第1010話 干潟のエリア


 ウナギが2匹ほど手に入り、とりあえず灰のサファリ同盟に人達が集まっている大量の岩が転がってる場所へと移動中。


「おぉ!? なんだかどんどん人が増えてきてるのです!?」

「……ウナギを獲ってる場合じゃなかった? いや、まだ距離はあるから大丈夫そうか」


 確かに川の上流の方から川下りをしてきてる人や、川岸を移動してきている集団は見えてきている。でも、俺らはすぐに戦う予定じゃないから順番待ちについては問題はない。ただ、混雑で身動きが取りにくくなるのは避けたいね。


「とりあえずケイ、急ごうかな!」

「人が増え出しても、早めに行けば問題はないもんね」

「確かにそりゃそうだ!」


 って事で、岩の多い場所に向けて少し移動速度を上げていこう! 既に順番待ちの整理が始まってるならサクッとそこに登録してしまえば良いだけだ。アルを含めて全員が集合するまではスキルの熟練度稼ぎをやるからね。



 ◇ ◇ ◇



 そうしてゴロゴロと岩が沢山転がってるとこにやってきたけど……ここら辺って、まだ海水に浸かってる場所もあるじゃん!? え、人が揃ってるから完全な陸地かと思ってたけどそうでもない?


「およ? ケイさん達、発見! ダイク、ちょと来てー!」

「ん? あ、ケイさん達か!」

「おっす、レナさん、ダイクさん」

「久しぶりなのさー!」


 そんな風に岩を見つめていたレナさんと、レナさんに呼ばれてやってきたダイクさんと挨拶を交わしていく。レナさんは成熟体に進化してるとは聞いたけど、全身に前より赤みが強くなった毛と脚の白い模様でなんか少し派手になってるね。

 そしてその隣にいるダイクさんは……大根というより、薄めの水色のマンドレイクみたいになっていた。二股に分かれた根だけじゃなく、手に相当する部分が出来てるしなー。


「ダイクさん、それってもう大根じゃないよね?」

「ん? あぁ、実際にもう大根じゃないからなー。今の俺は水激強魔マンドレイクって種族だぜ!」

「おー!? 魔法型のマンドレイクなのさー!」

「ま、実はさっき進化させたばっかなんだけどな。今日の緊急クエストで出てくる成熟体を相手に、応用魔法スキルの水魔法を取る!」

「あ、そういう狙いで進化したのか」


 ダイクさんが水属性なのは前からだったけど、完全に水属性特化型で進化したんだね。そして緊急クエストで出現する成熟体の討伐で、水属性の応用魔法スキルを手に入れようとしてるのか。

 ふむ、これって俺らもそういう狙い方が出来るよな? アルと合流してから相談にはなるけど、それを狙ってみるのもあり? あー、でもそれはそれで混雑しそうだし……無理に今結論を出さなくてもいいか。


「桜花さんから昨日の油の件は聞いてるけど、とりあえずみんなおかえりだねー! Lv上げの方はどんな感じ?」

「ふっふっふ、全員Lv上限に到達したのです! でも、2ndの方がまだ進化先が微妙なので、これから特訓なのさー!」

「なるほど、なるほど! それでここの干潟に来たのは……日によって変化が出るって予想からってところ?」

「ま、そんなとこ。ただ、みんなでやる時間の都合が18時からだと合わせられないから、今の時点で夜に合流した時にすぐに戦闘が出来るように順番待ちしとこうかなって目論見だな」


 ただし、これってここの干潟の適正Lvが昨日とは違うっていう予測が前提になってるから、そこが外れると無駄足になるけどね。……そうなった場合は成熟体への進化でも良い気がしてきた。


「およ? ケイさん達は昼間の緊急クエストの件は知らずに来たの?」

「え? それってどういう意味かな?」

「レナさん、昼間に何かあったのー!?」

「あらら、本当に知らずに来たんだね。えーと、わたしも聞いただけにはなるんだけど、ここは昨日の夜より適正Lvは高めになってたらしいよー。具体的には未成体Lv25以上から上限まで!」

「え、マジで!?」

「ここはフィールドボス戦だったから、昼間は人が少なくて大変だったとは聞いたぞ」

「あー、確かにそれはありそう……」


 どうしても平日昼間の方がログイン出来る人が少なくなるから、フィールドボス戦……しかも、フーリエさんから昨日聞いた限りでは連戦になる場所だと厳しそうだよな。


「はい! ちょっと質問です!」

「あ、ハーレ少しだけ待って。ダイク、悪いんだけどケイさん達のPTの順番待ちを申請しといてくれない?」

「おうよっと! んじゃちょっと行ってくる!」

「え、それくらいは自分達で――」

「いーの、いーの! 灰のサファリ同盟の方でちゃんと把握出来てる人限定にはなるけど、混雑緩和の為に整理側の人でその辺の代行はしてるから。わたしとダイクは灰サファリ同盟じゃないけど、整理側で手伝ってるの。むしろ集団で来て混乱しない為の措置だから、大人しく任されておきなさい!」

「……まぁそういう事なら任せるよ」


 確かにここを目指してたさっきの人達の様子を見てたら、一気にやってきたらその方が混乱するんだろうね。顔の広いレナさんは灰のサファリ同盟ではなくても、こういう整理側には向いているのかも?


「それじゃハーレ、質問をどうぞ?」

「昼間の敵はどんなのでしたか!?」

「えっとね、ウミネコとかカモメとか飛ぶ種族がフィールドボスに進化してたってさ。これがまた、勝手に海水の中にいる貝を食べに突っ込んで、勝手に進化していったらしくてね」

「え、それじゃ狙って進化させた訳じゃないのかな!?」

「……勝手にフィールドボスに進化されるのはしんどそうだね」

「あはは、実際色々と大変だったみたいだよ。成熟体の登場は控えめだったらしいけど、フィールドボスへの進化をコントロールする為に海エリアの人が専用の瘴気石を先回りして確保してたみたいだしね」


 そういやフーリエさんがここでの専用の瘴気石を、貝の敵が持ってるって言ってたもんな。海が満ちている時でもそれ相応に調整されて敵が出てきてたって事か。


「って、要するに昼間はこのエリアのフィールドボスの適正Lvが違ったから、夕方からも変化がある可能性が高くなったって予想で合ってる?」

「うん、ケイさん、大当たり! まぁあくまでも予想だから、絶対ではないけどねー」

「まぁそりゃそうだよなー。場合によっては更に低いLv帯になる可能性も否定は出来ないし……」

「流石にそれはないと思うよー? 未成体のLv20くらいまで上がっていればそれなりにスキルも育ってきてるから一気にLv上げも出来るけど、それ以下のLvだとスキルが育たないからね」

「あ、そういやそうか」


 よく考えなくても当然の話だった。スキルLvはスキル強化の種を使う以外では使い込んで熟練度を稼ぐ必要があるんだし、そこをすっ飛ばすようなLvの上げ方を運営がイベントとして用意してくる訳もないか。

 あ、ダイクさんが駆けて戻ってきた。……腕っぽい根も増えて、モンスター感は増したよな、ダイクさん。オフライン版には正しく属性として定義された属性は存在してなかったから、こうして薄い水色っぽいマンドレイクってのも新鮮だね。マンドレイク自体はオフライン版でもいたけどさ。


「戻ったぞー! ケイさん達の登録はしてきたから、誰か1人で良いからこの近くには常駐しといてくれ。順番が近付いてきたら、灰のサファリ同盟の誰かが連絡に行くからな。メンバーがまだ揃ってなければ、その時に伝えてくれれば問題ない!」

「その辺は了解だ、ダイクさん!」

「おうよ! レナさん、俺は他に知ってる人を見かけたからそっちに行ってくる!」

「了解ー!」


 そう言いながらダイクさんは、ゾウの人とキリンの人が並んで歩いてきてる方に向かって駆けていった。……その重量級の種族2体は、この干潟に来て大丈夫なのか?

 あ、確か『湿地移動』ってスキルもあったはずだから、そういうのを駆使すればなんとかなる? もしくは空中に浮くとか、足場を作るとか……どうとでもなるか。


 さて、とりあえずこれでPTでの順番待ちについては問題なし。それじゃ特訓を再開……いや、ウナギの調理が先か? あー、別に必要な事が被ってる訳じゃないから並行してやってもいいのかも?


「そういえばレナさんはここで何をしてたのかな?」

「んー? 潮干狩りをしながら、今のケイさん達みたいに知り合いの人への案内だねー。18時にはログアウトする予定だから、それまではここで灰のサファリ同盟の手伝いだよ。今は他の群集に行くとピリピリしてるしねー」

「……そりゃそうだ」


 いくらレナさんが群集関係なく顔が広いとは言っても……いや、だからこそ競争クエストが間近に迫っている今の状況では気軽に行き来をすると変な刺激になるんだろうね。俺らも今の時期に初期エリアへ他の群集の有力者が来たらどうしても警戒する気がするし。


「てか、レナさんが18時でログアウトって珍しい気がする?」

「あぁ、それね。ほら、少し前にオフライン版の配信が解禁されたじゃない? そこでちょっと面白い子を見つけてね?」

「レナさんが面白い子って言うのは、なんだか気になるかな?」

「確かにそれは気になるのさー!?」

「レナさん、その配信者ってどんな感じなの?」

「それは気になる……」


 テスト期間に入る前にチラッと見た時はそんなに面白そうな配信は無かったもんな。単純にその時のタイミングの問題の可能性が高いけど、レナさんが面白いという配信者がどんなものか、それは聞いてみたいとこだね。


「えっと、まぁ昨日から始まった初見プレイの配信なんだけど……見事な程に変な事をやらかしててさ。んー、なんて言うんだろ? 失敗しかしないケイさんを見てる感じ?」

「その例えはなんか微妙な心境なんだけど……」


 いや、確かに俺だって成功ばっかじゃなくて普通にミスもするけど、失敗しかしない俺ってどんなのだよ!? ……うーん、そういう例えられ方をしたら気にはなるけど、どうも見る気にはなれない。

 てか、配信を見るよりも自分でプレイしていきたい。配信を見るだけなら携帯端末からでもいけるからフルダイブの制限時間を削る事にはならないけど、リアルの時間は削れるもんなー。配信に興味がない訳ではないけど、時間的な余裕がないからパス。


「まぁこっちをやりながら配信を見るのは時間的に厳しいだろうからねー」

「ふっふっふ、それならば夏休みになったら見てみるのです!」

「ハーレ、それもいいけど夏休みの課題はちゃんと片付ける事!」

「あぅ……忌まわしい夏休みの課題なのです……」

「滞ってたら、テスト期間の時と同じようにスパルタで行くかな!」

「ちゃんとやるから、それはご勘弁をー!?」

「ハーレさん、頑張れよー!」

「ケイさんが他人事なのさー!?」

「まぁ実際に他人事だし、俺は俺で課題はあるからなー」


 俺はいつも計画的に終わらせているけど……てか、そういやハーレさんが夏休みの課題で慌ててるのは見た事はないけどな? なんでこんなに……あぁ、去年まではヨッシさんがいたからちゃんと終わらせられてたってとこか。


「ヨッシさん、夏休みはハーレさんの事を任せた!」

「……あはは、うん、まぁ毎年の事だけど任されたかな。今年は心強い味方もいるしね」

「任せてかな!」

「ヨッシ、サヤ、よろしくお願いします!」

「相変わらず仲良いねー! それにしても夏休みは懐かしいものだー! 若人諸君、学生の時しか味わえない青春をしたまえ!」

「……青春かー」


 ぶっちゃけ学校に行ってゲームしかしてないけどなー。夏休みになったらフルダイブの制限時間の関係もあるし、午前中か昼間でアルバイトでもしてこようかな? 今のVR機器はそれなりに使ってるし、性能がパワーアップした新型のVR機器に買い替えるというのもありかもね。

 去年の夏休みも色々なゲームを買う為にバイトしたし、その資金がまだ残っているけど減ってきてはいる。うん、その方向で考えてみますか。


「そういえばダメ元で聞いてみるけど、レナさんって何歳ですか!?」

「それは内緒! まぁ成人はしてるとだけは言っておくよ!」

「「「「それは知ってる」」」」

「およ!? なんで、そこで声が重なる……って、そういえばみんなの前で酔っ払って寝落ちしちゃった事があったっけ。うん、お酒は成人してからだからね!」

「はーい!」


 少し前にハーレさんは父さんの酒を思いっきり間違って飲んでしまってたけどな! 俺も間違って飲んだ事はあるけども! サヤとヨッシさんは……その辺はどうなんだろね? まぁ常飲してるとは思えないし、別にスルーでいいか。


「さてと、それじゃわたしは潮干狩りに戻るけど、みんなはどうするー? あ、そういえば特訓をするって言ってたっけ?」

「はい! 私は潮干狩りを――」

「進化が遅れるから、それは却下かな!」

「あぅ!? そんな、殺生なー!?」

「……あはは、まぁそうなるよね」

「だよなー」


 出来ればハーレさんの潮干狩りをしたいという要望に応えてあげたいとこだけど、そこで脱線するとまたややこしい事になってくる。それを避ける為にも、やるべき事は先に済ませておくべきだろう。


「ハーレ、目的を達成してからまたおいでー! 18時までならわたしはいるからさ」

「あぅ……こうなれば、大急ぎで風の昇華を目指すのです!」

「私は電気の昇華を目指すかな! ……ただ、雷の発生だけは不安だね」

「そればっかりは運が絡むからなぁ……」

「サヤ、雷の心配をする前にまずは電気の操作Lv6が先だよ?」

「……うん、確かにそれはそうかな!」


 いくら雷がどこかで発生したという情報を得たとしても、その時に電気の操作がLv6に到達してないと意味ないからね。焦らずにまずは順番にやっていくべきだ。


「さてと、サヤとハーレが頑張ってる間に、私はウナギの白焼きにチャレンジだね。ケイさん、手伝ってもらっていい?」

「そりゃもちろんいいぞ」

「およ? もしかしてみんな、ウナギを手に入れたの!?」

「ふっふっふ、ついさっき譲って貰ったのです!」

「2匹いるかな!」

「ウナギってレアアイテムなのに、譲って貰ったの!?」


 ん? なんか随分とレナさんらしくない驚き方だけど、ウナギってレアアイテムなのか。これって、マイルさんが思いっきり奮発してくれたとかいう感じ?


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る