第999話 湖底森へ


<『ネス湖・流水洞』から『湖底森』に移動しました>


 長かった下り坂を降り切ったら、エリアの切り替えになった。やっぱり目的地の『湖底森』に繋がっていたか!

 それにしても……地下とは思えない明るさだな。実が生ってる木が発光をしてるみたいだし、岸壁にはヒカリゴケも植わってるっぽい。それと普通の湖はあるけど、全体的に僅かに水浸しにもなってる感じだな。


 とりあえずもう明かりは不要っぽいから、懐中電灯モドキは解除しとこ。地味に上限値の使用量が多いからなー。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 76/76 → 76/80(上限値使用:4)

<『発光Lv4』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 76/80 → 76/86


 よし、これで解除完了っと。エリア的に結構明るさは確保されてるし、無くても問題はなさそうだ。うーん、なんというかギミックありのエリアって自然さは無視して、ゲーム的な雰囲気が全面的に出てるよね。まぁそれが悪い訳じゃないけど。


「それにしても地下とは思えない光景だなー」

「確かにこれなら『湖底森』か。雰囲気は少し独特だが、確実に森だしな」

「あ、戦闘をしてる人もいますね!」

「私達と同じ狙いの人もいる感じかな?」

「でも数は多くないみたいだし、Lv上げには充分なスペースはありそうだよね」

「だなー。とりあえずどこか戦う場所を決めて少し戦闘をしてみますか!」

「そうするのさー!」

「おし、まずは良さそうな場所を見つけるか」


 という事でアルに乗って移動を再開。ここは不動種がメインだとは聞いたけど、具体的にどう戦う感じになるんだろう? てか、ここは戦う場所が明確に分かれてる感じが全然しないんだけど、どういう範囲で戦えば良いんだ?

 うーん、アルは来るのは初めてって言ってたけど、戦う場所を探してるならエリアの特徴は把握してそうだよな。他に戦ってるPTの様子を見るって手段もあるにはあるけど、盗み見してる感じは出来れば遠慮はしたいから、アルが知っててくれると助かる!


「アル、ここでの戦い方を分かる範囲で教えてくれー!」

「おうよ。ここでは一度に戦うのは不動種1体がメインだと聞いている」

「え、敵は不動種が1体だけなのかな?」

「基本的にはそうなるそうだ。水分吸収での回復が多く、耐久性が高くて倒しにくいようになってるらしい」

「水分吸収を使うのには、水が豊富で良さそうなのさー!」

「そういえば、地味に不動種と戦うのは久しぶりだよね?」

「……あー、エリア移動の妨害の不動桜の時ぶり?」


 それ以外にまともに不動種の敵って見た覚えが殆どないような気がする。あ、成熟体にはなるけど砂時計の洞にいた光る巨大なサボテンは不動種だったっけ。

 敵ではない群集拠点種のエンや群集支援種のミズキとかならよく見るからあんまり気にしてなかったけど、そういや敵としての不動種って凄い少ないんだな。……そう考えたら、ここの敵が不動種だらけなのは相当特殊か。


「……なんだか普通の敵より強い気がしますね」

「フーリエさん、その予感は正解だ。木で分身体を作って戦ってくるそうだから、単純な木だけと考えない方がいいって話だ」

「あ、そうきたか!」


 あれだよな、リスポーン位置設定として巣を作った種族の姿の分身体を作れる『樹の分け身』って不動種の固有スキルだったはず。それを活用して戦ってくるとはね。


「それって、もしかして不動種以外の巣を作ってる敵もいますか!?」

「……うろ覚えだが、確か増援にくる場合があるんだったか? すまん、ここは自信がない」

「可能性があるのが分かれば十分なのさー! その場合は私の出番なのです!」

「それか、俺が定期的に獲物察知を使うかだな」

「定期的にケイさんが獲物察知を使って、その合間はハーレの危機察知で対応する感じで良いんじゃない?」

「それが良さそうかな?」

「僕はそれで良いと思います」


 まぁ基本方針としてはそれで問題なさそうだ。分身体については見た目で木だと分かるし、根で繋がっているからそこを切り離せばどうとでもなる。

 水分吸収で回復されるなら……流石にここで水分を無くすのは難しそうだなー。地面の表面の水ならどうとでも出来るけど、根を張ってる地面の中の水分まではどうしようもない。ん? いや、そうでもないか? まぁその辺は実際に戦いながら試してみよう。


「よし、それじゃその方向でやるとして……アル、最後に1つだけ! 倒す範囲はどう決めたらいい?」

「それなら1体倒したら、次のは早い者勝ちって感じだったらしいぞ。ちなみに倒した不動種は、ある程度時間が経てば残滓として目の前でも復活するそうだ」

「あ、そうなんだ。……今は取り合いの心配はいらなさそうだな」

「ま、空いててラッキーってとこだな」


 ふむふむ、目に見える形で敵が復活してくるのか。でも、それは確定で残滓になって、当分は瘴気強化種には戻らないんだろうね。経験値的には残滓よりも瘴気強化種の方がいいありがたいからなー。


「さて、周囲にPTがいなさそうなのはこの辺だな」


 適当に良さそうな場所を探して飛んでくれていたアルだけど、どうやら良い場所があったっぽい。ふむふむ、ザッと見てはいたけど不動種同士は結構間隔は空いてて、極端にあちこちに動き回りまくらなければ、他の不動種と同時に戦闘になる事はなさそうだ。

 それにしても蜜柑の木やら、杉の木やら、樫の木やら、色々な種類の不動種が植わってるなー。でもまぁ適正Lvのほぼ上限までなってるんだし、油断し過ぎなければ苦戦もしないだろ。


「よし、それじゃすぐ近くに植わってる樫の木から倒していきますか!」

「はい!」

「目指せ、Lv30だね!」

「今が22時になったとこだから、23時までには目的を達成したいかな!」

「ふっふっふ、それでは『経験値の結晶』を使うのです!」

「さーて、ここでの初戦闘といこうか!」


 おー、みんなやる気十分だね。さて、成熟体への進化が可能になるLvまであと少し。もうサヤとヨッシさんは経験値的には半分以上、俺とハーレさんはもう少しで上がりそうなくらいにはなっている。

 正直なところ俺とハーレさんは無理に使わなくても良いんだけど、使用個数を合わせるのと、群集クエストの進展に協力もしていかないとね。出来るだけ早くに転移先を解放してしまった方が、成熟体でのLv上げもやりやすくなるはず! 


<『経験値の結晶』を使用しました> 1時間、経験値100%上昇


 という事で、本日2個目の経験値の結晶を使用! さーて、23時で効果が切れるまではここで大暴れといきますか! ハーレさん以外はみんな水浸しの地面に降りたし、まずは水分吸収封じでもやっていこう!


「とりあえず識別をするぞ!」

「はい!」


 さて、色々と特殊な不動種とはいえ、ボスではなく普通の敵だからそこまで強くはないはず。でも、油断をしてたら思わぬ苦戦をする可能性があるから、ここはしっかりと対応しないとね。

 ふと思ったけど、この樫の木を筆頭にここの不動種は水にずっと浸かってて大丈夫なのか? うーん、普通の木じゃなくてモンスターの木だし、そこは気にするだけ無駄な気がする。ともかく今は識別だ!


<行動値を4消費して『識別Lv4』を発動します>  行動値 80/86


『不動硬樫』Lv27

 種族:黒の瘴気強化種(不動堅牢種)

 進化階位:未成体・黒の瘴気強化種

 属性:樹、水

 特性:不動、堅牢、拘束、刺突


 ちょ、なんか妙に変な構成の特性!? 拘束と刺突って、刺した上で拘束してくるパターンんじゃね!? とりあえずみんなに情報を!


「識別情報! Lv27の瘴気強化種で、属性は樹、特性は不動と堅牢と拘束と刺突! 物理型っぽいし、根に刺されて捕まらないように要注意で!」

「了解……はっ!? ケイさん、下から狙われてるのです!」

「げっ、言ってる側から俺が狙われた!?」

「『魔力集中』『爪刃乱舞』! やらせはしないかな!」

「サヤ、ナイス!」


 ふー、ハーレさんの危機察知は助かるね。ロブスターで少しとはいえ水があるから、その水を掻くようにしながら尻尾で跳ねて回避は出来た。……これ、飛行鎧を展開しておいた方が良いかも?

 複数の根で突き刺してきてたから今のは多根縛槍か。あれは攻撃速度が遅めだから、回避で正解だったな。即座にサヤが距離を詰めて斬り払ってくれたのも助かった。


「サヤ、仕込みが終わるまでハーレさんと一緒に樫の木を抑えててくれ!」

「分かったかな! やるよ、ハーレ! 『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『連強衝打・火』!」

「了解なのさー! 『魔力集中』『ファイアクリエイト』『操作属性付与』『拡散投擲・火』!」


 おっ、サヤもハーレさんも火属性を付与して、通常スキルで樫の木に攻撃し始めてくれた。でも、すぐに水分吸収を使っているみたいで、すぐに回復をされている。

 よし、今のうちに水分吸収の対策をしていこう。強引に高火力で回復を上回る攻撃で倒すのもありだけど、多分それは時間がかかり過ぎる。だから水分吸収そのもの封じる方向でいこう。


「アル、水分吸収には水分吸収だ! 根下ろしして、回復に必要な分まで吸収しちまえ!」

「おい、ケイ!? 流石に水浸しのここじゃそれは無理だ!」

「いーや、そうでもないぞ。ヨッシさん、アイスクリエイトで氷じゃなくて冷気を生成して、水を凍らせてくれ! 樫の木をグルっと囲む感じで!」

「……ほう、その手があったか。よし、そういう事なら『根下ろし』!」

「あ、水を凍らせるんだね! 了解! 『アイスクリエイト』『『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』!」

「わっ!? 水が凍りついていきましたね!」


 いつもヨッシさんはアイスクリエイトで氷を生成しているけど、単純な冷気だけの生成も出来るんだよな。この辺は氷の生成魔法だけの特有の性能ってところ。

 あー、でも明確に狙った部分だけを凍らせるのは難しかったみたいで、何ヶ所かに分けて凍らせて繋げた感じか。まぁ操作する必要もないみたいだし、ヨッシさんの手が空いたのは助かる。


「ケイさん、こんな感じでいける?」

「問題なし!」


 さて、凍らせて樫の木の周りに囲いが出来た。残ってる水浸しの水は俺が回収するとして……いや、回収するだけじゃ勿体無いな。うーん、まだ未完成だけど、あれをやってみるか。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 79/86  : 魔力値 229/232


 今回は小石ではなく砂を生成! さて、大急ぎで次の準備だ!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『砂の操作Lv3』は並列発動の待機になります>  行動値 60/86

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『水流の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 22/86

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 まだ明確にスキルLvが足りていないのは承知の上! それでもこれは岩の表面を削るくらいはあるし、何より無駄にしなくて済む。砂の操作は殆ど水流に流されるままの抵抗せずに加速させていく。


「アル、今のうちに水分吸収で地中の水分を奪い合え!」

「ちょ、無茶な事をしてんな、おい!? だが、了解だ! 『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』『水分吸収』!」

「おぉ!? なんだか回復速度が落ちた気がするのです! 『拡散投擲・火』!」

「一気に畳みかけるかな! 『爪刃乱舞・火』『爪刃双閃舞・火』!」


 おー、ハーレさんは控えめだけど、サヤが盛大に火属性にした爪での斬撃で斬り刻んていくね。でも、物理型で耐久性が高いからか、勢いの割には削れていないか。

 それでも周りの水分は俺の支配下に置いているし、地中の水分についてはアルが奪っていっている。全く回復されなくなった訳じゃないけど、今は与えてるダメージの方が上だし、ここで一気に畳みかけて削り切る!


「フーリエさんは毒も持ってたな? 何がある!?」

「植物に効く腐食毒と溶解毒はどっちもあります!」

「それなら溶解毒を使って、あの樫の木の枝に登って、ハーレさんから見やすい場所に噛みついてくれ!」

「は、はい! 『魔力集中』『溶解毒生成』『猛毒牙』!」

「ヨッシさんは溶解毒のポイズンインパクトを幹に叩き込んでくれ!」

「了解! 2重の溶解毒での『ポイズンインパクト』!」


 よし、フーリエさんは樫の木に登って毒ありの牙で噛みついていき、ヨッシさんのポイズンインパクトも見事に直撃!

 溶解毒の効果で枝も幹もボロボロになっているし、結構な広範囲になったから継続ダメージの量も多い。さーて、溶解毒で溶けて樹皮が無くなった場所は、他よりも脆くなるよなー?

 

「サヤは幹を中心、ハーレさんは枝を中心に応用スキルを叩き込め!」

「分かったかな! 『連閃・火』!」

「了解なのさー! 『連速投擲・火』!」


 2人ともLv2で発動したみたいだし、一気に削られていきもう樫の木のHPはそんなに残っていない。ははっ、思ったよりも楽勝じゃん! ま、耐久性の高い不動種とは言っても、基本的にはボスでもなんでもない通常の敵だもんな。俺らの方がLvが上なのに苦戦してたまるかっての!


「これでトドメ!」


 という事で、空中に待機させておいた砂混じりの水流をボロボロになった幹に叩きつけるようにぶつけていく。おー、ボロボロになってたからなのか、幹を穴が空いたなー。

 とりあえず今ので樫の木のHPが全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていった。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 ふー、とりあえずここでの1戦目の戦闘は終了! ふっふっふ、殆ど樫の不動種には何もさせずに完封だったな。しかも1体だけを倒した割にはかなり経験値が多いから、やっぱり不動種は特殊なのか。

 うん、どうやら水分吸収を何らかの形で邪魔をしてしまえばいいっぽい。腐食毒や溶解毒にはHPの回復の阻害性能もあったはずだから、そこら辺も大きかったかもね。

 さて、経験値は緊急クエストに比べると少ないけども、それでも十分な量の経験値は手に入っている。この調子で頑張って倒していきますか!


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