第1011話 ウナギの調理 前編
なんだかレナさんが妙な驚き方をしてるけど、ウナギってレアアイテムなのか。いや、確かにリアルでは完全に養殖に成功してるけど、少し前までは絶滅危惧種にもなってた……って、それはゲームには関係ないわ!
「レナさん、ウナギってレアアイテムなのか? 前に獲りにいってなかった?」
「それはそうなんだけどねー。もう、川の石をひっくり返して、ヌルヌル滑るウナギを殺さないように捕まえて、その上で氷じめにしないとダメで、ひたすら地味な作業で効率良くなくてさー。今は罠が出来てるけど、それでもどれだけ獲れるかは運なんだよね」
「あー、まさしくその罠で獲れたウナギだけど……そりゃレアアイテムだな」
てか、罠を使わずにウナギの捕獲をするのは面倒そうだ。デンキウナギはそうでもなかったのに、食べられるウナギとなると難易度が上がってるんだな。そんな罠でただ隣を通っただけの俺らにウナギをくれるとか、ありがたいもんだ。
「なるほどねー! まぁそれ以上にその後の調理が難関なんだけど……これからヨッシさんがやる感じ? わたしもちょっと見てていい?」
「それはいいけど……緊張するね。失敗しても大目に見てね?」
「ヨッシさん、ありがとね! さーて、そういう事なら火のエキスパートを呼ぼう! あ、カインさん、ウナギを捌いてくれる……うん、すぐ来るんだね? うん、干潟ー! はーい、それじゃ待ってるねー!」
火のエキスパートって、もしかしなくてもカインさんだったよ! いやまぁ火で何かをやると言えばカインさんな気はするけど、即座にフレンドコールで呼ぶとは流石はレナさん。
てか、ほぼ即答って感じがしたけど、カインさんの方も興味はあるんだな。まぁウナギはレアアイテムって話だし、調理の方が難関なら火の扱いに長けているカインさんの力は必要なのかも。
「……あはは、カインさんが焼いてくれるなら、焼き加減は大丈夫そう? まぁ何事もチャレンジだよね! ケイさん、まな板代わりに平らな岩を出してもらっていい?」
「ほいよっと」
まぁここのゴツゴツした岩の上じゃ捌けないだろうしね。並列制御でまな板と包丁の両方を生成するよりは、俺が片方を受け持つ方が良いよな。というか、氷の上で捌くと滑ってやりにくそうだしね。
「おっしゃ、到着! レナさんは……お、いたいた! レナさん、あっちで火種をもらってくるから、少し待っててくれ!」
「お、早いね。うん、それは了解! ケイさん、ヨッシさん、カインさんが戻ってくるまで少し待っててもらっていい?」
「……それはいいけど、なんで火種?」
少し離れた川岸の方で焚き火をしてるとこは見えるけど……そういや、いつの間にやらワイワイと騒いでる人も増えてるね。その場所にカインさんは向かっているっぽい。
「ケイさん、焼いてのアイテムの加工には天然の火じゃないとダメだからね。火種はその為のものだよ」
「あ、そういやそうか!」
俺とハーレさんが晩飯でいない間に加工してくれているヨッシさんがそう言うんだし、間違いない。いつだったかそんな話を聞いた覚えのあるような気もするし、転移してきたっぽいカインさんは火種を持ってなかったから確保しに行ったのか。そりゃ必須だよな。
「とりあえず使うものを生成して、捌くのはカインさんが来てからにしよっか」
「それもそだな」
「サヤ! 今のうちに私達は、昇華を目指してスキルのLv上げをしておくのです!」
「……留まらせるのは苦手だし、変に動かしちゃって邪魔にならないかな?」
「およ? それならわたしが対応しよっか?」
「え、良いのかな?」
「うん、いいよー。混ぜてもらうんだし、制御に失敗した魔法の破壊くらいはやりますとも!」
「それならお願いしようかな?」
「私もお願いします!」
「どーんと、お姉さんに任せなさーい! 『魔力集中』!」
ははっ、まぁレナさんならサヤの操作の制御が狂っても即座に破壊してくれるだろうね。レナさんがそういう風に対応してくれるなら、気兼ねなくサヤとハーレさんの操作の特訓も出来るってもんだ。
「それじゃ一旦、水のカーペットは解除するぞ」
「はーい!」
「あ、そういえば乗ったままだったかな」
「すっかり忘れてたね」
という事で、今は必要ないし、みんなが降りてくれたから俺も降りてっと……。あ、今日限定で星空のカーペットって呼ぼうって決めてたのに、普通に水のカーペットって言っちゃった。まぁ特に問題がある訳じゃないし、別に良いか。
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 85/85 → 85/87
よし、解除完了っと。そういや今日は夜空が明るいから夜目は発動してないけど、これからヨッシさんが不慣れなウナギを捌くなら、視界は良くしておいた方が良いか。
<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します> 行動値 85/87 → 85/86(上限値使用:1)
うん、これで視界は良好! 思ったほど眩しいとかはないみたいで良かったけど、ちょっと折角の星空は台無し感があるなー。必要がなくなれば今日は解除した方が……その時の状況次第か。少なくとも今は確実にあった方がいい。
「ヨッシさん、捌くなら多分夜目を使ってた方がいいぞ。使ってみた感じ、眩しいって事はないしな」
「眩しくないならその方がいいかもね。『夜目』! あ、うん、この方がやりやすそう!」
よし、これでウナギの調理の下準備は完了だな。後は実際にヨッシさんが捌いていくのを見守るのみ……じゃない! まな板代わりの岩をまだ生成してなかった。
「それじゃ私達は特訓開始なのです! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」
「目指せ、昇華かな! 『略:エレクトロクリエイト』『略:電気の操作』!」
「サヤ、ハーレ、頑張って!」
「頑張るのさー!」
「……留めるのは、難しいかな!」
サヤは電気の操作に悪戦苦闘して、留まらせるのに失敗して揺れまくってるなー。まぁその辺はレナさんが邪魔になると判断したらどうにかしてくれるだろうし、大丈夫だろ。
さて、それじゃ俺の方も準備していきますか! 出来るだけ平たい岩を……がっしりと固定した方が良いだろうから、その辺の岩を土台にする形で作るか。表面が平らであれば問題なし!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 84/86(上限値使用:1): 魔力値 231/234
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 65/86 (上限値使用:1)
さーて、周囲のゴツゴツした岩を呑み込むようにして平らな岩を生成! ここからは変に動かすイメージは無くして、土台の上にただ乗せるような感じで停止だな。ただし、揺れたり傾いたりしないように、ブレないイメージはしっかりと!
「ほほう、やっぱりケイさんの操作の精度は高いねー! あ、そういえば油は岩の操作Lv4じゃ精度が足りないって話だったけど、灰のサファリ同盟でスキル強化の種を使ってLv5にして試してみたら上手くいった人もいたよ。まだ試してる最中で安定してるとは言えないけど、確認はありがとねー!」
「お、成果は出たんだな。その辺はどういたしましてっと」
「ちょっと量産にはまだ時間がかかりそうだけど、大体の条件の目処は立ったからね! およ? そういえばそれでお礼がしたいって言ってた人もいたけど……ねぇ、そのウナギって誰から貰ったの?」
「えっと、ヒラメのマイルさんだね」
「あ、やっぱりマイルさんだった! そのウナギ、油の件のお礼だね!」
「なんでくれたのかと思ってたけど、そういう理由かー!」
あー、そういう理由だったら腑に落ちた。そっか、ヒラメのマイルさんが油を欲してる理由までは分からないけど、俺らが桜花さんと一緒にその件の検証を進めて成果が出たから、そのお礼としてのウナギか!
いや、まさかこれから調理しようとしているウナギが、昨日の一件と繋がってたとは思わなかった。
「おーし、炭と薪と火種は貰ってきたぜ! おっす、『グリーズ・リベルテ』! アルさん以外は久々だな!」
「久しぶりだな、カインさん!」
「カインさん、久しぶり」
「おうよ! おっと、サヤさんとハーレさんはなんか集中してるみたいだから邪魔はしないようにしねぇとな。おし、竈を組んで炭火焼きの準備をしていくか! おらよっと!」
カインさんはそう言いながら、海水が引いて乾いている場所をすぐに見つけて、手早く周囲の岩を持ち上げて竈を組み始めて……って、無茶苦茶手慣れてるー! いやー、こういう時は頼りになるね。って、あれ? 肉食獣さんが来たぞ?
「おっ、カインが大急ぎで走っていったかと思えば何事だ?」
「ん? あぁ、肉食獣ももう来てたか。あれだよ、あれ! ウナギをこれから捌いて焼くんだよ!」
「あぁ、あの調理は難しいが、成功したらHP50%回復になるレア食材か。確か1匹を3分割までは効果があったよな」
「あ、それは完成してから驚かせようと思ってたのに、なんでそれを言っちゃうかなー?」
「そうだったのか、レナさん。それはなんかすまん」
「ちょっと待った!? え、肉食獣さん、その効果はマジで!?」
「……想像以上にかなりの効果だね」
HPが半分も回復するって、かなり高性能な回復アイテムじゃん!? いや、そりゃレナさんがレアアイテムって言うだけの事はあったよ。
「こっちはレナさんが何やってんの?」
「岩の台があるな?」
「何かの調理をすんのか?」
「さっき、ウナギって聞こえたぞ」
「え、マジで!? あの難易度高くて、投げ出すやつが多いのをやるのか!?」
「おーい、こっちでウナギを捌くらしいぞー!」
ちょ、なんかどんどん周囲に人が集まりだしたんだけど!? 今の効果を聞いたら、確かに気になるのは分かるけど、それでも集まって来すぎじゃない!?
「……あぅ、そこまで効果が高いのならこの後食べるのは流石に勿体ない気がするのです……」
「……あはは、確かにそうかな」
「だなー。競争クエストで即座に回復する必要がある場合もあるかもしれないし、とっておきの時に置いておくか?」
「はっ!? 確かに今すぐには食べれなくても、活躍の場面はありそうなのさー! そうするのです!」
サヤもヨッシさんも頷いているから、今回は調理後にすぐ食べるのはなしだな。本音を言えばすぐに食べたい気もするけど、HP50%もの回復アイテム、それも分割可能となれば緊急の回復手段に活用出来る。
流石に戦闘中には食べれないけど、短い間隔で連戦になる状況にはこの回復量は役立つぞ。競争クエストを控えてる今、これは良い機会だな。……調理が成功すればだけど。
「さて、それじゃヨッシさん、ウナギ捌きを始めていこっか! 失敗しても効果が20%くらいに減って分割出来なくなるくらいだから、気軽にねー!」
「……あはは、頑張ります」
あー、流石にギャラリーが増えてきてるし、ヨッシさん的には緊張するか。てか、サヤとハーレさんはいつの間にか操作をやめちゃってるけど……今の状況だと、特訓に集中するのも厳しいもんな。
「……うん、やるよ! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」
おー、氷で出来た透き通った包丁と……氷の塊が2つの合計3つが生成されたね。あ、2つの氷はリアルの手の代わりにウナギを押さえる役割か?
「ケイさん、まな板代わりの岩の一部を釘みたいに尖らせた部分を作ってもらえる?」
「ほいよっと!」
えーと、ウナギを捌く動画とかは見た事あるから、これは確か目打ちってやつだな! ウナギが動かないように、頭に釘というか錐みたいなのを刺して固定するやつ。
見た事のある動画では上から打ち込んでたけど、今回は俺の岩で下から棘みたいに突き刺せるようにすればいいんだな。とりあえずそんなイメージで追加生成!
「ヨッシさん、こんな感じか?」
「うん、多分大丈夫! それじゃウナギを取り出して……えい!」
そしてヨッシさんがウナギをインベントリから取り出して、岩の棘に頭が突き刺さった! てか、まだウネウネとウナギが動いてるから生きてるんかい! うん、調理の難易度が高いという理由の1つが分かった気がする。
「これは少し冷やして動きを鈍らせた方がいいね。でも、ダメージは与えないようにそっと……」
慎重に、慎重に、ヨッシさんがウナギの表面を2つの氷の塊でなぞっていき、徐々にウナギの動きが鈍っていく。ここで力加減を間違えたら倒してしまって台無しにって事もありそうだなー。
「……それじゃいくよ。えっと、首の辺りから包丁を入れて、骨に沿って背中から捌いていって……あぁ!? 切りすぎて身が離れちゃった!?」
「ヨッシ、ファイトなのです!」
「頑張ってかな、ヨッシ!」
「……うん、まだ完全に失敗した訳じゃないし、片面は出来たからもう片面だね。骨を切り離していく要領で……あ、身が随分とボロボロになっちゃったけど、なんとか出来た」
確かになんだかあちこち変な感じに切れてるし、半分くらいは半身が繋がっていないけど、それでもウナギを捌いた形は保っている。……俺にやれと言われても出来る気はしないし、初めてかつゲーム内での特殊な条件でここまで出来たら十分過ぎるよな。
「ヨッシさん、お疲れ!」
「ううん、ケイさん、まだだよ。もう1匹いるし、今度はもっと上手く捌くから!」
「おぉ、ヨッシがやる気なのさー!」
「ヨッシ、ファイトかな!」
「そういう事ならヨッシさん、頑張れ!」
「うん! それじゃ2匹目、やっていくね!」
ヨッシさんから今度こそもっと上手く捌くという意気込みが伝わってくるね。やっぱり料理人を目指そうと決意したヨッシさん的には、こういうところの向上心は凄いんだろうな。
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