第1009話 ウナギを捕まえて


 ネス湖から河口に向かって下ってきたら、何故かウナギを獲る事になった。うん、何がどうしてそうなった? まぁまだ時間的には余裕はあるし、そこまで時間がかかるほどではないと思うけど。

 さて、経緯はともかくそういう事になったんだから、星空のカーペットを罠のすぐ近くまで移動させていこ。もし上手くウナギが獲れたら、ヨッシさんが捌くのに挑戦する事になりそうだよね。


「おーし、それじゃウナギが入ってるかどうかを見ていこうじゃねぇか! 『空中浮遊』!」

「おー! マイルさん、私達は何をすれば良いですか!?」

「……悪いが、小さな物理型の投擲のリスに出来る事は特にねぇ」

「がーん!?」


 あ、ハーレさんがショックを受けて膝をついて崩れ落ちた。そこまでショックか、ハーレさん。まぁ小動物で、物質的な操作系スキルを持ってないハーレさんじゃ厳しいのは事実だけどさ。


<『リヴィエール』から『リヴィエール・河口域』に移動しました>


 おっと、ウナギの罠に近づこうとしたらエリアの切り替えになったね。ふむ、河口域って事はここからが干潟エリアって認識で良さそうだな。

 てか、マイルさんは空飛ぶヒラメかー。空飛ぶ海の生物って色々見てきたけど、これはこれでまた独特な感じだね。


「こうなれば、私は大きくなるのです! えい!」

「あ、これから大型化を取るのかな?」

「そのつもりなのさー!」

「あはは、まぁそれも良いかもね?」


 そう言いながらリスの両手両足を思いっきり伸ばす感じにして、ハーレさんの動きが止まった。うん、その状況をしばらく続けてたら大型化も取れるよな。

 てか、実際の戦闘で使うかは分からないけど、大型化自体は持っておいても損はないか。場合によってはハーレさんが大型砲撃を使えるようになるかもしれないし。


「さて、他の3人には手伝ってもらうぜ! 本来の回収予定の連中が急用ってことで来れなぇしな……」

「あ、そうなのか? でも、なんでまたそんな状態に?」

「緊急クエストへの前乗りでやってきてる連中も多くてな。そっちの手配で大慌てってとこよ!」

「あー、そういう……」


 それに関しては俺らも含まれるからなんとも言えないなー。うん、その辺は考える事はみんな同じか。でも、それならむしろ早めにこうやって来たのは正解だったのかも。


「さーて、クマのサヤさんには流れていかないように抑えてる岩の除去を頼むぜ! 岩の操作でやると効率が悪いし、大型種族がいる時はその方が楽だからな!」

「そういう事なら任せてかな! 『自己強化』!」

「あ、周囲にある岩は撤去したら駄目だからな! それはウナギの逃亡防止用だ!」

「分かったかな!」


 へぇ、あの周りの岩ってウナギが逃げないようにする為のものなんだ。これ、リアルで実際にある罠を再現してる可能性もありそうだし、本当に色々とやってるもんだね。

 そしてサヤは星空のカーペットから降りていって、続々と竹の上に置かれていた岩を移動させていっている。これは確かに岩の操作でやると動かす岩の対象が違うから回数が多くなって面倒そうだし、サヤのクマの力なら簡単に持ち上げられる範囲だもんな。


「おーし、ここからは一気に行くぜ! ケイさん、積んでる竹のどっち側でも良いから岩を生成して塞いでくれるか? その上で全部持ち上げられるように、岩で全部の竹を一塊にしてくれ!」

「ほいよっと。とりあえずやってみるわ」


 えーと、要するにこの竹の中にウナギがいるかもしれないから、出てこれないようの片方は閉じてしまえばいいんだな。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 24/85(上限値使用:2): 魔力値 225/234

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 5/85(上限値使用:2)


 おっと、俺の行動値は移動の途中で全然回復してなかったから、ほぼ尽きちゃったね。まぁとりあえず今回使う分には足りたし、マイルさんに言われた通りに竹の片方を塞ぐように岩を生成していく。


「マイルさん、こんな感じか?」

「おう、そんな感じだ! それで竹の空いてる側が下になるように、岩の囲いの中の傾けてくれ!」

「えーと、こんな感じか?」


 言われた通りに傾けてみたら……おぉ!? 泥と水と一緒に色々と何かが出てきた!? ウネウネ動いてるのもいるし、一般生物を示す緑色のカーソルが出てるし、これは成功か!?


「おし、今回は獲れたみたいだな! 『並列制御』『土の操作』『海水の操作』!」

「あ、ここからまだ動けないのです! うー、今はいいやー!」


 ハーレさんが我慢し切れず普通に動いて罠の方を覗き込み、マイルさんが海水と土の混ざった泥水を除けていく。おー、そこそこなサイズのウナギが2匹ってとこか。うーん、確かに大量ではないね、これは。


「おぉ、ウナギが獲れたのさー! マイルさん、これをアイテム化するにはどうしたら良いですか!? 倒せばいいですか!?」

「おっと、普通に倒したら低確率でのアイテム化になるから駄目だぜ! えっと、ヨッシさん、氷か冷気の生成を頼めるかい? 氷属性で締めたら、高確率でアイテム化が出来るんだよ」

「要は氷締めでアイテム化になるって訳なんだね」

「そういう事だな! って事で、任せたぜ!」

「了解! 『アイスクリエイト』!」


 そうしてヨッシさんが生成した冷気で、ウネウネと元気に動いていた2匹のウナギの動きが鈍っていったね。ふむふむ、一般生物のウナギのアイテム化する手順ってこうなってるんだな。


「あ、私の方に2匹ともきたよ」

「ウナギは氷締めした人にいくからな! 大して獲れなかったし、『グリーズ・リベルテ』で持っていっていいぞー!」

「え、貰って良いの?」

「おう! それで競争クエストに備えてくれや!」

「そういう事なら、ありがたく貰うのです!」

「……あはは、競争クエストは頑張らないとね」

「うん、頑張らないとかな!」

「だな」


 俺らへの競争クエストの期待って、1回目に開催の時の事もあるだろうからね。期待されてるなら、その期待に応えられるように頑張っていきたいとこだ。俺らとしても競争クエストでは負けたくはないから、全力でやるまで!


「おっと、ケイさん、サヤさん、元の状態に戻すのは頼んだぜ!」

「あ、確かにそれはそうかな!」

「そういやそうだな。てか、マイルさん、この罠ってどういう仕組みなんだ?」


 ぶっちゃけただの竹……まぁ中の節の部分は取り除いて筒状にはなってるみたいだけど、これであっさり捕まえられるもんなんだ?


「それは単純にウナギの習性と、潮の満ち引きを利用してるだけだ! ここ、潮が満ちてる時は水の中になるし、ウナギは狭いとこに入っていく習性があるからな。その周りを岩で囲って、潮が引いたら逃げ道が無くなるって感じだぜ! ま、リアルである昔からの手法だがな!」

「へぇ、そういう感じなのか」


 ふむふむ、ウナギの習性と潮汐を利用した罠なんだ。リアルにもあるって事だけど、こういう罠ってよく考えるもんだね。昔からの手法らしいし、昔の人は偉大だなー。


「そういや『グリーズ・リベルテ』は、今日はなんでここに来てるんだ? あれか? 日替わりで場所の適正Lvが変わる可能性に賭けてきた感じか?」

「ま、そんなとこ。でも、メンバー全員が揃うまでは戦わないつもりだぞ」

「晩御飯の時間がズレてて、18時から戦ったら昨日は変な事になったのです!」

「あー、18時からのスタートダッシュ狙いじゃないのか! それでも今来てるのなら、PTでの順番待ちを真っ先に狙って、それまでは余興側で何かやる気って事だな!」

「うん、そんな感じかな!」

「それと、スキルの熟練度稼ぎもやる予定だぞ」

「おし、状況は把握した!」


 わざわざ初対面のマイルさんに目的を全て話す必要もないんだけど、ウナギを譲ってくれたし、良い人そうだし、ここで変に情報を伏せる必要もないだろ。

 それに灰のサファリ同盟の海原支部に所属してるなら、ここでの灰のサファリ同盟での活動を何か把握してるかもしれないしね。ぶっちゃけそれっぽい集団は、岩がゴロゴロ転がってる辺りに普通にいるしさ。


「そういう事ならここから東側の岩が大量に転がってる場所に行くと良いぜ! そこで灰のサファリ同盟のメンバーが集まってきてるから、参加していくといい! 確か今はまだ来てないけどモンスターズ・サバイバルも来るって話だったな!」

「お、マジで!? その情報は助かる!」

「いやいや、良いって事よ! そんじゃ俺は2ndでする事があるから、この辺で失礼するぜ! ウナギの確認を1人でやる予定が、あっという間に終わって助かったしな!」


 そういや他の人が急用で来れないとか言ってたし、流石にマイルさん1人では色々厳しかったんだろうね。結局俺らがウナギを2匹とも貰ってしまったけど、そういうとこのお礼もあるのかも?


「マイルさん、どこかで会ったらよろしくねー!」

「おう、こっちこそよろしくな!」


 そう言ってマイルさんはログアウトしていった。2ndって言ってたし、そっちの育成でもやるのかもなー。

 ウナギの捕獲にはそれほど時間はかからなかったし、まだ17時10分くらいだから時間にはまだ余裕がある。さっきマイルさんに教えてもらったように、岩がゴロゴロ転がってる東側の方に行ってみますか。


「ふっふっふ、それじゃウナギの白焼きを作るのです!」

「ハーレ、本来の目的から逸れてない?」

「私とサヤは、ウナギを焼くのに出番はないのさー!」

「……あはは、自慢げに言う事じゃない気がするかな?」

「だよなー。って、その言い方だと俺はウナギを焼く側か!?」

「ケイさんは岩の操作で、竈の用意なのさー!」

「あー、そういやそうなるのか……」


 うん、まぁウナギの白焼きが出来るになら食べてみたいとこではあるから、そこは反対しないけど……実際、どの程度の美味しさまでは再現されるんだろうな? ゲーム的な性質上、調味料がそんなになくてシンプルな味付けしか出来ないけど、そのくらいの味付けくらいまでが認可されてるってとこか?

 他の普通の人型のゲームで出てくる料理って、大体通販で買えるようになってる食べ物の試食データだしなー。表現を変えれば、宣伝用の広告データとも言う。そういうのって、大体ゲームのアイテムとして効果が高いものほど、広告費が高いって話だったっけ。


「あ、そういやヨッシさん、前に言ってたVR空間の拡張ってどうなったんだ?」

「ふっふっふ、ヨッシの料理用のVR空間なら、今日から解禁なのです! 明日には試作第1号を食べさせて貰う予定なのさー!」

「ハーレが言っちゃったけど、そんな感じだね。具体的には言ってなかったけど、私の家のVR空間で料理が作れるようになったから、夏休みになったら時間がある時に色々作ってみる予定」

「それは私も楽しみにしてるかな!」

「やっぱり料理系の拡張システムだったんだな」


 ある程度は予想してたけど、予想通りの結果だった。決して拡張システムは安くはないし、追加認証も必要だからただの趣味程度で追加するようなものじゃない。だから、これは本格的にヨッシさんは料理人の方向で進路を考え始めたんだろうね。


「誰かに食べてもらうのにも制限はあるから、自信作が出来た時にみんなを招待するね? みんなのフルダイブの制限時間も使うから、頻繁に長時間って訳にもいかないけどさ」

「ヨッシの料理、今から楽しみなのさー!」

「え、俺もか?」

「もうリアル側の姿で会ってるんだし、今更じゃないかな?」

「うん、そういう事だね」

「あー、それもそうか。んじゃ、その時を素直に楽しみにしとくわ」

「色々と頑張ってみるから、みんな、楽しみにしててね? まぁ流石に休日か、夏休みとか限定にはなるけどさ」


 ハーレさんが気に入っているヨッシさんの料理かー。顔こそ少しだけ知ってた程度で本格的な交流があるようになったのは割と最近だから、どんなものかは食べた事はないもんな。多分サヤは食べた事がありそうな気はするけど、まぁ俺も招待してくれるというのならそれを楽しみにしておこうっと。


 さて、気になってたヨッシさんのリアルでの状況が少し分かったし、そろそろ本題に戻していきますか。えーと……少し目を離した間に、岩があるほうの場所に人が増えてるな。


「とりあえず灰のサファリ同盟のとこに行って、PTでの順番待ちを登録して、サヤとハーレさんのスキルの熟練度稼ぎをやっていくか」

「その後、ウナギの白焼きなのさー!」

「ハーレ、随分そこにこだわるね?」

「何度かウナギには遭遇してるけど、一般生物じゃなかったり、デンキウナギだったりで残念な結果だったから、今猛烈に食べたい欲があるのです!」

「そういえば、確かに初めてまともに一般生物のウナギが手に入ったかな?」

「まぁ、確かにそうだけど……正直、ウナギを捌けるかは自信ないよ? 動画で手順を見た事があるくらいだからね?」

「それでもヨッシなら出来るのさー!」

「その期待は今はちょっと重いけど……やるだけやってみよっか。ただし、失敗しても勘弁してね?」

「はーい!」


 ハーレさんはヨッシさんに対してかなり無茶な期待をしてくるもんだ。リアルでさえした事がないウナギの捌きを、この特殊なゲームでいきなりやれって結構な無茶振りだよね。

 ヨッシさんが捌くとしたら、氷で生成した包丁を使ってやる感じになるんだろうか? うーん、どんなものか興味深いとこではあるなー。ま、失敗してもリスクがある訳じゃないし、気楽にやってほしいところ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る