第1000話 不動種の戦い方


 水分吸収さえ妨害してしまえば、比較的あっさりと不動種を倒す事は可能だった。さて、水流の操作を解除……しなくても思いっきり時間切れで解除になったなー。魔法産の砂は消滅して、水は地面に落ちていった。

 砂の操作と水流の操作のコンボは、あのオオサンショウウオが使っていたウォーターカッター程の鋭利さはなくても、それでも使う行動値が多い分だけの威力は発揮してくれたね。しばらく同じ水は操作出来ないけど、まぁ他の場所の水なら問題ないだろ。そもそも必要なら生成すれば良いし。


「行動値の半分以上は使っちゃったし、ちょっと休憩かな!」

「完封はしたけど、行動値の消耗が激しいのです!」

「あー、それは確かに……」


 俺とサヤとハーレさんは盛大に応用スキルを使ったもんな。うーん、1体を倒す度に休憩を挟むのがこういう特殊なエリアでのパターンだったけど、アルとヨッシさんとフーリエさんは割とまだまだ余裕そうだ。

 この感じなら周囲の空きもあるし、交代で回復しながらでもいける? いや、でもあんまり油断しきって戦うのも危険かも? うーん、木に対する弱点を3人とも持ってるから無茶でもない? 悩ましいとこだね、これ。


「俺とヨッシさんとフーリエさんは余裕があるだろうから、3人でやってみるか?」

「はい! ちょっとやってみたいです!」

「私もそれで良いけど、アルさん、どういう感じでやるの?」

「……そうだな。魔法産の海水で包んで、海水の中にヨッシさんとフーリエさんが入って、毒を直接流し込むってのでどうだ?」

「フーリエさんが海水への適応が出来るならいけそうだけど、海水への適応はすぐに出来る? 海で使い切ってたりはしない?」

「あ、はい! 海水への適応の種を持ってるので、そこは大丈夫です!」

「よし、それならいけそうだな」


 なんだか普通に3人でなんとか出来そうな雰囲気ー! まぁ俺やサヤやハーレさんは行動値が尽きている訳じゃないから、危なそうなら咄嗟に動く事くらいは出来るか。


「ケイ、サヤ、ハーレさん、そういう事だがいいか?」

「俺はいいけど、無茶はするなよー。てか、どの不動種を狙うんだ?」

「右側にある杉の木にしようかと思ってる。海水で包んじまえば、花粉も飛ばせんだろ」

「あー、確かにそれはあるかもな」


 あの杉の花粉は地味に、本当に地味に厄介な状態異常っぽいしね。動物系種族の全般に効く花粉症って、冗談抜きで面倒。まぁ洗い流せばどうにかなるなら、元々の発生源を海水で包んでしまえば拡散もしないか。


「木の分身体はまだ見てないし、いざって時は乱入かな!」

「そういうのが出てきたら私達も戦うのさー!」

「あ、それもそうだね。うん、その時はお願い」

「お願いします!」

「おう、その辺は頼んだ。ぶっちゃけその辺の動きも確認はしておきたいからな」

「あー、なるほど、アルはそういう狙いか」

「そういう事だな」


 ふむふむ、さっきは完封しちゃって不動種の固有の動きとかは全然見てないもんな。その辺を実際に見る為に、ちょっと敵に余力がある状態で試そうとしてる訳だ。うん、不動種が使う分身体には興味は興味がある。


「それじゃ、俺らは少し離れたところで見とくかー」

「うん、そうするかな! って、ハーレ!?」

「ふっふっふ、少しの間はサヤの頭の上にいるのです!」

「もう……別に良いけど、そういうのは言ってからにしてかな?」

「はーい!」


 サヤのクマの頭の上にチョコンと座っているハーレさんのリスという光景になった。なんだか微笑ましい光景は良いとして、とりあえずアル達が戦うのに邪魔にならない程度に離れておこうっと。

 まぁさっきの戦法を聞く限りハーレさんはクジラの背中の木にある巣にいても問題はなさそうな気はするけど、その辺は気分の問題なんだろうね。とにかく行動値の回復は重要だから、基本的には大人しくしていようっと。


「それじゃヨッシさん、フーリエさん、始めるぞ! 『シーウォータークリエイト』『海水の操作』!」

「了解! 『トキシシティ・ブースト』『魔力集中』『溶解毒生成』『乱れ針』!」

「ヨッシさん、ありがとうございます! 『溶解毒生成』『猛毒牙』!」

「いえいえ、どういたしまして!」


 アルが生成した大量の海水が、見事に杉全体が地面も含めて海水に覆われたね。その中にフーリエさんとヨッシさんが飛び込んで、それぞれに毒を生成して杉の木へと襲いかかっていく。

 おー、ヨッシさんが杉の不動種にトキシシティ・ブーストを使って毒への耐性を思いっきり下げたか。うん、これは凶悪かも。


「おぉ!? 思った以上にHPが減っていくのです!?」

「溶解毒の効果で、水分吸収でのHP回復も妨害出来てる感じかな?」

「そんな感じっぽいなー。トキシシティ・ブーストの効果がある上に、弱点の3連撃は効果的か」


 しかも不動種で動けないという部分が良い感じに作用してる感じ。動けたらアルの海水から逃げるだろうけど、不動種だからこそそれは出来ない。……まぁそこまで甘くもないとは思うけど。


「あっ!? ヨッシ、下から何か出てくるのさー!」

「木の分身体が……え、木製の魚!?」

「地味に海水の中でも普通に動いでますよ!?」

「ちょ、そんなのありか!?」

「すぐに根を切り離すね! 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「ヨッシ、ナイスかな!」


 ふぅ、すぐにヨッシさんが生成した氷のナイフで木製の魚に繋がっている木の根を断ち切ったけど、まさかここで魚が出てくるとは思わなかった。……ここの水場、魚も出てくるのか?

 いやでも、普通に海水に耐えてたし……今の魚は木製だったから種類が分からないけど、海水でも淡水でも生きられる種類? うーん、そういう事もあるのか。


「おわっ!? ちっ、枝を揺らしてきて操作を乱してくるのか!」

「アルさん、大丈夫そう?」

「あぁ、何度も繰り返されたら操作時間も削られるが、この程度なら問題ない。ヨッシさん、また魚が出たぞ!」

「……これ、何の魚だろ? 木製で分かりにくいけど、多分鮎……? フーリエさん、私が魚の方は受け持つから、毒での攻撃を続けて!」

「はい! 『溶解毒生成』『猛毒牙』!」

「私はこれで!」


 フーリエさんが毒での攻撃を続行しつつ、ヨッシさんが生成した氷のナイフで木の分身体の魚の対処か。毒での攻撃役が減った分だけHPの減り方が悪くなったけど……確実にHPを削る量の方が上ではある。

 でも、この状況は時間がかかりそうになってきた。うーん、弱点狙いでも3人で相手をすると時間がかかりそうな雰囲気だ。あ、ヨッシさんが根を切り離したら、新たに魚が2体に増えた。……増えるのか、これ。


「え、増えるの!? それなら追加生成で!」

「ヨッシさん、大丈夫ですか!? 『溶解毒生成』『猛毒牙』! ……流石にこの毒の連発は行動値が厳しいですね」

「……あはは、確かにそうかも。『アイスクリエイト』『氷の操作』!」


 流石に木の分身体が複数出てきた上に、弱点のはずの海水の中でも平気な魚とかは想定してなかったし、ちょっと倒すのは厳しそう。今は魚2体だけど、場合によってはPT人数分くらいまで増えるんじゃないか?

 それに溶解毒や神経毒は応用スキルの毒だから、連発し続けるのもキツいそうだね。さて、ただ見てるのはここまでだな。


「アル、俺らも混ざるけどいいか?」

「あぁ、見込みが甘かったみたいだし頼む!」

「ほいよっと! サヤ、すぐに海水に適応して俺と分身体の魚の排除! ヨッシさんは一旦退避!」

「分かったかな! 『ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『強爪撃・風』!」

「了解!」


 あ、サヤは海水の中に入る前に火から風に切り替えたか。まぁ海水の中だと火は役立たずって話だし、ここで風に切り替えて速度を上げるのはありだよね。

 さてと、この木の分身体自体の対処は簡単みたいだから、俺も海水の中の飛び込んで対処していきますか。木製の魚自体の動きは早いから、そこを捉えるんじゃなくて繋がってる根を狙う!


<行動値を5消費して『鋏鋭断Lv5』を発動します>  行動値 30/86


 あ、魔力集中を使ってないけど、これで根は断ち切れるか? ふむ、どの程度の威力があれば切れるかも判断材料にしたいから、このまま挟んでしまえ!

 おっ、普通に断ち切れたし、魔力集中なしでもいけるくらいか。うん、思ったよりは脆かった。


「って、また魚が増えてくるんかい! フーリエさん、行動値に余裕は!?」

「すみません、もう厳しいです!」

「あー、まぁあれだけ毒を使ってたらな。フーリエさん、養分吸収を使ってから一旦下がっってくれ。ハーレさん、フーリエさんが少し回復するまでの護衛を任せた!」

「了解です!」

「『養分吸収』! ハーレさん、少しの間お願いします」

「ふっふっふ、任せてなのさー!」


 これでフーリエさんの行動値が少しは回復出来るはず。ハーレさんは海水の中だとどうしても投擲の威力が下がるから、今回はこれで良いだろう。さてと、俺も養分吸収を使っておきますかね!

 って、また魚が出てきたし、今度は3体かよ! あー、倒せば倒すほど数が増えていく感じか。……魚なのはアルの海水に合わせてきてるんだろうな。


「ケイ、どうするかな?」

「あー、サヤは海水の中でいつも通り動ける?」

「……どうしても少し動きは鈍るけど、問題はないかな?」

「ほいよっと。それじゃ……アル、海水の操作の時間はどうだ!?」

「まだいけるが、余裕はそれほどねぇぞ! 魚が思った以上に海水を乱しまくって削ってきやがる」

「……なるほどね」


 これがこの杉の不動種の海水への対応策って事か。1体だからって少し甘く見過ぎてたっぽいね。ここから仕留めるにしても、海水と毒での攻撃は途切らせるのは無し。幸い杉の不動種の残りHPは3割くらいまで減ってるから、やり方次第ではどうにかなるか。


「ハーレさん、爆散投擲Lv3は使えるか?」

「余裕はないけど、可能なのさー!」

「それじゃチャージを開始しといてくれ! アル、合図をしたら海水を解除!」

「はーい! 『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』『アースクリエイト』『爆散投擲・風』!」

「おうよ! それまで保たせればいいんだな!」

「そういう事! サヤとヨッシさんは連携して、毒と毒の影響のある場所の集中攻撃!」

「了解! もう余裕はないけどいくよ、サヤ! 『溶解毒生成』『毒針』!」

「いくかな! 『爪刃双閃舞・風』!」


 よし、サヤは出し惜しみなしでLv2で発動してるし、これで杉の不動種の本体はどうにかなる。俺は邪魔な魚の排除に動きますか!

 海水の中を跳ねながら、魚に繋がっている根をロブスターのハサミで挟んでいく。ふっふっふ、根の動きは甘過ぎる! よし、3体の魚に繋がる根は挟めたから、切断していくのみ!


<行動値を5消費して『鋏鋭断Lv5』を発動します>  行動値 25/86


 右のハサミで挟んだ根が2本だから、そっちはまとめて切断! うん、普通にこれで断ち切れた。よし、次!


<行動値を5消費して『鋏鋭断Lv5』を発動します>  行動値 20/86


 これで残り1本の根も断ち切った! って、ちょっと待てやー!? 今度は4体、すぐに出現してくるのかよ!?


「ケイ、もう海水が保たないぞ!?」

「だー! 仕方ない、一度解除で――」

「チャージが完了したから問題ないのです! アルさん、海水を解除してなのさー!」

「良いタイミングだな、おい! おし、解除だ!」


 お、海水が消滅した事で新たに現れた木製の魚4体は地面の上でピチピチ跳ねてるね。なるほど、こういう無効化の仕方もありか。

 無理にアルに海水を維持してもらうよりは、あえて解除して、こうやって無力化した方が良かったのかもね。うん、次の1戦の時に参考にしようっと。


「ヨッシ、サヤ、横に避けてー!」

「分かったかな!」

「了解!」

「いっけー!」


 ハーレさんの狙ったのは、サヤとヨッシさんが集中攻撃をしていた場所。そこに緑色を帯びた眩い銀光を放つ、魔法で生成された小石が直撃し爆散していった。

 うっわ、溶解毒で脆くなった上に斬り刻まされボロボロになってた所に強烈な威力が炸裂して、杉の木がへし折れてHPが全てなくなりポリゴンとなって砕け散っていったよ。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 そして無事に大量の経験値と、進化ポイントをゲット。あー、なんだかんだで結局全員で倒すしかなかったかー。不動種、思った以上に強いな。


「とりあえずお疲れ様!」

「もう行動値が残ってないのさー!」

「……こりゃ、1戦ずつ休憩をしていった方が良さそうな感じだな」

「そんな気がしますね」

「でも、2戦連続で倒す事は出来たかな!」

「木の分身体も見れたしね。……まさか魚だとは思わなかったけど」

「だよなー」


 俺としても普通にオオカミとかクマとか普通に陸地にいそうな種族の分身体が出てくるかと思ってたけど、まさかの魚だったもんな。でもまぁ、海水を使って攻め立てる場合の注意点が分かったって事で……。


「あっ……」

「どうした、ケイ?」

「……俺も養分吸収で行動値の回復を早めようと思ってたのに、完全に忘れてた!?」

「あはは、まぁそういう事もあるかな?」

「ケイさん、近くの水場に魚がいないかのチェックに行くのさー!」

「分身体に魚がいたなら、ここの水場にも魚がいるかもしれませんしね!」

「あー、それは確かに……」


 ふむ、今いる場所の水浸しとは違ってちゃんとした湖っぽいのもあったもんな。そこで敵を捕まえてきて、養分吸収で行動値を回復させるのもありか。


「それならちょっと捕獲しに行ってくる」

「ケイさん、私も行きたいのです!」

「あ、それなら私も行くかな!」

「私はちょっと休憩してたいかも」

「僕もです……」

「俺が一番余力があるから、ここで護衛も兼ねて待機しとくぜ」


 確かに一番消耗してないアルが残ってくれてた方が安心ではあるし、今は植わってる状態だし、ここは任せようっと。ヨッシさんとフーリエさんは盛大に毒を使いまくってたから、結構消耗してるみたいだしね。


「それじゃちょっと行ってくるから、アル達は休憩しててくれ!」

「おうよ! 間違っても成熟体の敵とか連れて来るなよ?」

「……そもそも、ここに成熟体っているのかな?」

「どうなんでしょう?」

「言ってみただけだから、知らん!」

「知らずに言ったのかよ、アル!?」


 いや、でも知らないのであればいるという可能性はあるから、そこは本当に要注意しよう。そういや死んだ場合って、経験値の結晶の効果ってどうなるんだろ? まさか効果が切れるとかはないよね!?

 あー、でも根本的に全滅する可能性が高いから、時間のロス的にも遭遇は避けたい。うん、サヤとヨッシさんに目視で魚を探してもらうつもりでいこうっと。

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