第996話 ネス湖へ向かって


 桜花さんのところで油の入手方法の検証をして、とりあえずの成果は出た。まぁ量産体制はすぐには整わないだろうけど、それは他の群集も同じ。……むしろ量産が可能になっているとしたら、スキルLvが高い岩の操作を持っている人が複数いる方に警戒する必要もありそうだ。

 まぁその辺は競争クエストが始まってみないと判断がつかないから、気にしてても仕方ないね。それよりも今はLv30を目指して、成熟体への進化をさせるのが先!



 という事で、現在はアルのクジラの背に乗って、森林深部の東部に向かって移動中。今回は泥濘みの地を経由して、ネス湖へ向かう事になったしね。


「少しだけ移動速度は上げるぞ。『略:自己強化』『ウィンドクリエイト』『略:操作属性付与』!」

「ほいよっと」


 今回は高速遊泳を使っての最大速度にはせずに、風属性の付与と自己強化での移動速度の強化にしたっぽいね。まぁチラホラと他にも森の上を飛んでる人もいるし、過剰に速度を上げ過ぎるのも危険だもんな。

 でも、これなら特に固定も必要ない範囲だし、周囲の様子を見ながら進めるから丁度良いかもね。一気に飛ばすのはザッタ平原まで抜けてからでもいいだろう。


「そういやアル、ネス湖の湖底の場所ってどんな感じなんだ? あのアロワナがいるコケボウズの奥から行けるんだよな?」

「あー、実は俺も行った事はないんだよ。入り方自体は知ってるが……」

「行った事ないんかい!」


 てっきり行ったことがあるのかと思ったけど、アルもまだ行った事がなかったとは……。まぁLv上限になってるし、フィールドボスの連戦が人気ならわざわざ淡水への適応をしてまで行く必要もないかー。


「とりあえず入り方としては、どこかのコケボウズを破壊すれば良いらしいぞ。そしたら、その部分から吸い込まれるように水流が発生して、それに乗れば辿り着くそうだ。……あのコケボウズ、簡単に言えば入り口に詰まってる塊だとよ」

「あれってそんな理由!?」


 まさかのあの神秘的なコケボウズは、排水溝を詰まらせたゴミみたいな扱いだった!? てか、あれを壊すのが入り方だとはなー。うん、初めに試した人はよく試したね。


「ネス湖の地下に、陸地部分もある地底湖があるらしいですよね!」

「おー!? そんな感じなんだ!?」

「あぁ、それだけじゃなく普通に不動種の木が結構な数が植わってるらしいぞ。メインの敵になるらしい」

「あ、だから『湖底森』なのかな?」

「比喩的な表現かと思ってたけど、そうじゃないんだね?」

「ま、そういう事らしいな」

「随分とまぁ、特殊な場所っぽいなー」


 まさかネス湖の底の更なる地下に地底湖が存在してて、そこに不動種が大量に植わっているとか想像もしてなかった。でも、それはそれで面白そうな場所じゃん!


「でも、それだけ特殊ならスクショのコンテストに出ててもおかしくない気もするけど、全然見なかったかな?」

「あー、スクショだと水場のある夜の森との見分けがしにくいのと、正確な入り方が判明したのがコンテストの受け付け終了後だったみたいだぞ。全体像を直接見れば、結構違いは分かるらしいがな」

「え、そうなのかな?」

「……俺も直接は見た事がないから、正確なとこは分からんがな。おし、とりあえず泥濘みの地に入るぞ」

「お、もうそこまで来てたか」


 何気なく雑談をしながら移動してたけど、もう森林深部の東端までやってきていた。まぁあくまでここは移動途中で立ち寄るだけだけど。


<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『泥濘みの地』に移動しました>


 という事で、やってきました、泥濘みの地! うん、蓮の花が咲いてるし、整備クエストで作られた木の足場もよく見える。残念ながら進化記憶の結晶がある蓮の方は光ってる様子はないから、今はなさそうだなー。てか、意外と移動中の人が結構いるっぽい。

 えーと、確か整備クエストを受ける為の不動種の群集支援種がいて、それが木の足場を根で組んでるだっけ?


「そういや、整備クエストの再発生とかってあるのか?」

「……どうなんだろうな? 競争クエストの再発生があるなら、整備クエストの再発生もありそうではあるが……一度壊れる必要があるんじゃねぇか?」

「壊れるとしたら、自然災害ですか?」

「いや、フーリエさん、多分それはないぞ。その辺は運営が自重してる感じもするしな」

「あ、そういえばそうですね、アルマースさん! それなら、敵が暴れて壊すとかですか?」

「今開催中の緊急クエストで、大増殖した敵に破壊されるとかはありそうかな?」

「それはありそうなのさー!?」

「確かに可能性としてはありそうだね」

「だなー」


 今回初めて発生している敵の大増殖の緊急クエストだけど、形を変えて他の機会にも発生する可能性は十分過ぎるほどにある。

 まだ具体的な告知はされてないけど、これまでのクエストを再びやれる再現クエストっていうのも実装される予定だとも言ってたしなー。後から始めた人が終了済みのクエストをやれるように……って、ちょっと待てよ?


「……ふと思ったけど、再現クエストの実装も含めて夏休みに合わせて大型アップデートがあるとか?」

「ふむ、確かにその可能性はあるな。新規が入ってくる可能性が高いタイミングで、それに合わせた再開催は効果的か」

「でも、それだと私達は対象から外れそうなのです……」

「そうでもないんじゃないかな?」

「そだね。3rdを作ってやれば参加は出来そうだよ」

「あ、その手があったのさー!」

「3rdかー」


 冗談抜きでそろそろ本当に3rdの解放が近付いてきてるもんなー。色々と3rdで作ってみたい種族はあるにはあるけど、何にするか悩みそう。


「あ、3rdといえば、アルの3rdのフクロウって今なら木とフクロウとか、クジラとフクロウって組み合わせで共生進化も出来る?」

「出来るといえば出来るが……それは成熟体で支配進化にするまでだな」

「でも、出来るには出来るよな? 明日辺り、アルの3rdをそれで鍛えるのはどうよ?」

「……出来なくはないが、まだフクロウは足手まといだぞ?」

「私達は気にしないのさー!」

「アルのフクロウがどんなのか、気にはなるかな?」

「うん、それは確かに気になるね」

「アルマースさんの3rdってフクロウなんですね!」

「あー、分かった、分かった。流石に緊急クエストの最中にする気は起きないから、それ以外でLv上げをする事になった時はそうさせてもらうわ」

「おし、それで決定だな! その場合は移動は俺に任せとけ!」

「……クジラとフクロウって組み合わせでもいけるんだが、まぁ移動をケイがしてくれるなら木とフクロウの組み合わせでもいいか」


 明日の具体的な行動予定については明日になってみないとはっきりはしないけども、それでもこれからやるLv上げみたいに機会はあるはず。

 てか、クジラとフクロウの共生進化だと、離れられない制約ってどういう風になるんだろ? 木とフクロウなら多分根で繋がるんだろうけど、クジラとフクロウは謎だなー。


「そういやここの湿地って、木の敵がいるんだよな? パッと見、見当たらないんだけど……」


 移動しながら軽く眺めた程度ではあるけど、水気を多く含んだ泥濘んだ土と、その上に生えている蓮とか色々な水草が見えるくらい。まぁ明らかに大きめの木が1本だけ目立つように植わってるから、あれがここの群集支援種の不動種だね。


「確か、今は殆ど出現しないって話なのさー!」

「え、マジで?」

「結構前に聞いたから今は絶対にとは言えないけど、整備クエストが終わってからは数がどんどん減っていったそうです! ただ、その代わりにレンコンやワサビが土の中から襲ってくるそうなのさー!」

「あ、そういう感じなんだ? って事は、ここってワサビもあるの?」

「敵としてはいるそうです! 一般生物としては分かりません!」

「うーん、見つかってたら情報は出回ってそうだけど、そうじゃないならまだ手に入らない感じみたい? アルさん、その辺りは知ってたりしない?」

「全てを把握してる訳じゃないが、ワサビが手に入ったという話は聞いてないな。刺身が作れるから、ワサビがあれば反応はありそうなもんだが……」

「あー、確かにそりゃそうだよなー」


 醤油もワサビもないから、刺身よりは塩焼きの方が人気だしね。あー、油が手に入るようになるならカルパッチョとかは作れそう。……てか、このゲームはどのくらいまでなら細かい味付けがいけるんだろ?

 あんまり満足感がありすぎたらリアルで食べなくなる人が出るから、味はどこら辺かで向上しなくなるように制限がかかるはずだけど……。まぁその辺はやってれば、その内わかるかー。


「後から採集出来るようになったものも色々あるみたいだから、その可能性もあるのです!」

「あー、そういやそうだっけ」


 具体的に何があったかは忘れたけど、サービス開始当初はなかったけど、後から採集出来るようになったものもあったはず。えーと、ハーブとかがそうじゃなかったっけ?


「……それにしても、思ってたより面白みがないのです。スターリー湿原や涙の溢れた地の方がもっとこう見た目が楽しかったのさー!」

「あー、確かにそれはあるなー」


 ここも景色としては悪くはないんだけど、他の湿地エリアと比べるとどうも派手さには欠ける。まぁピクニック気分で木の足場を歩いて散策するには一番向いてそうではあるけどね。


「でも、これって蓮の花が咲いたら綺麗そうじゃない?」

「はっ!? 確かにそうなのです! アルさん、蓮の花が咲くのはいつですか!?」

「悪いがそれは知らないな。だが、リアルの時期に合わせて咲くとかはあるかもな」

「え、リアルの季節でそういう変化があるんですか?」

「……思い付きで言ってみただけだ。よく考えたら、それでありそうな紫陽花とかはなかったな……」

「あー、梅雨は特に何もなかったもんなー」


 まだ梅雨明けはしてないけど、俺の住んでる辺りはもうあんまり雨は降ってないしね。まぁサービスの開始のタイミング的に梅雨での季節的なイベントを入れにくかっただけという可能性はあるけど、その辺は今の段階だとなんとも言えないか。

 あー、でも今の緊急クエストは海辺だし、7月に入ったから本格的に夏に向けてのイベントとも言えなくもない? うーん、まぁそこら辺は運営からの告知があるかどうかだね。


「お、そろそろ泥濘みの地を抜けるぞ」

「ほいよっと!」


 思ったほどの目新しさがあった訳ではないけど、そろそろ泥濘みの地は通り過ぎてザッタ平原に移動だな。さて、ザッタ平原のどの辺に出るんだろ?


<『泥濘みの地』から『ザッタ平原』に移動しました>


 えーと、なんかここから北の方でフィールドボスの連戦をしてる赤の群集の集団がいるけど、まぁそれはスルーでいいや。


「少し速度を落として、現在地の確認をするぞ。ネス湖への正確な方向を把握したい」

「ほいよっと」


 アルが一旦速度を落としたし、現在地を正確に確認していこう。今の位置がザッタ平原のどの辺りなのかを把握しておかないと、ネス湖に辿り着けないからね。

 さてと、俺もマップを拡大表示して見ておくか。フーリエさん以外はこのルートでの移動は初めてだし、その辺の確認は大事!


「ここはハイルング高原から移動した時よりもかなり北寄りなんだな。まぁ位置関係的に当たり前だけど」

「ケイさん、南の方にデンキウナギがいた小さな湖が見えるのです!」

「お、マジだ! へぇ、あそこよりも更に北側になるんだな」


 ふむふむ、このザッタ平原は結構南北に長いエリアみたいだね。俺らのいる位置から北に向かって少し上り坂になっていて、丘みたいになってるしなー。そこが赤の群集の東部側のエリアに繋がってるっぽい。

 てか、こうして見てみると泥濘みの地だけが少し窪んでいる地形になってるのか。そこに水が溜まって、湿地帯を形成してるみたいだねー。特に泥濘みの地から流れ出してる水はなさそうだし、行き場のない水が溜まってる感じか。


「ここからネス湖は方角的には南東かな?」

「うん、そうみたい」

「ちなみにここから真っ直ぐに進むと、ネス湖を水源にした川に辿りつきますよ! 僕が夕方にいた干潟はそこになりますね」

「あー、なるほど、そういう位置関係か。って、それだと赤の群集からも近いんだし、場所の取り合いになるんじゃ!?」

「いえ、そうでもなかったですよ? 赤の群集の方は、森林深部から流れている川の先に集まってるって話でした!」

「あの川の先か!」


 あー、そういう感じで分かれてるのか。源泉が灰の群集の森林深部にあるあの川だけど、その河口は赤の群集の人達が集まりやすい場所になってるんだなー。

 そうなると、青の群集から近い干潟の場所は涙の溢れた地から更に東に行った川の河口か? 少なくとも各群集で優先的に使える場所が1ヵ所ずつくらいはありそうだし、その可能性はありそうだよなー。


「そういや転移の種を涙の溢れた地で登録したままになってるけど、これって今後使う事はある?」

「……多分、そうないだろうな。というか、悪いが登録は消しちまった」

「え、マジで!? あー、まぁそりゃそうか」


 俺らがテスト期間中はアルだけで動く状態になってたんだし、数に限りがある転移の実ばっか使うのも勿体ないもんな。アルが既に登録内容を変えてしまっているなら、もう無理に残しておく必要もないか。

 前よりもLvは上がってるし、アルの移動速度も上がってるし、もし青の群集の森林エリアに行く用事が出来たとしても大急ぎで移動すればいい。


「それじゃネス湖に辿り着いたら、転移の種を上書きするか。明日、もし緊急クエストが場所によって適正Lvの変化があれば、そこから移動出来るようにしとこう!」

「あぁ、それはありだな」

「それが良さそうなのさー!」

「うん、そうしようかな!」

「私も賛成!」

「僕は……シリウス次第ですから、なんとも言えないですね」

「あー、フーリエさんはそうなるよな」


 VR機器が壊れたというフーリエさんといつも一緒にやってるシリウスさんだけど、早ければ1日で修理が終わる事もあるからなー。故障原因にもよるし、どこに修理を持ち込んだかにもよるけども……。修理不可で丸ごと新品交換になったら早かったりもするしね。


「明日については僕の事はいいです! とりあえず今はネス湖を目指しましょう!」

「だな! さてと、それじゃアル、ここからは全速力で頼む!」

「おうよ! ケイ、全力で行くから固定は任せた! 『略:高速遊泳』『並列制御』『アクアクリエイト』『アクアクリエイト』『並列制御』『水流の操作』『水の操作』!」

「おわっ!? 水流と水での風除けだと、固定までは足りないんだな。そこは任せとけ!」


 本当にこれはアルの全力だね。さーて、それじゃ速度を抑え気味にしてくれている間に、振り落とされないように俺の岩でみんなを固定してしまおうっと!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 85/86  : 魔力値 229/232

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 66/86


 これでみんなが落ちないように固定完了! それじゃアルの全力での移動に任せて、ネス湖まで行きますか!


「それじゃネス湖に向かって、改めて出発! アル、頼んだ!」

「おうよ! んじゃ行くぜ!」

「わっ!? 急加速なのさー!」

「あはは、これは凄いかな!」

「かなり速度が上がってるね」

「凄いですね、これ!」


 クジラの巨体の上にいて、空中を流れるような川みたいな水流に乗り、上空を泳いでいくんだもんな。ゲームだからこその凄い体験だよね、これ! 前よりもかなり速度が上がってるから、これならあっという間に辿り着きそうだ!

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