第998話 湖底森の入り口


 アロワナから逃げるのを覚悟して獲物察知を使ったけども、アロワナどころか近くにはプレイヤーすらいなかった。ただ、離れていく青の群集PTっぽいのはいたからアロワナはそのPTに仕留められた?

 うーん、断定は出来ないけどこの状況だとその可能性が高そうだよね。少なくともアロワナがいないのは確定。


「ケイさん、危機察知の反応はどうですか?」

「あー、アロワナはいないな。青の群集のPTが離れていく様子は見えたから、多分討伐されたばっかっぽい」

「ふむ、獲物察知に反応が無くて、離れていくPTがいるなら討伐済みの可能性が高いか」

「ケイの予想が当たりって事かな!」

「そうみたいだね。それならこれ以上の警戒は必要なさそう」

「それは一安心なのさー!」

「だなー」


 無茶を承知で使った獲物察知だったけど、結果としては安全だという事が確認出来たね。これならアルとフーリエさんが、コケボウズを破壊した事で発生し始めた水流に乗って『湖底森』へと進出も慌てなくても済む。

 さて、『湖底森』の入り口はどんな風に……。


「って、ちょい待った!? なんで入り口っぽいのが2ヶ所あるんだよ!?」


 えぇ、なんでか水流が2つ出来てるんだけど、これってどういう事!? どっちもアルのクジラでも通れそうな広さはあるけど……って、なんか上から湖に沈んでた木とか葉っぱが色々落ちてきてるんだけど!?

 あ、今落ちてきた木とか葉っぱが詰まって入り口が塞がれていってる。なるほど、ここの入り口はこういうギミックなのか!


「そういえば、この辺りに癒水草の群生地もあるって話だったな。しまったな、そっちへの行き方は知らねぇぞ……」


 あー、そういえばネス湖に癒水草の群生地があるって話だったっけ。こうもあからさまに2方向への入り口が出てきたら、無関係とは到底思えないよな。

 ただ、どっちなのかが分からないというのが問題か。すぐにまとめで調べて、どっちか確認する……暇はなさそうだ。どんどん穴が塞がっていってるし、塞がってからもう一度破壊し直す?


「みんな、どうする? まとめを確認してから破壊し直すって手も――」

「ケイ、破壊し直しはダメだ」

「え、そうなのか?」

「あー、丁度いいのがあるな。右前の方を見てみろ」

「右前って……あっ!」

「わっ!? コケボウズがない部分があるのです!?」

「破壊したところは割とすぐに塞がるが、コケボウズが再生するまではその場所からは入れなくなるらしいんだよ。流石に1PTで何ヵ所も無駄に破壊するのは迷惑行為になりかねん」

「……なるほど」


 コケボウズがある場所だけが、この先へと進む入り口として成立する訳か。……無駄に破壊しまくったら、他の人達が入れなくなるように出来たりしそう。うん、完全に迷惑行為だな、それ。


「よし、それじゃどっちでもいいから塞がる前に入るか! どっちにするかは……今回はフーリエさんに決めてもらおう!」

「それでいくのさー!」

「え、僕ですか!?」

「フーリエさん、急いでかな!」

「遠慮はいらないから、サクッと決めちゃって!」

「は、はい! それじゃ近い手前側の方で!」

「ほいよっと! アル、頼んだ!」

「おうよ! 『根の操作』!」


 という事で、フーリエさんが選んだ側の水流へとアルの根で固定されながら飛び込んでいく! さーて、癒水草の群生地に出るか、『湖底森』に出るか、どっちになる!?


「おわっ!? すぐにどっかに出るかと思ったら、洞窟か!?」

「なんだかウォータースライダーっぽいのです!」

「根の操作で固定してて正解か! みんな、落ちるなよ!」

「ほいよ!」


 ハーレさんが言ってたけど、水に満ちてる訳じゃなくて、洞窟の地面側に流されてた水に流されてたから、本当にウォータースライダーっぽい。

 って、勢いよく登るとこもあるんかい! 訂正! これ、ウォータースライダーじゃなくてジェットコースターだ! どこまで流されるんだよ、これは!?


「いやっほー!」

「楽しそうですね、ハーレさん!」

「フーリエさんは楽しくない?」

「いえ、僕もこういうのは大好きです!」

「ハーレさんもフーリエさんも、はしゃぎ過ぎて落ちるなよ!?」

「しっかりアルさんの根を掴んでおくのです!」

「僕も絡まっておきますね!」


 うん、まぁこういうのが好きなハーレさんの反応は予想通りだけど、フーリエさんもこの手は好きなのか。アルが平然としてるのは……まぁたまにやる無茶な飛ばし方を体験したら、今更な話だね。


「ヨッシ、大丈夫かな?」

「うん、こういうのはかなり慣れたし大丈夫。でも、いきなりはビックリするね」

「確かにそれはなー」


 俺もこの急なジェットコースター的な移動には焦った。……てか、もう既にそれなりの距離を流されてる気がする。これはなんとなくだけど、群生地の方な気がするぞ? あ、なんか薄らと光が見えてきたから、出口かな?


<『ネス湖』から『ネス湖・流水洞』に移動しました>


 あ、エリア名が切り替わった……って、やっぱり『湖底森』じゃないっぽい! って、ちょっと待てー!? この先は空洞みたいだけど、思いっきり途切れてるぞ!? これ、そのまま行ったら落ちるやつ!


「アル! 固定は俺が変わるから――」

「分かってる! 『略:空中浮遊』!」


 よし、流石はアルだ。すぐに根の操作の固定から、切っていた空中浮遊へと切り替えてくれた。俺も飛行鎧の岩を追加生成で、みんなの位置を固定! すぐにアルが対応してくれたから大丈夫だとは思うけど落下しないようにしないとね。


「てか、地下なのに明かりが……って、滝の裏側か、ここ!?」


 真っ暗ではなくて薄暗いって感じだけど、目の前に見えるのは結構な水量で落ちていく水。結構な距離を流されたし、真上はネス湖だし、どう考えてもネス湖から流れ落ちている滝だよな、あれ!

 大瀑布とまではいかないけど、涙の溢れた地よりも盛大な滝だなー。ははっ、滝を真っ正面から見る前に、裏側から見る事になるとは思わなかった。


「ケイさん、固定はもう大丈夫なのさー!」

「あ、それもそうだな」


 うーん、真っ暗って訳でもないし、これは一度飛行鎧を解除した方が楽かもね。必要そうなら再発動した方がいいか。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 76/76 → 76/80(上限値使用:4)

<『発光Lv4』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 76/80 → 76/86


 よし、これで解除は完了っと。あ、固定を外したらすぐにハーレさんはアルのクジラの頭の方に駆け出して、下の様子を見始めた。みんなも同じようにしてるし、俺も下の様子は気になるから見てみようっと。

 ふむ、下は水で満たされていて、大量の癒水草が生えてる感じだね。やっぱりここは群生地か。でも、なんか妙な感じがする。


「癒水草が沢山生えてるのさー! わっ! 上も凄いのです! これはスクショの撮影チャンスなのさー!」

「……上?」


 ハーレさんの言葉に釣られてみんなで上も見てみたら、氷柱みたいな細長い岩が沢山あった。ここ、鍾乳洞がモチーフか。

 凄い迫力だけど……だからこそ気になる事もあるね。それこそ、即座にハーレさんがスクショを撮り始めたくらいなんだしさ。


「よくここのスクショがコンテストに出てこなかったもんだな?」

「ここまでの辿り着き方がコンテストの受け付け終了までに確定してなかったんじゃないかな?」

「あー、そういやそうか」


 確か十六夜さんが癒水草の群生地を見つけたっぽいって情報自体は、桜花さんのとこで漏れ聞こえてきた話で知っただけだもんな。

 スクショのコンテストの受け付けが締め切りになるまでの段階では成熟体には辿り着けない状態だったし、アロワナを突破してコケボウズを破壊してここに来るのは難しかったのかもね。


「滝の方からは……あー、反対から見てみないと分からないなー」

「知ってたら分かるが、知らなきゃ見落とすヤツじゃねぇか?」

「僕は夕方に滝は見ましたけど、その裏にこんな場所があるのは知りませんでした!」

「まぁそうなるかー」


 そもそもここから見えてる滝が、滝の全体のうちのどの辺りにあるものかも分からないもんなー。うん、明日にでも外側から見に来てみよう。


「……でも、なんだか癒水草は荒れてるね? 採集をした感じではないけど……」

「戦闘でもあったのかな?」

「ここって何か敵がいるのか?」


 獲物察知での効果は……あ、効果が切れてる。そういやエリアが変わったら効果は切れるんだったから、意味なかったよ。


「あの何もない部分って怪しくないですか?」

「あー、確かに……」


 癒水草が密集して生えてる訳ではないけど、あからさまに全然何も生えてない場所があるんだよな。でも、今はそこには何もない。そしてなんだか戦闘らしき痕跡はあるけども、特にプレイヤーの姿もないか。


「アル、ここでも実は成熟体が出るとかってある?」

「何もかも把握してる訳じじゃないし、それは可能性としては否定出来んな。戦闘の痕跡があるなら、どこかのPTが倒した後かもしれん」

「……なるほど」


 ここに成熟体がいて、少し前まで戦闘をしていた可能性はあり得るんだな。少しは滝側の方から明かりが入ってきてるとはいえ、北向きだからそれほど明るいとも言えないし、夜目を使った時くらいの薄暗さではあるからね。

 それこそ砂時計の洞みたいに、光源として発光するサボテンみたいなのがいる可能性はある。その場合は不動種って可能性も高そうだよね。


「まぁその辺はとりあえずいいや。それで、ここからどうやって『湖底森』に行けばいいんだ?」

「来た道を戻るのは……飛んでいけば、一応は出来そうだな」

「もしくは滝から外に出て、改めて湖に潜り直しかな?」

「転移の種を使う手もあるね」

「あぅ……どれも地味に時間がかかりそうなのです……」

「……確かにそうなりますよね」


 この癒水草の群生地を見に来れたのは良いんだけど、本来の目的地である『湖底森』に辿り着けなきゃLv上げにならないんだよなー。

 現時点で22時を少し過ぎたくらいだから、1時間くらい経験値を2倍にしたらフーリエさん以外はLv30になるとは思うけど……。うーん、どこかにここから繋がる経路でもないもんか?


「あー!?」

「ハーレさん、何か見つけたか?」

「入ってきたとこの真下の地面のとこに、水が流れていってる穴というか洞窟があるのです!」

「あ、ホントかな! アルはなんとかギリギリ通れそうなくらいかな?」

「そういう場所があるって事は、どこかに繋がってる可能性は高いな。ダメ元で行ってみるか?」

「まぁ折角ここまで来たんだし、行ってみるかー! みんな、それでいいか?」

「問題ないかな!」

「もちろんなのさー!」

「うん、大丈夫だよ」

「僕も大丈夫です!」

「俺も問題ねぇぜ」


 よし、これでみんなの同意は得られたから、進行方向は決定! てか、洞窟の内部が露骨に暗いから、ここは懐中電灯モドキの出番がまたやってきたね。


<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 76/86 → 76/82(上限値使用:4)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 76/82 → 76/76(上限値使用:10)


 これで再び懐中電灯モドキの準備は完了だね。暗い場所は何があるか分からないし、こういう時には明かりは必須! 夜目とか暗視も便利だけど、あれが万能って訳でもないからな。


「よし、明かりも用意したし、あの洞窟を通っていくぞ!」

「「「「「おー!」」」」」


 という事で、先に何があるのかが分からない水が流れていってる洞窟を通っていくぞ! まぁ多分、位置関係的に『湖底森』に繋がってる可能性は高いとは思うけどね。

 あ、そういえばこの場所ってかなりの水の勢いで流されて来たけど、かなり登ってた気がするんだよなー。正直、そんな勢いで水に流される事があるのかって疑問はあるけど、ゲーム的な要素として現実とは違う法則になってる部分もあるから、その類のものなのかもね。



 ◇ ◇ ◇



 そうして、水が流れていく洞窟の中をアルに乗った状態で進んでいった。……ぶっちゃけ、かなりの急斜面が多くて、普通に通ろうと思ったら凄い悪路だったんだけど!

 あれかー。『湖底森』もログアウトしたら、エリアから放り出されるタイプのエリアなのかもね。それ以外の方法で脱出するには地味に手間がかかるやつ!


「アルがこうやって乗せて飛んでくれるのって、かなりありがたい事だと実感した」

「……今までなんだと思ってたんだよ、ケイ」

「いやー、今までも思ってはいたけど、今回は特にさー。ここ、転がり落ちるつもりじゃなければ、飛ぶ以外は無理だろ」


 まぁ今のメンバーならフーリエさんも含めて全員飛ぶ手段はあるからどうにかなるけど、アルに乗ってみんなで移動出来るのはありがたいのは間違いない。

 てか、俺らの方からは下りになってたけど、反対側からは上りになるから、この経路では空中の移動手段がほぼ必須だな。


「はい! それならそれで、みんなで落ちていけば問題なかったと思います!」

「……フーリエさん以外は飛べるんだし、大丈夫じゃないかな?」

「サヤさん、僕は飛べますよ?」

「え、あ、そういえば飛んでた様子を見た覚えもあるかな?」

「えっと、その辺はよく覚えてないですけど、これでいけますよ。『空中浮遊』!」

「フーリエさんが浮いたのさー!」

「それって移動速度はどうなの?」

「……あまり早くないのが難点ですね。普段はシリウスに持ち運んでもらうか、風魔法で吹き飛ばしてもらってます」


 これはフーリエさんの移動手段として風の進化の軌跡で試しに使うようにアドバイスをしたやつだな。まぁ移動速度が遅めという欠点はあるみたいだけど、活用自体はしてくれてるみたいだね。


「さて、そろそろ辿り着いて欲しいもんだけど……」

「結構降りてきたからな。ここ、相当な地下だよな」

「なんというか、未成体の終盤向けの狩場は地下が多い気がするのです!」

「確かにそうだよなー」


 グラナータ灼熱洞も、砂時計の洞も、どっちも地下だったしね。しかもどこも何かしらの特殊なギミックが用意されているのも共通点か。

 この先だと予想してる『湖底森』にも何か特徴があるんだろう……って、不動種が多いって話だっけ。まぁ実際に行ってみたら特徴も分かるだろ! 植物が相手なら、色々と使える弱点もあるしなー!

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