第958話 洞窟を抜けて


 さて、望海砂漠の海岸沿いにある岩場に繋がる洞窟を進んでいて、上り坂を上りきったところである。とりあえず俺は獲物察知を使っていきますか!


「そろそろ獲物察知を使っていくぞー!」

「頼んだぜ、ケイ」

「ほいよっと」


 流石にフィールドボスはいないと……いや、万が一に備えて一応フィールドボスの察知はしとくか。変な位置で誕生させて、放置してるような事が無いとも言えないしね。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 45/71(上限値使用:12)


 おっ、移動してる間に結構行動値は回復してた。さて、肝心の獲物察知への反応は……進んでいる先の方向に普通の黒い矢印がいくつかある程度か。そこまで数は多くないし、フィールドボスの反応はなし。

 ここまで明確に起伏がある場所だと矢印が曲がって表示されるんだなー。この仕様、初めて知ったよ。そして、他のプレイヤーの反応もなし。


 あ、経験値の増加の効果時間が今切れたかー。ま、もう1戦やってたら確実に日付が変わってた上に、回復中に切れてただろうからこれは問題ないね。

 今ので気になったけど、これって日の出までに出口まで辿り着くのか? ルストさんはこの洞窟は結構長いって言ってたしなー。


「そういやルストさん、このペースで日の出に間に合うのか?」

「……ギリギリといったところですね。太陽はまだ出ていませんが、既に外はかなり明るくなってきているはずです。日の出で完全に太陽が顔を出すのが、24時なんですよ」

「逆に昼の日に完全に太陽が沈むのも24時なのさー! そこから30分くらいかけて、完全に真っ暗になったり、明るくなっていくのです!」

「あー、そういう感じか」


 殆ど日付が変わる時間や変わった後の時間にはいないから、その辺は微妙に理解してなかったよ。要するに23時〜24時の間に夕焼けか朝焼けになって、24時半までに完全に暗くなるか明るくなるんだね。


「それなら、少し遅れても朝日自体は見れる感じかな?」

「そういう事なのさー!」

「出来れば東の海から、太陽が昇ってくる様子を撮りたいのですけどね。まぁ多少遅れてもその時はその時です」

「だってさ、アルさん」

「……そう言われると間に合わせたくなるな。ケイ、なんかアイデアねぇか?」

「俺に投げてくるんかい! まぁちょっと考えてみるから、とりあえず進んでてくれ」

「おう、期待してるぜ!」

「……ほいよー」


 って、そんな風に期待されてもなー。いつでも何でも思った通りのアイデアが出てくる訳でもないし、仮に思いついても上手くいくとも限らないんだけど……まぁ考えるだけは考えてみるか。


 えーと、まずは今の情報を整理しよう。まず、ここはぶっちゃけ常闇の洞窟に似ている。そ途中には必ず通らなければならない海水の部分があるのも常闇の洞窟に似てるよなー。

 とりあえず分かる範囲では他のプレイヤーの反応はなし。敵の反応は少数だけどあり。この状況で俺らが急いでこの洞窟を抜ける手段は……あ、普通にあるじゃん。


「アル、手段は思いついた……というか、使えそうな手段があるのを思い出した」

「お、それは……って、使えそうな手段を思い出した……? ケイ、それはどういう意味だ?」

「ここ、常闇の洞窟に似てるじゃん。ほら、常闇の洞窟で海水といえばさ?」

「あ、シアンさんのやってた海流の操作か! なるほど、海流に乗って流れていこうって作戦だな」

「おぉ!? 確かにそれは良さそうなのさー!」

「って事なんだけど、ルストさん、可能だと思う?」

「……そうですね。手段としては可能だと思いますが、起伏が多いのでアルマースさんが壁面に衝突する可能性がありますね。ダメージはなくとも、朦朧になる可能性は高いですし、そこで時間ロスになると逆に時間がかかるかと」


 あ、そっか。どこでどういう風に曲がってるかが分からないから、ぶっつけ本番で流れていくとその危険性は確かにある。そこはアル次第にはなるけど……安全性を高める手段も考えてみるか。

 今は常闇の洞窟を踏破した時よりも、明確に可能な手段は増えてるしな。工夫すればその辺りは対策も可能なはずだ。


「……そこは俺の操作技術次第って事になるか。ケイ、岩壁に衝突しても大丈夫なように岩で保護とか出来ねぇか?」

「あー、初めから衝突するのを前提で対策か。岩の操作で覆えばなんとかなるか……? あー、でもアルのクジラの全体をカバーするには、並列制御で岩の操作を同時に使わないと生成量的にキツいかもしれない……」


 手段としてはありだし、行動値が全快していればそれも可能だ。だけど、今は岩の操作を並列制御で使うほどの行動値はない。

 んー、方向性としては悪くないけど、今から全快まで待つとなると……意味がないよなー。暴発で強引に行動値を回復は……どう考えても安定性に欠けるから却下で。今の状況ではその深くて要素は無理。


「はい! 岩の生成量が足りないなら、アルさんのクジラを小型化するのはどうですか!? そして、私達はアルさんの木の樹洞の中に退避しておくのです!」

「お、その手があったか! ハーレさん、ナイス!」

「……確かにそれはありですね。アルマースさんはいかがでしょう?」

「あー、それで良さそうな気がするが……ルストさんはスクショは良いのか? 流石にその状態だとクジラで木を引っ張る形になるから、流石にルストさんにも樹洞に入ってもらうぞ?」

「えぇ、構いませんとも。ここの洞窟は何度か来ていますし、今は日の出の方が最優先です!」

「なら、それでいくか。ケイ、いいか?」


 えーと、要するにアルの小型化したクジラが岩壁に激突しても大丈夫なように俺の岩の操作で保護をしておく。そしてアルはクジラで木を引っ張る形にしつつ、海流の操作で一気に出口まで流れていくんだな。

 向き的に木が横になりそうだし、明かりと岩での保護を用意する必要がある俺以外はアルの木の樹洞の中に退避すればいい訳だ。うん、ぶっつけ本番にはなるけどいけそうだ。


「よし、それでいこう!」

「あ、ケイさん、もし岩の操作が限界に近くなったら言ってね。ケイさんほどの精度はないけど、私が氷塊の操作で交代をしてみるから」

「ほいよっと。そうなった時はヨッシさんに任せた!」

「うん、任せて!」


 結構な速度になりそうだから可能な限り途中での交代は控えたいけど、万が一の時には予め交代要員を決めておいた方がスムーズだよね。

 もし俺の岩の操作が限界になった場合は、ヨッシさんに頼らせてもらおうっと。まぁそうならないのが一番だけど。


「それでは樹洞の中では私が皆さんを支えましょうか! おそらく、かなり揺れるでしょうからね」

「ルストさん、それってどうやるのー!?」

「根の操作で踏ん張りつつ、皆さんに巻きつく感じでしょうか」

「おぉ!? それなら樹洞の中で吹っ飛ぶ事はなさそうなのです!」

「ルストさん、お願いかな!」

「……あはは、それは助かるかも? よろしくね、ルストさん」

「えぇ、お任せください!」


 さてと、これでみんなの役割分担は終了だね。それじゃ、時間もないし大急ぎで実行に移そうか!


「アル、やっていくぞ!」

「おうよ! 小型化はこっちでいくか。『共生指示:登録2』『樹洞展開』! とりあえず、ケイ以外はみんな入ってくれ。あー、PTまでは入れるようにしたから、ルストさんも問題なく入れるぞ」

「はーい!」

「お邪魔しますかな」

「アルさん、お邪魔します」

「何気に他の方の樹洞の中に入るというにも貴重な体験ですね!」


 そうして俺以外のみんなはアルの木の樹洞の中へと入っていった。よし、それじゃ俺も準備していきますか。

 とりあえず小型化したクジラの頭の上で陣取ろう。その方が懐中電灯モドキで照らしやすいしね。その上で、アルの衝突防止の岩で俺自身が落ちないように固定してしまおうっと。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 44/71(上限値使用:12): 魔力値 76/226

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 25/71(上限値使用:12)


 これで俺を飛行鎧の上から岩で固定しつつ、アルのクジラの周囲にガードレール的な岩を生成。繋がってるからあくまでも1つの岩だけど、上下左右に用意してみた。多分これなら大丈夫なはず!


「アル、こんなもんでいいか?」

「視界の邪魔にならない範囲だし、問題ねぇぜ」

「それでは固定していきますね。『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」

「あ、思った以上にがっしりしてるかな?」

「これなら、安定してそうなのです!」

「うん、これは安心感があるね」


 樹洞の中でルストさんがサヤ達をどんな風に固定してるのかは分からないけど、まぁ大丈夫そうだから別にいいか。


「準備も出来たし、アル、出発だ!」

「おうよ! それじゃいくぞ! 『シーウォータークリエイト』『海流の操作』!」

「外は見えないから、早めに着くのを希望なのさー!」

「アルマースさんが木の視点では危険ですから、樹洞投影が使えないのは惜しいですけどね」


 そんな意見も出ながら、アルが生成して操作する海流に乗って、この真っ暗な洞窟を大急ぎで移動を開始した。特にトラブルもなく進めば良いけどね。



 ◇ ◇ ◇



 そうして出発したのは良いけども……今、懐中電灯モドキで照らした場所にコウモリの群れがいたんだけど!?


「ちょ!? アル、前、前!?」

「見えてるけど、この数をこの状況はどうしようもねぇだろ! とりあえず海流で呑み込むぞ! やばけりゃ止まってから対応だ!」

「やっぱそうなるかー!? あ、でもすぐ死んだ?」

「……単なる雑魚じゃねぇか」


 アルがコウモリの群れを海流で呑み込み、そのまま流れに乗ってぶつかっていけばあっという間にコウモリは倒せた。……一般生物ではなかったけど、それでも小型化したクジラのスキルなしで死ぬとか弱っ!?

 いや、待て? 結構な数をまとめて倒したのに経験値の取得が1回だけって事は、あれってもしかして分裂しまくったコウモリか!


「なんか経験値が入ってきたのさー!?」

「ケイ、アル、今のは何がいたのかな?」

「この数って、分裂したコウモリでもいた?」

「あ、ヨッシさん正解!」

「おー! コウモリだったんだー!」

「ここは雑魚ばかりですから、そこまで焦らなくても大丈夫ですよ。海流に乗った状態でアルマースさんが体当たりすればそれで充分です」

「……みたいだなー」

「ケイ、しっかり照らしとけよ。狙いを外すと、雑魚でも厄介そうだ」

「ほいよっと。そういうアルこそ、ちゃんと照らしたのを外すなよ」


 そこら辺は気を付けておくべき事だもんな。今の状態では周囲を確認出来るのは俺とアルだけだし、お互いにミスはしないようにだな。まぁ盛大なミスでなければ多少なら大丈夫だろうけどね。


「ま、お互いに気を付け……っと、危ねぇ!?」

「げっ!? 洞窟の向きが変わった!?」


 ふぅ、危ない、危ない。咄嗟にアルが海流の流れを少し変えて、その上でガードレール風にしている俺の生成した岩の表面を滑らせる感じで衝突は回避! いや、当たってはいるから完全に回避とも言えないけども!

 ちっ、これは周囲全体を見渡せるように懐中電灯モドキを調整していたのが失敗か。近場の左右の岩壁よりも、前方の方向の変化を優先した方が良さそうだ。


「ケイ、悪いがもっと前方に集束して照らしてくれ! 先の方の地形が見えないと危険だぞ、これ!」

「丁度、俺もそう思ってたとこ! こんなもん……って、またかー!?」

「ちっ、今度は下りか!」

「うわっ!? 危なっ!?」

「……こりゃ、一切気が抜けねぇな」

「……だなー」


 懐中電灯モドキの明かりが遠くを照らせるように調整した直後にまた洞窟の向きが変わって、また大慌てでのギリギリ回避である。

 ん? 前方に黒い矢印がチラホラと反応あり……って、あれ? 何かに光が反射してって、これはあれか!


「今度は元々ある海水かー!? アル、中に何かいるぞ!」

「んなもん、まとめてぶっ飛ばすしかねぇだろ!」

「そうなるよなー!?」


 あ、でも今回もあっさりとクラゲの群れは仕留められた。……ここって分裂した個体が集中して配置されてるのか? まぁ一撃で倒せるならその方がいい。


「なんだか外が凄い事になってるみたいなのさー!?」

「……この移動手段、大丈夫かな?」

「もうなるようにしかならないんじゃない?」

「ケイさんもアルマースさんも楽しそうで何よりですね!」


 いやまぁ楽しくないとは言わないけど、思ってたよりも大変だからな、これ!? あー、こういう感じになるならみんなにも……いや、今の状況の方が最小限の判断で動けて良いのか?


 ともかく、このまま洞窟を抜けるまで集中! これ、出口までアルの海流の操作と、俺の岩の操作は保つか!?

 てか、ダメになったらヨッシさんと交代って話にはなってるけど、一度止まらないと無理じゃね!? あー、もうなるようになれだ! ともかく可能な限り洞窟の岩壁にぶつからないように集中!



 ◇ ◇ ◇



<『砂時計の洞』から『望海砂漠』に移動しました>


 そうしてかなりの勢いの海流に流され、上へ下へと方向が変わりながら望海砂漠への出口へと到着である。途中で何度か岩壁に衝突したけど、一度も止まる事なくここまで来れた。


「……なんか疲れたぞ、アル」

「……同感だぞ、ケイ」


 そんなに長時間ではなかったはずだけど、精神的にはものすごく疲れた! でも、なんとか俺の岩の操作も、アルの海流の操作もギリギリだけど時間は足りた。到着と同時に消えたけどね!

 あー、でもそのままの勢いで残ってたら、勢い余ってその辺にいるかもしれない敵を攻撃した可能性もあるから、効果が切れたのは良いタイミングだったのかもなー。


「ケイさん、アルマースさん、お疲れ様です」

「お疲れ様かな! アル、元のサイズに戻してもらえないかな?」

「あー、ちょっと待ってくれ。ほい、小型化解除っと」

「ありがとうかな! わっ、良い景色かな!」

「まだ日付が変わってないから、日の出はまだなのさー!」

「なんとか間に合ったみたいだね」


 とりあえず出口までは来たし、みんなもアルのクジラの背の上に出てきたし、その様子を……って、おぉ!? 砂漠の気配がまるでない、海に面した岩場の洞窟の入り口って感じだな! いや、感じも何もそのままか。ここは望海砂漠の一部で、少し戻れば砂時計の洞の一部になるんだな。

 もう少し前に進めば海エリアか? うん、この辺りはエリアの切り替え場所が重なってそうではあるね。


 そして、正面は見渡す限りの海! ふむ、北から東にかけて海に面していて、今は東の方から明るくなってきているね。良い景色だねー、こりゃ。

 ま、これならかなり集中して疲れたけども、大急ぎの無茶な移動をやった価値はあったかもな。さて、それじゃテスト期間に入る前の、最後のスクショの撮影をやっていきますか! 主にハーレさんとルストさんがだけどね。

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