第957話 砂漠の地下の洞窟
望海砂漠の海側へと出られるという事で、砂時計の洞をその出入り口となる横穴へと進んでいく。1時間程度しかいられなかったけど、この砂時計の洞もかなり変わったエリアだったね。
思っていたより全然混んでいなかったというのも、俺らとしてはありがたかった。ここはグラナータ灼熱洞とは違って全体が一望出来るから、空いたらすぐに場所が分かるもんな。
「あ、そういやルストさん、一応確認なんだけど、ここって2時間くらい経てば経験値は減ってくる?」
「えぇ、減ってきますよ。おそらく、思ったほど混雑してなかった理由はそこですね」
「あっ、そうか!」
何気にそこは考えてなかったけど、よく考えたらタイミング的にはそうなるのか。サービス再開直後からLv上げに動き出した人は確実にそれなりにいるだろうし、移動時間を考慮に入れたら丁度場所が空いてくるタイミングになるもんな。
「あ、そっか。20時半からサービス再開で、その2時間後なら私達がここにくる少し前になるんだね」
「おー!? そこは気にしてなかったけど、みんなが場所を変え始めたタイミングになるのさー!?」
「あはは、それはラッキーだったかな!」
「みたいだなー。アル、実はその辺を計算してLv上げの話を持ち出した?」
「あー、いや、そこまでは考えてなかったな。ま、そこは良いじゃねぇか」
「それもそだなー」
Lv上げに行くかどうかを提案してきたのはアルだけど、そこまでは意図してなかったか。でも良いタイミングでLv上げも出来たし、ヨッシさんの毒魔法Lv7の到達とハチの本命の進化先が出たから良しとしよう!
「おっ、横穴っぽいのが見えてきたな。ルストさん、あそこで合ってるか?」
「えぇ、合ってますよ。広さは充分ありますが、それなりに長いのでご注意下さい」
「おうよ。サヤ、今のうちに海水適応をしとけ」
「うん、分かったかな! えっと、海水適応用の特性の種を使わないとね」
「ルストさんはどうするのー!?」
「私も特性の種で海水適応はしますよ。流石に地形ダメージは回避が困難ですし」
「それは確かにそうなのです!?」
そのままでは海水の中では死んでしまうサヤとルストさんは、海水適応の為の特性の種を使用していった。ま、種族自体が海エリアに適応出来てなければこうする必要があるもんな。
そうしている間に、砂時計の洞の岩壁に空いている横穴の前までやってきた。……うっわ、全然先が見えないぞ、ここ。
「真っ暗なのさー!?」
「ここは内部に明かりが一切ありませんからね。ケイさん、明かりをお願いしてもよろしいですか?」
「その方が良さそうだな」
俺だけなら暗視を使えばこの暗闇でもなんて事はないけど、みんなで行くなら俺の飛行鎧に組み込んだ懐中電灯モドキを使うのが一番良いだろう。
「この暗さだし、発光はLv5で発動するぞー」
「わー!? Lv5は眩しいから、発動が終わるまでは目を隠しておくのです!」
「確かにそれはそうかな!」
「サヤ、隠れさせてね」
「俺はクジラの視点だから問題ねぇな」
「私は慣れていますのでお気になさらずに!」
「……みんな、反応早いなー」
うん、確かに発光Lv5は冗談抜きで普通に眩しいけど、そこまで大急ぎで隠れる必要まではなくない? 閃光よりは遥かに眩しくないよ? いや、閃光は盲目の状態異常になるくらいだからあっちが眩し過ぎるだけだけど。
うーん、発光がLv5以上になるとどうなる……って、あのサボテンみたいにこの広い空間を照らせる程になるのか。正直、あそこまでの光量は必要ない気もする。
あ、でもあそこまでの光量があれば、光の操作で集束させれば太陽光でなくても普通に火は着けられそうだ。それに味方の植物系の人が夜の日にも光合成が使えるように出来る?
てか、前に考えたものの実行に移せてないけど、自分のコケで光合成を使うのもありだよね。コケの光合成、全然使ってないもんなー。
まぁその辺はテスト明けに考えるとして、今はとりあえず明かりを確保をしていこう。
<行動値上限を5使用して『発光Lv5』を発動します> 行動値 22/82 → 22/77(上限値使用:6)
<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します> 行動値 22/77 → 22/71(上限値使用:12)
アルのクジラの上にいるサヤ達が眩しくないようにロブスターの背中の発光してるコケを岩で覆うようにして、前方だけは照らす為に空けて生成完了。
そして発光するコケの光を操作して、前方に向けて拡散! よし、これで懐中電灯モドキの完成!
ふー、地味に飛行鎧の増殖と光の操作の分だけ上限値の使用量は多いんだけど、こういう時に便利だから登録から外せないんだよねー。もう1枠あれば、懐中電灯モドキあり版となし版で使い分けたいんだけど、まぁそれは仕方ない。
「おー! 常闇の洞窟を探検した時を思い出すのです!」
「見通せるのかと思ったら、すぐに上り坂になってるのかな?」
「ここ、結構地下だもんね。ルストさん、これって登って行く感じになるの?」
「しばらくは少し蛇行気味の上り坂ですね。ある程度進んだら、上ったり下りたりの繰り返しで、途中からは海水があったりなかったりです。あぁ、常に海水が残ってる部分もありますよ」
「このルートからだと、絶対に海水の中は通らなきゃいけないんだな」
「どうやらそうみたいだな。ルストさん、出口は砂地なのか?」
「いえ、海岸沿いの岩場ですね。エリア的には望海砂漠になりますが、砂漠には見えない場所ですね」
ほほう、望海砂漠ってそのまま砂浜になってて海に繋がってた気がするけど、そういう場所もあるんだな。まぁ前に来た時は海のすぐ側まで行ってないし……って、なんで海まで行ってないんだっけ?
あ、思い出した。砂丘の上から海を眺めてて、その時に海の中から成熟体の巨大なクラゲが出てきて、ハーレさんが誤ってそのクラゲのスクショを撮って襲われたんだった。そういや『格上に抗うモノ』を取った相手でもあったよなー。
「ハーレさん、今度はクラゲの成熟体が出てきてもスクショは撮るなよ?」
「ふっふっふ、今なら狙って撮るのです!」
「なんでそうなる!? あ、別に死んでも良いからか」
「そうなのさー! むしろ、朝日とあの時の成熟体のクラゲを一緒に撮りたいくらいなのです!」
「興味深い話をしていますね!? ハーレさん、もしや望海砂漠で成熟体のクラゲを撮った事があるのですか!?」
「うん、あるよー! ルストさん、見る?」
「えぇ、是非とも! あのクジラよりも大きな徘徊するクラゲは、中々位置が掴めずに私は撮れていないので!」
「おー、そうなんだー! はい、これなのさー!」
「おぉ!? 海から出てくる様子や、そこから砂漠の上を飛んでくる迫力のある構図まで連写であるのですか!? ……やりますね、ハーレさん!」
「えっへん!」
ん? あれ、ちょっと待って。あの時って、ミスって1枚撮っただけじゃないの? え、連写してたの、ハーレさん?
「あー、ちょっとハーレさんに聞きたい事もあるが、まずは進むぞ。ルストさん、ここは敵は出てくるか?」
「そう多くはありませんし、弱いですが、出てくるには出てきますね。まぁそちらは交代で処理すれば問題ないですよ」
「了解だ。まずは少し速度は抑えめで様子を見ながらだな。ケイ、ある程度進んだら獲物察知を頼めるか?」
「ほいよっと」
ま、ルストさんの雑魚判定がどのくらいの強さなのかは少し怪しいとこではあるけど、少なくとも倒せない敵ではないのは確定。
後はあのサボテンが見えなくなるくらいまで移動すれば、流石に獲物察知に反応して攻撃される事もないはず。……岩壁を貫通して攻撃とか、それは流石にないだろ。そもそも洞窟越しに察知自体が出来るかも怪しいし。
「えーと、えーと、えーと……飛行クジラ船『アルマース号』、出発なのさー!」
「……ハーレ、思いつかないなら無理に言わなくても良いんじゃない?」
「あぅ、次からはそうするのです!」
そんな事もありつつ、砂時計の洞から望海砂漠へと続く洞窟へと出発となった。
うわー、本気で常闇の洞窟並みに暗いな。実は常闇の洞窟の一部だったり……って、流石にそれはないか。もしそうならエリア切り替えのメッセージが出てないとおかしいしね。
「ところでアルさん! さっき私に聞きたい事があるって言ってたけど、なーに?」
「あぁ、それか。あの成熟体のクラゲに襲われた時、ハーレさんは連写してたのか?」
「あ、それはアルも知らなかったのか。ハーレさん、その辺はどうなんだ?」
「もう死ぬと確定した段階で、開き直って戦闘が始まるまでは全力で連写してました! あ、情報共有板に報告する時や、戦闘中はちゃんと控えてたのさー! 流石に撮りながら他の事をする余裕は無かったのです!」
「流石に戦闘中は控えてたなら、まぁ問題ないか」
アルが確認したかったのは戦闘中もスクショを撮る事を優先してたかどうかっぽいね。まぁ、いくらなんでもそんな余裕はないはず……余裕がないのにスクショを優先してたら問題だったって話か。
「え、成熟体から逃げ回りながらスクショとか普通に撮れませんか?」
「いや、ルストさん、それは普通は無理だから!」
「……そうでしょうかね? 私の感覚ですと、ケイさんとアルマースさんとサヤさんは戦闘中でも可能だと思うのですが……」
「……え、マジで?」
「……冗談ではなさそうかな?」
「俺とケイとサヤって、具体的に上げられるとはな……」
「ケイさんとアルマースさんは操作系スキルが高水準なので、スクショの撮影を並行して行う事は可能だと思いますよ? サヤさんは純粋に観察力とキャラの操作精度が高いので、その分余力はあるはずです」
うん、まさかここで真っ当な理由から俺とアルとサヤなら成熟体相手でもスクショを撮りながら戦えると分析されてしまった。
てか、俺とアルは同じ理由だけど、サヤは別の理由なんだな。まぁ内容的には確かに別物だし、その理由にもそれなりに納得は出来る。
ふむ、操作するものが1つ増えて動かさずに置いておくみたいな意識でスクショを撮影すれば不可能でもなさそうか? うーん、慣れれば出来そうな気もするね。
「ルストさん! 私とヨッシが駄目な理由はなんですかー!?」
「私は単純に、ケイさんやアルマースさんより操作精度が低いからじゃない?」
「ヨッシさんの場合はそうなりますね。先程の戦闘では以前より精度は確実に上がっているようですが、格上の成熟体相手となると操作に集中するので限界ではないですか?」
「……まぁそこはルストさんの言う通りだね」
「それでもヨッシさんの操作は、かなり水準としては高い方だと思いますよ」
「……あはは、フォローありがと。これはまだまだ特訓が必要だね!」
「ヨッシ、一緒に頑張るかな!」
「……サヤ、魔法だけで良いような気がしてるって言ってなかった?」
「……あはは、操作もなんとか頑張るかな」
あー、そういやサヤはそんな事を言ってたような気もする。サヤの場合は主力はクマでの近接攻撃だし、それでも別に良いんだけどね。ヨッシさんは明確に操作の水準は向上してるし、サヤも一緒に特訓しようというのであれば止める理由もないか。
それにしても、ルストさんはよく見てるなー。流石は赤のサファリ同盟で、実力派なサファリ系プレイヤーなだけはある。オフライン版の時から観察力が凄まじいもんな、その手のプレイヤー。
最近解禁された一般向けの配信よりも前に……ついでにオンライン版が出る前でもあるか。その頃に業務用のVR機器でオフライン版の配信をやってたサファリ系プレイヤーの人もいたはず。
確か、ゼロから始めて図鑑を全て埋めるって無茶なプレイを配信してた。流石に長過ぎて、暇な時にチラッと見た事がある程度だけど、よく見つけるなーってくらいに色んなものを次々見つけてたっけ。配信者名なんだっけ?
えーと、確かに……ミから始まる3文字の人だった気もするけど、忘れた! まぁいいや、流石に配信が毎回8時間とかとんでもない時間で、追いきれなくなった人ばっかになって、途中で配信が中止になってたはずだしね。
そういやその人ってこのオンライン版にいたりするんだろうか? うーん、いる可能性はありそうだ。どこの所属か、どんな人かも分からないし、同じ名前とも限らないもんな。
「ケイ、どうかしたのかな?」
「あー、いや、オンライン版が始まる前に業務用のVR機器で配信をしてた凄いサファリ系プレイヤーの人がいたなーって思い出してただけ」
「え、そんな配信があったのかな?」
「そんなのがあったのー!?」
「……あはは、その頃って私達、それどころじゃなかったんじゃない?」
「あー、そうだと思うぞ」
「ケイ、それって今年の年始頃の話か?」
「そうなるなー」
「……今年の年始に配信をやってたサファリ系プレイヤーとなると……あぁ、あの方ですか」
「え、ルストさん知ってるのか!?」
「えぇ、知っていますよ。ですが、それはオンライン版では誰にも教えないという約束なので、申し訳ありませんが教えられませんね」
「あー、まぁそういう事なら仕方ないか」
サファリ系プレイヤー同士だと非公式のファンサイトで繋がりがあったりもするみたいだし、ルストさんはその辺で知ってるんだろう。……場合によっては赤のサファリ同盟に所属してる可能性もありそうだな。
ま、その辺は変に詮索しても仕方ないか。オフライン版はオフライン版、オンライン版はオンライン版で別々に考えよう。
基本的な操作性は極端には変わってないけど、育成システムが大幅に変わってるし、自由度はオンライン版の方が遥かに高い。それに群集の中での協力が必要不可欠だ。ただ強いだけの人が1人いればどうにかなる話でもないもんな。
「ところで、私が駄目な理由はなんですかー!?」
「ハーレさんは……投擲の場合はよく分からないだけですね。投擲で狙いを付けている時にスクショを撮れば良いんでしょうけども、それを戦闘中と判定して良いのかが悩みまして……」
「確かにそれは悩むのです!? それってそもそも見ることに集中してる時なのさー!」
あ、ハーレさんが頭を抱え出しちゃったよ。まぁ確かにハーレさんの投擲メインの戦い方だと、その辺はなんとも言いがたいとこではあるよな。
「おーい、盛り上がってるとこ悪いが、上り坂は上りきったみたいだぞ」
「そのようですね。さて、ここからは海水がある場所もありますので、注意しながら進みましょう!」
「「「「おー!」」」」
さてと、それじゃそろそろ獲物察知も使っていきますかね。場合によってはサヤに威嚇を使ってもらうのもありだろう。ま、自分で使っても良いんだけどさ。
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