第961話 コンテストの投票 上
テスト期間に入り、数日経っての木曜日。今は学校で昼休み中。……たった数日だけど、どうなってのか気になる。だけど、掲示板は見ない! 見たら、テスト勉強を頑張るという自制心が崩れてなくなる!
「あー、意外とまだ成熟体に進化してる人はいないっぽいなー。掲示板に書くのを避けてるのか、本当にまだなのか……。ほほう、全体的にログインしてる人がちょっと少なめ? へぇ、掲示板じゃ詳細までは分からんけど、俺らみたいなのが多いんだろうな」
下手に掲示板を見たら、この馬鹿と同じように気になってしまうのは明白! てか、慎也がシンプルに鬱陶しいんだけど……。
「おぉ!? 圭吾、次の土曜に海エリアで全群集でのバトルロイヤルをやるってなってんぜ! うわー、見てぇ! 水月はログイン控えるって言ってたし、今ならコソッとログインしても……あぁダメだ。新しいプレイチケットがまだ用意出来てねぇから、ログイン出来ねぇ……」
よし、テストが終わって再開したら今の発言を水月さんにチクっておこう。そうしよう。今は飯を食いながら、携帯端末で英単語の暗記してる最中なのを邪魔すんな!
「おっ、圭吾、新情報が……って、なんか顔が怖いんだけど?」
「……慎也、黙れ。いい加減ウザい」
「お、おう……」
流石にいい加減本気で腹が立ってきたし、黙ってろ。……普通に海エリアでのバトルロイヤルとか気になるんだけど、どうしてくれる!
今回は晴香がちゃんと気合入れてて、毎日ホームサーバーに作ったVR空間でサヤとヨッシさんと勉強会をしてるんだからな。俺がそこで無様な点数を取る訳にもいかないんだよ!
その後はほぼ無言で、昼休みが終わった。あ、そういや今日は定期メンテだから新しいお知らせがある可能性もあるのに、公式サイトのチェックをし忘れた……。
まぁそれは家に帰ってからでいいか。学校じゃ地味に慎也が鬱陶しいし、余計な情報まで入ってきそう……というか、既に入ってきてるか。
あー、まだ成熟体になってる人の情報はないとか、海エリアでのバトルロイヤルとか、今知っても仕方ない情報を教えるな!
◇ ◇ ◇
学校が終わり、無事に家まで帰宅。テスト期間中は母さんが気を遣ってくれてるのか、足りないものの買い出しを頼まれる事はないんだよな。まぁ単純に勉強しろって事だろうけど。
「ん? 晴香からのメッセージか?」
とりあえず自室に冷房を入れて、着替えて涼んでいたらメッセージが送られてきている。これは何かあったか?
えーと、内容は……『家に帰ったら兄貴に用事があるから、待っててー!』となってるな。ふむ、用事か。具体的な内容が書かれてないのが気になるけど……あ、待てよ? もしかすると……。
「あ、やっぱりか」
公式サイトを開いて見てみれば、スクショのコンテストの投票が開始になっている。多分、これは一緒に確認しようとか、そういうパターンだな。
そして、詳細を言ってない事やテストの勉強会の事を考えるとサヤとヨッシさんも絡んでいる! そういやアルをこっちに誘った時に断られたのは……有耶無耶になってみんなに伝えられてない気がする。
「……流石にアルに悪いから、その辺は言っとくか」
アルを除け者にする感じになるのはなんか嫌だし、その辺は考慮していこう。……アル自身が良いって言ったなら気にしないけど、そこは聞きそびれてるしなー。
その辺の事を簡潔にまとめて晴香にメッセージの返信を送って……って、返信がもう来た!? あー、電車の中で退屈してる感じか? とりあえず内容を読んで……。
「って、サヤがもう既に確認済みなんかい!」
うっわ、俺だけが把握してたみたいな感じで送ったけど、普通にサヤがアルに確認を取ってたっぽい。そういうとこで変に気を遣うなってアルからの伝言付きで……。
てか、普通に我が家のホームサーバーでスクショの投票をやるので決定か。俺の参加の有無は関係なく、テスト勉強の息抜きを兼ねてやるっぽい。
「……これ、俺の反応を予想してて、返信用のメッセージを用意してたな?」
どう考えても俺が送ったメッセージへの返信の方が長いし、いくらなんでもこの内容であの返信は早過ぎる。……アルに気を遣うのを完全に読まれてたな。
アルから気を遣うなって言われたなら断る理由もないか。それにしてもサヤはいつの間に、アルにそんな確認を取ったんだ? うーん、謎。まぁ後で聞いてみよ。
「さてと、それじゃ晴香が帰ってくるまでは普通に勉強してますか!」
いつ中断になっても良いくらいの軽めの内容にしておこう。ゲーム内で集まると流石にズルズルと脱線しそうだけど、VR空間であれば時間さえちゃんと決めておけば大丈夫だろ。……タイマーで自動ログアウトを設定しとくか。
◇ ◇ ◇
それからとりあえず数学の問題を解いていた。なんだかんだでテスト期間に合わせて、テスト範囲の課題が出るんだから面倒である。
流石に証明の記述問題は途中で中断は出来ないから、1問ずつが短い簡単なとこから終わらせてだな。あー、一区切りはついたし、勉強を始めてから1時間くらいは経ったから少し疲れた。
「ただいまー!」
おっと、良いタイミングで晴香が帰ってきたな。えーと、今は17時の少し前か。って、階段を駆け上がってくる音が聞こえるんだけど。そして、俺の部屋のドアが思いっきり開いた。
「兄貴、お待たせー! あー、涼しいのさー!」
「おかえり、晴香。……とりあえず階段は走るなよー」
「はーい! 兄貴、17時からの予定なんだけど、大丈夫ー?」
「大丈夫だけど、テスト勉強の方は良いのか?」
「それに関しては、その方が私の精神的に良いという結論になったのです!」
「……要するに、晴香が集中出来なくなるから、原因はサッサと終わらせようって事か」
「ボカして言ったのに、直球に戻されたのさー!?」
まぁどう考えても晴香はスクショのコンテストが気になってソワソワするだろうしなー。それなら先にみんながいる状態で済ませた方が勉強にも集中出来るという判断か。うん、その方が色々と確実だな。
「ちなみにサヤとヨッシが18時でいつも通りに晩ご飯なので、1時間のみ予定なのです! それ以上は駄目って事になりました!」
「ま、それくらいなら妥当なとこか。ところで、サヤがアルから聞いてたって書いてたけど、いつ聞いたんだ?」
「それなら昨日の夜なのさー! サヤは余裕があるから、アルさんを誘いに聞きに行ってくれたのです! 断られたのと、その理由と、断る事も謝られたって言ってたのさー! 兄貴も聞いてたんだよね!?」
「まぁそうなるなー」
「流石にあの理由だと、無理だったのです。でもそれで気遣われるのも嫌そうだったそうだよー!」
「……なるほどな」
アルは自宅を特定されてストーカー被害に遭ったって言ってたから、ゲームの繋がりをリアルまで持ってくるのを嫌がる気持ちは分かる。かと言って、それを理由に色々と気遣われたり、遠慮させるような真似はしたくないんだろうね。
「という事なので、とりあえずVR空間を作ってくるのさー! あ、その前に自分の部屋に冷房を入れておかないと!」
「おいこら、こっちも冷房を入れてるんだからドアはちゃんと閉めてけ!」
「はっ! 兄貴、ごめん!」
そうして慌ただしく晴香は俺の部屋のドアを閉めに戻ってから、自分の部屋まで駆けていった。さてと、少しだけど時間があるから休憩でもしとこ。
◇ ◇ ◇
それから17時になり、我が家のホームサーバー内に作られたVR空間にフルダイブとなった。ふー、1時間だけのちょっとした息抜きを兼ねた、スクショのコンテストへの投票タイムだな。
そして既に俺、晴香、サヤ、ヨッシさんは集まっている。見た目はこの前会った時と特に変わらない……ふむ、ここで改めて見ても普通にあるよな。2人ともこれよりデカい……いや、勘付かれそうだから、そこは見ない方向で!
「……ケイ?」
「あー、まだどうもこっちの姿は慣れないなって思ってなー」
「あはは、それは確かにそうかな」
「私はそうでもないんだけどね」
「ヨッシは少なからず、兄貴の姿は知ってたもんねー!」
ふぅ、変に思われなくてセーフ! とりあえず時間もないから、サクサクっと公式サイトを見れるようにしていこう。投票自体はそれぞれのアカウントから、このVR空間からでも投票出来るから問題はないはず。
「おし、とりあえず前と同じセッティングは完了っと。それじゃ座って、投票をやっていきますか!」
「「「おー!」」」
今回もソファー2つと、その前に投影した大型スクリーンである。座り方も俺と晴香、サヤとヨッシさんの並びで座っている。
「さて、それじゃ個人部門と団体部門、どっちから見る?」
投票の際には個人部門と団体部門で表示分けはされてるけど、どれがどの群集のものかは表示がされてないんだよな。投票の時はどの群集の部門なのかや、撮影者名も伏せる仕様。
改めて投票ページに書いてるのを読んでるだけだけど、そういやそんな説明だったよなー。うん、いつの間にか各群集毎に投票出来るような気になってたけど、元々そんな内容だったよ。
そして全ての中から選ぶ『総合票』と、個人部門への『個人票』、団体部門への『団体票』があるんだったね。それで得票数に応じて、それぞれの群集の部門の個人部門と団体部門が決まる訳だ。
「はい! 色々出したし、先に個人部門が見たいです!」
「ハーレは自分が通ってるかが気になってるのかな?」
「期待半分、緊張半分なのさー!」
「あはは、まぁそうだよね。ケイさん、先に個人部門から見ていこうよ。撮影者名が出なくても、撮った本人なら分かるしさ」
「それもそうだな。晴香、覚悟はいいか?」
「……うん!」
「おし、それじゃ個人部門から表示していくぞ!」
という事で、まずは個人部門を表示! えーと、100枚まで運営の方で絞られてるのか。……元の応募数が1万を超えてるから、ここに残ってるだけでも相当な倍率じゃん。
「思った以上に倍率が凄いのです!?」
「……ねぇ、思いっきり見覚えがあるのがあるかな?」
「あ、ホントだね」
「わっ!? これ、私が撮った月虹なのさー!?」
「おー、いきなりあったか! 良かったな、晴香!」
「やったのさー! 事前審査、1枚目は突破なのです!」
これはあれだな。上風の丘とミズキの森林の切り替えの時に、月夜に浮かんだ虹を撮ったやつだ。見事な感じに撮れてるし、レアな自然風景ってのもあるんだろうね。
「おぉ、他のどれもレベルが高いのです! こっちの水鏡みたいになってる涙の溢れた地もいいのさー!」
「あ、これも良さそうな感じかな。水面ギリギリのところで、水越しに月を写してるやつ」
「確かにどっちもいいね。あ、これってかなりシンプルだけど、渓流の様子が神秘的で良いかも」
「それ、森林深部の川じゃないか? 思いっきり見覚えがある場所なんだけど……」
「初期エリアや、その近くでも、充分通用するみたいかな」
「そうみたいだな。全体的に風景を撮影したのが多い感じか」
まぁ個人部門はそういうスクショを推奨してた部門だし、こういう光景になるのも当然ではあるか。
しかも初期エリアやその隣接エリアのスクショがこの投票の一覧に出てきてるんだから、純粋にスクショの撮影の腕が問われている気がするね。
「おぉ!? 空中を飛ぶクジラの雄大さがよく見えるスクショがあるのさー! 雪山が見えるから、多分ハイルング高原なのです!」
「フェニックスが放つ炎の槍を真正面から撮ってるのも良い感じだね」
「成熟体に襲われてるのを撮ったのも多い感じかな?」
「そうっぽい感じだな。基本的に他のプレイヤーが写ってれば団体部門っぽい感じか」
まぁ個人部門なんだから、基本的に個人で完結してるものになるよな。誰かが被写体になっているなら、それは団体部門向けである。
「……それにしても、この中から1つを選べってハードル高いよな。晴香のに入れるか?」
「兄貴、そういう贔屓目は無しなのさー! 私はそういう評価の仕方は好きじゃないのです!」
「……ほいよっと」
どうやら晴香にはそういうところには拘りがあるらしい。まぁ身内だからって理由で評価されるのは……人にもよるんだろうけど、嫌がる人は嫌がるよな。
ぶっちゃけ俺もそういう評価のされ方は嫌いだし、今のは晴香に悪い事を言っちゃったか。
「あっ! これも私が撮ったやつなのさー!」
「え、どれかな?」
「ハイルング高原で撮った、色鮮やかな成熟体の蝶なのです! 撮ったらすぐ逃げたやつ!」
「あー、そういやそんな事もあった気がするな」
具体的にどんな状況だったかまでは覚えてないけど、薄っすらとそういう会話をした覚えがある。うん、これはこれで良い感じに蝶が飛び立っていく光景が写ってるよな。
「ハーレ、これで2つ目だね!」
「えっへん!」
これだけ大量にある中で、運営の事前審査を突破が2枚目は誇っても良いだろうね。……さーて、ハーレさんが撮ったのも良いのは間違いないけど、この中から選ぶのは1つか。
総合票については団体部門も見てからじゃないと決められないし、こりゃ中々の難題だな。
今まで確認したスクショ以外でも、夕暮れの砂漠や森、朝焼けの草原、星空の輝く荒野、色とりどりの魚が泳ぐ海、陽の差し込む水の中、雨粒のついた草花のアップ、湿地を照らすホタルの群れ、撮ったプレイヤーに追われて逃げ惑う一般生物達、色んな敵の襲いくる瞬間、擬態が解ける瞬間の敵、そんな風に見ていけば様々な光景のスクショが撮られている。
それぞれに良い部分があり、心が動かされるものもある。どれも躍動感や、神秘さや、自然の豊かさや、生存競争の厳しさや、他にも色々な事が伝わってくる。
でも、そういう観点で考えるなら、俺の心が一番動いたものはあるし、そこに迷う余地はない。よし、俺は個人部門でどれに投票するかは決めた!
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