第1001話 不動種の他には


 養分吸収で行動値の回復を早める為に、魚がいないかどうかを探し中。さっきの戦闘中に済ませておけばよかったけど、完全に忘れてたからなー。

 とりあえず回復を早める為なのに獲物察知で行動値を使っても仕方ないし、周囲の木が大体不動種みたいだから姿が見えるほど近くじゃないと意味ないので使用は却下。


「魚はいるかな?」

「地底湖があるみたいだし、木の分身体で作られた魚がいるなら多分いるとは思うけど……」

「でも、海水が平気だったのがビックリしたのさー!」

「それは確かになー」


 木の分身体って根本的に木のはずなのに、まさかの弱点の海水に耐えるとは思わなかった。分身体の方は、種族的な得意な部分や苦手な部分まで再現してるって事なんだろうね。


「ヨッシ、アルさん! 海水と淡水、両方大丈夫な魚ってどんなのがいますか!? 私が思いついたのは鮭とウナギー!」

「……それ以外になると、ボラ、ハゼ、スズキとかそのくらいか?」

「クロダイとか鮎もそうだよね? さっきは多分鮎だったと思うしさ」

「あぁ、確かにそうだったな」

「おー、意外といるのです!」

「まぁリアル基準だから、どこまで当てになるかは分からんがな」

「適応進化済みの個体を再現とかだったら、何でもありだしなー」

「そうなったら気にし過ぎてもどうしようもないですね!」

「って事で、気楽にいくぞー」


 冗談抜きで適応進化まで含められたら、どうしようもない。ぶっちゃけ大きくサイズでも変わらない限りは、魚の種類って大体は見た目が違うだけで性能は似たようなもんだしね。まぁ一部にはあからさまに違うのもいるにはいるけど、敵として見るなら属性や特性の方が重要だな。


「あ、そういやさっきは識別しないままだったけど、あの分身体って識別出来るのか?」

「それは無理だと聞いた覚えがあるぞ」

「識別出来ないのかな!?」

「まぁプレイヤーが使う場合は、本人に聞けば良いだけだからな」

「……そりゃそうだ。あ、桜花さんって魚の分身体は出せるのか?」

「どうだろうな? 今のところ見た事はないが……」

「あー、そうなのか」


 まぁ陸地で魚の分身体を使うメリット自体がそもそも無いもんな。んー、陸地に適応している魚でなければ根本的に意味がないし、その辺はどうなってるんだろ? 今度時間がある時に桜花さんに聞いてみるか。


 おっと、そうして雑談をしてる間に湖の側まで移動終了! ネス湖の地下にある湖って、ホント謎空間だよなー。って、なんか上から音がしたけど、何事!?


「あ、上から水が流れ込んで来てるのか?」

「おぉ!? なんか凄い滝みたいなのです!」

「あれって、誰かがコケボウズを破壊して入り口を作ったのかな?」

「ほう、内側から見るとああいう感じなのか」

「誰かが入ってきたら一目瞭然なんだね」

「そうみたいですね! あ、無所属のソロの龍の人みたいです!」

「黒い龍って事は闇属性? デカいし、成熟体の人か?」


 急に音がして盛大に水が流れ込んできてびっくりしたけど、この湖底森への入り口が出来た時ってこんな風になるんだね。あー、地面を水浸しにして水に波紋が立ってるし、ああいう水の流入の仕方だから、ここのエリア全体が水浸しになってるのか。

 てか、成熟体のソロの人がここに来るって事は、ここにも成熟体がいたりするのかな? うーん、その辺は分からん! 無所属の人となると尚更に。


「まぁいいや、とりあえず魚を探すぞー!」

「そうするのさー!」

「……今ので少し気になったんだけど、ネス湖の魚がここに落ちてきてる可能性はないかな?」

「あ、それはあるかも? サヤ、ナイス! よし、それを探そう!」

「え、決断が早いかな!? 自分で言い出しておいてなんだけど、落ちた時に死んでる可能性もあるかな!?」

「陸地の上なら多分その可能性もあるけど、湖の上ならその可能性は低くなる!」

「あ、確かにそれはそうかな?」

「それは確認すればいいだけなのです! えいや!」

「そういう事だな! んじゃ行きますか!」

「あ、待ってかな!」


 ハーレさんが思いっきり湖に飛び込んだから、俺も追いかけて飛び込む! 底は見えなかったけど、不動種がメインならそこまでの危険はないはず。

 バシャっと大きな水音を立てて着水! あ、思った以上に深そうな感じ……って、ちょっと待てーい! 水の中で跳ねて、即座に陸側に退避!


「いきなり焦るわ!」

「わっぷ! ビックリしたのさー!?」


 とりあえず陸地まで飛び跳ねて移動完了! ハーレさんも慌てて水面に顔を出して、陸地の方まで泳いできた。いや、今のは焦るよな? てか、これは大丈夫なのか……?


「え、ケイ、ハーレ、慌ててどうしたのかな!?」

「おい、2人ともどうした?」

「……何かいたの?」

「何かあったんですか!?」


 あ、見てないみんなには意味不明な反応か。いや、でも今のを見たら絶対に驚くって

……。でもその割には……あれ? なんかおかしくね?


「ここの湖の底にアロワナがいたのさー!?」

「え、アロワナがいたのかな!?」

「おい、それって大丈夫かよ!?」

「討伐されたんじゃなくて、ここにいたの?」

「落ちてきてたから……上にはいなかったんですか?」


 ちょ、みんなして大慌てになってるよ! いや、まぁあのアロワナなら大慌てしなきゃいけない状況ではあるけども、それにしては違和感がある。


「ハーレさん、ちょい待ち! 俺も慌てたから人の事は言えないけど、多分別個体だ」

「え、でもケイさん、光属性っぽい白色だったよ!?」

「でも光ってはなかっただろ。発光を使ってないだけって可能性もあるにはあるけど……」

「あっ、確かにそうなのです!?」


 違和感はそこだ。今までアロワナに遭遇した時は常に光っていた。光属性では体色が淡い感じの白色にはなるけど、光っていない状態のアロワナを見た事がない。


「……というか、よく思い出してみたらあのアロワナよりも単純に小さくなかったか?」

「……そう言われたらそんな気がしてきたのです! ちょっともう一度見てきます!」

「あ、ハーレ!?」

「ちょ、ハーレさん、まだ話が途中だぞ!? 別個体の成熟体の可能性もあるからな!?」

「っ!? それを先に言ってほしいのさー!?」


 あ、飛び込んだハーレさんが大慌てで戻ってきた。うん、今のは話の途中で飛び込んだハーレさんが悪い。小さかったからって成熟体ではないなんて保証はどこにもないしね。


「で、ハーレさん、見てきた様子はどうだった?」

「よく見てみたら、あのアロワナよりも小さかったから、別個体なのは確定ー! でも、成熟体か未成体かは分からないのです!」

「あー、やっぱりか。みんな、お騒がせしましたー!」

「って、おい! ケイ、それはなんの解決にもなってねぇぞ? どうすんだよ、そのアロワナ?」

「どうするって言っても……確定させて成熟体だったら襲われるんだし、スルーしかなくね?」

「……ケイ、PTを抜けて襲われるかどうか確かめるのでどうだ?」

「ちょ!? 死ぬのを覚悟で確かめろって!?」


 あ、でもそれもありか? 死んでもアルの木に設定してるリスポーン位置で復活してしまえばいいだけだし、PTを抜ければ襲われるのは俺だけで済む。逆に普通の未成体であれば、活きのいい養分吸収に使える敵になるか。


「まぁ今のは冗――」

「よし、それを採用で!」

「……冗談だったんだが、本気か?」

「まぁ死んだら死んだで上等! って事で、一旦PTから抜ける!」


<PTから脱退しました>


 という事で、一時的にPTから離脱! PT会話が使えなくなったからアルとヨッシさんとフーリエさんの声は聞こえなくなったけど、サヤとハーレさんがすぐ近くにいるから問題なし。


「ケイさん、本気でやるのー?」

「おう、そのつもりだぞー。もし死んだらアルのとこでリスポーンするから、その時はアルから連絡してもらってくれー」

「アル、ケイは本気でやるみたい。うん、死んだらアルのとこでリスポーンするって言ってるかな。うん、伝えとくね」

「サヤ、アルは何だって?」

「脱線し過ぎだって言ってるかな」

「……一応本来の目的も兼ねてるんだけどなー」


 一応他の魚もいるにはいたけど、どう考えてもあのアロワナの存在感が凄くて……。成熟体だとしたら変に近くで魚も獲るのも危険だから、リスク承知で確認した方がいいもんな。

 何よりもこのアロワナが未成体なら、捕獲して戻れば俺とフーリエさんの回復用に使える! いやまぁ不動種相手に使えば良い話ではあるんだけど……って、無茶する程の意味はない気がしてきた。

 まぁいいや、やると言った以上はやろう。単純にこのアロワナが成熟体か未成体なのかは気になるしね。


「さてと、それじゃ行ってくる! サヤとハーレさんは少し離れといてくれ」

「はーい!」

「分かったかな!」


 サヤとハーレさんが湖の端から少し距離を取ったし……てか、ここってずっと地面も水浸しになってるけど、どこまでを湖って呼ぶのが正解なんだ? うーん、目の前の不明確に深くなってる部分から?

 あー、まぁそれはどっちでもいいや。とりあえず改めて湖の中へと飛び込んでいくのみ!


 えーと、アロワナは……うん、すぐ目の前にいた。っていうか、俺の方を見てきてるな、こいつ。でも襲ってくる気配は無しと。そういや発見報酬も無しか。

 確かめるのに識別や獲物察知を使うのは勿体無い気もするし、ここはスクショでも撮ってみるか。成熟体ならそれで反応を示すはず。という事で、スクショを撮影! さて、これでどうだ?


「……特に変化は無しって事は、成熟体じゃないっぽいな」


 黒い王冠がある訳でもないから、フィールドボスという可能性も無し。いくらなんでも成長体って事はないと思うから、Lvは不明だけど未成体で間違いないだろ。それなら通常スキルで即死の心配はいらないはず。


「それじゃ捕獲していきますか!」


 脅威となる成熟体ではないのは分かったし、このアロワナは養分吸収用に持ち帰り決定! これだけデカい魚だし、不動種との戦闘中に放っておいてすぐに死ぬって事はないだろ。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 39/86 : 魔力値 229/232

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 36/86


 アロワナの周囲にある天然の水を押し除けるようにして魔法産の水を生成し、それを操作して閉じ込める! 水の表面は逃げられないように反発力強めに設定!


「おっしゃ、捕獲成功!」


 よしよし、成熟体のアロワナに殺される事もなく、無事に養分吸収用の魚を確保出来た。ついでだからアロワナを包み込んでる水球の上に乗って移動していこうっと!


「あ、ケイ! 無事だったかな!」

「おー! 普通に未成体のアロワナだったみたいなのさー!」

「見ての通り、無事に捕獲成功だ! サヤかハーレさん、PTに戻してくれー!」

「あ、うん、分かったかな!」


 という事で、サヤがPTの申請をしてくれた。そういや今日の夜に合流してPTを組んだ時のPTリーダーはサヤだったっけ。

 てか、いつの間にかハーレさんがサヤのクマの頭の上に戻ってたよ。まぁ仲が良さそうで何よりだなー。


<サヤ様のPTに加入しました>


 これで無事にPTへの復帰も完了だから、アロワナを連れて戻るのみ! アルの消耗が1番少ないはずだし、戻ったらアルにアロワナを預けて養分吸収を使おうっと。


「ケイさん、無事だったんですね!」

「おうよ、フーリエさん。アル、これから戻るから、戻ったら少しの間アロワナを預かってくれー!」

「あー、まぁ俺はそんなに消耗してないから別に良いぞ。でも、戦闘中はどうすんだ?」

「んー、とりあえず放置? もし逃げられたら仕方ないって事で諦める!」

「……随分と適当だが、まぁ間に合わせ程度のもんだし別に良いか」

「そういう――」


 なんか背後で唐突に盛大な水柱が上がってるけど何事!? って、さっき入ってきてたソロの龍の人が、湖に向かって何かをした!? ……水流の操作か? いや、でもなんか違う気がする。


「サヤ、ハーレさん! なんだか知らないけど、すぐにここから離れるぞ!」

「あの龍の人、何をしてるのかな!?」

「さっきはそこまで見てなかったのさー!?」

「おい、なんか黒い球に水が吸い込まれてる様子が見えるが、何があった!?」

「あれって、もしかして闇魔法!?」

「使ってるのはあの無所属の龍の人ですか!?」


 ちょ、黒い球って何!? 位置的に俺らからはそれっぽいのが見えてない感じか? てか、なんでいきなりこんな事になってんの!? あの無所属の黒い龍の人、何が目的なんだよ! ともかく影響を受けないように、大急ぎでアル達のとこまで戻れー!


「あー!? 角度が変わったら見えたのです!」

「ハーレさん、どうした!?」

「光ってるアロワナが、黒い球に水と一緒に引っ張り上げられてるのさー!」

「ちょっと待て!? 他にもアロワナがいて、光ってんの!?」

「あ、アロワナが光を溜め始めたのさー!」

「後ろの様子がすごい気になるけど、まずは大急ぎでアル達のとこまで戻るかな!」

「だな! 巻き込まれたら堪らん!」


 聞いた感じではどう考えても完全に成熟体同士の戦闘が開始になってるし、流れ弾とかで死んでたまるかー! てか、捕獲したアロワナとは別に成熟体のアロワナまでいるとか想定外にもほどがある!

 でも、どっちかしかいないなんて決まってないし、この可能性を考えてなかった俺の落ち度か! ……うん、行動値をケチって獲物察知を使わない選択にして良かった。あとスクショに成熟体のアロワナが写らなくて本当に良かった!


「てか、少しでも条件がズレてたら俺は本当に殺されてたじゃん!?」

「まぁ、状況的にそういう事になるな」

「アロワナと龍の戦い、どうなるんでしょうか?」

「今は見てる余裕無し!」


 俺もそれは気になるけど、今は余波で攻撃を受けない距離に移動するのが先決! アル達のいる場所は、話してる感じ安全そうだしそこまで急げー! あー、サヤのクマの頭の上に乗って様子を見てるハーレさんが地味に羨ましいぞ!?

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