第956話 Lv上げも終わり


 それから日付が変わる少し前までLv上げを続けていった。ルストさんが元々ここのエリアを把握してくれていたので、非常に順調である。

 でもLv26の後半になってきたら、聞いていたように目に見えて経験値の入り方が悪くなってきた。2個目の経験値50%増加を使って、丁度良かったようである。


 それにしても、トウガラシを背負ったカエルとか、片手にサボテンがあるカンガルーとか、頭にタンポポがある白鳥とか、尻尾の先にスイカの実がくるように巻きつかれてるワニとか、ほんと色んなのが出過ぎ!


 まぁ桜の木にメジロとか、桜花さんの組み合わせみたいな敵もいたけどさー。うん、木と鳥の組み合わせは鳥が素早いから割と厄介だったなー。

 全体的には木よりは草花系が多かった印象で、アルのクジラの出番はあんまり多くなかったね。まぁアルのクジラで攻撃するのなら、木が相手が一番良いしなー。


 そして今は最後の1戦中で、もう残すところは既に倒したイノシシの尻尾みたいになってたチューリップ後1体! これで今日の戦闘は終わり!


「ヨッシ、トドメは任せたかな!」

「了解! 『トキシシティ・ブースト』! それから溶解毒で『ポイズンインパクト』!」


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 よし、チューリップの撃破完了! 2回前の戦闘中にヨッシさんの毒魔法のLvが上がって、実際に使ってみるとこれはかなり強力だった。


「ヨッシさん、ナイス!」

「ヨッシ、グッジョブなのさー!」

「効果がすげぇな、そのトキシシティ・ブースト」


 動物側は俺の土の付与魔法を大活用して、動物側を仕留め終わったらヨッシさんの毒魔法で植物側を倒す効率が劇的に上がったもんな。

 それにみんな識別は上がる直前まで熟練度が溜まってたみたいで、タイミングこそズレはあったけど全員識別はLv5になった。これで共生進化の敵でも同時に識別が出来るようになったのは収穫だね。


「これで毒特化の進化先は出たけど、まぁ毒だけに特化するよりは状態異常を全体的に強化させたいからそっちだね。あ、そういえばこれってケイさんとアルさんには言ってなかったかも?」

「ん? もしかして、他に進化先が出てる?」

「雷属性が関係してるか?」

「うん、そうなるね。私の本命は『激異常王バチ』だね。条件は状態異常を発生させる属性の昇華が3つと、特性に異常付与と統率を持っている事。多分、これで毒と氷と雷の属性を維持したまま、統率も残せそうだよ」

「おー、良い感じじゃん!」

「確かにそれは良さそうだな」


 これで俺のコケとハーレさんのリスに引き続き、ヨッシさんのハチの本命の進化先が確定だな。うん、順調、順調。まだLv上限に到達してない段階で本命の進化先が決められるのは良い事だよね。

 サヤは今回の戦闘で途中からは連閃を集中的に使ってたし、テスト明けからのLv上げの時にLv3になれば目標は達成出来るはず。それで駄目ならスキル強化の種もあるしね。


「まだ進化先の目処が立ってないのは、アルだけかー」


 テスト期間に入る直前までに十分なだけLvは上げられただろうし、ここからLv30まではテストが終わってから一気に上げていくまで! イベントのない育成期間が、テスト明けまでずっと続くとも限らないけどね。


 てか、何も考えずに普通にルストさんがいる前で進化先の話をしちゃったけど……あぁ、別に大丈夫そうだね。


 なんでか知らないけど、ルストさんは悔しそうに岩場で突っ伏しながら枝を地面に叩きつけてるよ。この様子だと俺らの会話が聞こえていたとは思えないね。

 いや、まぁなんで悔しがってるかは見当がつかない訳じゃないけど、ここまで悔しがるのはルストさんらしいというべきか。


「……なぜ! なぜ、2度目の発光が強まる時が無かったのですか! これでは皆さんの演出も含めて撮りたかったスクショは無理ではないですか!」

「あぅ……残念なのです……」

「えぇ、本当に残念で仕方ありません……」


 あー、ルストさんとハーレさんが2人して落ち込んでいる。でもこうやって落ち込まれても、あの光が強くなる意味は分かったけど、その法則性はよく分かってないからどうしようもないしな……。


「しかし、いつまでも落ち込んでもいられません! 次は朝焼けの砂漠を撮りに参りましょう! その次に私はグラナータ灼熱洞に向かいますので!」

「それもそだなー。それじゃ……ここから出るのはどうする? ログアウトして放り出されるか、それともここにあるっていう横穴から……って、ルストさん、そもそも横穴ってどこにあるんだ?」

「ここからですと、大空洞のほぼ反対側ですね。少し距離がありますが、そちらに行きますか? そこから抜ければ、目の前に海が広がっていますよ」

「おぉ!? そうなんだー!?」

「今の時間ですとそこそこ潮が満ちてきているので横穴の洞窟の半分くらいは海の中ですが、皆さんは問題ありませんよね?」

「って、海水に水没してるんかい! まぁ別にサヤも海水適応すれば良いだけだし、他のみんなはそもそも問題ないかー」


 てか、脱出ルートは海水に浸かる洞窟かー。しかも潮の満ち引きで通れるようになったり、通れなくなったりするんだね。まぁ海水への適応しやすいから、比較的行きやすい場所ではあるか。


「はい! 折角なので、日の出が見たいです!」

「あ、そっか。今の時間なら朝日が昇るとこだよね」

「そういえば皆さんは夜の砂漠は初めてと言っていましたね? それならば、望海砂漠から望める朝日も見た事はないので?」

「そうなのさー! なので、私はログアウトではなく、その出口からの脱出を希望するのです!」


 まぁ日付が変わるまではあと10分くらいはあるし、この砂時計の洞は広いとはいえ見通しは良い。空中を漂ってるクラゲにさえ気を付ければ、特に問題なく外まで行けるはず。


「俺はそれで良いけど、みんなはどうだ?」

「私は賛成かな!」

「私も。特に反対する理由もないしね」

「俺もそれで構わんぞ」

「やったー! みんな、賛成だから決定なのさー!」


 おー、はしゃいでるな、ハーレさん。そういや、父さんの酒を少し飲んで軽く酔ってたけど、今は全然その様子はないね。ハーレさんは極端に酒に弱いとかそういう事はないんだな。

 俺は一度父さんの酒をジュースと間違って1口飲んで、そのままぶっ倒れた事があるけど……。そう考えてみると、父さんの酒の管理が雑ー! いや、今はそれはいいや。


「それじゃ反対側を目指すけど、ルストさんもそれでいいか?」

「えぇ、構いませんよ。既に何度か見た光景ではありますが、それで価値が無くなるわけではありませんし、むしろ些細な雲の形の違いで雰囲気も変わりますし、その時々の趣きというもののあります! ですから――」


 あ、これはまた長くなるやつだ。よし、こうなったルストさんはとりあえずスルーして、移動の準備を進めていこうっと。


「アル、出発準備ー!」

「おうよ! つっても、海流の操作で結構行動値を使ってるから速度的には控えめにはなるぞ」

「まぁそれは仕方ないなー。俺も似たようなもんだし、可能な範囲でって事で!」

「ま、そうなるか。んじゃ、サクッと乗ってくれ」

「ほいよっと」

「はーい!」

「ここなら、私は威嚇をしたら追い払えるかな?」

「……特殊なエリアだし、成熟体のサボテンもいるから危なくない? やめといた方がいいと思うよ」

「……あはは、やっぱりそうかな? それならやめとくね」

「それなら俺が獲物察知で……って、あの成熟体のサボテンがいるからこっちも無理か」


 ほぼ確実にあのサボテンが反応するだろうから、確実に殺されるよなー。まぁ殺されて帰還の実で戻るのもありだけど、朝日が昇る海を見たいという希望が出てるからそれは無しだね。

 それにしても、このサボテンの属性ってなんだろう? 光属性は持ってそうだけど、砂の操作を使ってたし土属性も持ってそうだよなー。


 さーて、とりあえず語りモードに入ってるルストさんをどうにかしないと移動が出来ないな。ふむ……あのサボテンの近くにある水場も地味に気になるし、これにルストさんが食いつくか試してみよう。


「ルストさん、ちょっといいかー? ここの地形で気になる事があるんだけど」

「――であるからして、おや? どうされました、ケイさん?」


 おぉ、見事な程にあっさりと食いついた。語っているルストさんって全然声が聞こえてないように思えるけど、こうやって純粋に景色とか地形の話題を振ればすぐに反応するよね。


「あのサボテンの周りにある水場って結局なんなんだ? 戦ってる間、特にあそこに何かがあったとも思えないんだけど……」

「あぁ、あれですか! どこかからか湧いてきている地下水のようですが、明確な用途は不明ですね。ただ、あの付近に時々倒し損ねられたらしき植物が逃げ込むらしいので、回復場所になっているのではないかと」

「あー、逃した植物系の回復場所なのか」


 ふむふむ、まぁ俺らプレイヤーは迂闊にあのサボテンには近付けないし、ここの植物達にとっては回復出来る安全圏という訳か。


「あぁ、丁度いいタイミングで、植物を取り逃したPTがいますね」

「お、マジだ。あー、PTメンバーの何人かが砂の中に引き摺りこまれて、放置になってるんだな」

「ほう、砂の中でヨモギの根で雁字搦めにされて、土台のカメにも噛みつかれてるのか」

「……あれは、中々脱出は大変そうかな?」

「PTメンバーが助けに動いたのさー!」

「それで、倒しかけの松の木が逃げてるんだね」


 ちょいちょいと戦闘と戦闘の合間での休憩中に他のPTの様子は見たけど、ちょっと油断すると根で拘束されて砂の中に引き摺り込まれてる人はそれなりにいたもんな。

 まぁ大体はPTの他の人に助け出されてたけど、2人PTとかの少人数だったらそのまま死亡とかにもなってたっけ。なんだかんだで、ここもPT向けって感じだよね。


「そういやルストさんって、ここでLv上げをしてたのは赤のサファリ同盟の人達と?」

「えぇ、そうですよ。弥生さんやシュウさん、水月さんやアーサー君とも何度か来ましたね」

「……そこでフラムの名前は出ないのか」

「フラムさんは雷属性なので、ここは非常に相性が悪いのですよ。フラムさんの場合は、赤のサファリ同盟の本拠地でフィールドボスとの連戦がメインでしたね。ガストさんやラピスさんが嬉々として鍛えていましたよ」

「あー、そういう感じか」


 なるほど、アーサーに色々と負けているフラムはガストさんやラピスさんから鍛えられていたんだなー。うん、ぶっちゃけスパルタっぽい気もするけど、そこはフラムだし別にいいや。


「おっと、こんなに呑気にしている場合ではありませんね! 移動を開始しましょう!」

「だな。ルストさん、乗ってくれ」

「ここでの移動はその方が良いでしょう。お任せしますよ、アルマースさん」

「おう、任せとけ! 敵が襲ってきたら、そこはみんなに任せるぞ! 『略:自己強化』『略:高速遊泳』!」

「敵の迎撃はお任せなのさー!」

「邪魔はさせないかな!」

「でも、極力戦闘は控え気味でね? みんな消耗してるしさ」

「だなー。って事で、その辺は頼むぞ、アル!」

「アルマースさん、地面からは適度に距離を取りつつ、クラゲの群れがいない高度が一番安全ですので!」

「おうよ!」


 そうしてアルは、ルストさんが指定した高さを維持しつつ、中央のサボテンの近くまでやってきた。まぁ特に刺激しなければ襲われる事もないだろうし、このまま素通りしていけば――


「え? 今、誰かがサボテンに攻撃したよ?」

「何かが爆発したのさー!?」

「ちょっと待て!? 俺らがいる位置が近過ぎるんだけど! アル、一気に離れろ!」

「いや、待て。俺らのいる側とは反対側だ。全方位攻撃でない限り、この位置では巻き込まれはしないはずだ」

「ルストさん、その辺はどうなのかな!?」

「それはアルマースさんの読み通りですね。さて、この距離から見ることになるとは思いませんでしたが、良いものが見れますよ」

「それってサボテンの攻撃か!」


 自分達に対しての攻撃ではなく、このサボテンの攻撃をかなり近い距離から見れるというのはラッキーだね。どこの誰がサボテンを攻撃したのかは分からないけど、これは良いチャンスだよ。


「おぉ!? サボテンの前に光の球が収束していってるのです!?」

「この溜めの様子は未知の魔法かな!?」

「確かにそれっぽいね?」

「もしかして、光魔法とかあるのか!?」

「……光の操作があるんだから、光魔法があってもおかしくはないか」

「私としても同じ見解ですね」


 やっぱりこの今の光景を見る限りでは、どう見ても光の操作じゃないもんな。今まで見た未知の魔法には溜めがあるという共通点があったし、そこから考えるとこれは光魔法の可能性は高い。

 光魔法があるとなると、闇魔法もありそうだよなー。あ、闇魔法といえばゲームによって視界の妨害とかだったり、闇の引力や重力的な感じで物理的に影響を及ぼすのに分かれてたりするけど、このゲームの場合はどうなんだろ?


 おっと、そんな事をしてる間に溜めが終わった光の球から光のレーザーが発射された。……あの、当たった地面が赤熱化して溶けてるんだけど、どんな威力をしてるの!? 範囲は狭いけど、威力がとんでもないぞ、これ!?


「さて、貴重なものも見れましたし、日の出に間に合わなくなりますから、出口まで急ぎましょう!」

「「「「「おー!」」」」」


 真っ当なルストさんの意見の通り、砂時計の洞の出口へ向かって進んでいく。さーて、このまま進んで望海砂漠で朝日を眺めたら今日は終わりだなー!

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