第971話 フェニックスの定位置で


 それから空いている場所で回復しきっていれば戦闘をしつつ、そうでなければ素通りし、フェニックスの定位置の近くまでやってきた。まぁちょいちょい戦闘中の場所もあったので、実際に戦ったのは2戦くらいだったけど。

 俺らの他にも移動してきてる人が増え始めてる様子もあったから、情報収集を終えてLv上げに動き始めたっぽいね。先を越される前に、もっと奥まで行って場所を確保しないと。


「おー! なんだかフェニックスの定位置には人が多いのです!」

「あ、ホントだね」

「どうも戦闘中みたいかな?」


 まだ少し距離があるから具体的な声の内容までは聞き取れないけど、戦闘中の喧騒は聞こえてきている。これはフェニックスをPT……場合によっては連結PTくらいで倒してるっぽい?


「……そういや、アル。定位置の成熟体って、倒した後の復活はどうなるんだ?」

「場所によって時間は違うらしいが、一定時間が経てば復活するらしいな。ここのフェニックスは……確か1時間だったはずだ」

「あー、そういう感じか。ある意味、ボスみたいな存在ではあるんだな」

「まぁ明確にボスとして名前は付いていないが、役割的にはそうなるみたいだな。徘徊してる方は不明っぽいが、こっちはそもそもどこから動き始めているのかが不明だからなんとも言えん」

「……そりゃ徘徊してるんだし、そうだよなー」


 もしかしたら徘徊してる成熟体もどこかのタイミングで復活してるのかもしれないけど、その位置が分からなければ復活の周期を調べるのは難しいか。

 今更だけど、敵の復活に関してはプレイヤーのランダムリスポーンとは全然違う仕組みだよなー。まぁこの辺は流石に同じには出来ないか。


「……ねぇ、みんな。不穏な様子に思えるのは気のせいかな?」

「私もそう思うのさー! なんか様子がおかしいのです!」

「ん?」

「……ケイさん、よく声を聞いてみて」

「あー、これはあれか……」


 なんかみんながそんな事を言い出したけど……って、ちょっと待って。移動して声が届くようになってきたけど、よく聞けば会話の内容が確かに不穏な気がしてきた。


「だー! だから、なんで成熟体になったらプレイヤー同士で戦闘の可能性が上がってんだよ!?」

「嫌なら2ndなり3rdなり、そっちの育成をしてろ! その方が空いてありがたいんだよ! 『重爪刃・連舞』!」

「そういうテメェも経験値に変わりやがれ! 『雷連閃』!」

「『受け流し』! わっ!? ひゃ!? うはっ!? いやいや、ここは順当に順番待ちでいこうぜ!?」

「順番が来るまで何時間待ってって言うつもりだ? 『フレイムランス』!」

「させるかよ! 『連閃』!」

「くっそ、乱戦じゃまだこの溜めがある魔法は――」

「おらよ!」

「ぎゃー!?」

「ふっ、1人減ったな。さぁ、殺し尽くしてやる!」

「言ってろ! そうなるのはお前もだ!」

「赤の群集、まず応用連携スキルを持ってる奴を潰せすぞ!」

「「おう!」」

「あー、もう! 刻印石が欲しいのに、これじゃ全然無理ー!」

「くっそ、この時間なら狙い目だと思ったのに!」

「くたばれ。『白の刻印:守護』『サンドショット』!」

「ちょっと待てや! そこの青の群集の奴、もう刻印スキルを使えるなら少し自重しろー!」

「知るか」

「発動前に潰せ! あれはヤバい!」

「青の群集以外、全員でかかれー!」

「正直譲れって気もするが、迎撃だ、青の群集!」

「……しばらく諦めようかな」

「その方が良いかもなー」


 うん、なんとなく分かった。群集で分かれて、思いっきりプレイヤー同士で乱戦中っぽい。てか、知らないスキル名がいくつか聞こえてきたなー。

 そしてアルから聞いた成熟体での現状がよく分かる光景だなー。どうも好戦的な人が集まってきて、それ以外の人も対人戦に巻き込まれてる感じか。


「……アル、これが成熟体の現状かな?」

「あー、まぁそうなる。刻印系スキルを使うのに必須な刻印石が、ほぼ入手手段がない状態だからな。必然的に数少ない入手手段になる定位置の成熟体の奪い合いになる」

「ベスタさんが止めるのも納得なのです!」

「……あはは、これは大変そうだよね」

「てか、地味に刻印系スキルが今は貴重なんだな」

「アイテムが必要だったのは完全に想定外だったからな。ま、そのうち安定して手に入るようにはなるだろうから、そこまで焦る必要もねぇよ」

「ま、そりゃそうだ」


 今のままの入手手段しかないって事はないはず。というか、ゲームバランス的にそれは絶対にあり得ない。

 多分、普通に成熟体の敵が出てくる新エリアに行けるようになれば普通に手に入りそう。一番最初に進化の輝石が出てきた時は希少価値があったけど、今はもう普通に手に入るようになったしなー。


 まぁ今はそれはどうしようもないし、そもそもまだ俺らは関係ない段階だからいいとして……この横を通り抜けないといけないのか。


「ま、いつまでもここに居ても仕方ねぇし、隣を通って先に行くぞ」

「ほいよー」

「アルさん、流れ弾は大丈夫ですか!?」

「あー、少しくらいの流れ弾なら心配すんな。直接狙われ続けなきゃ即死まではねぇよ」

「……狙われたら、やっぱり死ぬかな?」

「それは流石にないんじゃない? 私達を襲うメリット、特にないよね?」

「黒の統率種になりたいんじゃなければ、まずないな。狙うならここではやらないだろう」

「なったとしても、今の状況なら速攻で袋叩きにされそうだもんなー」


 ここでわざわざ俺達をピンポイントで狙ってくるとか、それこそそういうデメリットを度外視した個人的な理由でもなければあり得ないはず。

 ピンポイントで狙われたらどうしようもないけど、流石にそんな真似をしてくる相手に心当たりは……あー、初めて会った時のケインみたいに勝手に敵視されてる場合とかはあり得なくもないのか。

 いや、でもそんなのを考慮に入れ始めたら先に進めないから、その可能性は除外でいい! そんなのは、そんな事が実際に発生した時に考えればいい話だ。


「ところで、今はフェニックスはいないって考えて良いのかな?」

「それはほぼ確実だろうな。いたとしても、そこの連中が見逃すとは思えん」

「あはは、確かにそれはそうだよね」

「それならアルに乗って一気に突っ切るのはどうだ?」

「先にケイに言われたかな!?」

「お、サヤに先回り出来たのは珍しい!」

「そう言われると……なんか妙に気分かな?」


 いつもは俺が中々抜けない癖で独り言になってたり、そうでなくても考えてる事を読まれてたりしてるけど、今回はそうじゃないもんな。まぁサヤと俺が考えた方法が一緒だったというだけの話だけど。


「そっか、今はアルさんが一番移動は早いし、流れ弾でバラバラになる可能性は低くなるよね」

「おー! 確かにそれはありなのです!」

「……まぁ流れ弾がくる可能性は0じゃないし、俺も何度か流れ弾は経験してるしな。少しの距離だが、その方が安全ではある。よし、ケイとサヤのその案でいくか」

「おし! やったぞ、サヤ!」

「やったかな、ケイ!」

「……そんなに喜ぶ事か? 俺に乗るなんて、いつもの事だぞ」

「そう言われるとそうでもない気がするかな?」

「……確かに」


 なんかサヤと一緒に凄い喜んだけど、そこまで喜ぶじゃないよな。うん、そこはアルの言う通りなのは間違いない。ま、その辺はただの気分の問題だから別にいいや。


「そうと決まれば、出発準備なのさー!」

「ほいよっと! アル、頼んだ!」

「おうよ。小型化は解除して……距離が短いから、高速遊泳は無しでいくぞ。『略:自己強化』『根の操作』!」

「あー、そこまではいらないか。とりあえず固定はサンキュー!」

「アル、ありがとうかな!」

「どういたしましてっっと。ふむ、根の操作での固定がやはり楽だな」


 それにしてもアルの根の操作で俺とサヤをクジラの背の上まで持ち上げて、そのまま固定をするのはいい感じだね。これって地味に前の時でも出来た気もするけど、なんで見落としてたんだろ?

 うーん、固定は俺がやるって思い込みから思いつかなかったとか? ……可能性としては普通にあり得そう。てか、普通に聞いてみれば良いだけだけど、それは後にしようか。


「ハーレさんとヨッシさんはしっかり捕まってろよ」

「はーい! ところで流れ弾が来たら迎撃はありですか!?」

「基本的には俺の方で回避してみるが……受け切れない可能性の方が高いから、むしろ余波で逸れないように注意してくれ。無理に迎撃はしなくていい」

「了解なのさー!」

「よし、それじゃ誰かが落ちかけたら、俺の岩の操作か、ヨッシさんの氷塊の操作で拾うって感じでいくか」

「うん、それが良いかもね」

「ケイ、ヨッシ、任せたかな!」

「任せとけ!」

「同じくだね」

「それか出発するぞ」

「「「「おー!」」」」


 流れ弾はこの際多少当たっても仕方ないつもりで、みんなが逸れない方向性で動いていこう。その方が段々と怒声に近い声が聞こえているこの場を切り抜ける確実性は上がるはず。


 でも、まさかこんな形で警戒しながら進む羽目になるとはなー。早い段階で成熟体に進化した人達、ちょっと変に焦ってる感じもする。

 まぁ折角次の段階に進めたと思ったら、早い段階で足止めになったらそうもなるか。ある意味、テストで離れてる期間で良かったのかもしれないね。



 さて、そんな事を考えてる間にフェニックスの定位置になる広間へと突入! うわー、あちこちで見知らぬ魔法の溜めやら、属性の色のついた銀光やらが見えるよ。

 あ、白光してる人が集中攻撃を受けて死んだね。……この人、さっきの会話で聞こえてた人? いや、刻印系スキルが使える人が1人とも限らないか。

 うーん、この様子だと成熟体から取得出来る応用スキルを持ってる人がそれなりにいるっぽい。成熟体の討伐称号と重ねる必要があるとは聞いたけど、どこかで成熟体を倒した事はあるんだろうね。


「おーい、後ろを通らせてもらうぞー! 流れ弾は勘弁してくれよ!」

「お、通過していくPTか。おい、全員止まれ! 巻き添えは出すな!」

「灰の群集、ストーップ! 黒くなりたくないでしょ!」

「はぁ、少し戦闘せずに済む」

「巻き添えにして黒の統率種への進化はパスだよ……」

「赤の群集、止まれ!」

「仕方ねぇな」

「青の群集もだ!」

「そういう暗黙のルールだしな。巻き込んでの悪評はごめんだ」

「ちっ、無所属だからってマナー無視とは言われたくねぇし、仕方ねぇか……」


 お、アルが声をかけたら、戦闘が止まった? さっきまで殺気立ってたけど、びっくりするほど一気に緩和したね。いや、ホントびっくりするくらいに、警戒してた意味がないくらいに、見事に止まった。


「……これ、流れ弾の警戒は必要なかったんじゃ?」

「……みたいだな。何度か流れ弾を受けた事はあったから、警戒したんだが……」


 うーん、何度かアルが流れ弾を受けたのが逆にこの状況の理由になってそうではあるね。ゲーム的に巻き込む事をそれなりに想定されているっぽいとはいえ、下手すれば意図しないPKにもなりかねないなら注意はするか。


 てか、巻き添えは出すなって言ってるし、群集ごとに止めも入ってるし、これまで何度か確実に巻き添えが出てるね。しかもそれで特に何かが得られる訳でもなさそう。

 むしろ、意図せず黒の統率種に進化してしまった人もいそうなくらいだ。うん、そりゃよっぽど周りの事を考えない人ばっかでなければ、ただ通る人には配慮もするか。


「一時休戦ー! おっ、空飛ぶクジラじゃん」

「あー、灰の群集か。この時間帯でLv上げって事は、戻ってきた学生組っぽいな」

「学生組かー。平日が休みな夜勤な俺としては、あんまり会う事ねぇか」

「あの種族の組み合わせのPT……どこかで見たぞ?」

「……今のうちに『断風』!」

「ちょ、今まで傍観してたのに、このタイミングでチャージを始めるとかズルくねぇ!?」

「おいこら!? 誰かが通る時は休戦だろうが!」

「……戦ってはいない」

「だったら、俺もそうしようっと。『紫電一閃』!」

「どいつもこいつも! 『ゲイルスラッシュ』!」

「おー、こりゃ色んな新スキルの確認に丁度いいか」


 うん、まぁなんか俺らが通り過ぎた後がとんでもない事になりそうな気がするけど、そこら辺は俺らのせいじゃないからね!

 なんか風が渦巻きながらチャージを始めた人は灰の群集のネコの人だったね。青の群集のワニの人が俺らを見て何かに気付きかけたのを妨害したような気もするけど、そこは俺らは関係ないはず! ……でも、地味にネコの人の声に聞き覚えがある気がするのは気のせい?


「あー、そういやそろそろ1時間じゃね?」

「「「「「あっ」」」」」

「そこのPT! 早く通り抜けて、地面に降りろ!」


 うわっ!? 赤の群集のタチウオの人がそんな事を言ったら、周囲のマグマの中からマジでフェニックスが出てきた!? そんな風に復活してくるのか、このフェニックス!


「ちょ、このタイミングでフェニックスが出てくんの!?」

「わー!? 完全に危機察知に反応ありなのさー!?」

「……これは、マズイかな!?」

「アルさん、大急ぎで!」

「分かってる!」


 やばい、フェニックスの出現地点が俺らに近いから、もう既にフェニックスが俺らを仕留めるべく火の球を生成して、魔法の溜めに入っている。

 この魔法が『応用魔法スキル』か。あー、ここまで通っていく人への配慮が出来ていたなら、変に警戒せずに普通に歩いて通るんだった。これは流れ弾じゃなく、俺らを明確に狙ったものだしな。って、大人しく殺されてたまるか!


「ヨッシさん、昇華魔――」

「……そのまま行け。やらせはしない」


 その言葉と共にタチカゼとやらを発動していたネコの人が跳び上がり、フェニックスの発動している火の球を、爪を振るって荒れ狂う風の刃を飛ばし斬り裂いていった。

 これ、風属性を持つ『応用複合スキル』か? 断刀に似てる気もするし、風属性の断刀で字は『断風』……? 風の追撃の刃にも似てるけど、威力が段違いだし、もしかして本質的に遠距離攻撃なのか!?


「ははっ! 無駄撃ち、ご苦労! フェニックスは早いもの勝ちだ! 『爪刃乱舞』!」

「やらせるかっての! って、行動値がほぼねぇ!?」

「俺もだ!? フェニックス戦の前に暴れ過ぎたー!?」

「はー、どうしてこうなるやら……」

「貰った! 紫電一閃をくらえ!」

「やらせねぇよ! フェニックスごと斬り刻んでやる!」

「さっさと通り過ぎろ! 休戦を終わりに出来ん!」


 うん、なんかフェニックスを巻き込んでの大乱戦になってきた。言われてるけど、今のうちにさっさと通り抜けてしまえー! これならフェニックスに襲われる前に、フェニックスが襲われてどうにかなるはず!


 

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