第972話 グラナータ灼熱洞の更なる地下へ


 うっわ!? フェニックスの攻撃は妨害してるけど、本気で狙ってるのは他のプレイヤーじゃん!? 同じ群集の人は固まって、他の群集を倒す形で動いてるっぽい。あ、でも混ざらずに傍観してる人もいるね。

 って、観察してる場合かー! フェニックスの攻撃は俺らに届きそうな気配はないけど、早く移動はするべきだ。そんな状況なのに……なぜかアルが動きを止めてる?


「アル、なんで止まってるんだよ!?」

「……いや、少しだけ待ってくれ」

「なん――」


 なんでと言おうとしたら、さっきのネコの人が俺らのすぐ近くにやってきていた。…!薄めの緑色のネコって不思議な感じだけど、風属性っぽいね。

 ん? さっきは全然まともに見る余裕がなかったけど、名前が十六夜3rd!? え、マジで!?


「今のは助かったぜ、十六夜さん」

「……この程度は問題ない。……戻ってきたな、『グリーズ・リベルテ』」

「まさかの十六夜さん!? おう、戻ってきたぞ!」

「……『グリーズ・リベルテ』、今のうちに行け。……これ以上ここにいれば巻き込まない保証は出来ん」

「だろうな。ありがとよ、十六夜さん」

「……早く行け、アルマース」

「おう!」


 そうして十六夜さんはフェニックスと他のプレイヤー達との乱戦へと戻っていき、俺らはなんとか無事に先へと進む事が出来た。

 それにしても、3rdで成熟体に進化してる人がいて、それが十六夜さんだとは思わなかった。……ふぅ、それでも助けてもらって助かったー!



 なんか予想もしてなかった展開になったけど、結果的には俺らは無事に更なる地下へと続く通路へとやってこれた。

 俺とサヤは即座にアルのクジラから飛び降りて……よし、フェニックスが追ってくる様子はないし、思いっきり戦闘音が聞こえてるから、大丈夫っぽい。……乱戦が大丈夫かは分からないけど。


「あー、焦ったー!」

「それでもなんとか無事だったのさー!」

「『略:小型化』! まさか、十六夜さんが成熟体でここにいるとは想像外だったがな」

「え、アルでも想定外だったのかな!?」

「……前に会ったのは日曜なんだが、その時はまだ未成体だったんだよ。ヤドカリとヨモギはまだ進化させないと言ってたが……まさか3rdのネコを先に成熟体に進化させてるとは思わねぇって」

「それは……うん、確かに思わないね」

「てか、3rdでもう成熟体とか到達出来るのか……」


 多分、強い十六夜さんだからって気もするけど、それでも3rdで成熟体へと進化してるのは早いはず。


「あー、1キャラだったら経験値は分割じゃないから意外と育つのは早いぜ? まぁ流石に成熟体は簡単じゃないと思うが……」

「……やり方次第では不可能じゃないか」

「ま、そういう事だな」


 ふむふむ、俺らは1stと2ndの同時育成だけど、単独なら単純にLv上げは半分の時間で済む。効率的に上げていけば、不可能ではないラインって事か。


「ところで、十六夜さんのネコがタチカゼってスキルを使ってたよな? あれ、風属性の断刀?」

「……初めて見たから知らん」

「あー、やっぱり?」


 まぁ十六夜さんがそもそも成熟体へと進化してる事を知らなかったんだから、その辺の情報は知らなくても仕方ないか。

 あれは風の刃による追撃ではなくて、風の刃を飛ばすのがそもそもの性質っぽい感じだったな。まぁパッと見た感じでしかないから、絶対とは言えないけどさ。


「タチカゼって漢字は断つに風かな?」

「多分そうだとは思うけど……とりあえず先に進みながらにしない?」

「あ、それもそうかな」

「まずは間欠泉の地下の部分まで移動だなー」

「ふっふっふ、目的地の部分はマップが埋まっているから、近くなれば分かるのさー!」

「おう、頼むぜ、ハーレさん」


 ハーレさんは既に一度発火草の群生地の方から降りていった事があるから……って、よく考えたらあっちからのルートって短縮ルートじゃね!?

 あ、でも流石にあの縦穴はアルが通れないか。……いや待て、ルートはそこだけじゃない。棚田みたいになってる下の方がそのまま繋がってたはず。


「……ハーレさん、ちょい確認。あの時のルートって、アルが通れるだけの広さってあった? ほら、段々になってた下側の方」

「あっちもそんなに広くはなかったから、アルさんの木もクジラも無理なのです! 多分、サヤのクマでギリギリってとこなのさー! あ、でも3rdで作ったっていうフクロウならいけるかもー?」

「あ、そういう手段があったか!」

「いや、ケイ。俺の3rdのフクロウはまだLv15だから、ここの戦闘は無理だぞ?」

「……そういやそうだった」

「今日は早めにLv上限まで行くことを考えとけ。俺は俺で経験値は群集クエストに回すから、無駄な心配はいらねぇよ。ほら、移動すんぞ」

「ほいよっと」


 ふぅ、どうせならアルも一緒にLv上げをって思ったけど、流石に今日は無理そうだね。そうしたいなら、早く俺らが上限Lvまで育てるのが先決か。


 という事で、グラナータ灼熱洞でまだ行ったことのない更なる地下へと向けて移動開始! ……天井部分からちょいちょいマグマが流れ落ちてる場所があるくらいで、それ以外は特に目立った違いもないみたい。


「アルはこの奥の方は行ったりしたのか?」

「何度かLv上げをしには来たな。あぁ、ここら辺からは出てくる敵の種類が変わるが……ハーレさん、もう魚は大丈夫か?」

「それはもう大丈夫なのさー! そういう事を聞くって事は、魚が出てくるんですか!?」

「あぁ、魚を筆頭に水中や海中にいる種族がメインになってくる。それとあれだな、自然発生のフィールドボスの特徴も判明してるから説明しとくか」

「おー!? それは是非とも聞きたいのです!」


 えっと、ここの自然発生のフィールドボスは俺らも一度戦ったっけ。確か火属性と風属性持ちの竜だったはず。なんで風属性なのかと思った覚えがあるなー。


「俺らが戦った火属性と風属性の竜がいただろ。あれ、個体によって風属性の部分が他の属性に変わるっぽいぜ。氷属性を持ってたり、水属性を持ってたりで無駄に弱体化してるパターンもあったそうだ」

「……えぇ? そんな事があるのかー」

「もうその場合はボーナス個体のフィールドボスだな。ま、どれが出てくるかはその時次第って話だし、そもそも復活周期は判明してないから、あんまり気にしなくていいぞ」

「ほいよっと。でも、そういう事なら一度は出てくるか試してみる価値くらいはありそうだな」

「フィールドボスの方が経験値は良いもんねー!」

「ま、確かにそうだな。それなら間欠泉の場所を見終えてから、場所を確保したら1戦目はそれでやるか」

「うん、それで良いかな!」

「私もそれで良いよ」

「それで決定なのさー!」


 よし、自然発生のフィールドボスが再登場するかは運次第にはなるけど、瘴気石を使わなくてもフィールドボスと戦えるチャンスだ。ダメ元でも試してみる価値は充分ある。


「はっ! サヤ、マグマの中から危機察知に反応ありです!」

「分かった……って、真っ赤なタツノオトシゴかな!? 『強爪撃』!」


 おー、一度飛び跳ねて体当たりをしてきたから全身は見えたけど、その後は反対側のマグマに飛び込んで顔だけ出してるタツノオトシゴがいる。1メートルくらいはありそうだな、このタツノオトシゴ。

 驚きながらも、しっかりと回避してカウンターで一撃を入れてるのは流石、サヤ!


「竜に進化してないタツノオトシゴのままとかもいるんだなー」

「ここでタツノオトシゴは初めて見たな。まぁ傾向から考えたら、不思議でもないか」

「……アル、実はサメが飛び出てきたりとかは?」

「あー、それなら何度か見たぞ」

「やっぱりいるんかい!」


 こりゃ、今までの傾向とは違ったものになってそうだなー。うん、前に来た時にここまで降りてこなくて正解だったかも。


「みんな、とりあえずどうする?」

「まだマグマ適応を使ってないから、出てきてもらわないと困るのさー!?」

「さてと、それじゃ拘束してマグマの中から引っ張り出しますか。アル、岩の操作で固めて出しても大丈夫だよな?」

「おう、それは問題ないぞ」

「よし、それじゃ俺が拘束するから、サヤ、ハーレさん、攻撃よろしく!」

「了解なのさー! サヤはチャージを鍛えるのです!」

「そのつもりかな! 『重硬爪撃』!」


 さて、タツノオトシゴ1体だけだからそこまで時間はかからないはず。サクッと仕留めて、奥まで進んでいきますか!



 ◇ ◇ ◇



 サクッとタツノオトシゴを仕留め終えて、奥へ奥へと進んでいく。道中で空いている広間で2戦ほどしたけど、魚系の種族の出現は明確に増えていた。

 それに俺らのLvと同じLv26で出てきたから経験値も美味い。まだフィールドボスの出現は試してないけど、それは戦う場所を固定してからだね。


 魚系の種族はマグマの中からあまり出てこなくて、逃げられたのは計算外だったけど、その時点でマグマ適応をさっさと使うべきという判断になった。

 もう全員使用済みでサヤがマグマの中に入って強引に陸地に上げてくれていたもんな。……川の中でシャケを獲るクマのイメージが浮かんだよ。マグマの中だけど。


 ふー、ともかくアルのクジラがかなり強くなっているので、陸地に出てきさえすれば倒すのは楽だった。

 いやー、俺もウォーターフォールと一緒に水流の操作も使ったけど、アルのクジラでの連続体当たりは便利、便利! マグマの中に戻しさえしなければ、楽勝だね!



 そんな風に戦闘と回復を交互にしながら進んでいる間で、何ヶ所かの広間は既に戦闘中のPTがいたけども、まだ空いている場所は多かった。うん、場所の確保には困らなさそうなのはありがたい。

 そしてついさっきやった1戦で昇華魔法を使ったから、魔力値は尽きたからレモンを齧りながら移動中。味覚は切ったままだけど、ここでのLv上げが終わるまではそのままでいいや。


「そろそろ間欠泉の地下部分に到達なのさー! 多分、次の広間なのです!」

「お、そろそろ目的地か。……てか、ちょっとずつだけど登ってきてないか、これ?」


 ここまで通ってきた方向を見たら、多分見渡せ……あ、普通に通路部分が邪魔で見通せはしなかった。いや、でもかなり傾斜は緩やかだったけど、登ってた気はする!

 通路の左右に流れてるマグマは俺らの来た方向へと流れていってるから、それは間違いない!


「緩やかにだけど、確実に登ってはいるかな」

「だよなー!」

「そういや、この辺まではまだ来た事はなかったな」

「おー!? アルさん、そうなのー!?」

「俺が行ったことがあるのは、さっきの1戦をやったとこの手前の広場までだな。この辺はLv上げをしてる時に空いてた事がなかったんだよ」

「なら、この先はアルさんも初めてなんだね?」

「ま、そういう事になるな」


 ふむふむ、てっきりアルはもう先に見てて、それを言わずにいたのかと思ったけど、まだ未進出だったのか。アルの事だから、わざとこの奥には行かないようにしてたとかはありそうだよな。


「このペースなら15時頃には本格的にLv上げは開始出来そうかな?」

「今でLv26の半分は超えてるし、経験値の結晶を使って2倍にしたら2時間でLv28くらいはいく?」

「あー、上がるかどうかってラインだろうな。まぁ可能性としてあるぞ」

「それじゃ目指すはLv28なのさー! それからスクショのコンテストの発表を見るのです!」

「予定としてはそんなもんかー」


 スクショのコンテストの発表になる17時を目処に一度Lv上げを切り上げられるタイミングってのはありがたいね。いくつか通ってるのがある以上、結果が気にならないというのは嘘になる。

 それで結果発表が終わってから、例の緊急予告の対象になりそうなエリアに移動だなー。干潟ではなく、磯場を目指す事にしたけど、吉と出るか凶と出るか、それは行ってみないと分からない。


「そういや、ケイとハーレさんが撮ったのが事前審査に通ってたな? ハーレさんは何かしら通るとは思ってたが、ケイのが通ってたのは正直驚いたぞ」

「それ、俺自身が驚いたやつだな」

「ははっ、ケイ自身もか。ま、ありゃ相当珍しい光景が撮れてたみたいだしな。スクショの撮影技術が微妙なのが、逆に焦ってる感じがあって良いって評価らしいぞ?」

「そういう評価のされ方かい!」


 あー、でもそう言われてみるとなんかスッと納得出来た気がする。あれは綺麗に撮れ過ぎてる方が違和感があるハプニング画像だもんな。うん、確かにそりゃそうだ。


 おっと、そうしている間に通路を抜けて次の広間へと……おぉ、こりゃ広いな! 他にも広い場所はあったりはしたけど、フェニックスの定位置の場所と似たような雰囲気で上にもかなり開けている。

 あ、でもここが行き止まりって訳じゃないんだ。なんか左右に他へと繋がる通路っぽいのが見えてるし……入り口すぐの分岐のどこを選んでも、ここに繋がってたとかそういう感じか? まぁ別にそれがダメな訳じゃないけどさ。


「おぉ! なんかフェニックスの定位置の広間に似てるのさー!」

「だなー。違いとしては……天井の部分にある、ハーレさんが行った水が流れ込んでる場所か」


 うーん、予めそういう場所がある事を知ってても、天井部分のどこにあるのかが全然分からん。あー、今気付いたけど何気に天井付近からマグマが流れ込んできてるんだな。

 もしかすると、流れ込んできてるそのマグマが溜まっている水を間欠泉になるように熱してる感じか? その可能性は普通にありそうだな。


「……ねぇ、なんかゴボゴボって音が聞こえない?」

「それにちょっと揺れてるかな?」

「これってもしかして……?」

「間欠泉か!?」

「わー!? 間欠泉が噴き出す前の様子を撮りたかったのに、間に合わなかったのさー!?」


 その直後に天井付近の方から水蒸気が一気に噴出され、地面が揺れていく。ちょ、ここで普通の間欠泉が発生したっぽい! てか、ハーレさんは撮りにいくつもりだったんかい!


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