第963話 コンテストの投票 下
スクショのコンテストの投票をするという事で、俺と晴香とサヤとヨッシさんで一緒にチェック中である。テスト期間の合間の息抜きを兼ねているけど、予定としては1時間のみ。
団体部門はまだ全部確認し切れてないから、時間切れの18時までにはチェックを終わらせて、団体票と総合票をどのスクショに投票するかを決めていかないとね。
「あー! 草原エリアでアルさんと桜花さんの対決のスクショがあったのさー!」
「お、マジか!」
「マジなのです!」
「ホントだね。……でも、横に似たようなコンセプトのがある気がするよ」
「瘴気で禍々しくなってる巨大な亀と、浄化の光を放つ松の木の演出とかもあるかな」
「あー、よく見たら、他にも瘴気属性と浄化属性の対立をコンセプトにしたのは他にもいくつもあるな」
俺らもそういうコンセプトで何回か撮ってるし、演出としての見栄えを考えたら発想が被ってしまうのか。うーん、これはどれも悪くはないんだけど、コンセプトが似過ぎていて票が割れそう。
「他の人とのコンセプトの被りまではあんまり気にしてなかったもんなー」
「もうちょっとその辺に気にしておけば良かったかもしれないのです!」
「次の機会があれば、そこはしっかり対応しないとかな!」
「……あはは、スクショの演出を考えるのも大変そうだね」
それは確かにそうかも……いや、待て。続きを見ていったら、意外とそうでもなさそう?
「いや、何気ない普通の日常の様子も普通に通ってるし、案外演出にこだわり過ぎなくても良いのかもしれないぞ」
「え、そうかな?」
「あー! 兄貴の言う通りなのさー! リスが沢山並んで、木の実を齧ってるスクショもあるのです!」
「あ、ホントだね。オオカミの群れがただ走ってるだけのもあるよ?」
「浅瀬の海で、色々な魚のプレイヤーがただ泳いでるだけのもあったかな」
うん、同じような種族を集めたりはしてるものの、それほど奇抜な事をしてる訳ではないスクショも結構通っている。そっか、変に演出に拘り過ぎないという方向性もありなんだね。
なんというか色んな傾向のスクショの中から、それぞれの雰囲気毎に選んでいるって感じがする。
「それにしても、青の群集のスクショを撮る人とは接点が少なめだから、いまいち青の群集の人のは分からんなー」
「赤の群集は分かるけどねー!」
「あはは、まぁそれは仕方ないんじゃないかな?」
「うん、そういう事もあるよ」
「ま、その辺はどうしようもないか」
でも赤の群集の団体部門、特にルストさんが撮ったやつは相当レベルが高いから、冗談抜きで入賞は期待出来るかも。
もうあと少しスクショは残ってるけど、あれがダントツで俺のお気に入りだしね。このままいけば、団体部門はルストさんが撮った発火草の群生地のスクショに投票だな。いや、総合票でも良いかも。
「さてと、あと少しだから残りも見ていくか!」
「「「おー!」」」
という事で、残りを見てみよう。まぁこのペースならなんとか全部確認し終え――
「ちょっと待った!? え、マジで!?」
「わっ!? 兄貴が撮った望海砂漠での集合のスクショが通っているのです!?」
「これはびっくりかな!?」
「でも、インパクトはあるよね。朝日と海と砂漠をバックにした記念撮影の真後ろから、巨大なクラゲの出現ってさ」
「……まぁそれはなー」
うん、間違いなくインパクトはある。この後の惨劇は容易に想像出来るし、他人事であれば面白く見れるもんな。唐突なハプニング画像って、見るのは楽しいしね。
それにルストさんでもあの成熟体の巨大なクラゲのスクショは撮れてなかったんだし、割と貴重なのかもしれない。それにしても、まさか事前審査を突破するとはなー!
「最後の最後で、自分のが出てくるとは思わなかった」
「あはは、まぁ良いんじゃないかな? これでもし入賞出来たらラッキーかな!」
「兄貴がライバルとして出てくるとは思わなかったのさー!?」
「ハーレとしてはそうなるんだね。でも、2人とも入賞って可能性もあるよ?」
「2人ともダメって可能性もあるけどなー」
ぶっちゃけ、どのスクショも非常に質は高い。ここから投票で勝ち抜いて入賞出来るかは……終わってみるまで分からないよな。
「兄貴は入賞したくないのー!?」
「副賞は欲しいから、可能なら入賞はしたいけどなー。でも、入賞は各種アイテムの詰め合わせだし、優秀賞は俺のじゃ無理だろ。団体部門で参加してるのが優秀賞に選ばれるのを期待するくらいか」
「うぅ! 確かに優秀賞は厳しいとは思うけど、志しが低いのさー!」
「いや、そもそも運営の事前審査に通るとすら思ってなかったしな」
あのスクショが団体部門の事前審査に突破したのは、相当驚いてるからね。それ以上を志せと言われてもちょっと困る。俺はサファリ系プレイヤーじゃないもんでなー。
「さて、どれに投票したもんか……」
「……これは悩むかな」
「……うん、悩むね」
「いっそ、5票くらい欲しいのです!」
「流石に5票は多いけど、団体部門と個人部門でそれぞれに3票くらいは真面目に欲しいとこだなー」
系統が違うスクショがあるから、演出部門、ほのぼの部門、バトル部門とかに分けてそれぞれに1票ずつ欲しいくらいだ。んー、系統が違うからこそ1つに絞るのが難しい。
「そういやこれって総合票と団体票って同じスクショには……入れれないのか」
「おぉ!? 実質2票はあるのです!」
「投票期限までは、票の入れ直しも出来るみたいかな」
「あ、ホントだね」
「あー、そもそも投票期限っていつだっけ?」
このスクショのコンテストの投票受け付けがそもそもいつまでなのかを見てなかった気がする。えーと、スクロールしてきたスクショの一覧より上に説明があったから、期限はそこに書いてるはず。
「次の定期メンテの開始までなのさー! そしてその日の夜に、結果発表なのです!」
「お、ちょうど来週のテスト明けか!」
「結果は割とすぐに出るんだね」
「集計だけなら、それほど手間はかかりそうにないかな?」
「まぁ間違いなく応募されたスクショから、この枚数まで減らすよりは楽だろうなー」
「あはは、確かにそれはそうかな!」
票数の集計なら手動でやる必要もないし、プログラムでサクッと終わるだろうしね。まぁ合計で4万超えのスクショを選別した運営はご苦労様だよな。
俺らは割とサラッと流し見気味にみんなで見ていったけど、コンテストの選別だとそういう訳にもいかないだろうしね。
「……そういや、オフライン版の時の公式でのコンテストって応募総数ってどんなもんだっけ?」
「えっと、確か3000枚くらいだったはずなのさー!」
「あー、思いっきり桁が違う……」
「多分、賞品がゲーム内のアイテムだからじゃないかな?」
「オフライン版の時みたいな公式グッズ化だと、応募はあまりしないよね」
「私は欲しかったのさー! でも、確かにそれはそうなのです」
「そりゃみんな、スキル強化の種は欲しいだろうしなー」
スクショを提供すれば情報ポイントにもなるし、万が一にでも優秀賞になる事でもあれば破格なレアアイテムが手に入るんだ。参加ハードル自体が低いし、人によって興味関心の分かれるグッズ化よりも、ゲーム内の実用アイテムの方が欲しいよな。
うん、俺自身もそういう理由で参加してるし、その辺の気持ちはよく分かる。……グッズを欲しがる人の気持ちも分からなくはないけど、俺はそこら辺はそこまで興味はないしなー。
「さてと、総合票はルストさんの撮った発火草の群生地にするかー。あれ、印象深いし」
「あ、ケイもそれかな?」
「その言い方だと、サヤもか?」
「うん、総合票はそのつもりかな」
「私の総合票はキノコとタケノコの対立にするのです!」
「あ、ハーレはそれなんだね。景色とかを優先するかと思ってたからちょっと意外かも?」
「これはネタ的なスクショとして気に入ってるのさー!」
「そういう理由かい! あー、でも評価基準としてはそれもありか」
「ふっふっふ、そうなのです!」
「あはは、まぁ確かにそれはそうかな!」
「うん、それでも良いと思うよ」
綺麗なスクショ以外は禁止というルールがある訳じゃないしな。うん、選ぶ基準は人それぞれ。こうなってくるとどのスクショが優秀賞になるか、全く予想出来ないけどね。
「私はどうしよう……? んー、総合票は夕焼け空で飛んでるやクジラの群れのにしようっと」
「おぉ! それは私が団体部門に入れようと思ってたやつなのです!」
「あ、そうなんだ?」
「そうなのさー! 違う方向性で1票ずつ入れるのです!」
「あ、そういうのもありかな!」
「ありなのさー!」
ふむ、俺は今のところ個人票でも総合票でも神秘的な風景のものを選んで投票したけど、あえて最後の団体票は楽しそうにワイワイやってるスクショを選ぶのも良いかもしれない。
いや、決め打ちはしないでしっかりと選ぼう。もう18時までそんなに時間はないけど、雑に選ぶのは撮った人達に失礼な気もする。……さて、大真面目に団体票はどれにするか。
「うん、私は決めたかな」
「お、マジか。サヤはどれだ?」
「ケイが撮った、私達の集合してるスクショにするかな!」
「……サヤ、あれで良いのか? 別に俺に票を入れようとしなくてもいいぞ?」
「そういうつもりはないかな。それこそ、ケイがハーレの撮った月虹のスクショを選んだ理由と同じようなものだよ?」
「兄貴! 自分が撮ったヤツだからって、逆に候補から外すのはダメなんだよー!」
「うん、そこは私も同意。事前選考で通ってるのに、変に謙遜したら他の人にも失礼だしね」
「……そりゃそうだ。悪い、余計な事を言った」
サヤが良いと思って票を入れようとしてくれているのに、俺がダメだと言うのは無しだよな。ヨッシさんの言ってる事もその通りだ。
俺らが他に関わったものでも通ってないスクショは普通にある。この場で見る事もなく落とされたスクショの方が遥かに多い。通るとは思ってなかったとはいえ、コンテストに出した上で通ったなら少しくらいは自信を持って扱っても良いはずだ。
「よし、自分の分に投票しとくか!」
「兄貴も自信を持って、自分のスクショに投票なのさー!」
おし、俺の団体票は自分が撮ったスクショに決定。晴香も個人部門で自分のスクショに入れてたし、ルール上は問題ない。
どうやったって運営の事前選別を突破したスクショの枚数よりもプレイヤーの人数の方が多いんだし、変な偏りは起きないはず。多少の人数で示し合わせて投票したとしても、レナさんくらいの顔の広さがないと偏らせるのは無理だろうしね。
「残りは私の団体票かー。うーん、折角だしネタを選ぶって事で、色んな種族が首だけ出して埋まってる荒野にしようっと」
「え、それなのかな!?」
「ヨッシさんはまさかのそれか!?」
「おぉ!? ヨッシが一番のネタを選んだのさー!?」
「まぁたまにはこういうのも良いかなってね? あと地味にどこの群集なのかが気になるんだよね、これ」
「あー、確かにそれは気になるな」
「荒野エリアはそこまで関わりがないから、地味に分からないのです!?」
「赤の群集も青の群集も、荒野エリアの人とは話した事はほぼないかな?」
そうか、これが入賞すればどこの群集のスクショなのかが分かるんだよな。灰の群集でなら何人かは知ってる人もいるけど、それでも荒野エリアの知り合いは特に少ない。
まぁこれを撮ったのがどこの群集の人か知ったとしても大して意味はないけど、気にはなるよね。あと完全にネタに走ってるから、そういうのが好きな人からの投票が地味に結構ありそう。
「それにしても……絶対に運営の中にネタ好きの人がいるだろ!」
「それはほぼ間違いないかな!」
「でも、それって今更な気もするのです!」
「あはは、まぁゲームのコンセプト自体が普通じゃないもんね」
「……あー、そりゃそうだ」
最終的には人類種になって人型にはなるとはいえ、根本的に人がいないゲームだもんな。その設定な時点で普通のゲームとはかけ離れ過ぎているかー。
まぁそれを好んでやってる俺らも、ある意味で変わり者だな。別に悪い事だとも思わんけど。
「さて、そうしてる間にもう少しで18時だなー」
「あぅ……あっという間の1時間だったのです……」
「それじゃ私とサヤは晩ご飯を食べてくるね。ハーレ、20時から勉強会を始めるよ」
「ハーレ、今日も頑張ろうかな!」
「……はーい。あ、兄貴も――」
「いや、流石に学年が違うから、テスト期間中は1人で集中させてくれ」
「あぅ、了解なのです……」
あからさまに晴香の元気が無くなったけど、こればっかりはなー。テスト期間なのに遊び呆けて、悪い点を取って、VR機器自体を没収の方が最悪だし……。
それに流石に学年が違うと教え合う事も難しい。いくらなんでも高校1年生の3人の中に、2年生の俺が混ざるのは厳しいぞ。俺が余裕ありまくりで教える事のみに専念出来るなら話は別だけど、そうじゃないしな。
「それじゃ、ケイ、また来週の木曜日にかな!」
「次はテスト明けだね!」
「だな。各自、テスト期間を乗り切っていくぞ!」
「「おー!」」
「……うぅ、多少の息抜きにはなったし、頑張るのです!」
おっ、意気消沈してた晴香が復活したね。なんだかんだで今回のスクショのコンテストの投票をみんなでやったのが良かったのかもな。
サヤとヨッシさんと一緒に勉強会をしてるなら成績は多分大丈夫だろうけど、ここ数日は晩飯の時に疲れた様子は見えてたしね。
そして、サヤとヨッシさんは晩飯を食べる為に我が家のホームサーバーに作ったVR空間への接続を切っていった。さてと、俺らも――
「兄貴、ありがとね」
「ん? 何がだ?」
「息抜きに付き合ってくれて! たった数日だけど、いつもの空気感が無くて寂しかったのです……」
「あー、まぁこの程度で良ければな。とりあえずテストが終ったら、アルも含めて盛大に暴れるぞ!」
「もちろんなのさー!」
まだサービスが始まって1ヶ月程だけど、ゲームをするのはほぼ日課になってたもんな。それがテスト期間で中断になってるから少し寂しさを感じてた訳か。
ま、俺としてもさっさと再開したいし、その為にもテストを無事に終わらせないとな。おし、テスト勉強を頑張りますか!
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