第989話 餌の一般生物


<『ソヨカゼ草原』から『忘れ者の岩場』に移動しました>


 エリアを移動してから、磯場の方へと降りていく! もうどこのPTが交代するかの順番が決まっていたみたいで、他のPTも同時に降りている。飛んでたり、空中を駆けたり、泳いだり、移動手段は様々だね。単純に飛び降りてる人もいるけど……あ、着地に失敗してる人もいた。まぁそういう事もあるさ。


 えーと、戦闘をやめているPTと交代って言ってたけど、どこのPTと交代するのが良いんだ? 適当に行って他のPTと重なるのはマズい気がするけど、その辺は……ん? なんか4本の尻尾がある青白い色のキツネの人が近付いて……って、確実に成熟体の人だ!? 多分この感じは氷属性! いや、地味に水属性も混ざってそう?


「そこの木を背負ったクジラに乗ってるPTはこっちにお願いします!」

「あぁ、分かった」


 あ、ただ単に交代の誘導をしてくれてるだけか。この成熟体のキツネの人は灰のサファリ同盟の所属だし、よく見たら他にも誘導をしてくれてる人が何人もいるっぽい。アルはその誘導に従って移動してるし、こうやって整理してくれるのはありがたいね。


「成熟体でキツネの尻尾が増えてるのさー! でもオフライン版とは少し違うのです!」

「まぁ根本的に尻尾が増えるのって、キツネくらいなもんだったけどなー」


 確かオフライン版のキツネの尻尾が増える進化ルートだと未成体から2本、成熟体で5本、完全体で9本、超越体は人化の上で9本だったはず。でも、オンライン版だとどうも微妙に本数が違うっぽい? 完全体では9本にならないんじゃないか、これ?

 まぁ合成進化とかで根本的な進化方法が変わってるし、尻尾が増えるのはキツネに限定されてる訳じゃないもんな。あー、そういやオフライン版にネコで最終進化で尻尾が増えるネコマタもいたか。


「ケイ、オフライン版には頭が増えるのもいたかな?」

「頭3つのケルベロスだな! うん、あった、あった!」

「なんで露骨に強調して……あぁ、そういう事か。ケイ、ヘビはプレイしてないだろ?」

「そりゃ苦手だしなぁ!? 苦手な種族までやってられるかー!」

「あはは、まぁそれはそうかな!」

「そういうサヤは……オフライン版には操作出来る種族にクモはいなかったよ!」


 くっ、反撃しようと思ってもその為の材料がなかった。……敵としてはクモは出てきたけど、苦手生物フィルタで設定してしまえばいいだけだしなー。まぁ俺もヘビは苦手生物フィルタに登録してたけど。


「……まぁいいや。情報だけは知ってるけど、ヘビで頭が増えるのはヤマタノオロチで、途中まではミマタノオロチとかゴマタノオロチって感じの名前だったっけ?」

「うん、それかな!」

「全部の頭で一気に噛みつきながら締め上げれるやつだよね」

「あれは操作が難しかったのです!」

「あれは頭が増えるほど、操作が難しくなるからな。そういやケイってツチノコになったらヘビでも平気だよな? 頭が増えたのはどうなんだ?」

「あー、そういやどうなんだろ?」

「分かってないのかよ!」

「いや、だって、そこまで進化する過程が無理なんだって!」

「……あー、確かにそれはそうか」


 普通のヘビでもリアルな姿でなければ平気といえば平気だし、ヘビの一種であるはずのツチノコとかも特に問題はないもんな。あれ、もしかして試してみてないだけで、意外と平気だったりする?


「……あの、ケイさんって……ヘビが苦手なんですか?」

「あー…………」


 しまった、完全にヘビとの融合種であるフーリエさんがいるのを考慮に入れずに話してしまってた! くっ、サヤはどういうつもりでこの話題を出した!?


「ケイ、ごめんかな。でも、こうでもしないと言いにくいよね?」

「って、わざとか、サヤ!?」

「だって、弟子になったのにそこをいつまでも内緒って訳にもいかないんじゃないかな?」

「……まぁそれはそうだけど」

「やっぱりケイさん、ヘビが苦手なんですね。……僕の相手、無理してませんか?」


 いやまぁ、そこは本当に苦手なんだけど……えぇい、この状況はどう答えるのが正解だ!? 苦手生物フィルタでどうにかなってるし、そもそもコケとの融合種って事でヘビらしさは感じないから全然平気ではあるんだけど……。


「フーリエさん、それは大丈夫なのさー! 本気でダメなら、容赦がないのがケイさんなのです!」

「おいこら、ハーレさん!? あー、ヘビが苦手なのは事実だし、それは伏せてたのはあるけど……無茶はしてないから大丈夫だぞ、フーリエさん」

「……そうなんですか? 本当に無茶してませんか?」

「大真面目に言うなら、本当に無理ならこうやって話してるのも無理だからな。1人を除いては、ヘビって理由で態度は変えないって。それにフーリエさんはコケとの融合種になって見た目は相当違うから、普通に平気だぞ」

「……その1人の例外が気になります」


 あー、その情報は要らない情報だったか。まぁフラムに関してはヘビだからって理由ではなく、フラムがヘビだからって理由だったけど……フーリエさんはその辺は知らないし、逆に不安にさせてしまったっぽい。


「それってフラムさんだよね」

「間違いなくそうなのさー!」

「例外は絶対にフーリエさんじゃないから、心配はいらないかな!」

「皆さんがすぐに誰か分かるくらいの例外な人なんですね!?」

「あー、それはまぁいいんだが、とりあえず一旦切り上げてくれ。知り合いだったから良かったものの、もう交代のPTは移動を始めてるぞ?」

「「「「「あっ!」」」」」


 しまった、今は交代をしようとしてる最中だったのに、それを放り出して話し込んでた!? ヤバい、流石にそれは失礼な事を――


「話し込むのはいいけど、その辺は注意しようぜ、ケイさん!」

「……いつもそれを考えないザックが言うと説得力がない」

「……その通りだ」

「アルマースさんが対応してくれていましたし、問題はありませんのでお気になさらず」

「あ、ザックさん達か!? なんか今のはすまん!」

「おう、気にすんな!」

「……特に問題ないよ」


 今にも立ち去ろうとしてたのは、ザックさん、翡翠さん、イッシーさん、タケさんの4人……って、あれ? ここって6人PTになるように調整してたみたいなのに、なんで4人しかいないんだ?

 あ、もしかして俺らが脱線しまくってる間に呆れて立ち去ってしまった後か!? あー、もしそうだとしたら悪い事をしてしまったかも……。いや、かもじゃないか。

 

「……ザックさん、他に2人はいたはずだよな? その人達は……?」

「ん? それならリアルの方で時間がギリギリだって事で、交代を待たずにログアウトしていったぜ!」

「……私達がいたから、交代はそれで問題なかった。……だから、特に心配はいらない」

「あー、なるほど」


 呆れて立ち去ったとかではなくて、俺らが来る前には時間の都合でもう既にいなかっただけか。……はぁ、なんかホッとした。


「おっしゃ、とりあえずどこ行くよ?」

「……今からなら、もう1時間分待つ事は可能な範囲だ」

「確かにそれもありですね」

「でも、1時間待ってるだけってのもなー! ま、その辺は上に行ってから考えるか!」

「……それじゃ私達は行くから、Lv上げ頑張って。……みんな、またね!」

「翡翠さん、他のみんなもまたねー!」


 それから一通り挨拶をして、ザックさん達は立ち去っていった。いや、ほんと今回は知り合いで良かった。……って、よく考えたら知り合いと交代ってそんな偶然ある? あ、なんかキツネの人が笑いを堪えてる感じがするんだけど!?


「……もしかして知り合いだと分かってるPT同士で交代になるようにしてる?」

「あ、はい、そうですよ。その方がトラブル率も低いですから、分かる範囲にはなりますけど、そうしていますね」

「やっぱりかー!」


 あっさりとキツネの人が肯定したよ! いやまぁ、その理由はよく分かるし、実際に今回の件はトラブルにならずに済んだけどさ。……灰のサファリ同盟、こういう気配りは恐るべし!

 というか、俺はこのキツネの人……ミゾレさんか。このミゾレさんの事は知らないんだけど、その辺は把握されてるんだなー。まぁザックさんとは前回の競争クエストで盛大の一緒に動いたんだし、それ以外にも一緒に行動してた事もあるから、その辺で把握されてたのかもね。


「それにしてもフーリエさんはここの適正になりましたか。頑張ってますね」

「はい! 次の競争クエストでは戦力になれるように頑張ってLvを上げていきますよ、ミゾレさん!」

「あれ? フーリエさんは知り合いなのかな?」

「ミゾレさんは灰のサファリ同盟で、初心者向けの講座をしてくれてた人なんです! 僕もお世話になりました!」

「あ、そういう事なのかな!」


 なるほど、具体的にどういう事をしているのかってそんなに見た事はないけど、そりゃ灰のサファリ同盟に教える側の人がいるのは当然だよな。うん、聞いてしまえば至極当然の話ではあったね。


「私自身はそれほど強くはないですけど、まぁ初心者の人のお手伝いを出来ればと思っていますよ。色々と発見してくださるグリーズ・リベルテの皆さん、成熟体からの発見に期待していますからね」

「なんか期待されてるー!?」

「ケイ、頑張ってかな!」

「ケイさん、ファイト!」

「ケイさん、頑張ってやらかすのです!」

「まぁ1番やらかす可能性が高いのはケイか」

「俺だけがやらかすみたいに言ってるけど、俺だけじゃないよなー!?」


 地味にハーレさんはやらかし率は低いけども、他の3人はそうでもないよな!? 今に始まった事じゃないけど、俺に全てを被せてくるなー!


「さてと、周りとの兼ね合いもありますのでそろそろ私は離れますね。まずは群集クエストのクリアと、成熟体への進化を頑張ってください。それでは失礼します」

「ミゾレさん、誘導は助かった」

「いえいえ、どういたしまして。とりあえず急いでくださいね、皆さん」


 ん? 急ぐって……あー!? もう他のタイドプールではPTの交代は済んで、一般生物を仕留めて餌やりを始めてるじゃん!? これ、俺らは完全に出遅れてる!


「俺ら脱線し過ぎだ!? そういやフーリエさん、海水は大丈夫か!?」

「あ、はい! 海水への適応は済ませてるので大丈夫です!」

「よし、それなら問題ないな! アル、タイドプールの海水を全部持ち上げてくれ!」

「夕方と同じ手段だな、任せとけ! 『海水の操作』!」


 よし、これでタイドプールの中にあった海水は空中へと持ち上げていけたし、そこから次々と魚を始めとして、色々な海の生物が落ちてくる。さーて、サクッと仕留めて大量の残滓を補充して、本格的にLv上げをしていこう!


「落ちてきた一般生物をみんなで手分けして倒して、海に放り投げていくぞ!」

「あ、はい! 分かりました! 『増殖』『増殖』!」

「それじゃ、誰が1番数を倒すか、勝負かな! 『自己強化』!」

「おー! その勝負、乗ったのです! 『散弾投擲』!」

「あ、ハーレのそれはズルい気がするけど……それなら私はこれだね! 『同族統率』! 行け、ハチ1〜3号!」


 ハーレさんの発案から、なんでか勝負形式になったなー。サヤは自己強化で移動速度を上げてるし、ハーレさんは範囲攻撃、ヨッシさんは生成した統率個体で手数を増やしてきたか。フーリエさんは増殖で群体を増やしてヘビ型のコケの群体塊を大きくして、尻尾で薙ぎ払ってるね。


 さて、俺もやりたいとこだけど、今は行動値をあまり使うべきでもないか。だったら、ここは行動値の消費は抑えつつ、シンプルにいこう!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 86/86 → 84/84(上限値使用:2)


 まずは水のカーペットに飛び乗ってアルの持ち上げている海水の真下に移動。自己強化を使って海水のなくなったタイドプールに降りて、ロブスターのハサミで叩き潰していっても同じような行動をするサヤには敵わない。

 だからこそ、ここは俺が得意な手段で一気に仕留めるまで! 今回使う属性は……こっちだ!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 83/84(上限値使用:2): 魔力値 229/232


 なんだか水魔法よりも土魔法の方が使用頻度が高い気がする。土の生成魔法の方が形状の自由度が高いから、操作する上ではこっちの方が地味に使い勝手が良いんだよなー。

 水魔法の使い勝手が悪い訳でもないし、属性の相性的に主戦力になる属性は2つは持っておきたいし、どっちも鍛えてはいくけどもね! とりあえず今回は土属性が適任なだけ!


<行動値を3消費して『土の操作Lv6』を発動します>  行動値 80/84(上限値使用:2)


 今回生成したのは3個ではなく、1個の細長い真っ直ぐな尖った石! 正直、生成と操作で行動値を消費してから水のカーペットを出したかったけど、順番的にそれは不可能だから仕方ない。

 ともかく上からタイドプールの全体を見回して……ピチピチと跳ねている魚を次々と串刺しにする為に動かすルートを考える! サヤとフーリエさんの近くは避けて、ハーレさんの射程からも外れた位置で、ヨッシさんは……地味に統率個体を分散させてるけど、なんとか避けていこう。


 よし、何とか狙っていくルートは定めた。いけ、尖った石での大量の串刺し作戦! 普通の敵相手ならこれでは威力不足にも程があるけど、海中ではなく跳ねるしか出来ない一般生物が相手ならこれで充分! おし、良い感じに次々と魚を串刺しに出来てる!


「わっ!? あ、ケイさんが何かやってるのさー!?」

「そんな方法ありなのかな!?」

「ケイさん、凄いですね!」

「……あはは、次々と魚を串刺しにしてるね。その操作、難しそう」

「おー、盛大にやってんな、ケイ」

「ふっふっふ、この勝負は貰った!」


 みんなも次々と一般生物の魚やタコやイカとかを色々倒していってるけど、攻撃の範囲は一番俺が広い! 正直倒した数がまともに数えられてないけど、それは餌を撒く時にアイテムになってる数で比べれば良いだけの事! 極端に操作の速度を上げてる訳じゃないからまだまだ操作時間に余裕はあるし、仕留めたらポリゴンになって消えていくから外す必要もないし、このまま次々と倒していくぞー!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る