第994話 森林深部に戻って
<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
さてと、森林深部まで戻ってきた。戻ってはきたけど、さっきまでの荒野に比べるとかなり人数は少ないなー。緊急クエストが最寄りで発生している初期エリアの方に人が集まってる感じか。
あー、でもここで集まってる人が全くいない訳でもないっぽいね。チラホラと集団ででいるとこもあるみたい。
「緊急クエスト、どこも混雑してるみたいだなー」
「出遅れたー! あー、待ち時間があるんだろ? 今日は無理っぽいか」
「いや、意外と待機場所で色々やってるっぽいぞ?」
「え、マジで? そんな事やってんの?」
「操作系スキルでの的当てバトルロイヤルとか、投擲の精度勝負とか、成熟体に一撃を当てろとか、スキルの使い方講座とか、成熟体からの新スキルのお披露目会だとか、まぁ場所によって色々っぽいぞ。あぁ、どこでもバーベキューはやってるな」
「……なんか待ってる間も普通に楽しそうじゃね?」
「特訓会なんかもしてたりもするから、実戦的なスキルの熟練度稼ぎも出来そうだぞ?」
「ちょっとまとめで適正Lvの場所を調べて行ってくる!」
「俺もそうするかー! まだ21時ちょいだし、1回くらいは参戦出来るだろ!」
おー、なんか聞こえてきた会話があったけど、どうも崖上でチラッと見た光景みたいな事は色々な場所でもやってるっぽいね。待ってる間にスキルの熟練度稼ぎを実戦的な形で出来るのは、本体のLvだけが上がらないようにするには良いのかも。
この辺の企画や実行は多分だけど灰のサファリ同盟なんだろう。うーん、灰のサファリ同盟に学生組が多くて色々と滞ったっていうのも、復帰してきてからのこの動きも、高評価になる理由は納得出来るとこだね。うん、その辺りに伝手があって良かった気もするよ。
「ケイさん、提案です!」
「どした、ハーレさん?」
「明日の18時からの1時間は徹底的に遊びませんか!?」
「あー、それも良いかもな」
今日の反省点としてはこの混雑具合を見誤ってしまって、みんなの戦闘にズレが出た事だからなー。今日中にLv上限になれば無理にそこは気にしなくてもいいんだけど、それでもやっぱりいつものメンバーで戦いたいしね。
そういう意味では俺とハーレさんだけになる18時代に待機している側で企画をやるのもありだろ。その時点でPTとして順番待ちをしていれば……あー、でもそれはタイミング的に微妙か?
「ふむ、そういう事ならケイとハーレさんでPTの順番待ちをしといてくれ。俺は19時までにログインして、サヤとヨッシさんを含めて3人でそれを引き継ぐようにしておくぞ」
「え、アル、それって出来るのか?」
「まぁ18時からだと流石に厳しいが、19時前ならどうにかなる範囲だ。ただ、適正Lvの変更がないかのチェックは任せるぞ」
「そこは了解っと!」
フーリエさんから干潟の方の様子を聞いてる訳だし、それを聞いた時に日替わりの可能性は考えてある。多分ボーナス期間の開始時刻は変わらないだろうから、18時からの見極めが重要だな。
「まぁ細かい事は明日決めるとして、桜花さんのとこに行こう?」
「あんまり待たせないようにしないとかな!」
「それもそうだな。それじゃ行くぞ!」
という事で、アルに乗ったまま桜花さんの所へ移動開始! さーて、油に関する情報はあるかなー? それ以外にも何か気になる情報があれば知りたいところだよね。
まぁまとめを見ろって話でもあるんだけど、それで全部を済ませるのも味気ないし、俺らがいなかった時の雰囲気とかも知りたいから、直接話す方が良いはず!
◇ ◇ ◇
という事で、桜花さんの桜の不動種の樹洞の中までやってきた! って、今日は全然人がいないなー。あ、さっきまでメジロで出張してたんだし、今はいなくて当然か。
「おっ、来たな、グリーズ・リベルテ。フーリエさんも一緒か」
「桜花さん、久しぶり!」
「おう、ケイさん、久しぶり!」
とりあえずテスト期間中はご無沙汰だったので、みんなで挨拶を軽く済ませておかないとね。ゲームの中でも人付き合いではあるんだから、こういうところは大事!
「それでヨッシさんが聞きたい事ってのはなんだ?」
「あ、それなんだけど、油の入手方法って判明してる?」
「あー、ヨッシさんが油か。少量なら植物油は絞れば作れるのは判明してるが、根本的に量が足りねぇな」
「それって原材料不足?」
「まぁそれも一因だな。確か、今は草原エリアでひまわりや菜の花の栽培を試してるはずだぞ」
「あ、栽培からやってるだね。それじゃオリーブとかはどう?」
「オリーブはそもそも見つかったって話を聞いてねぇな。ま、現状では色々試してるけど、安定した成果は出てないってとこか。牛脂やラード辺りも未発見だな」
「……そっか」
ふむふむ、どうもまだ油は実用範囲ではないっぽい。これは油によるコケの焼き払いを筆頭に、油を使った攻撃を警戒する必要もないか?
「桜花さん、油はどうやって絞ってるのかな? 岩の操作?」
「あー、その通り岩の操作で押し潰してやってみてるが、失敗ばかりで効率が悪くてな。コケの水分吸収が使えるんじゃないかって推測が出てはいるんだが、ケイさんとフーリエさんは試してみる気はあるか?」
「へ? え、なんでそうなるんだ?」
「ほら、水分吸収で樹液が手に入るってのもあるだろう? あの感じで油をアイテム化出来ないかって推測があるんだよ」
「あー、そういえば確かに……」
すっかり存在を忘れてたけど、確かに水分吸収で樹液を手に入れる事も出来たっけ。……それなら油を絞れる植物の実から、水分吸収で油が採れる? いや、水分吸収で油を手に入れるってどういう事って言いたくはなるけども!
「てか、他にコケの人もいるんじゃ?」
「あー、それはやってみたけどダメでな。ケイさんなら変な発想で成功させるんじゃねぇかって期待だな。その弟子のフーリエさんにも期待ってとこか」
「どういう期待のされ方!?」
「僕もなんですか!?」
根本的に他のコケの人で無理だったなら、俺でも無理じゃね? 俺への期待が無茶振り過ぎるんだけど!? しかもフーリエさんまで対象になってるし!
「って事で少し試してみてくれねぇか? ひまわりの種なら少しは持ってるからな」
「……いやー、無理だと思うぞ?」
「ケイさん、無理だとは決まってないですよ!」
「まぁそりゃそうだけど……それなら、フーリエさんもコケだし、一緒にやってみるか?」
「はい、そうしましょう!」
「おし、決まりだな! その辺の椅子代わりの岩の上ででもやってみてくれ」
「はい!」
「ほいよっと」
何がどうしてこうなったのかがよく分からないけど、桜花さんが樹洞の中にある椅子代わりの比較的平らな岩の上に乾燥しているひまわりの種を並べていった。俺とフーリエさんの2人分を分けてくれてるなー。
「……桜花さん、これって単純に量が足りてない可能性もない?」
「ま、それは確実にあるだろうな! でも、少量でも絞れる事だけは確定してるぜ。岩の操作の精度がかなり高くないと成功しねぇが!」
「岩の操作でも難しいのか。とりあえずダメ元でやるだけやってみるか」
「はい、そうしましょう!」
とは言っても、油を絞るとかやった事ないしなー。普通に水分吸収を使ったのでは無理なのは確定済み。岩の操作で押し潰して絞るのは成功済みかー。いや、他にどんな手段でやれば良いんだ?
「とりあえずダメ元で僕がやってみますね! 『水分吸収』! あ、全然ダメですね……」
フーリエさんが置かれたひまわりの種に覆い被さって水分吸収をしてみたけど……やっぱりダメだったみたいだなー。うーん、ただの岩の操作だけでは期待されてない気もするし、どうやればいいんだ?
「誰かなんか知ってる事ないかー?」
「……悪いが、特に思い当たる事はねぇな」
「アルと同じくかな」
「私もないのさー!」
「……残念だけど、私も油の絞り方は詳しくないね」
「やっぱりそうなるかー」
うん、誰もどうにか出来そうな案は持っていなかった。いや、本当にこれはどうすればいい? 今思いついたのはある程度潰した状態にしてから、そこで水分吸収を使ってみることだけど、それくらいはもう試してそうな気もするしなー。一応確認をしとく?
「桜花さん、岩の操作で絞り始めた段階で水分吸収をするって方法は試してる?」
「ん? それくらいなら試してそうなもんだが……いや、どうなんだ? 地味に試したって聞いた覚えがないな。ちょっと待っててくれ、調べてくる」
「え、やってないのか!?」
まさかの未検証の手段なのか!? いやいや、そんなすぐに思いつくような内容を検証してないって事はないよな!? もしこれの検証が出来てないなら、テスト期間で不在中の検証精度が不安になってくるんだけど!?
「……検証項目として上がってはいたが、人員不足で放置になってるっぽいな」
「マジか!? ……てか、木でもアイテム化が出来るようになってなかったっけ?」
「あぁ、それか。それについてはちょっとした検証があったな」
「え、アル、それってどんなの?」
「水だけは同じ量なんだが、樹液のアイテム化については種族によって1回あたりの総量が変わるみたいだぞ。木が1番多くて、その次に草花系、コケが1番少ないって違いがある。吸収する精度は逆の順番だな」
「そんな違いがあったんかい!」
いや、でもサイズを考えたらそういう仕様が正解か? アルの木と俺のコケが同じ量を吸収出来るってのも変な話ではあるしさ。……水だけは例外っぽいけど。
「……もしかしてコケなら少量でも油が吸収出来るかもって期待もあったりする?」
「おう、ケイさん、大正解だ! 少量でも吸収出来る精度の高いコケでアイテム化が可能なら、量さえ用意すれば草花や木でも油のアイテム化が出来る可能性が出てくるからな」
「なるほどなー。まぁ試せてない案件が残ってるなら、それでやってみるかー」
どうやら単純な人員不足が原因での未検証案件みたいだけど、俺は実行出来るもんな。それならその案件は俺がやってしまえばいいだけだ。こういうところは出来る人が出来る時にやればいい!
さて、そうなるとまずは岩の操作で油を絞れるとこくらいから始めないといけないね。
「桜花さん、このひまわりの種は全部使ってもいいか?」
「おう、それは問題ねぇぜ!」
「それじゃ僕が失敗したのも一緒に置いて……誰か運んでもらっても良いですか?」
「そういう事なら任せてなのさー! サヤ、ヨッシ、運ぼー!」
「うん、分かったかな」
「それがいいよね」
フーリエさんでは流石にひまわりの種を運ぶのは難しかったらしく、サヤとヨッシさんとハーレさんが手分けをして運んでくれた。……ヨッシさんがひまわりの種の下に氷を生成して氷の操作で運ぶのが早い気もしたけど、そこは言わなくてもいいか。
「さてと、それじゃやるだけやってみますか。失敗しても知らないからなー!」
「おう、そこは気にしなくていいぞ、ケイさん」
「ケイ、失敗すんなよ!」
「無駄にプレッシャーをかけてくるなよ、アル!?」
まったく、桜花さんは失敗してもいいって言ってるのに、アルは失敗するなとは無茶な事を言ってくれる! あぁ、もうそういう事を言うなら成功させちまおうじゃん!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 85/86 : 魔力値 229/232
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 83/86 : 魔力値 226/232
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
とりあえず小石を重ならないように並べて生成。椅子代わりの岩を使おうかとも思ったけど、凸凹してるから潰すには適してないという判断で! 行動値は……多分足りる筈!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります> 行動値 64/86
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を38消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります> 行動値 26/86
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
とりあえずこれで平坦な岩を2つ生成と操作は完了。まだ行動値は残ってるけど、応用スキルの操作系スキルの並列制御は消耗が激しいな。でもまぁこの方が力加減もしやすいから、今はこれでいいや。
とりあえずひまわりの種は生成した下側の岩の上に乗せたから、上からもう1つも岩を被せて、挟み込む! これって一気に押し潰すよりは、少しずつ力を加えていった方がいいかな?
「サヤとハーレさん、油が滲み出始めたら教えてくれ」
「分かったかな!」
「了解なのさー!」
ここは些細な変化を見逃さないこの2人の出番だな。さて、それじゃちょっとずつ上下から押し潰して、時々様子を見ながらやっていこう。
なんだか予定外の検証にはなってしまったけど、これがもし成功すれば油の大量生産がしやすくなるかもしれないしね。そうなれば開催が控えている競争クエストでの武器になる可能性もある。
もし失敗したとしても、他の群集からの油に対する警戒度が下げられるからね。成功したら警戒しなきゃいけなくなるけど、知らない状況でそうなるよりは遥かにいいからなー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます