第990話 敵の補充の下準備


 ふっふっふ、尖った石での一般生物の魚の大量撃破はやりやすい! 夕方の時はロブスターのハサミで殴って回ってたけど、誰が多く倒すかという勝負なら速度重視! この勝負、もらった!


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 82/84 → 82/86


 え、ダメージ判定が発生? ちょっと待て、なんでここでダメージ判定が出てくる!? あ、ヤバ!? 焦って土の操作が乱れて岩場に突っ込んだし、このままじゃ俺も落下するじゃん!? 

 いや、落ち着け。ここは慌てずに冷静にいこう。別に死なないし、冷静になればこのくらいの高さからならちゃんと着地出来るはず! ……よし、なんとか無事に着地出来た!


「ケイさん、大丈夫ですか!?」

「なんとかなー。でも、ダメージ発生って何が起きた……?」

「あー、ケイ、多分この海水だ」

「……海水って、あー!? レンズ代わりになって火が着いた!?」

「火は着いてないだろうが、ダメージになるくらいの光の収束はあったんだろうよ」

「えー、マジか」


 うっわ、それってかなり運が悪い気がする……。ピンポイントで俺の水のカーペットに光が収束してなければ、ダメージが発生するような事もなかったはずだしね。そんな偶然って……。


「……アル、狙ってたか!?」

「狙ってねぇよ! 何の得があるんだよ、それ!?」

「……だよなー」


 みんなと結託して俺の妨害……なんてする意味は欠片もないから、今のは単なる事故だろうね。冗談半分で言っただけで本気で言った訳じゃないし……って、何かロブスターの脚に当たった?

 ふむ、流木っぽく見えるけど……なんかウネウネと動いてる!? え、これって苦手生物フィルタがかかってるっぽいし、もしかしてウミヘビか! あ、俺から離れるように逃げていってる。


「ケイさん、ウミヘビは僕が仕留めます!」

「あー、これくらいなら問題ない!」


 別に苦手生物フィルタのおかげで大丈夫ではあるんだけど、フーリエさんは俺がヘビが苦手な事を気にしてるっぽいし、ここは俺がちゃんとヘビ相手でも動けるってとこは見せておこうか。……あんまり気分的には近接で戦いたくはないけど、ここは近接でやっておいた方がフーリエさんも安心するよな。


<行動値を1消費して『鋏衝打Lv1』を発動します>  行動値 81/86


 ぶっちゃけ通常攻撃でも威力は充分だと思うけど、確実に一撃で仕留める為にスキルを使う! 行動値の節約の為に、Lv1での発動にはするけども。とりあえずくたばれ、動く流木に見える一般生物のウミヘビ!


「……あれ? 全然大丈夫そうです?」

「だから大丈夫だって言ったろ、フーリエさん。苦手生物フィルタなしの状態なら流石に勘弁だけど、効果ありならこれくらいは平気だってば」

「そうみたいですね……ケイさん、無理してると思ってすみませんでした!」

「あー、言ってなかった俺も俺だから、その辺は気にしなくていいぞ!」

「はい、そうします!」

「とりあえずこの件は一件落着かな!」

「……サヤ、ああいうのは予め言ってくれない!?」

「あはは、話の流れでついね?」

「いやまぁ、そりゃそうだけど……」


 サヤの強引な方法ではあったけど、フーリエさんに俺がヘビが苦手だって事を伝えるには良い機会にはなったもんな。……まぁそれはそれとして、今度サヤには苦手なもので驚いてもらおう。少しくらいは反撃しておきたい気分――


「わっ!? ぎゃー!?」

「ハーレさん、どうした!?」

「あれが、あれが大量にいたのです!? 苦手生物フィルタが効いてないのさー!?」


 え、それってかなりマズいバグな気がするけど……ここであれが出てくる? しかも一般生物で? いやいや、いくらなんでも磯場であれは出ないだろ。


「ハーレ、落ち着いて? それ、多分フナムシだよ?」

「フナムシなの!? 苦手生物フィルタにすぐに登録するのです!」

「あっ、あれかな! うん、確かにフナムシの群れが移動してるかな」

「あー、あちこち逃げ回ってんな。なるほど、タイドプールの中以外でもああいうのはいるのか」

「みたいだなー」


 夕方の時は見かけなかった気もするけど、戦うタイドプールの位置によって微妙に変わってくるのかもね。

 それにしても、フナムシの群れは急に見たらビックリはするよな。あ、フナムシの群れは逃げていった先で他のPTにまとめて倒された。うん、あれは餌には良さそうだな。


「てか、ハーレさんはフナムシも駄目なのか?」

「何が違うのか分からないのさー!? 苦手なものは苦手なのです!」

「……まぁその気持ちは分かる」


 俺だってヘビが苦手だし、ハーレさんがあれを苦手なのもよく知ってるし、良く似た雰囲気のフナムシも苦手にはなるかー。


「ハーレさん、ちなみにフナムシは苦手生物フィルタではどう見えるんだ?」

「あれと同じように黒い饅頭に見えるようになったのです! これならもう大丈夫なのさー!」

「ハーレ、またケイさんを投げつけないようにね?」

「あぅ!? それはもうしないのです!」

「え、それって何があったんですか?」

「フーリエさん、世の中には知らなくても良い事もあるのさー!」

「な、なんか圧力が凄いですね!? そういう事なら無理に聞くのはやめておきますけど、こんなにのんびりしてて良いんですか?」


 あ、そういえば俺はウミヘビを叩き潰してから何もしてないし、その後から話しているフーリエさんも同様だな。ハーレさんは一時的に戦闘どころじゃなくなっていて……サヤは地味に倒してたよ。ヨッシさんは……統率個体のハチ達がすごい活躍をしてるっぽい。

 あ、フナムシの群れはビックリしたけど、いつの間にやら大体の一般生物は仕留め切った? うん、餌用の魚もインベントリに大量! あー、数種類でそれぞれにスタック可能になってるのか。……そういやインベントリの量を増やす称号ってビギナー以上のはまだ無いのかな? まぁ容量には困ってないから、別に無理に無くても大丈夫だけど。


「うーん、なんか想定外のトラブルがあったし、勝負は取り止めかな?」

「……あはは、まぁこれだけあったらね」

「それで賛成なのさー!」

「俺も賛成! 今のはトラブルがあり過ぎた!」

「確かにそうですよね!」

「おし、それなら餌をばら撒きにいくぞ! 全員乗れ!」

「「「「おー!」」」」

「あ、はい!」


 という事で、アルのクジラの背に乗っていく。俺らが乗り終わったのを確認してから、アルは空中に浮かしていた海水をタイドプールに戻した。……まぁこの後に敵の補充の波があるから、あんまり意味もない気もするけどね。

 周囲を見れば、磯場の白波の上から飛べる種族の人の上に乗ってたり、岩で足場を作ってその上から餌をばら撒いている人が多い。どこも次の敵の補充に向けて動いてるな。


「さてと、それじゃばら撒いていきますか」

「えっと、これは適当にばら撒くので良いんだよね?」

「確かそう聞いたかな!」

「その通りなのさー! 海の中に落ちさえすれば、それで問題ないのです!」

「サヤとヨッシさんは、順番待ちの間に確認してたってとこか?」

「アル、正解かな! 灰のサファリ同盟の人達が整理にやってきてから、把握しているここでの戦い方のレクチャーをしてくれたかな」

「あれは分かりやすくて良かったですね!」

「おぉ、そんな事になってたんだー!」


 相変わらず灰のサファリ同盟は色んな事をやってくれてるね。順番待ちの整理といい、戦い方のレクチャーといい、効率が良くなるようにしてくれるのはありがたい。


「ま、とりあえず大急ぎで餌をばら撒いていくぞ。他のPTに任せっぱなしって訳にもいかんしな」

「そりゃそうだ」


 ちょっと色々と脱線し過ぎていたけど、ここは俺らも頑張って敵の補充に向けて動いていかないといけないね。まだ今回の戦闘は下準備の段階で、本格的に始まってすらいないんだしさ。

 という事で、アルのクジラの背の上から盛大に次から次へと餌の魚をばら撒いていく! 一応回復アイテムとしても使えるみたいだけど、回復量は微妙だし、敵の補充に必要だから出し惜しみは無しだ!


「ここで出てくる成熟体は海中の敵ばっかりらしいですけど、なんだか味気ないですね……」

「あー、それは確かになー」


 夕方の一番最初に出てきたリュウグウノツカイはベスタが海中から引っ張り出してきたけども、それ以降は一度も海から出てきた成熟体は見てないもんな。

 刹那さんがずっとジンベエさんとフレンドコールを繋いでいて、ダイオウイカとか巨大なウニとかがいたのは聞いたけど、全部海中戦だったみたいさから見る機会はなかったんだよね。


「サヤとヨッシさんが待ってる間に、なんか面白い成熟体って出てきたりした?」

「ううん、特に何も見てはいないかな」

「途中から陸エリアの成熟体の人達は他のエリアに引き上げちゃったしね」

「あー、なるほど」


 そういやフーリエさんから干潟の様子を聞いた時に、陸エリアの人はそっちに行ったって言ってたっけ。それだと今回は海の中で出てくる成熟体を見る機会はなさそうだなー。

 ここで出てくる成熟体は見たい気分だけど、まぁ状況的に仕方ないかー。今は完全に推測でしかないけど、明日の緊急クエストの際に適正Lvの変更があれば嬉しいんだけどな。干潟は干潟で見てみたいし、そこで出てくる成熟体も見てみたい。


「あ、波が高くなり始めたのです!」

「敵の補充が始まるな! アル!」

「おうよ!」


 この波は敵を補充するのが目的だからダメージはそんなにないけど、流されないように気を付けないと海に落ちるからね。俺らは空中に退避してるから、その辺は問題なし!


「おわっ!? やば、落ちた!?」

「あー、油断してるからそうなるんだよ! ほれ、根に捕まって上がってこい。『根の操作』!」

「お、サンキ――」

「……え?」


 ちょ、他のPTで波に呑まれて海に落ちたイタチの人がいたけど、アルのクジラほどは大きくはないけど、それでもかなり巨大なサメに喰われた!? あ、なんかサメが白光を放ってるし、イタチの人はポリゴンになって砕け散っていったから即死っぽい。


「ちょ、即死攻撃とか勘弁してくれね!?」

「てか、これって成熟体のサメか! 全員、海から下がれ! このサメ、遠慮なく襲ってくるっぽいぞ!」

「え、そういうパターンもあるのか!?」

「退避、退避ー!」

「成熟体のサメ、牙がヤバくて怖いわ!」


 海へと餌をばら撒いていたみんなが、大慌てで波打ち際から離れていく。……このサメ、未成体の俺らじゃヤバすぎる相手だ!


「アル、俺らも離れるぞ!」

「分かってる!」


 すぐにアルも岩場の方へと大急ぎで移動を開始しているけど、その間にもサメの犠牲者は出ていた。まぁ他のエリアに比べて狭いエリアだから、ランダムリスポーンをしてもすぐに合流して大した事はないみたいだね。


「アルさん、急いでなのさー! 私達が狙われているのです!」

「ちっ、まじかよ! 『略:自己強化』『略:高速遊泳』『根の操作』!」

「アル、ナイス!」


 思いっきり海中からジャンプをしてアルに噛みつこうとしたサメだったけど、アルが一気に加速した事で間一髪で回避成功。しかも今の土壇場でしっかり俺らの落下防止に根で固定してくれたのは助かった。って、ちょっと待った!?


「あっ!?」

「ちっ、根で掴むのが甘かったか!」

「フーリエさん!?」


 くっ、アルの根でフーリエさんをしっかりと固定出来てなかったっぽい! このまま海に落ちたら、海面で待ち構えているあのサメに喰われるぞ!? 死んでも問題ないかもしれないけど、ここで死なせたら師匠としての面目がないにも程がある!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 80/86 : 魔力値 226/232

<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 77/86


 よし、落ちかけたフーリエさんを生成した水で包み込んで、アルのクジラの上まで退避させるのには成功! その間に海の上からは移動したから、これでもう大丈夫だろう。とりあえず水の操作は解除っと。


「ケイさん、ありがとうございます!」

「ランダムリスポーンでどうにかなるとしても見殺しには出来ないしな。とりあえず無事で良かった」

「はい! それにしても、あんな凶暴な成熟体もいる……え、あれってなんですか?」

「……イカかタコの触手か?」

「でも、相当大きいのです!?」

「……サメと同じくらい? ううん、もっと大きいかな?」

「あれも成熟体だよね? あ、プレイヤーみたい?」


 あー、確かに灰色のカーソルが見えてるからこの……見えてるのが触手だけだからタコかイカか分からないんだけど。えーと、タコが8本で、イカが10本だっけ? これは……あぁ、動きまくってるから数えにくい!


「陸の方の人達、失礼したな。まさかいきなりそっちに襲いかかるとは思わなかったが、このサメは俺らの方でしっかり仕留めておく」


 あ、そんな事を言いながら丸い頭が見えた。うん、どうやらサメを捕まえてくれたこの人はタコっぽい。……タコならクラーケンか? あー、でも成熟体だとまだクラーケンって名前にはならない? うーん、この辺は分からないね。


「それじゃ邪魔したな」


 おー、サメを捕らえたまま海中へと潜っていったから、これからあの凶暴なサメは仕留められるんだな。うん、ご愁傷様です。


「さてと、危ないサメもいなくなったし、あれの討伐は成熟体の人達に任せて、俺らはLv上げをしていくぞー!」

「「「「おー!」」」」

「は、はい!」


 ちょっと想定外のトラブルはあったけども、なんだかんだで全員無事だからね。敵の補充もちゃんと出来てるし、さっきのタイドプールまで戻って残滓の乱獲を始めますか!

 

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