第953話 共生進化の敵


 さて、大雑把にだけど傾向の推測は出来た。……しっかり検証をしていきたいとこではあるけど、今回はルストさんがいるし、少し簡略化させてもらおうっと。ただし、完全に頼りっきりは無しで!


「ルストさん、ちょっと確認! 間違ってたらちゃんと確かめるから、合ってるか間違ってるかだけ教えてくれ!」

「別にここの敵の傾向でしたら普通に教えますよ?」

「そこは俺ら……というよりは、俺の気分の問題!」

「なるほど、ケイさんのこだわりの部分ですね! そういうことなら無粋な真似はしないでおきましょう!」

「助かる、ルストさん!」


 ま、ここは確かに俺のこだわりと言えばこだわりの部分ではあるし、まとめに頼り切らない方針はみんなも承知してるからね。ここで赤の群集であるルストさんに何もかもを教わるのは冗談抜きで無しだ。


「確認してる間に、サヤとハーレさんはアルの海水の中に魔法弾にした電気魔法をぶっ放せ!」

「了解です! サヤ、やるよ-! 『並列制御』『魔法弾』『魔法弾』!」

「分かったかな! 『略:エレクトロボム』『略:エレクトロボム』!」

「いっくよー! 『並列制御』『狙撃』『狙撃』!」

「ヨッシさんは継続して海水の中から出てきたのを毒魔法で! アル、海水が駄目になったら再生成! その後はとりあえずみんなの判断でよろしく!」

「了解!」

「おうよ!」


 よし、これでルストさんから話を聞く間の時間稼ぎには充分だろう。てか、場合によっては植物側は倒せるかもね。……でも、それが最適解じゃない可能性も結構ありそうだから、今のうちにその辺も含めて手早くルストさんに確認を取ろう。


「ルストさん、ここは動物系統の種族と植物系の種族が共生進化で出てきて、砂の中へ適応してるのは動物の方だけって認識で合ってるか?」

「えぇ、それは間違いなく合っていますね」

「やっぱりか!」


 よし、ここは合ってるんだな。まだ1戦目でサンプル数が少ないから推測は出来ても確定は出来なかったんだけど、ルストさんが合っていると言うならば問題なし。

 それじゃそれを踏まえた上で、確定させておきたい行動パターンがある。グラナータ灼熱洞にはこのパターンがあったから、あくまで類推だけど確認しておきたい。この答えによって、戦い方を変える必要がある。


「それじゃもう1つ確認。先に植物の方を仕留めたら、もしかしてだけど動物の方は砂の中に逃げるんじゃないか?」

「おや、知っていたのですか? えぇ、植物側が死ねば一目散に逃げますね」

「知ってた訳じゃないけど、同じようなグラナータ灼熱洞で弱った敵がマグマの中に逃げてたからな……」

「グラナータ灼熱洞は弱ると敵が逃げるのですか!?」

「ルストさん知らなかったのか!? え、ネタバレ大丈夫?」

「えぇ、その辺りは気にしませんよ! 地味にあそこでは戦えてないんですよね」

「……そうなのか?」

「あちこちのスクショを撮って回っていましたからね。私はLv上げよりもそちらが優先ですよ!」

「あー、なるほど」


 でも、ルストさんは俺らよりもLvは高いんだよな-。いやまぁ俺らは2体同時育成で経験値が半分になってる影響も大きいけどさ。

 それにしてもルストさんならとっくの昔に行ってても不思議じゃないのに、まさかのグラナータ灼熱洞での戦闘は未経験ときたか。んー、そうなるとルストさんがLv上げをしたのは他の場所……というか、情報的にこの砂時計の洞か。

 もしくはフィールドボスの連戦だな。あー、赤のサファリ同盟なら共同体の中だけで成立しそう。フラムの不動種の杉の木もいるし、瘴気石の強化も自分達で出来そうだしね。


「フェニックスが行動パターンを変える前にはスクショを撮りに行ったことはあるんですが、変わってからはまだ行けてないんですよ。今日の午前中辺りに行ってみる予定だったんですが、あの件で盛大に予定が狂いましたから……。まぁこの後、ケイさん達が戦い終えたら向かう予定ではありますが!」

「あー、そういう予定か。って、行ったことはあるんだ?」

「えぇ、一応は。ですが、フェニックスが行動パターンを変えたとなれば、その様子も撮らなくてはいけません! いくつかの良さそうな場所は思い当たるので、一定以上の高さがあれば襲ってくるというかフェニックスの特徴を利用して誘導を行いスクショを撮るのが良いですね。あぁ、日付が変わる頃になればログアウトする方も増えてくるので、ご迷惑にならないように配慮を行いますよ。あそこは人気が出ていますが、流石に深夜帯であれば人も減っているでしょう。だから、こちらの場所を先にしたのですが、こちらは共生進化で出てきますし、砂に引き摺り込む行動パターンが地味に面倒なんですよね。それに――」


 うん、手早く済まそうと思ってたのに、思いっきりルストさんが語り出した。これ、どうやって止めようか?


「ケイ、すまん! カメがそっちに抜けたぞ!」

「え、マジか!?」


 やっば、完全に話が脱線して本題が進まなくて、アル達に任せっきりになってた。って、カメの背にいる松の木の根がかなり長く伸びて、それで走ってきてる!?


「いやいやいや、そんな移動あり!?」


 というか、みんなの状況はどうなってる? えーと、サヤは海水から出てこようとしてる桜に取り込まれたようなクマを相手にしているのか。アルも今はそっちに集中してるっぽいな。

 それで……うげっ、サルが完全に海水から出てきてる。ハーレさんがヨッシさんのポイズンインパクトを魔法弾にして、サルが大根をバットみたいに振り回して打ち返してるー!?


「ケイ、止めきれなくてごめんかな!」

「流石にその移動方法は予定外だったのさー!」

「上から抜けられるとは思わなくて、ごめん!」

「このカメ、上から抜けてきたんかい!? そのサルも無茶苦茶してるな!?」


 そりゃカメが飛ぶくらいならまだ予想はするけど、いくら何でも甲羅の上の小さな松の木の根を長く伸ばして、アルの生成した海水の上側から歩いて出てくるのは予想出来んわ!

 でも、そういう使い方も出来るんだな。……これ、地味にアルのクジラにも応用出来る手段かもしれないぞ?


 いや、それを考えるのは後だ。既に松の木を背負ったカメが近付いてきてるし、迎撃しないといけないか。というか、全体的に植物側が弱りまくってる状態だな。

 ちっ、魔法寄りで両方にダメージを与えられるようにはしてたけど、思った以上に植物側が弱ってる。植物側を先に仕留めたら逃げるのが分かった以上、すぐに方針を切り替えて動物側を標的にしないと……。


「理由はまあ良いから、とりあえずカメを――」

「ケイさん、少しお待ちください!」

「ルストさん!? え、なんかヤバいの、これ!?」

「いえ、初めて見た光景でしたので、スクショを撮りたかっただけです。あ、もう撮れたので構いませんよ」

「ただスクショを撮りたかっただけかい! あー、ルストさん、最終確認! 動物側を優先的に倒す方が楽か!?」

「逃がしさえしなければどちらからでも構いませんが、追いかけるのが面倒であれば動物側を先に仕留めれば砂の中には逃げられませんよ」

「それだけ分かれば充分! ルストさん、カメの捕獲を任して良いか!?」

「構いませんよ! 『根の操作』!」


 ルストさんの根での拘束ならそう簡単には抜け出せないだろう。さて、それじゃここから本格的に討伐開始と行きますか!


「クマとサルは俺とアルで受け持つから、そのタイミングでサヤとハーレさんは標的を変えて風魔法でカメを倒してくれ!」

「了解です! 弱点狙いなのさー!!」

「分かったかな! まずは物理型の動物側から倒すんだね」

「そういう事! ヨッシさんはカメを倒した後に、松の木を毒で集中攻撃で!」

「了解!」


 よし、これでカメと松の木の共生進化個体の撃破は問題ないはず。物理型の動物側が地味に土属性持ちだから、サヤも使えて、ハーレさんが絶賛鍛え中の風魔法が役に立つ。それにカメの方を倒せれば、ヨッシさんの毒魔法が十全に活かせれるもんね。

 さて、その攻撃に移る為にも足止め役の切り替えをしていかないとな。……ふむ、見た感じではクマはアルだと巨体過ぎるか。それにサルに持たれている大根が弱りすぎて、今にも死にそう。


「ケイ、俺らはどう割り振る?」

「アルは水流の操作でサルを頼んだ! あれはちょっと大根が弱りすぎてるから、ダメージよりも足止め重視で頼む! 植物側が死ねば、動物側が逃げるらしいからな!」

「それについては聞こえてたぜ。とりあえず砂の中に逃がさねぇようにすりゃ良いんだな?」

「頼んだ! 俺はクマの方を相手する!」

「おうよ! 『アクアクリエイト』『水流の操作』! ハーレさん、ヨッシさん、行け!」

「アルさん、よろしくなのさー! 『略:ウィンドボム』『略:ウィンドボム』『略:ウィンドボム』! 」

「了解! あ、カメならこれも効くんじゃない? 『アイスクリエイト』『氷の操作』!」

「お、ヨッシさん、ナイス!」

「おぉ、暴れていたカメが大人しくなりましたね」


 そっか、そういやカメは爬虫類だから寒さには弱いもんな。水中にいるカメじゃなくて陸地で生活してるタイプのカメっぽいけど、ヨッシさんが表面に生成した氷で明確に動きが鈍ったよ。

 そして、アルもサルと大根を水流に呑ませて、空中で流し続ける形で動きを封じている。よし、これなら問題はなさそうだし、任せとこ。

 

「ケイ、あっちに私までは要らない気がするかな?」

「あー、確かにそんな気はする。よし、サヤは俺とこの桜とクマの相手に変更で!」

「分かったかな! それならこれかな! 『魔力集中』『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』――」

「あ、サヤ、応用スキルはちょい待った!」

「え、何でかな!? 『爪刃乱舞・風』!」


 ふー、ぎりぎりのタイミングでサヤが通常スキルの爪刃乱舞の方に切り替えてくれた。サヤが魔力集中を発動したタイミングで思いついた事があるけど、間に合ってよかった。


 って、そう呑気にもしていられないな。敵のクマの連打はサヤが相殺したけど、今度は桜の木が花びらを散らしてきてるしね。……今の状態で視界を塞ぐのは良くないから、こっちだな。


<行動値5と魔力値15消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 75/82(上限値使用:1): 魔力値 211/226


 よし、とりあえず桜の花びらが舞う攻撃は水の防壁で受け止めている。派手ではあるけど、そこまで高威力でもないな。って、また発動してきたから回数で押してきたか。だけど、このくらいの威力ならサヤと相談する時間はあるね。

 ま、雑魚敵だし、合計で6体もいるんだから苛烈な攻撃でも困るけど。さーて、手早くサヤに説明して実行に移すかー!


「ケイ、ありがとかな」

「まぁサヤなら自力で迎撃出来た気もするけどな。さっきは変なタイミングで止めて悪かった。けど、ちょっと思いついた事があったからさ」

「……待ったをかける必要があったのかな?」

「ダメージ量を増やす為だしなー。ところでサヤ、爪刃双閃舞をLv3で発動はいけるか?」

「あ、うん。それは問題ないかな。でも、物理攻撃でいくのかな?」

「まぁ、回数制限があるからなー。って事で、土の付与魔法をやるぞ!」

「あ、風属性からの攻撃を更に弱くするのかな!」

「そういうこと。3回分だから、残った2回は風魔法でよろしく。俺は防御に徹する」

「分かったかな!」


 という事で土属性持ちのクマに土属性の付与魔法をかける! 既に持ってる属性に同じ属性の付与をすれば敵の土属性の攻撃の威力は上がるけど、その代わりに弱点属性のダメージ量も増えるからね。

 敵からの攻撃は俺が防いで、サヤには風属性の攻撃を叩き込んでもらうのみ! あ、水の防壁が破壊されたな。……この桜は数で押してくるタイプか。


<行動値7と魔力値21消費して『土魔法Lv7:アースエンチャント』を発動します> 行動値 68/82(上限値使用:1): 魔力値 190/226


 よし、敵のクマに土属性の付与魔法がかかって、身体に茶色い紋様が3つ浮かび上がった! 3回分のスキルを当てるまでは有効だから、3発は風属性の攻撃を叩き込む!


「サヤ、任せた!」

「任されたかな! 『爪刃双閃舞・風』!」


 よし、緑色を帯びた銀光が次々と桜と一体化しているクマの手足を斬り刻んでいく。うん、Lv3での発動はかつ、弱点属性ともなれば相当削れている。


<ケイが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>

<ケイ2ndが未成体・瘴気強化種を討伐しました>

<未成体・瘴気強化種の撃破報酬として、増強進化ポイント3、融合進化ポイント3、生存進化ポイント3獲得しました>


 おっと、まだクマは倒せてないけど、このタイミングで討伐報酬が出ると紛らわしいな。とりあえずカメの討伐が済んだってとこか。


「ケイさん、私達はアルさんの方を手伝いに行くね-! 『魔力集中』『略:ウィンドクリエイト』『操作属性付与』!」

「おう、任せたぞ、ハーレさん!」

「任されましたー!」

「松の木は私が捕まえておきますので!」

「ほいよっと!」


 さて、ハーレさんとヨッシさんとルストさんはやるべき事をやってくれたし、アルの方に増援に行ってくれるんはありがたい。それじゃ、俺らは俺らでまずはこのクマを倒していこう。


「サヤ、サクッとクマを仕留めていくぞ!」

「分かってるかな!」


 まぁ今は思いっきりくサヤがクマを攻撃中だけど……あぁ、地味に共生相手の桜が根で邪魔をしてきてるのか。……こりゃ、俺の方で手を打った方が良さそうだな。

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