第997話 ネス湖の湖底へ


<『ザッタ平原』から『ネス湖』に移動しました>


 あっという間に辿り着くだろうと思ってたら、本当にあっという間に辿り着いた。いや、早いね、今のアルの最高速度での移動。多分これって成熟体になったら更に速度が上がるよなー。

 さて、アルは水流も水の風除けも解除したし、もう俺の固定の岩も必要ないから解除っと。あ、固定を消した瞬間にハーレさんが飛び降りていったけど……まぁ目の前の景色的にそうなるか。


「到着なのさー! そして目の前が砂浜なのです!」

「ネス湖の北寄りの東側と西側が、こんな風な砂地になってるそうですよ」

「おー! そうなんだー!」


 前にネス湖に来た時は南寄りの方に行ったから、北寄りのこっち側に砂浜があるとは知らなかったね。ふむふむ、今のネス湖は全く人がいない訳じゃないけど、人が盛大に集まってる様子は特になし。

 移動の途中でフーリエさんから聞いたけど、ネス湖の北側にここを水源にした滝があってその先が川になって海まで通じてるらしい。まぁ岩での固定に結構集中してたから、詳しくは見れてないけどね。チラホラとそっちに移動中のPTがいたのが見れたくらいか。


「Lv30になったら、ここに戻ってくれば良さそうかな」

「それならここで転移の種の登録をしておかない?」

「あ、ヨッシさん、ナイスアイデア!」

「今日の使用回数もあるし、丁度いいか」

「それで決定なのさー!」


 という事で、転移の種の上書き場所は即座に決定。いつまでも全然行ってない涙の溢れた地を登録したままにしてても勿体ないしね。明日の動きをやりやすくする為にも、ここで久々に転移の種を上書きだ!

 今考えると、普通にグラナータ灼熱洞の近くへ登録しとけば良かったよなー。うん、本当に今更言っても仕方ないけども。とにかく今はインベントリの中にある転移の種を使用!


<『転移の種』を使用しますか?>


 転移地点の上書きが目的だから、登録の方を選択。ここで間違って転移を選んだら、色々と台無しになるからなー。

 お、インベントリから種が出てきて砂浜に埋まっていき芽が出てきた。登録された印としてちゃんと灰色のカーソルが表示されたね。


<『転移の種』の転移地点の登録が完了しました>


 よし、登録完了! そういや地味に意識した事はないけど、これって他の人にも分かるようにする転移の目印なんだよなー。まぁ邪魔にならなさそうな位置に設定するんだから、あんまり目にする事もないか。


 さてと、フーリエさん以外の他のみんなも登録し終えたみたいだから、これで明日はここで集まれる。消費する転移の実より、1日1回のみだけで消費しない種の方が気軽に使いやすいし、もっと上手く活用していかないとね。


「ヨッシさん、みんなに癒水草茶をよろしく!」

「了解! はい、みんな飲んでいってね」

「はーい!」


 俺以外のみんなは淡水の中での長時間の活動は出来ないから、ここで適応をしていこう。お茶での適応だと効果は30分だけど、それだけあればコケボウズのとこまでは辿り着けるだろ。……あれ、ちょっと待てよ?


「あ、アル、ちょい質問!」

「ん? ケイ、どうした?」

「コケボウズのとこにいるアロワナはどうなってる?」

「あー、誰かしら成熟体の人がいるとは……いや、今のタイミングだとどうなんだ?」

「成熟体の人達は緊急クエストの方に行ってる可能性がありそうですね?」

「ケイ、フーリエさんの言う可能性もあるから、行ってみないと分からんぞ」

「……やっぱりかー」


 なんとなくそんな予感がしたから聞いてみたけど、まぁそういう可能性は十分あるよなー。他の群集の人と奪い合いになる固定位置の成熟体と、緊急クエストで同じ群集で固まって順番待ちで倒せる成熟体なら、後者を選んでいる人が多くても不思議じゃない。


「それって、逆に狙ってくる人もいるんじゃないかな?」

「空いているからこそ、チャンスなのさー!」

「あんまり目立ちたくない人とか、騒ぐのが苦手な人とかはいるかもね」

「まぁ誰かいてくれた方がありがたいんだけどなー」

「あはは、まぁそれは確かにそうかな」


 個人的なワガママな理想を言うのであれば、灰の群集の成熟体の1PTのみくらいで狙ってくれてたらありがたい。まぁそこまで都合が良い展開はないとは思うから、実際に行ってみないと分からないか。

 さて、そうやって話してる間にみんなは適応の終わったみたいだなー。


「よし、それじゃ出発しますか!」

「コケボウズのところまでどういう風に進むのかな? みんなで湖底を歩きながら進む? それともアルに乗って一気に進む?」

「途中の敵は戦っても仕方ないし、アルさんに乗るのでいいと思います!」

「ま、その方が楽だろうな。ケイは暗ければ明かりを頼むぞ」

「ほいよっと! どうせならサヤか俺が威嚇を使って、敵も追い払っとく? 流石にアロワナのとこまでは成熟体に警戒しなくても良いだろ」

「あ、それなら私がやるかな! 多分普通の敵はLv的に近寄ってはこないと思うけど、その方が確実だもんね」

「おし、ならサヤは威嚇をよろしく!」

「うん、任せてかな!」


 という事で、コケボウズのある所まではアルに乗った状態で進む事に決定。ま、雑魚敵ばっかだし、道中はサクッと進んでしまえばいい。首長竜みたいな自然発生のフィールドボスはいる可能性もあるけど、多分Lv的に経験値は美味くなさそうだから避けた方が楽だしね。

 さーて、前回ネス湖に来たのは夜の日だったから、昼の日の湖底の暗さって地味に分からないんだよな。海よりは浅いはずだし、完全に真っ暗ではないはず。でもまぁ、発動するだけ発動しとくか。


<行動値上限を4使用して『発光Lv4』を発動します>  行動値 66/86 → 66/82(上限値使用:4)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 66/82 → 66/76(上限値使用:10)


 発光はLv5で発動すると眩し過ぎるからLv4での発動にして、ロブスターの背中のコケを覆うようにしていつものように余計な光は遮断! そして飛行鎧に組み込んだ光の操作で、懐中電灯モドキ発動は完了! 昼間に外でやっても分かりにくいし、今発動した意味ないな、これ!


「ケイさん、まだ明かりは必要ないんじゃないですか?」

「……まぁこれは時間制限はないし、問題なし!」

「フーリエさん、ケイのこういうとこは真似なくていいからな?」

「あ、はい」


 なんかそこで素直にはいと言われるのはちょっと複雑……。まぁ俺自身もまだ発動する意味がないって分かってるから、なんとも言い難いけども!


「だー! みんな準備出来たんだし、出発だ、出発! そうしたら今は無意味な明かりにも意味はある!」

「もう自分で無意味って言っちまってるじゃねぇか!?」

「ケイさんもアルさんも、しょうもない事をしてないで出発なのさー!」

「「おー!」」

「はい!」

「……行くか、ケイ」

「……だなー」


 思いっきりハーレさんにしょうもない事とばっさり切り落とされたけど、まぁ今のは確かにしょうもない事だよな。……変な事をしてないでサッサと湖底のコケボウズを目指して進んでいこうっと。



 ◇ ◇ ◇



 湖に入る前に無駄なやり取りはあったものの、深い所までやってくれば無駄ではなくなった懐中電灯モドキであった。それなりに日の光も差し込んではくるものの、場所によっては何かの影になっていたり、純粋に深くて光の届きは悪かったりと、普通に明かりとして活躍してたな。

 サヤが威嚇をしてくれていたおかげで、自然発生のフィールドボスの首長竜がいたけど一目散で逃げてもいった。うん、もう俺らは成熟体の一歩手前まで来てるんだし、Lv差が相当あるはずだから威嚇したら逃げるよね。


 それ以外には特に目立った何かがあった訳でもなく、そろそろコケボウズがあった場所に辿り着く。一度あそこは行った事があるから、湖に入った方向が違ってもどこを目指せば良いのかが分かってたから進みやすかった。

 

「ふっふっふ、もうすぐコケボウズの場所なのです! 折角なので、成熟体のアロワナがどういう状況なのかを予想しませんか!?」

「お、いいな。ちなみにハーレさんはどういう予想だ?」

「今まさに戦闘中と予想します! アルさんはー?」

「……そうだな、成熟体が水中で戦ってれば余波がありそうだし、プレイヤーはいなくてアロワナが普通にいるにしておくか」

「あ、確かに戦ってる気配はないかな? それなら私はアロワナの出現の待機中にしておこうかな」

「それじゃ私は……アロワナが捕獲されて運ばれてるところにしようっと」

「色々と可能性はあるんですね! 僕はアロワナを奪い合って、そっちのけで戦ってるにします! ケイさんはどうですか?」

「あー、そうだな……」


 なんかもうみんなが色々なパターンを言っちゃってるから、被らない内容は難しい気もする。うーん、確かに近付いているのに戦闘中の気配はないんだよな。まぁ戦ってる種族や使うスキルによっては周囲に影響が出にくい場合もあるだろうし、絶対とは言えないか。

 別に無理に被らないようにする必要もないんだけど、こういう時は出来れば被らないようにしたいよな。えーと、あり得そうな可能性かつみんなと被らない内容なら……。


「アロワナは撃破済みで、撤退して誰もいないにしとく」

「みんなの予想が出揃いましたー! 当たってる人は果たしているのかー!?」

「ハーレ、なんだかテンションが上がってる?」

「ネス湖の地下の景色が楽しみなのさー! なので、サクッとアロワナを確認して、コケボウズを破壊するのです!」

「だなー」


 さっきハーレさんが言い出した予想の話は……ただのお遊びではなくて、警戒する為に可能性を色々出したかったのかもしれないね。まぁ緊急クエストが発生中って事で、冗談抜きにどういう状況になってるかが読めないしな。


「みんな、ここからは要警戒! アルの予想みたいに本当に誰もいない可能性はあるし、フーリエさんの予想みたいにプレイヤー同士で争ってて流れ弾の危険もあるからな! ヨッシさん、流れ弾があったら俺と2人で防ぐ感じで!」

「了解!」

「サヤとハーレさんは、周囲の様子を目視で確認! 照らせる距離は短くなるけど、範囲は広めとく!」

「了解なのさー!」

「分かったかな!」

「ケイさん、僕はどうしたらいいですか?」

「フーリエさんは……場合によるけど増殖しまくって、スリップやグリースで攻撃を受け流す感じで!」

「はい、分かりました!」

「それじゃ、アル、進んでくれ!」

「おうよ!」


 とりあえず今出来る最大限の警戒状態で、コケボウズのある場所へと進んでいく。あのアロワナ自体が光ってたから、いれば確実に目立って分かる! もし待機してるプレイヤーがいたら、俺らに気付く可能性は高いだろうしね。

 黒の統率種になりたい人もそういないだろうし、他の群集の人でも未成体の俺らをいきなり襲ってくる可能性は低いはず。って、あれ? なんか妙な感じだな? 普通にコケボウズだけが見えてきたぞ。


「……何もいないっぽい? サヤ、ハーレさん、どうだ?」

「誰もいなさそうなのさー!?」

「こっちも同じかな?」

「こりゃアロワナは討伐済みか? ……ケイ、獲物察知で確認してみるか?」

「……それは危なくね?」

「……やっぱりそう思うか」

「どう考えてもそうだよな!?」


 いないのが確認出来た場合ならいいけど、いるのが確認出来た時には俺らが標的になる訳だし……。あー、でも即座にエリアの切り替えをしてしまえば、そのリスクは最小限で済むのか。

 そして、目の前にはエリアの切り替え場所がある。前に来た時は、まさかこの湖底に広がるコケボウズを破壊するのがエリアの切り替えのギミックだとは思わなかったよな。……ふむ、どっちにしてもやる事は変わらないかー。


「あー、このまま周囲を警戒しながら『湖底森』に入るか、獲物察知でアロワナの存在を確認してから『湖底森』に逃げ込むかだな。後者でも成熟体のプレイヤーが近くにいる可能性もあるから、そこに引き受けてもらう手もある。みんな、どっちがいい?」

「俺は獲物察知の使用に賛成だ。場所が場所だし、なんとかなるだろ」

「私も賛成なのさー! というか、アロワナを『湖底森』に移動させたらどうなるのかも気になるのです!」

「あ、そういう事も可能なんですね!」

「確かに気になるかな?」

「……陸地があるなら、移動させたとしても逃げ切れる可能性もありそうだよね」

「その可能性は考えてなかったなー」


 でも、確かに水中のみで動いているアロワナを移動させてみるのも少し試してみたいとこではある。……まぁここにアロワナがいたらだけど。


「よし、それじゃ獲物察知で無茶をする方でいくぞ! アルとフーリエさんでコケボウズを破壊!」

「おうよ! 『根脚強化』『根の操作』!」

「はい! 『魔力集中』『連突撃』!」

「サヤ、ハーレさん、ヨッシさんで、可能な範囲で良いから攻撃がきたら防御で!」

「分かったかな!」

「了解なのさー!」

「了解!」


 アルとフーリエさんがコケボウズを盛大に破壊し始めたね。アルが通れるくらいの広さは必要だろうから、それなりの規模は破壊が必要だろうなー。アルは俺らが背の上に乗ってるから根の操作で破壊をしてるけど、根脚強化も取ってるんだね。うん、やっぱりアルは色々と強化されてるっぽい。

 サヤとヨッシさんとハーレさんは、いつでも動けるように警戒態勢に入ってくれている。……この時点で他のプレイヤーが見当たらないって事は、本当にいないのか? うーん、それを確かめる為にもリスクは承知の上で獲物察知の使用は必要っぽいな。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 71/76(上限値使用:10)


 フィールドボスの察知までは必要はないけど、広範囲確認をしたいから今回はLv5での発動で! えーと、黒い矢印自体はあちこちにあるけどそれは無視で! 肝心の反応は……あからさまに成熟体っぽい太い黒い矢印はどこにもない? 赤い矢印も、青い矢印も、灰色の矢印も近くにはないな。

 あ、でも遠ざかってる青い矢印が6本ある? これは青の群集の人がアロワナを討伐して離脱してる感じ? あれ、地味に俺の予想が当たりっぽい?

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