第993話 緊急クエストの影響


<『忘れ者の岩場』から『ソヨカゼ草原』に移動しました>


 さて、崖上に戻ってきたけど……更に人が増えてない? え、これって1時間待ちとかそういうレベルを超えてない? というか、数ヵ所に分かれて人集りが出来てるのは何事?


「さぁ、操作系スキルの的当て勝負、通常スキルの部! 果たして誰が勝ち抜くのか!」

「それでは改めまして簡単なルール説明を行います。根の操作を除く、通常スキルに該当する操作系スキルを使用してのバトルロイヤル戦となります。最大操作数は3つまでで、1つは必ず操作キャラの上部に的として固定しておく事とします」

「そして、操作の時間切れになるか、的に設定した1つに被弾すると即座に敗退だー! 同じ系統のスキルだけを使って、大勢の中から勝ち残れ!」


 上から一ヶ所を覗き込んでみたら、そんな声が聞こえてきた。なに、そんな面白そうな事をやってんの!? てか、待ってる間に暇だから熟練度稼ぎを兼ねてイベント化してるな、これ!? 操作系スキルならちょっと参加して――


「ケイ、行くなよ?」

「……やっぱり駄目?」

「どうしても参加したいなら止めはしないが、その場合は置いていくぞ?」

「……だよなぁ」


 あー、操作系スキルでのバトルロイヤル風な的当て大会って楽しそう。……でも、思いっきり俺は狙われそうだし、アルに置いていく宣言をされたしなー。

 今の時間は21時だけど、ちょっと情報収集に行きたいんだから流石に駄目か。うーん、惜しい! でもまぁまだ数日は緊急クエストでのボーナス期間はありそうだし、その時に待たないといけない時にやってたら参加しよう。


「……ハーレもウズウズしてない?」

「実況をやりたいのです! テスト明けだからパーっと……そういえば砂浜で遊ぶ件はどうなったのー!?」

「あ、そういえばそうだったね」

「えっと……そっちの方がもっと凄い事になってるかな?」


 どれどれ? ここからだと少し遠いけど、全然見えない範囲ではないし……って、砂浜の方は近接戦闘での乱戦をやってる!? ん? 赤いリスの人を他の人が集中攻撃してるっぽいけど、あれってレナさんか? んー、分からん。


「ハーレさん」

「……なんですか、ケイさん?」

「今回は諦めろ。俺も諦めた」

「そう言われると思ったのさー!? あぅ……砂浜で遊ぶ予定が台無しなのです……」


 どう見ても割り込める状態じゃなかったからばっさりと言ったけど、ハーレさんが落ち込んでしまったか。まぁその気持ちも分からない訳じゃないんだけど、正直この混雑具合だとどうしようもないだろ。

 待ち始めで時間潰しの為に色々と企画をする段階だったら開催側に回ってやる事も出来ただろうけど、今からは流石に無理。……とはいえ、完全にばっさり切り捨てるのもなー。


「アル、他に砂浜ってないか?」

「……なくはないが、この様子だと海沿いはどこも混雑してんじゃねぇか?」

「だよなぁ……」

「あの、それならネス湖とかどうですか? 位置によっては砂地になっている湖畔の場所もあったと思うんですけど」

「おぉ、フーリエさん! それはナイスアイデアなのです!」

「あー、その手があったか! フーリエさん、ナイス!」

「いえいえ、ふと思いついただけですし!」


 湖と海で雰囲気はかなり変わるだろうけど、今考えられる代替案としては悪くはない。ハーレさんの反応も良い感じだし、これは普通に良いんじゃね?


「あ、どうせならネス湖の湖底にあるエリアに行くか? えーと、アル、名前なんだっけ?」

「ネス湖の底なら『湖底森』だな。ふむ、今日の夜の大詰めでLv30になるまで戦って、その後に湖畔で遊ぶ感じにするか? 今のこの様子なら多分空いてるぞ」

「おー! 私はそれで賛成なのさー!」

「うん、私もそれで良いかな!」

「私も賛成!」

「僕も一緒に良いですか!?」

「もちろんなのさー!」

「それじゃそれで決定だな!」


 満場一致でこれからの予定も決定! 緊急クエストのボーナスの恩恵は欲しいけども、2回戦えたならまぁ良い方だろ。サヤとヨッシさんが1回だけなのは気にはなるけど……今から待つともう1回戦えるのが23時からとかになりそうだしなー。

 それならその2時間を使って他の適正Lvで戦える場所で戦うのも悪くはない。今の俺らとしては群集クエストの進行よりも、Lv30に到達する方が優先度は高いしね。


「そういや群集クエストの進捗具合ってどうなってんだ?」

「あー、今のうちに確認しとくか」


 他のみんなも頷いているし、移動の前に群集クエストの今の状況を確認していくかー。今の状況はどんな風になってるんだろ?


群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》


【群集拠点種:エニシ(始まりの森林・灰の群集エリア1)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  82%


【群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  73%


【群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  60%


【群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  74%


【群集拠点種:ヨシミ(始まりの海原・灰の群集エリア5)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  69%

 


 なんというか、思ったほど前見た時よりもあんまり進んでない? てか、地味に森林エリアが1番進んではいるんだな。


「ほう、流石はボーナス経験値か。結構進んだじゃねぇか」

「え、これでか!?」

「おう、これでだ。昨日までは1日で5%も進めば良い方だったんだぞ?」

「その基準なら確かに一気に進んでるかな!?」

「3時間で5%は超えているのです!」

「これ、下手したら明日で森林エリアはクリアになるんじゃない?」

「このペースならそれはあり得るな」


 ふむふむ、早ければ明日には1つ目の経路の確立する可能性もあるんだな。そうなると、場合によっては明日から競争クエストが始まる可能性もあるのか。


「アル、森林エリアが他より進んでる理由って何かあったりする?」

「あー、それか。森林エリアが1番グラナータ灼熱洞に行きやすいからだな」

「え、そうなのかな?」

「森林深部からだとミズキの森林と上風の丘を通る必要があるし、地味に上風の丘は風が強くて工夫しないと通りにくいだろ? それに対して森林エリアからだと北側の高原エリアを抜けたらもう封熱の霊峰なんだよ。しかもグラナータ灼熱洞の位置はそっちからの方が近い。まぁ今はフィールドボスの連戦の方が人気だがな」

「あー、そういう感じか」


 俺らは森林深部をメインに活動してるから知らなかったけど、グラナータ灼熱洞に行くには森林エリアから行く方が早かったのか。うーん、その情報はもっと早くに知りたかった!


「って、アル!? だったらなんで昼間は森林深部から行ったんだよ!?」

「ん? その方が上風の丘でのフィールドボスの連戦や、色々と話す時間も確保出来ただろ?」

「……そう言われたら、確かにそうだなー」


 うん、普通にあのルートを通るだけの明確な理由があったよ。そっか、グラナータ灼熱洞はLv30までにLv上げに向いてる状態になってるし、あくまで昼間は平日の昼間だから空いてただけだしね。

 群集クエストの経験値稼ぎの場所としても人気があって、森林エリア経由で移動してた人が多いんだな。Lv上限で過剰になる経験値の提供先の群集拠点種は、前回と同じなら最後に立ち寄った初期エリアの群集拠点種になるしね。


「とりあえず桜花さんかモンスターズ・サバイバルの人達のとこに移動しない? 色々と考えるのはその後にネス湖まで移動する間でもいいよね?」

「あー、確かにそりゃそうだ。サクッと帰還の実で……って、そういや昼間に使ってたっけ」

「そういやそうか。なら、他の場所を経由して戻るとして……どこのを使う?」

「はい! 近くにいるので荒野エリアへの帰還の実で良いと思います!」

「……近くにいるのって関係あるのかな?」

「ないと思うけど……」

「ないですよね?」


 うん、どこをどう考えても荒野エリアである意味は欠片もない。まぁ逆に駄目な理由も欠片もないけどねー。群集拠点種のすぐ側なら荒野エリアの乾燥の影響は受けないし、変に悩むよりはスパッと決めてしまった方が楽ではある。


「そこはただの気分の問題なのさー!」

「まぁ、途中で経由するだけだからそれで問題はないか」

「理由はともかく、荒野エリアへの帰還の実で決定だな! あ、フーリエさんは帰還の実は大丈夫か?」

「あ、はい、そこは大丈夫です!」

「おし、それじゃひとまず荒野エリアまで帰還の実で転移――」

「あー、少し待て。その前に桜花さんへ連絡を取ってみる。場合によってはどこかに出張してるかもしれないからな」

「あ、そういやそうか。アル、任せた!」

「おうよ。あー、一応森林深部にはいるみたいだな。……おう、桜花さん、こんばんはだな! ちょっと聞きたい事があるんだが、この後は時間は――」


 さてと桜花さんとはフレンドコールが繋がったみたいだし、今は少し待機だね。まぁ内容を全て聞く訳ではなくて、都合がいいかの確認だからすぐに終わるだろ。


「桜花さんの都合が良ければ、淡水への適応手段も用意かな?」

「サヤ、癒水草茶はそれなりに数はあるから大丈夫だよ?」

「あ、そうなのかな!」

「ふっふっふ、流石はヨッシなのです! あ、フーリエさんの分も必要ですか!?」

「それはあると助かります!」

「ん? フーリエさんのコケは淡水への適応は出来てないのか?」


 川の中にあったコケを群体化したら……って、そのパターンで水への適応は可能になるけど、進化させた際に水属性を得ていないと意味はないのか? うーん、その辺はよく分からん。


「それなら幼生体の時に川の中のコケを群体化するって方法で一時的に適応は出来たんですけど、成長体へ進化する時に物理型にしたら消えちゃいました。成長体になってから、同じように群体化はしたんですけど水への適応は出来なかったです」

「あー、そういう感じになるのか」

「でも、自前で淡水適応用の特性の実も癒水草茶も持っているので、そこら辺は大丈夫です!」

「そういう事なら大丈夫そうだなー」


 今のを聞いた限りだと、コケは水属性持ちに進化してしまわないと淡水への適応は無理っぽい感じだね。俺のコケは一度水中のみで活動するという、進化と言って良いのか怪しい進化をしてから、改めて陸地への適応進化をしてるからなー。割と特殊な進化経路になってるのかも。


「おう。それじゃこれから行く」

「アル、桜花さんは大丈夫そうかな?」

「出張取引をしに行って戻ってきたとこだとよ。少し休憩するから、その間なら問題ないそうだ」

「お、良いタイミングじゃん!」

「って事で、急ぐぞ」

「それならまずは改めて荒野エリアまで帰還の実で転移だな!」

「「「「おー!」」」」

「はい!」


 という事で、まずは荒野エリアへの帰還の実を使用して、その後に森林深部まで転移だな。とりあえず桜花さんに油の事を聞いてみて、そこで分かればよし。分からなければミズキの森林まで移動して、モンスターズ・サバイバルの人達に聞いてみよう。

 まぁ灰のサファリ同盟は忙しそうだし、モンスターズ・サバイバルの人達がいつもの場所にいるとも限らないけどね。そうなったらそうなったで仕方ない。その辺を確認する為にもまずは移動だ!



 ◇ ◇ ◇



<『ソヨカゼ草原』から『始まりの荒野・灰の群集エリア4』に移動しました>


 さて、とりあえず帰還の実で転移してきたけど……ここも人が多いな!? 荒野エリアでこんなに人が大勢いるのって初めて見たんだけど!


「こんなとこに穴場があったとは!」

「急げ、急げー!」

「もう既に待ち時間が多いみたいだけど、まだ今日中に1戦くらいはいけるはず!」

「灰のサファリ同盟が仕切って動いてくれてるらしいぞ!」

「……し、萎れる」

「おーい、誰か魔法で水を出してやれー! 萎れてる草花プレイヤーが結構いるぞ!」

「仕方ねぇな! 『アクアクリエイト』『水流の操作』! ほれ、適応が面倒な奴は運んでやるから、飛び込んでこい」

「おぉ、助かる!」

「ありがとー!」

「灰のサファリ同盟、学生組が多くて人手が足りてなかったみたいだもんな」

「いやー、仕切り役が復活は助かるわー」

「……いや、学生組に頼りっきりってのもどうなんだ?」

「別に嫌々やってる訳じゃねぇし、良いんじゃねぇの?」

「年齢だけで威張る奴は認めず嫌がるだろうが、灰のサファリ同盟で仕切ってくれてる学生組は優秀な類だしなー。うちの無能上司よりよっぽどしっかりしてるわ」

「あー、確かにそれは言えるかもなー。俺のとこのダメ上司と変えて欲しい……」


 ふむふむ、どうやら忘れ者の岩場に向かって移動しようとしてるみたいだね。水流を作って流れていく桜の木の人と、その水流に便乗して流れていくスイカや大根やイチゴやチューリップとか、なんか妙な感じの光景もあるなー。

 まぁここ荒野エリアだけの為に乾燥適応するのも面倒って気持ちは分からなくもないけどね。うん、適応の種の方があればいいけど、他だと消耗品だしな。


「なんというか、灰のサファリ同盟って結構な高評価?」

「あー、まぁそうなるな。ゲームだから自分達で自発的にってのはあるだろうが、積極性や統率力や行動力があるのは間違いないぞ」

「なんだかハーレ、嬉しそうだね?」

「ラックが褒められてるみたいでなんだか嬉しいのさー!」

「あ、確かにそれはなんとなく分かるかな!」


 まぁラックさんはハーレさんの同級生だし、灰のサファリ同盟で色々やってるから確実に褒めてる対象になるもんな。うん、友達が褒められてるのを見たら、そういう気持ちになるのも分からなくはない。


「社会人のアルから見たらそういう評価になるんだな?」

「実際の仕事となると業種にもよるだろうし、人によって評価基準は変わってくるだろうけどな。ま、その辺の話は今はいいだろ。桜花さんを待たせてるし、早く移動するぞ」

「それもそうだなー」


 思わぬ感じで灰のサファリ同盟にいる学生組に対する社会人プレイヤーの意見を聞いたけど、色々企画して大勢をまとめてるんだから実際凄いよなー。まぁ明確に学生組だと知ってるのはラックさんくらいだけど、ラックさんはラックさんで別の意味で凄いか。

 それはともかくとして、アルの言うように桜花さんを待たせているんだから森林深部まで急がないとね! あ、新しい帰還の実を貰うのを忘れないように!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る