第995話 少量の油


 情報を聞くだけの予定が、何故か検証出来てなかった部分の検証をする事になった。とりあえず2つの岩でひまわりの種を押し潰してるけど……これ、地味に集中力を使うんだけど!? うーん、ケインのコケをすり潰した時みたいな乱暴さじゃダメな気もするしなー。

 少しでも力加減を間違えたら失敗しそうなのが怖い……って、検証案件として放置されてた理由ってそれか!? スキルだけで考えたら、学生組がいなくても出来る内容だと思うんだけど。


「桜花さん、ちょい質問!」

「ん? ケイさん、どうした?」

「これ、上手く油が絞れなかった場合ってアイテムとしてはどうなんの!?」

「あー、成功でも失敗でも使用済み扱いで消滅するぜ。だから気軽に試せなくて、増産が出来るまで放置状態だ。俺も出来そうな人が揃ってたら頼んでって預かってて忘れてたくらいだしな」

「やっぱりそんなとこかー!? って、さっきのフーリエさんの水分吸収は!?」

「あー、そもそも使用の判定になってないって判断だな。油が絞れなくても、潰した場合は使用済み扱いだからな」

「……それって本当に水分吸収でアイテム化出来るか怪しくない?」

「失敗前提での検証案件ってなってたぜ! あくまで可能性の1つってだけだ」

「あー、なるほどね……」


 まさかの失敗前提での話だったよ。これはもう既に結構な数のひまわりの種は台無しになってて、行き詰まってる感じか。それで試す為のひまわりの種そのものの数を増やす方を優先して、色々試せるようになるまで放置気味になってた訳だ。3rdの解禁や成熟体への進化が可能になったのも影響してそうだなー。


 まぁ失敗前提でもいいか。俺がやるのが失敗でもそれはそれで情報になるし、成功すれば儲けもの。検証とか失敗あってこそだしなー。

 でも、この岩の操作で押し潰してる状況は……少し加減を間違えるとそれぞれの岩の操作の時間を無駄に削る事になりそうではある。かと言って、弱過ぎたら今度は油を絞れる程にはならなさそう。……これの操作の要求精度、結構高くない?


「ちなみに少量でも油を絞ってくれたのは十六夜さんだぜ。逆に言うと他の人で成功例は出ていないな」

「おー!? 流石は十六夜さんなのです!」

「十六夜さんしか成功してないってヤバくないか!?」


 いや、十六夜さんの操作精度があるからこそ成功させられたって事か? これ、今の段階で成功させられるものじゃない気がしてきた。もっと岩の操作のLvが上がって、スキル自体の精度が上がってからやるような事なんじゃ……? 


「……あはは、まだ油は早いのかな?」

「その可能性が高くなってきた気がするね」

「まぁケイ、頑張れよ!」

「ケイさんなら出来ますよ!」

「ちょ、失敗前提って言ってるのに!?」


 まぁここまでやってるんだし、そりゃ成功させる気でやるけどさ! でも、地味に岩の操作の時間も残り僅かになってる。話しながらやるにはちょっと無茶があり過ぎたか、この作業!

 うん、話しながらでなくても無茶な気がする。そろそろ絞れてくれないと、このまま操作の時間切れになって失敗――


「あ、ケイ、ストップかな!」

「何か液体が滲み出してきたのです!」

「マジか! よし、それじゃ岩の操作を解除……する必要もないか。フーリエさん、水分吸収を任せた!」

「え、僕がやるんですか!? いえ、任せてください!」


 なんとか操作時間切れよりも前に目的のとこまで達成したみたいだね。折角今は他のコケのフーリエさんも一緒にいるんだ。俺1人で全てをやる必要はないし、ここはフーリエさんに任せてしまおう。

 とりあえずフーリエさんが入れるように挟んでる岩の上側のを持ち上げてっと。……いや、本当に操作時間がギリギリだな。


「それじゃいきます! 『水分吸収』!」


 フーリエさんが油らしき液体が染み出しているひまわりの種の上に乗っかっていったけど、これでどうなるか。上手くいけばいいけど、とりあえず結果待ち。


「わっ、成功です! 『ひまわり油(小)』が手に入りましたよ!」

「おっしゃ、大成功!」

「はい! 大成功ですね、ケイさん!」

「ケイ、フーリエさん、ナイスかな!」

「少量だけど、油をゲットなのさー!」


 なるほど、この手順でならコケの水分吸収で油がアイテムとして獲得出来るんだな。もう水分吸収じゃなくて液体吸収の方が正しいような気もするけど、樹液とかも手に入るんだしそこは今更か。

 それにしても手に入るのはひまわり油(小)かー。……少ない量だとそれほど出番もない気がする。多ければ燃やせられるのに……って、グリースがあるじゃん! よく考えたら、コケで潤滑油を出せてたよ! あ、だから吸収も出来るのか? うーん、そこは謎。


 いや、でもスリップはコケの固有スキルじゃないし、グリースは他の種族でも使えるよな? あー、どっちにしても油として任意の相手にぶっかけるなんて真似は出来ないか。量があれば落とし穴の中に入れておいて、落ちたところ火を着けて、蓋を閉めて焼き殺すという手もありなんだけどなー。


「ケイさん、前にやってた落とし穴の応用方法ですよね! それって増殖させたコケでグリースを使ってやるのってどうですか?」

「あー、それもありか。滑らせまくって逃さないようにする落とし穴を作って……むしろ俺の遠隔同調の出番か? コケ単体だと視点の問題で一緒に焼かれる必要があるし、対策されかねないからなー」

「あ、確かに倒されて核の強制移動になったら罠が効果的にはなりませんしね……」


 なんか普通に声に出てたっぽくて会話が続いてるけど、そのまま会話は継続で! 堂々としていれば、独り言だとは思われてないっぽい気がするしね。


「……いつもの独り言だと思ったら、普通に会話になってるな?」

「まぁそれくらいは良いんじゃないかな?」

「会話として成立してるなら問題ないのです!」

「あはは、まぁそうだよね」

「そこの4人! わざわざ解説みたいに言わなくて良くね!?」

「え、さっきのってケイさんの独り言だったんですか!?」

「今のはケイさんによくある独り言の癖なのさー!」

「あ、そうなんですね! 確かにたまにある気もしてましたけど、今のは独り言だとは思いませんでした」


 なんというか普通にフーリエさんに独り言があるって認識されてたー!? まぁ今まで色々と話してきてるんだし、気付かないうちに独り言が出るのが悪癖なんだし、気付かれない訳もないかー。


「……あー、まぁフーリエさん、そこは気にしない方向でよろしく。変な癖になってるみたいで、中々抜けないんだよ、これ……」

「無くて七癖って言いますもんね! 僕は気にしないので、大丈夫です!」

「ふー、それは良かった」


 この悪癖は直そうとは思っているけど、中々上手くいってくれないからなー。これからもこういう事はあるだろうけど、気にしないでもらえると助かるね。


「さてと、ケイさん達はその油の件はどうするよ? 自分達で報告を上げとくか? 面倒なら俺の方で代行しとくが」

「あー、みんな、その辺はどうする?」

「ここは桜花さんに任せるんで良いんじゃねぇか? 俺らから情報を聞きにきたとはいえ、検証を頼んできたのは桜花さんだしな」

「私も賛成なのさー! 何よりも、早めにネス湖に行きたいのです!」


 ふむ、まぁこの案件については別に俺らからの報告でなくても問題はないもんな。検証については滞り気味っぽいし、少なからず油を絞る検証に関与していた桜花さん経由での報告の方が色々と話はスムーズかもしれない。


「ん? ケイさん達はネス湖に行くのか?」

「フーリエさん以外は今日中になんとかLv30に到達出来そうでさ。でも緊急クエストの方は順番待ちが凄そうだし、もう戦ってはきたし、空いてそうなとこでLv上げをする予定」

「あぁ、なるほど、そういう感じか。それなら尚更に報告は俺に任せとけ。この後から忘れ者の岩場に出張取引に行く予定だが、そこに集まってる人達も含めて色々と伝えてくるわ」

「そういう事なら、桜花さんに任せるのでいいかな?」

「私はそれで良いよ」

「みんなは問題ないっぽいけど、フーリエさんはどうだ?」

「え、僕ですか!? はい、問題ないですよ!」


 あ、これはフーリエさんは一緒に検証をしたって感覚がなかったっぽい? んー、普通に一緒にやったんだから、そこは遠慮するような事もないんだけどなー。


「フーリエさんはしっかり検証はしてたから、自分は関係ないみたいな反応はするなよ? ぶっちゃけ今回はアルの方が何もしてないし」

「……まぁ確かにそうだな。フーリエさん、その辺は自信を持って良いぞ?」

「今回、何もしてなかったのは私もだしね。フーリエさん、謙遜はし過ぎないようにね」

「アルマースさん、ヨッシさん……はい、分かりました! 桜花さん、報告はよろしくお願いします!」

「おう、それは任せとけ!」

「あ、それでこの『ひまわり油(小)』はどうしたら良いですか?」


 そういや水分吸収で獲得した油をどうするかは決めてないもんな。材料のひまわりの種は桜花さんの提供だから、ここは桜花さんに渡すべきか? 直接に検証結果を説明していくなら、実物はあった方が良いだろうしね。


「それなら桜花さんに渡せばいい。実物はあった方がいいよな、桜花さん?」

「まぁ確かにそれはそうだが……材料は預かりもんだし、俺がそのまま受け取るってのもな……。おし、ネス湖に行くなら癒水草茶を2時間分、人数分だけ持ってけ!」

「え、良いのか? なんかそれは俺らに得過ぎる気がするんだけど……」

「いや、材料は俺持ちじゃねぇし、検証をしてもらってその成果も渡してもらって、俺からは何もなしってのは俺のプライドが許さん!」

「あー、なるほど」


 要するにこれは桜花さんなりのこだわりの部分か。それなら変に断る方が失礼になりそうだし、ここは受け取っておきますか。手持ちの癒水草茶を使うつもりだったけど、その分をタダで貰えるのはありがたいしね。

 いや、別にタダって訳でもないか。俺は淡水は平気だから要らないとは……言わない方が良さそうだ。多分そのくらいの事は承知済みのはず。


「それじゃ桜花さん、油をどうぞ!」

「あんがとよ、フーリエさん。さて、それじゃ俺はそろそろ出張取引に戻って、油についての情報も話してくるか。ケイさん達はLv上げを頑張れよ!」

「ほいよっと! あ、ちなみに俺の感覚的な話だけど、油を絞るなら岩の操作はLv4じゃ厳しそうって伝えといてくれー! 俺でもLv4じゃギリギリだったしな」

「おっ、そりゃ貴重な情報だな! おし、その伝言はしっかり伝えとくぜ!」

「頼んだ!」


 今回の件で重要なのはコケでの水分吸収で油が獲得出来る事よりも、岩の操作の必要Lvが4を超えるという事のような気がする。大勢の人で油が絞れるようにならなければ、量産体制は整わないしね。

 多分、ひまわりの種の数と適切なLvの岩の操作があれば、コケの水分吸収である必要もないはず。まぁその辺は追加で検証してもらう必要もあるけどね。


「おし、樹洞を閉めるからなー!」

「ほいよっと」


 という事で、みんな揃って桜花さんの桜の樹洞から出てきた。ふー、なんか予定外の事にはなったけど、それなりに成果があって良かったよ。淡水への適応の為の癒水草茶はヨッシさんがまとめて受け取ってくれたね。


「あ、そうだ。桜花さん、ダメ元で聞くけど石油みたいなのは発見されたりしてる?」

「いや、流石に見つかってねぇぞ。他の油でもまださっきの少量程度しか手に入らないんだしな」

「ま、そりゃそうだ」


 今のはダメ元で聞いてみただけだし、その辺はまぁ予想通りの内容だね。でも探せばどこかにあったりはしそうだよなー。天然ガスとかもありそう。……どうやって扱うかが問題だけど。


「その辺については、そのうち情報も出てくるだろうよ! それじゃ俺はそろそろ行くぜ。Lv上げ頑張れよ、グリーズ・リベルテとフーリエさん!」

「ほいよっと!」


 みんなで軽く挨拶を交わしてから、桜花さんのメジロが飛び立っていった。これから桜花さんは出張取引と油の件を報告か。他に何も予定が無ければ一緒に行ってワイワイとしたいとこだけど、もう次の予定は決まっている。

 さーて、モンスターズ・サバイバルの方まで行く必要は無くなったし、すぐにでも出発出来そうだ。挨拶自体はしておきたい気分だけど、まぁ他に用事がないならネス湖へ行くのが優先だな。


「よし、ネス湖に向かって出発するか!」

「「「「「おー!」」」」」


 おっ、今回はフーリエさんの声も合ってたね。とりあえずハイルング高原まで行って、そこからザッタ平原に向かって移動だな。道中は雑魚ばっかだし、アルに急いでもらうか。


「はい! 少し提案があります!」

「ハーレ、どうしたの?」

「今回は泥濘みの地を経由して行きませんか!? あそこの先も確かザッタ平原に繋がっているのです!」

「あ、それも良いかもね」

「あそこは地面を移動すると手間ですけど、アルマースさんに乗って飛ぶならそっちの方が早いかもですね!」

「え、そうなのか、フーリエさん?」

「私達、その経路は進んだ事がないかな」

「あ、そうだったんですか。だったら、見てみるのもいいと思いますよ!」


 ふむふむ、フーリエさんがこう言ってくれてるし、ハーレさんとしても何気にまともに通っていないエリアだから、この機会に通り抜けて行きたいんだろう。まぁ進化記憶の結晶関係で光るレンコンを確保しに行っただけだもんな。


「ま、気分を変えて、まともに見てないエリアを見ながら進むのでも良いんじゃねぇか?」

「だなー。よし、それじゃ今日はそっちから行くか!」

「「「おー!」」」

「時間的にもまだ大丈夫ですよね!」

「あー、うん、まだ大丈夫そうだな」


 まだ21時半も来てないし、そこまで飛ばさなくても大丈夫なはず。22時までにネス湖の湖底まで辿り着いておけば何とかなるだろ。

 という事で、今回は泥濘みの地を抜けて、ザッタ平原まで行って、そこからネス湖を目指す! ザッタ平原は何度か行ってるし、そこからは移動速度を上げていけばいいか。

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