第1024話 参戦前の情報収集


 俺ら5人の進化後の情報は大体把握した。後は羅刹のティラノの属性や特性を把握してしまえば、ベスタに頼まれた囮として競争クエストの開催地の1つである『未開のジャングル』へと移動が出来る。

 まだ新エリアへの転移手段を把握してないけど、多分その手段は簡単に分かるはず。それこそ森林エリアの群集拠点種の……えーと、なんだっけ? あ、エニシだ、エニシ! エニシから転移出来そうな気はする。というか、森林エリアからの経路確立ならそれしかないよね。


「さて、俺のは手短かに済ませてもらうぜ。別に種族名は必須じゃねぇし省いて、属性はなし、特性は『斬撃』『蹴撃』『打撃』『牙撃』『強靭』『鋭爪』『一撃強化』だな」

「『一撃強化』って事は、単発系のスキルが強化になってるのか? 応用スキルのチャージ系スキルLv3以上のが2つな気がするけど、何か聞いてもいい?」

「一緒に戦う以上は教えておく必要はあるか。俺は『重硬爪撃』と『硬獲砕牙』と『爪刃双閃舞』の3つがLv3だ。『重脚撃』はLv2だな」

「Lv3がまさかの3つかい!」

「油断すんなよ、ケイさん。学生組が抜けてる間、2ndや3rdを育てる方向に行ってるやつばかりじゃねぇからな」

「あ、確かにそりゃそうだ……」


 そうか、成熟体への進化をしても足止め状態になってたからって、スキルの熟練度は稼げる。成熟体に進化して大幅に行動値が増えてるし、より高Lvの応用スキルは使いやすくなってるから、その辺にも警戒しておく必要があるんだな。

 いや、応用スキルだけじゃないのか。成熟体からの新しいスキルばっかに気を取られてたけど、通常スキルでも場合によっては警戒すべきものもあるはず……。


「アル、羅刹、分かる範囲で良いから質問。Lv8の魔法って判明してる?」

「あー、悪い。持ってる奴はいるって話は聞いた事はあるが、具体的な内容は知らねぇ」

「あるかもしれんが、俺はその手の情報は見てないな……」

「……なるほど」


 羅刹は単純に無所属勢の中で詳しい情報が出てない気はするけど、アルはまとめを見てなかっただけか。まぁアルもまとめに頼りっきりでやってる訳じゃないし、その辺を見てないのは不思議でもない。

 でも、競争クエストで戦うとなれば相手が使ってくる可能性があるし、どういう性質のものなのかを確認はしておくべきだな。スキル強化の種を持っていて、通常スキルの魔法に使っていれば……存在自体は判明している可能性が高い。それこそ俺が持ってるのを全部のスキル強化の種を水魔法か土魔法に注ぎ込めばLv10までの魔法の内容はほぼ確定させられるしね。


「ケイさん、まとめの情報を確認するなら少し待つけど、どうするんだ? てか、俺は傭兵になるから指揮は任せるが、いいか?」

「指揮についてはそれで問題なし。羅刹は基本的にサヤと手分けして近接担当を任せた! それから……少し役割を分担をするか」

「おう、了解だ」

「ケイ、情報収集の分担か?」

「とりあえず俺がベスタにフレンドコールしてこれから動くのを伝えるから、スキル絡み……アルとヨッシさんで警戒した方が良さそうな高Lvのスキルの確認、サヤとハーレさんで成熟体からの新スキルの取得方法の正確な情報の確認を頼む! 羅刹は悪いけど、少し待機しててくれ」

「おし、やるか、ヨッシさん!」

「うん、そうしよう!」

「スキルの取得をする為にも、重要なのさー!」

「それは間違いないかな!」

「ま、俺は待機でも仕方ねぇか」

「それじゃ手早く作業開始で!」


 という事で、情報収集を最優先で動く! 羅刹の言葉から警戒すべき可能性としては考えた内容ではあるけど、多分いたとしてもまだそんなにはいないはず。スキル強化の種が大量に手に入る機会があったのは、昨日のスクショのコンテストの結果が出た後だもんな。

 その傾向を探る為のまとめ情報の確認だけど、俺はとりあえずベスタにフレンドコールをしよう。最新の状況とかも聞いておきたいしね。……よし、割とすぐに繋がった。


「進化は済んだか、ケイ?」

「それはバッチリ終了! それで俺らに囮に行けっていうのは、そのまま実行で問題なし?」

「……そこまで直球に言ってはいないが、まぁ内容としてはそうなるか。断りはしないのか?」

「先陣を切らせてもらうのに、遠慮とかいる?」

「ふっ、それならいい。今回の目的は赤の群集と青の群集がどれだけ新エリアの方に人が出てくるかを確認したいから、派手に目立ってくれて構わん。好きに暴れて、翻弄しろ」

「ほいよっと。それで、今の時点で分かってる事って何かある?」

「対戦エリアになるジャングルは、今までのどこよりも広いみたいだな。それと普通に成熟体の敵の存在が確認されている。黒の暴走種、黒の瘴気強化種、どちらもだ」

「……残滓は?」

「今の時点ではまだ確認出来ていないが、瘴気が出ているそうだからすぐに瘴気強化種に変わるのかもしれん。雑魚敵ではあるが、他の群集との乱戦の中に混ざってくる可能性があるから気を付けろ」


 ふむふむ、対戦エリアになるジャングルには普通のエリアと同じように敵は出てくるんだな。これは成熟体の討伐称号を取るチャンスだし、そこに重ねて取得するっぽい成熟体からのスキルを手に入れるチャンス。

 ん? ちょっと待てよ? 普通に敵が出てくるのであれば……。


「ベスタ、黒の統率種にも気をつけるべき? 無所属の乱入で、その辺の敵を従えてくる可能性ってあるよな?」

「あぁ、その可能性は充分に考慮しておくべきだろう」

「出てきた場合は?」

「向こうも承知の上だろうし、乱入者に容赦はいらん。他の群集と同様に仕留めてしまえ」

「そりゃそうか。容赦なく殲滅で了解っと」


 ま、羅刹から話を聞いた限りでは、乱入してくるのは全ての群集を敵に回すつもりの無所属だけだろうしね。……一時的に他の群集とは休戦で真っ先に潰す方が良いのかも? 流石にそれは戦ってる状況次第か。


「あぁ、それと転移後の安全圏に関する情報だ。灰の群集の安全圏は、どうやらジャングルの南部に設定されているようだ」

「……ジャングルの南部? って事は、他の方角に他の群集の安全圏がある?」

「それについてはまだ分からん。まだ調査中だからな」

「あー、そうなのか」


 灰の群集の安全圏の場所が対戦エリアの南部に設定されているなら、同様に他の方角に他の群集の安全圏がある可能性は高い。囮として動くなら、あえてその方向を目指してみる?

 でも3方向は群集の安全圏だとして、1方向はどうなるんだろ? 無所属の安全圏って事になる? うーん、そこはまだなんとも言えないか。まだエリアの全貌も分かってなさそうだし、今の時点では決めつけない方がいいね。


「ベスタ、もしかして妨害も狙ってる? 俺らに目立てって、露骨にエリアの調査の邪魔になるよな?」

「あぁ、それも狙ってるぞ。囮に引っかかって攻撃を仕掛けてくるならそれでも良いし、避けて調査がしにくくなっても構わん」

「二段構えの作戦かー」

「ま、そういう事だ。あぁ、死んだらランダムリスポーンではなく、安全圏へと引き戻される形になっているからそこは気をつけろ」

「あ、そういう仕様なのか」


 なるほど、今回はランダムリスポーンにはならず、スタート地点へと戻されるだな。これは経路確立をしているミヤビをどこかに誘導して、そこから占拠すれば勝ちのパターン?

 いや、黒の暴走種がいるなら、灰の群集の精神生命体が入っているボスを見つけて、それを解放していく感じか? うーん、まだ色々と攻略の為の情報が足りなさ過ぎるね。


「とりあえず色々と情報収集が必要なのは分かったから、囮や妨害をしつつその辺も探ってみる。あ、そうだ。他に行けるエリアって無い? ほら、安全圏よりも更に南側とかさ?」

「それに関してはまだ行けそうにないな。エリア自体は広がっているみたいだが、ループに入って抜けられん」

「あー、そういうパターンか。ちょい待った、それってその先に行くためのボスが出る可能性があるんじゃ?」

「そういう推測は出てるし、俺も同感だ。だが、現時点ではそうだと断定は出来んな」

「……そりゃそうだ」


 でもまぁ、他にもエリアが広がってる可能性があるというだけでも良い情報だ。どうやったらそのループを抜けられるようになるかは、まぁやっていくうちに分かるだろ。


「あ、ジャングルへの安全圏への転移はエニシから転移で合ってる?」

「あぁ、それは合ってるぞ。安全圏に転移すればそこで競争クエストの受注が可能になる」

「……なるほど。よし、今必要そうな情報は大体把握した! それじゃ準備が済み次第、出発するわ!」

「おう、任せたぞ。俺はミヤ・マサの森林で防衛をしているからな」

「ほいよっと!」


 ミヤ・マサの森林での競争クエストでの防衛の内容も気にはなるけど、そこまでの情報は今は要らない。これから行く場所の情報があればそれでいい。という事でベスタとフレンドコールを終わらせて、俺の方は現地についての情報収集は完了!

 さて、薄っすらと後ろでみんなが色々と見つけてた感じの声は聞こえてたから、そっちの内容も聞いていきますか。


「それじゃ集めた情報を出していくか!」

「「「「おー!」」」」

「さて、どんなもんだろうな」

「それじゃまずはベスタから確認したジャングル状況から――」


 という事で、まずは俺からみんなにベスタから聞いた情報を話していく。とはいえ、内容的にはまだろくに分かっていないって事くらいだけどね。


「要するに、俺らは囮と妨害を兼ねた強行偵察部隊か」

「……なんだか俺が聞いた時よりも、役割が増えてるのは気のせいか?」

「それはケイさんが聞いたからだと思います!」

「え、そこは俺が理由!?」


 うーん、色々とベスタに内容を確認し過ぎた? まぁでも大暴れしろって言われたら、それくらいは確認しておきたいしなー。それに競争クエストではデスペナは発生しなかった筈だし、死亡も折り込み済みで問題なし。


「そこは置いておいて、今度は俺とヨッシさんから報告といこうか」

「うん、そうしよっか。まず1つ目だけど、Lv8の火魔法の情報が出てたよ。今の時点では魔法はLv8までの情報しかないみたい」

「お、マジか! てか、1つ目?」

「警戒すべきなのが他にもあってな。まぁそっちは順番にだな」

「おぉ、そうなんだー!? それでLv8の魔法はどんなのですか!?」

「『ファイアディフュース』っていう攻撃用の魔法だって。自分を中心に、球状に火を拡散させていくみたい」

「魔法砲撃にすると、散弾投擲みたいになるらしいな。拡散魔法ってなってたぞ」

「そういう感じの魔法かー」


 ふむふむ、なんというかLv6の衝撃魔法とは性質が真逆の、広範囲向けの性能になってる感じだね。成熟体からの応用魔法スキルも広範囲系が多いような気もするけど、こっちは溜めがないという感じで性能差がありそう?

 水魔法なら水の膜みたいなのでも広がっていくとか、土魔法なら砂が広がっていくとかそんな感じ? 正直な感想としては全方位に攻撃をする魔法はPTでは使い勝手は悪そうだし、それなら応用魔法スキルの方が欲しいね。


「それで2つ目はどんな内容かな?」

「こっちが地味に重要でね? 爪撃Lv10の情報があったんだよ」

「え、本当かな!?」

「それは重要な情報なのです!?」

「それって相当物好きな人がいたって事か!?」

「へぇ、そりゃ興味深いな」


 おぉ、そこは羅刹も食いついてくるか。まぁその気持ちは分かる。一番下位にくるスキルを今の時点でLv10まで上げてるとかビックリだもんな。オフライン版じゃスキルLvはLv10までだったけど、オンライン版ではどうなのかが分かるかも?


「とりあえずそれで分かった事は2つある。まず、オンライン版の『爪撃』の上限LvはLv10で確定した。おそらくLvのあるスキルは同じだと思っていいだろう」

「やっぱりオンライン版でもスキルLvは10が上限か! それでもう1つの分かった事って?」

「Lv10になった時点で、スキルに行動値の回復性能が付く。消費行動値10に対して、回復量は12だそうだ」

「ちょ!? それって行動値の消費より回復量の方が上回ってんじゃん!?」

「だから要警戒なんだよね。スキルとしての威力はそれほど高くないみたいだし、外したり、ちゃんとダメージを与えなければ回復はしないらしいけど……使う人が使ったら、相当危険だよ」

「だよなー!?」


 いやいや、いくら爪撃で威力が低いとはいえ、ダメージを与えたら行動値が2回復する? ……これ、ベスタとかレナさんとかサヤとかに使わせたらとんでもない継戦能力を発揮するんじゃ?


「……それは興味深いかな」

「サヤ、もしかして狙う気か?」

「今、それもありかなって思ってるかな」

「やっぱりそう思うよな!?」

「でもスキル強化の種は2個しか持ってないから、すぐには無理かな……」

「あー、そういやそうだっけ」


 成熟体に進化して行動値が増えたとはいえ、それでも大技を使いまくれば行動値は枯渇する。これは通常スキルで凌げるだけのプレイヤースキルを持った人が使えば……ガチでヤバいやつだ。

 でも、そこまで実行に移せる人もそう多くはない……って、ヤバい!? 実行出来そうな人に心当たりがある!? 味方の方はレナさんやベスタだから問題ないけど……。


「それ、弥生さんが出来そうだよな?」

「それは危険過ぎるのさー!?」

「……あはは、冗談抜きで危険過ぎるね」

「よりによって、実行出来そうなのがあの弥生さんか」

「絶対にそうなるとは限らないけど、警戒した方が良さそうかな!」

「……それは間違いねぇな」


 ただでさえ最大限に警戒しないといけない弥生さんが、とんでもなくヤバい方向性になり得る可能性が存在するとはね……。まだそうなってると決まった訳じゃないけど、他の弱い通常スキルでも上限Lvまで上げてしまえば有用スキルに化ける可能性を秘めてるのか。

 これ、俺も水魔法か土魔法を最大Lvまで上げてしまうのもありな気がしてきた。多分今までの傾向から考えたらLv9の魔法で補助的な魔法、Lv10で攻撃的な魔法になる気がする。……本気で上げてしまう? いやでも魔法だと行動値や魔力値の回復性能になるとは思えないし、悩ましいところ!?


 

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