくて自前の観察力で擬態を見抜いてるんだからとんでもないよな。ただ、ジェイさん辺りはその辺を知ってるはずだから、上手く引っ掛かってくれるかは運任せではある。
とりあえず後々で役立ちそうな仕込みをしつつ、成熟体からのスキルの取得をしていきますか!
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