第1027話 いざ、戦場へ


 とりあえず今はリアル側でのあれこれは頭の中から追い出しておいて……まずは周囲の状況を把握しよう。競争クエストへの参戦の演出がすぐあったから、その辺はまだ確認出来てないしね。

 まず転移して来た場所には……あ、植わってる木のミヤビがいた。森林エリアに戻る時にはミヤビから転移して戻ればよさそうだな。キツネのマサキの姿は……見えないか。ふむ、群集支援種は2人セットになってた気もするけど、その辺はどうなってるんだろ?


「ここで止まってたら邪魔になるし、少し移動するぞ」

「ほいよー」


 確かにここに転移して来たらすぐに演出が始まるんだし、見終わったなら邪魔にならない様に移動はしておくべきだな。まぁもうアルが移動中だけど。

 移動している間に観察してみたけど小動物系の種族の人が結構見えるから、この人達が先行偵察部隊の人達かもね。現時刻が21時を過ぎたくらいで、ベスタがミヤ・マサの森林の防衛に回ってるならこっちにはレナさんが来てる可能性はありそうだ。


「この安全圏、拓けてはいるけどあんまり広くはないね」

「なんだか先の方に透明な膜があるように見えるのさー!」

「……膜? あ、なんだかドーム状にここを囲ってる感じかな!?」


 そう言われてみて周囲をよく見たら……分かりにくいけど、それっぽいのは確かにある。なんだろう? ドーム状のバリア的な何かで覆われてるっぽい? うーん、かなり視認がしにくいけど、これが安全圏と対戦エリアとの境界になってそうだ。


「まぁいいや。あの膜が対戦エリアとの境界っぽいし、大暴れしに行きますか!」

「「「「おー!」」」」

「おし、やるか!」


 このジャングルで分かっている事は少ないけど、俺らは強行偵察部隊なんだし周囲に集まってる小動物系の人達が動きやすいように目立つ方がいい。

 それにしても角が生えたウサギとか、風を纏って浮いているイタチとか、木製っぽいリス……って、それどうなってんの!? え、不動種の分身体? いや、これはリスと木の融合種か? 絶対にそうとは言えないけど、そういう可能性もあるのかー。


<『未開のジャングル・灰の群集の安全圏』から『未開のジャングル』に移動しました>


 そんな事を考えながら、アルに乗った状態で膜をすり抜けて対戦エリアになるジャングルへとやってきた。ここからは全然拓けてない未開のジャングルって感じか。

 木の種類は今までの森とは違って、熱帯雨林になってる様子。これ、陸地から行くと大型動物系だとかなり身動きが取りにくそう。戦うなら空中戦か、ジャングルの中に隠れてのゲリラ戦ってとこか。


「アル、ハーレさん、下からの攻撃に要注意なー!」

「だな。ハーレさん、危機察知は任すぜ?」

「任されました! あ、そういえば羅刹さんは危機察知って持ってませんか!?」

「ん? まぁトカゲの頃に持ってたから使えるが……2人で使うと混乱しねぇか?」

「はっ!? そういえばそうなのです!?」


 うーん、羅刹の言う事ももっともだけど、折角2人が危機察知を持っているなら有効に使いたいとこだよな。……かと言って、パッとすぐには有効な良い手段も思いつかない。

 ふー、変にこだわりすぎて無理に使い道を作ろうとするのも危険だな。近接の羅刹より、遠距離のハーレさんの方がみんなに伝えるのには向いてるか。羅刹だと自分で動く方が早そうだし、俺の獲物察知も併用していくつもりだしなー。


「危機察知はハーレさんをメインで頼んだ! 羅刹はハーレさんに余裕が無い時に反応があった場合に教えてくれ」

「あぁ、了解だ」

「了解なのさー!」

「さてと、アル。付与魔法で自動防御は用意しとくか?」

「……その方がいいかもな。よし、水の守勢付与を頼む」

「ほいよっと」


 今回は襲われる事も前提にしてるから、その辺への対処もしておかないといけない。……冗談抜きでこのジャングルは今までのどの森とも比べ物にならないくらい見通しは悪いしね。そりゃ調査も全然進んでない訳だよ。

 この中で普通の敵やボス、赤の群集、青の群集、更に乱入してくる無所属に対抗していかなければならないんだから、相当厄介だな。これ、いっそ薙ぎ払って燃やして更地にした方が楽じゃね?


「物騒な事を考える前に、さっさと付与魔法を頼むぞ……」

「……そうだった」


 てか、また声に出てたっぽい。気をつけてはいるつもりなんだけど、やっぱり癖は中々抜けないなー。ともかく今はサクッと準備を済ませよう。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 99/106(上限値使用:1): 魔力値 267/274


 守勢付与をかけて、アルのクジラの周囲に水球が3つ漂い始めたから、とりあえずスキル3発までは自動防御で対応出来る。とはいえ、プレイヤースキルが高い相手にはスキルでの自動防御は確実なものじゃないから警戒はしていかないといけない。だからこれも使っていこう!


「獲物察知も発動していくぞ」

「おう、任せたぞ、ケイ!」


 という事で、ちょっとわざとらしく大きめの声で発動していくか。灰の群集の安全圏から出たばかりだけど、もう既に近くにいるという可能性は否定出来ないし、探す手段を持っているという牽制も兼ねて! 意味がない可能性の方が高いけどね。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 94/106(上限値使用:1)


 さて、効果は……って、思った以上に黒い矢印があちこちの方向に伸びてる!? これ、数えるのが面倒になるくらい相当な数の敵が紛れてるみたいだな。流石にフィールドボスの反応はなしか。逆にこれで反応があってくれた方がそれが怪しいって確定出来るんだけど、そう都合良くはいかないな。

 黒い矢印は多くても、赤い矢印と青い矢印と白い矢印は効果範囲内には特に反応なし。ただ、擬態までま見破れないから、絶対にいないと断定するのも危険か。


「ケイ、獲物察知はどんな感じかな?」

「とりあえず黒以外は特に反応なし。だけど黒いのは相当いるし、擬態の見破りはサヤとハーレさんに任せる!」

「そこは任せてかな!」

「了解なのさー!」

「それで、ここからどう動く?」

「問題はそこだよな……」


 ベスタからは派手に動いて他の群集の様子を見るのを頼まれてるし、他の群集の安全圏があるかもしれない方向に行ってみるか。俺らが見つけるというよりは、俺らが見つからなければいけないし、挑発的に動くのもあり。

 いや、挑発的に動くのなら……逆に全然違う行動をするのもありか? それこそ対戦エリアに来ているとは思えないような行動を……。

 

「……アルのクジラの上で、特訓でもする?」

「何がどうしてそうなった!? おい、ケイ!?」

「いやー、無駄に派手に特訓で大暴れしてたら、何事かと思って見に来る可能性ってない? 目立つし、挑発にはなるだろ?」

「……ケイさん、その挑発の仕方は流石にどうかと思うぞ?」

「まぁそういう反応になるよなー」


 挑発にはなるけど、これだとなんか怒らせる方向性での挑発になりそう。それで連携が乱れてくれたらありはありだけど、流石に初手からこれは変な方向でやり過ぎだな。もしやるとしたら、それこそもっと冷静な判断が必要になる終盤戦とかだね。


「ま、無難にやるなら、成熟体からのスキルの取得だな。どう考えても普通の敵との戦闘は避けられそうにないし、どっかで戦わないといけないなら称号は無駄には出来ないだろ」

「うん、確かにそれはそうなるかな」

「確実に使えると分かっている称号は『成熟体・暴走種の討伐』と『成熟体・瘴気強化種の討伐』だけなのさー!」

「……群集の方でも、それだけしか使える称号は判明してないのか」


 どうも羅刹でも他の称号を使った成熟体からの新スキルの取得方法は不明みたいだね。空白の称号があるとはいえ、現時点ではこの2つの称号からしか手に入れられないってのは厄介だよな。そりゃ再現も進まない訳だ。


「アル、とりあえず今は俺が敵のいない方向を指し示すから、そっちに移動してくれ」

「それなら木の方に視点を変えた方がいいな。ケイも根の上側に上がってきてくれ」

「ほいよっと」


 とりあえずアルの木の根とクジラの背の間から、根を掴んで上側に移動! えーと、とりあえず敵と遭遇しなさそうな方向……今の位置から北西の方に進んでいこう。どこの先に何があるのかまだ分からないんだから、今はこれでいい。


「サヤ、ハーレさん、避けて移動してる間に調べてもらった正確な取得方法を教えてくれ」

「それはいいけど、この動き方は大丈夫なのかな?」

「何かを明確に目指してるように感じるのです!? はっ!? ケイさん、それが狙いですか!?」

「まぁハッタリではあるけどなー。獲物察知持ちがいたらどういう法則で動いてるかは一目瞭然だけど、そうじゃなけりゃ今の段階で既に何か明確な狙いがあるように見えるはず」

「……あはは、既に心理戦に入ってるんだね」

「ま、そういう事」


 成熟体からの新しいスキルを得る為でもあるけど、そんなのは予め条件を調べておけばいい話。俺達だって、わざわざ敵を避けながら動いて内容を確認する必要はない。

 でも俺らの正確な状況を把握出来ていなければ、目撃されても意図は掴み切れないはず。まぁ結果的にそうなっただけだけど、色々と都合が良いからこれでいく! 外から見たら意図が分からない行動で撹乱しつつ、新スキルの取得をやっていこう。


「とりあえず黒の暴走種と瘴気強化種の討伐称号で、最低でも2人で2つは新スキルを取っておきたいけど……条件的にはいけそう?」

「『応用連携スキル』と『応用魔法スキル』は多分いけるのさー!」

「逆に私達の中では『応用複合スキル』は誰も取れそうにないかな。これは1つのキャラで『属性』と『Lv3以上の元になる連撃かチャージの応用スキル』の両方の所持が必須だって」

「あー、それは確かに俺らの中にはいないな……」


 スキル自体が属性を持っていて魔法と物理の両方のダメージ判定があるのが『応用複合スキル』だったはず。1つのキャラでなら支配進化や同調では条件達成にはならないっぽいなー。性質的にバランス型向けだって話だったし、該当者がいないのならスルーでいいや。


「『応用複合スキル』は取れないのは分かったけど、他の2つの取得条件は?」

「『応用連携スキル』の取得条件は『Lv3以上の連撃かチャージの応用スキル』をその戦闘中に2種類当てる事かな。あ、前提として『魔力制御Ⅱ』が必須で、取りたいスキルに合わせて『凝縮破壊Ⅰ』か『連鎖増強Ⅰ』、もしくは両方が必要だって。あと『魔力集中』の発動も必須だね」

「……ちょい待ち、それって連撃の応用スキル2つでもいけたりするのか?」

「うん、それでもいけるみたいかな」

「マジか!?」


 てっきりチャージと連撃の組み合わせでしか連携にならないのかと思ってたけど、まさかの連撃同士での連携も可能だったよ。連撃同士の連携って、連撃での攻撃回数が増えるとか、連撃での威力の増加幅が強化されるとか?

 まぁそこはサヤが取れるだろうから、実際に取得をやってみればいいか。問題としては……地味にLv3の応用スキルを2発当てなきゃいけないところだな。


「可能ならサヤとハーレさんで同時に取得を狙って欲しいくらいなんだけど……敵のHPは保つのか?」

「あ、そっか。Lv3での発動は威力が高いもんね」

「……同格の成熟体になったら、今度は威力が高過ぎるのが心配の種になるのか」


 まさかそんなとこに落とし穴があるとは思わなかった。いや、まだその決定をするのも早いか。そもそもサヤとハーレさんをセットにしなくても、『応用魔法スキル』の取得とセットにする方向でも良いはずだ。


「あー、それは『自己強化』を使えば良いだけだぞ?」

「羅刹さん、そうなのー!?」

「え、その情報は無かったかな!?」

「成熟体は奪い合いだったから、細かい情報の精査がし切れてないんだろ。近接で攻撃する時に『魔力集中』を使うのは基本中の基本だし、奪い合いともなれば威力を重視するのは尚更だ。ま、無所属の俺の情報を信じるかどうかはそっちに任せるが」


 ふむ、確かに少なからず見てきた成熟体との戦闘の様子を考えたら、羅刹の言っている事は一理ある。群集だからこそまとめに情報が多く集まって、それ故に『魔力集中』が必須だと判断されているか。……ベスタ自身が自分で取得した時の条件が絞り切れてないって話だったもんね。


「アル、どう思う?」

「……見落としている可能性としてはあり得るだろうが、実際に試してみないとなんとも言えんぞ?」

「羅刹を信じない訳じゃないけど、そうなるよなー。サヤ、ハーレさん、試してみるか?」

「それなら条件を切り分けて試すのはどうかな? 私が『自己強化』でハーレが『魔力集中』でやってみるのでどう?」

「それなら私が『自己強化』でも――」

「ハーレ、それはダメかな。私の連撃、新しい特性の『連撃強化』でどれだけ威力が強化されてるかが分からないしね」

「あぅ……確かにそうなのです」


 可能性を試すのならサヤの判断は妥当な所ではあるとは思うけど、ハーレさんとしては納得し切れてないようである。……物理攻撃が効きにくい堅牢の敵とかがいてくれたら良いんだけど、そう都合よくいる訳もないよな。

 それにまだ『応用魔法スキル』の方の正確な取得方法を聞いていないから、そっちを確定させてからでも問題はないはず。今はそっちの確認を先にしてから、どういう組み合わせで成熟体からのスキルの取得を狙うかを考えよう。もちろん周囲は警戒しながらで!

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